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ノビネチドリ(延根千鳥:Neolindleya camtschatica)

先日「花咲く千畳敷カール・乗鞍・上高地を歩く」に同行させていただき、各所で高山植物の観察を楽しませていただきました。
各所では高山植物だけでなく、千畳敷カールでは氷河地形と合わせて宝剣岳も見学でき、乗鞍畳平では雷鳥も観察することができました。また、上高地では2泊3日で大正池から河童橋、明神池、徳沢を巡るという贅沢な時間を過ごすことができ、充実した5日間でした。

 

本日は、尾瀬で観察した「ノビネチドリ(延根千鳥:Neolindleya camtschatica)」をご紹介します。

 

ノビネチドリ(延根千鳥:Neolindleya camtschatica)

 

被子植物 単子葉類
学名:Neolindleya camtschatica
科名:ラン科(Orchidaceae)
属名:ノビネチドリ属(Neolindleya)

 

ノビネチドリ(延根千鳥)は、北海道、中部以北の本州、さらには四国に分布し、海外では朝鮮半島やサハリン、カムチャッカ半島などにも分布します。
北海道では海岸地帯などでも自生するようですが、低山帯~亜高山帯の草地や明るい林などに自生するラン科ノビネチドリ属の多年草です。
ノビネチドリという名の由来は、根茎の形が掌状(手形)であるテガタチドリに対して、ノビネチドリの根は掌状にならず、根は横に伸びるため「延根」となったそうです。

 

<見分け方のポイント①:葉の縁の形状>
草丈は30~60cmで直立し、茎が若干太い印象です。
葉の長さ7~15cmでやや細長い楕円形、6~10枚の葉を茎に互生し、葉の先が尖り、葉の縁が波打つようになっているのが特徴で、葉柄はなく葉が茎を抱くように付いているのも特徴です。ノビネチドリと似ているテガタチドリやハクサンチドリの葉の縁は波打っていないため、見分ける際のポイントとなります。

 

ノビネチドリ(延根千鳥)の花を拡大しました

草丈が大きく、茎も太く、花を密集して咲かせるため、比較的大型なラン科の花のように見えますが、1cm以下の花を多数付けるので、そう感じるのかもしれません。
1つ1つの小さな花を観察すると、チドリ系のランらしい特徴が確認することができます。
花の中心から2枚の萼が横に広がっており(この部分は”側萼片”)、さらに中央から1枚の萼片が真上に伸び(この部分は”背萼片”)、さらに背萼片のすぐ下には側花弁と言われる部分も確認ができます。

 

<見分け方のポイント②:唇弁の形状>
チドリ系のランの花を印象的にするのが花の中央から下に伸びる”唇弁”の部分です。唇弁の中央部分に白い筋が真っすぐに入っており、先端が3裂しています。
テガタチドリ、ハクサンチドリ、ノビネチドリは非常に似ていると言われていますが、この唇弁の3裂した部分が見分けるポイントです。

 

◇ノビネチドリ
唇弁の中央に白色の縦筋が入り、3裂した部分の中央だけがやや短い
◇テガタチドリ
唇弁中央は縦筋などは確認できず、3裂した部分の先端が丸く、長さも同じ
ハクサンチドリ
唇弁に濃紅紫色の斑紋ができ、3裂した唇弁の中央部分の先端が尖る

 

私が撮影した花の写真にはテガタチドリはなかったですが、ハクサンチドリは以前ご紹介しておりますので、比較してみてください。
ラン科の花は、トレッキング中などに見つけると、気持ちが一気に高揚する不思議な魅力を持つ花です。単純に観察観察するのも楽しい花ですが、上記のような違いを確認しながら観察するのも楽しいものです。
是非、機会があれば花の細かい部分も観察してみてください。

 

ノビネチドリ(延根千鳥:Neolindleya camtschatica)②

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ニッコウキスゲ(ゼンテイカ:Hemerocallis dumortieri var. esculenta)

先日「花の尾瀬フラワートレッキングとチャツボミゴケの群生地を歩く」に同行させていただいました。十数年ぶりに訪れた尾瀬、さらに群馬県の中之条町の自然名所を巡り、5日間で50種ほどの花々の観察を楽しむことができました。

 

本日は、尾瀬で観察したシンボル的な花の1つ「ニッコウキスゲ(ゼンテイカ:Hemerocallis dumortieri var. esculenta)」をご紹介します。

 

ニッコウキスゲ(ゼンテイカ:Hemerocallis dumortieri var. esculenta)

被子植物 単子葉類
学名:Hemerocallis dumortieri var. esculenta
正式名称:ゼンテイカ(禅庭花)
科名:ツルボラン科(Asphodelaceae)
属名:ワスレグサ属(Hemerocallis)

 

(※)ニッコウキスゲはユリ科(Liliaceae)に分類されていましたが、APG分類でススキノ科(anthorrhoeaceae)に分類され、さらにAPG分類の第4版(2016年~)よりススキノキ科はツルボラン科(Asphodelaceae)に名称を変更しました。
花図鑑など資料によって科名が異なるのは、APG分類で名称変更がここ数年で何度か行われてきたためのようです。

 

広く「ニッコウキスゲ」として知られるキスゲ亜科の多年草。
本州の中部以北では山地、亜高山、高原地域などに自生し、東北地方や北海道では海岸線でも観察することができます。
ニッコウキスゲの群落は、霧降高原(栃木県日光)、尾瀬(群馬県など)、霧ヶ峰(長野県)などが有名ですが、花の色が黄色、葉がカサスゲ(笠萓)似ているため、群落が有名な日光の地名を取り「ニッコウキスゲ」と呼ばれた始めたことがきっかけで全国に広まったとされていますが、栃木県日光の固有種という訳でなく、上記のとおり本州以北~北海道まで日本各地に分布します。
因みに、ゼンテイカ(禅庭花)という名の由来は、明確な資料はありませんでした。

 

草丈は60~80㎝で直立し、長さ60~70㎝、幅2㎝ほどの葉を付けます。
地域によって花期は異なりますが、花期は6~8月。
茎頂に短い花柄を伸ばし、3~10個ほどの蕾をつけ、黄色(山吹色)でラッパ型の花を咲かせます。また、朝方に開花すると夕方にはしぼんでしまう一日花です。

 

これまでユリの仲間の花のご紹介で幾度かご紹介しましたが「花弁は6枚」ではありません。
6枚の花被片は6.5~8cm、3 枚の内花被(花弁)と3 枚の外花被(萼片)に分かれ、交互に並んでいます。内花被(花弁)は外花被(萼片)に比べてやや幅が広い点で見分けることができます。
花弁(内花被)と萼片(外花被)、それぞれから計6本の雄しべが伸び、雌しべが1 本です。

 

ゼンテイカは、各地で別々に同定されている点や分類に関する論争などで和名、学名などが様々で混乱してしまいます。
■エゾゼンテイカ(エゾカンゾウ)は、花柄が短く、花被片がに厚みがあり、ゼンテイカ(ニッコウキスゲ)と区別するという資料もあります。
上記の学名「H. dumortieri」はエゾカンゾウを分けないことを前提とした学名で、ヒメカンゾウの変種と位置づけです。
■学名を「H. middendorffii」とした場合、エゾカンゾウが基準変種となり、ゼンテイカ(ニッコウキスゲ)はその変種になるそうです。
■別の資料では、エゾゼンテイカ(エゾカンゾウ)、低地型で夜に花が閉じないムサシノキスゲは分けないともあります。
■山形県飛島や男鹿半島、佐渡の海岸線に自生し、大型で花序に15~30個ほどの花をつけるトビシマカンゾウ(var.exaltata)もあり、ゼンテイカ(ニッコウキスゲ)の島嶼型とされています。
■今回訪れた群馬県中之条町の野反湖では、ゼンテイカを地元名「ノゾリキスゲ」と呼んでいました。

 

色々と考えすぎるとややこしいので、一般的に「ニッコウキスゲ」と知られる山吹色の色合いの花の正式名称は「ゼンテイカ(禅庭花)」という点を覚えていただければと思います。

 

尾瀬トレッキングのゴール地点・大清水湿原にニッコウキスゲが群生

 

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エンレイソウ(延齢草:Trillium smallii)

先日、福島民報のWEBニュースにて、水辺の妖精”ミズバショウ”が見頃を迎え、5月29日に尾瀬の山開きがされたというニュースが発表されていました。一部残雪が残る中、ミズバショウの見頃は1週間ほど続くそうです。
また、福島県の尾瀬桧枝岐温泉観光協会によると、夏に咲くニッコウキスゲの見頃は7月20日前後になるということでした。
弊社ツアー「花の尾瀬フラワートレッキングとチャツボミゴケの群生地を歩く」は、ニッコウキスゲの花咲く季節に合わせて7月17日出発に設定しており、尾瀬桧枝岐温泉観光協会の発表にぴったりの日付です。是非ご検討ください。

 

本日は「エンレイソウ(延齢草:Trillium smallii)」をご紹介します。

 

エンレイソウ(延齢草:Trillium smallii)

 

被子植物 単子葉類
学名:Trillium smallii
科名:シュロソウ科(Melanthiaceae)
属名:エンレイソウ属(Trillium)

 

エンレイソウ(延齢草)は、シュロソウ科エンレイソウ属の多年草で、北海道、本州、四国、九州に分布し、低地や林床などの湿った場所に自生します。海外では、サハリン(樺太)、南千島などに分布します。

 

草丈は20~50㎝、やや太めの茎で直立します。葉は茎頂に3枚輪生し、形状は菱状卵形で10~15㎝のやや大きめ、葉の先端が尖り、基部が広めな形状をしています。

花被片が褐紫色のエンレイソウ(延齢草)

花期は4~5月。輪生する3枚の葉の中央から花柄を伸ばし、花柄の頂に花を1つ咲かせます。
エンレイソウ(延齢草)は、花弁(内花被片)はなく、花弁のように見えるのは全て萼(外花被片)です。
萼は1.5~2㎝ほどの長さの長楕円形で緑色または褐紫色。雄しべは6本で、葯は花糸より短く褐色、上の写真をご覧いただくと褐色の葯がよく判ります。また、花柱は花の中央に球形の子房の上で基部から短く3裂しており、上の写真で褐色の花柱がはっきりと判ります。
果実は「球形で黒色」という認識でしたが、エンレイソウの果実は通常は緑とのことです。黒色の果実をつける品種はクロミノエンレイソウと呼ばれるそうです。

 

エンレイソウは大きな葉に小さな花を1輪だけ咲かせるため、特に外花被片(緑)が緑の花だと見落としてしまいがちですが、5月に信州でキレイに咲くエンレイソウを見つけた際には歓声が挙がりました。
次回、飯綱町・むれ水芭蕉園で見つけたシロバナエンレイソウをご紹介します。

 

花被片が緑色のエンレイソウ(延齢草)

 

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ギンリョウソウ(銀竜草:Monotropastrum humile)

先日、中日新聞のサイトにて「金沢市内各地でヒメリュウキンカ駆除の動き」というニュースを見ました。ヒメリュウキンカは欧州原産で観賞用として日本に持ち込まれ、野生化し、日本各地に分布した花ですが、非常に繁殖力が強いため、金沢城公園の二の丸広場 などで金沢城・兼六園管理事務所の職員数名が駆除作業を行っているそうです。昨年から鈴木大拙館(同市本多町)横の散策路では駆除作業を始めていたそうですが、駆除後には在来種のショウジョウバカマ、カタクリなどが再び姿を見せたそうです。
花そのものはキレイなヒメリュウキンカですが、在来種の保護のためには仕方がない措置なのかもしれません。

 

本日は「ギンリョウソウ(銀竜草:Monotropastrum humile)」をご紹介します。以前より、この「世界の花だより」で紹介したいと思っていたのですが、なかなか観察する機会に恵まれずにいましたが、数年前に嫁さんと訪れた屋久島旅行の際の写真を整理していたら、今回掲載する写真が出てきたので、紹介することができました。

 

ギンリョウソウ(銀竜草、学名:Monotropastrum humile)

 

被子植物 双子葉類
学名:Monotropastrum humile
別名:ユウレイダケ
科名:ツツジ科(Ericaceae)
属名:ギンリョウソウ属(Monotropastrum)

 

ギンリョウソウ(銀竜草)は、日本全土に分布し、海外では千島列島、樺太、中国、ヒマラヤなどに分布し、薄暗い湿り気のある林床に自生します。今回掲載した写真は、屋久島の苔むす森でおなじみの「白谷雲水峡」にて観察したものです。

 

ギンリョウソウはツツジ科ギンリョウソウ属の多年草で、腐生植物として知られています。
菌類に依存して栄養を得ている植物を腐生植物といい、キノコ類の菌が本種の根に侵入しつつ腐敗物を分解し、それを本種が栄養にしています。直接的には菌類に寄生し、間接的には菌類と共生する樹木が光合成により作り出している有機物を菌経由で得て自生している植物です。
※古い資料などでは「腐葉土から栄養を得る」と記載がされていますが、腐葉土から栄養を得る能力は持っていないようです。確かに過去「腐葉土で生育する」と解説を聞いたことがあるような気がします。

 

草丈は10~20㎝で直立していますが、花が咲く時期以外は地上では姿は見られず、4~8月頃に地下から花茎を伸ばします。葉は、茎に葉が退化したものとされる長楕円形の鱗片葉が多数互生してつけます。

 

枝分かれせず直立した茎頂に若干下向きに花を1つ咲かせます。
形状は円筒状で先端がやや広がっており、花弁も萼片も3~5枚、花弁の方が少しだけ長く先端が少し広がり、ほんの少しだけ毛も確認ができるのが特徴です。
雄しべは10本前後あり、上写真をご覧いただくと花の内部にオレンジ色の部分が確認できますが、これが雄しべの葯(花粉を入れる部分)となります。写真では判りづらいですが、雄しべの花糸部分にも若干の毛が確認できます。
雌しべの柱頭は先端が円盤の様に広がっており、濃紫色(黒色に見えることも)。下向きに咲く花を覗き込むと、目玉が花の外を覗いているように見える(目が合ったような錯覚も)部分です。

 

ギンリョウソウ(銀竜草)は、全体が白色で葉緑体を持たない植物です。
「銀竜草」という漢字名は、下向きに咲く花と鱗片に包まれた姿を竜に見立てたことが由来とされ、また別名の「ユウレイダケ」は、林床の薄暗い場所に真っ白な姿で自生する姿から幽霊に見立てたと言われています。
花の姿と合わせて、内部を覗き込んだ際、円盤状の雌しべの柱頭が「目玉」に見え、恐怖におののくから「幽霊」という名が付いたという話も聞いたことがあります。

 

形状なども非常に似ている「ギンリョウソウモドキ(Monotropa uniflora:ツツジ科)」という花もありますが、花の咲く時期がことなり、ギンリョウソウモドキは夏の終わりから秋にかけて花を咲かせます。

 

ギンリョウソウを実際に観察すると、本当に驚きの一言です。
葉緑体を持たず、真っ白で光沢こそありませんが、その姿は非常に魅力ある姿をしており、覗き込んだときの「目玉」など、非常に興味を引く花であります。
次回は是非、柱頭の目玉の部分以外にも花弁や萼片、鱗片葉、オレンジ色の雌しべなどにも注目して観察してみてください。

 

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ミズバショウ(水芭蕉:Lysichiton camtschatcensis)

2018年04月から「世界の花だより」のブログを開始し、今回は記念すべき100回目です。
記念すべき100回目は、ミズバショウ(水芭蕉:Lysichiton camtschatcensis)」の花をご紹介します。

 

ミズバショウ(水芭蕉:Lysichiton camtschatcensis)

 

被子植物 単子葉類
学名:Lysichiton camtschatcensis
科名:サトイモ科(Araceae)
属名:ミズバショウ属(Lysichiton)

 

夏がくれば思い出す はるかな尾瀬 遠い空
・・・水芭蕉の花が咲いている 夢見て咲いている水の畔

 

『夏の思い出』の歌でおなじみのミズバショウ(水芭蕉)と言えば、尾瀬が真っ先に浮かびます。私も十数年前に尾瀬や鬼無里の群生地で観察したことを覚えています。

 

ミズバショウ(水芭蕉)は、日本では北海道と本州・中部地方以北、特に日本海側に分布、南限は兵庫県養父市の加保坂峠とされ、隔離分布しているそうです。
海外ではシベリア、サハリン、千島列島、カムチャッカ半島に分布します。名の種小名camtschatcensisはカムチャッカ半島に由来します。
主に積雪の多い地域の湿地、湿った草地、湧水の湧き出る地、沼地などに自生し、ミズバソウは「湿地を代表する花」と紹介されることもあります。

 

「ミズバショウの真っ白な花」とよく聞きますが、これは間違いです。
実はミズバショウを印象的なものとする真っ白な部分は「仏炎苞(ぶつえんほう)」とよばれ、花を守るために葉が変化したものです。
草丈は10~30㎝(開花時)、発芽した直後に真っ白な仏炎苞という苞が開きます。真っ白な仏炎苞の鮮やかさが非常に印象的で、まだ他の花が咲き始める前の湿地などでミズバショウの群生地に出会うと、その美しさに魅了されるのは仏炎苞の色鮮やかさが所以です。
ただ、ミズバショウは霜に弱いと言われており、群生地を訪れても日焼けしたように仏炎苞の部分が茶色くなってしまっていることをよく見かけます。本当に真っ白で色鮮やかな仏炎苞に包まれたミズバショウに出会えるのは珍しいことです。

 

では、ミズバショウの花はどこに咲くのでしょうか?
ミズバショウの花は、仏炎苞に包まれた肉質の円柱状の花序(肉穂花序)に淡い黄色の小さな花が密集して咲いています。資料によっては「ヤングコーンのような形状」と紹介されているものもあり、この表現が一番わかりやすいかもしれません。
花期は5~7月。花序の高さは10~30㎝ほどで、仏炎苞の中央に伸びる円柱部分に数十~数百の小花が密集して咲かせます。

 

葉は花後につけます。明瞭な葉脈を持つ長楕円形で長さは80㎝ほど、幅も20~30㎝ほどと大きく、長さ1mにも及ぶものもあります。
ミズバショウの群落地に行くとガイドさんなどから「ミズバショウは熊の大好物」と紹介されることがあり、尾瀬などでも熊に食い荒らされたミズバショウの姿を観察したことがあります。
私もミズバショウ=熊の大好物という認識でしたが、今回色々と調べていると、熊は花後につく大きくなった葉の部分が大好物だそうです。その他、ザゼンソウやアザミ類なども好んで食べるという資料もありました。

 

水芭蕉の名の由来は様々あります。
花後につける大きな葉が「バショウの葉」に似ており、水辺(湿地)に咲くことから「水芭蕉」と呼ばれる説や、松尾芭蕉が閑居した庵に門人から贈られて庭に植えたことから「芭蕉」という名が付けられてという説もあります。

 

見た目に美しいミズバショウですが、実は有毒で食べると下痢を引き起こし、ひどい場合は呼吸困難を引き起こすといわれています。熊がミズバショウを食するのは冬眠後に老廃物を排出するためという話も伺いました。また、触ると手がかぶれてしまうから触れないように事前注意を受けたこともあります。

 

日本のミズバショウはそれほど香りは強くないですが、同じミズバショウ属のザゼンソウ(座禅草:Symplocarpus renifolius)は悪臭が強く、北米地方では別種の仏炎苞が黄色いものもあり、ザゼンソウと合わせて「スカンクキャベツ」と呼ばれているそうです。

 

春の訪れを知らせる花の代表格ともいえるミズバショウ。群生した風景も素晴らしいものですが、1つ1つじっくり観察してみるのも興味深いものですが、決して触れないようにご注意ください。

 

<おすすめ!! 春の花・ミズバショウが観察ツアー>
花咲く信州 水芭蕉やカタクリの群生地を巡る
※春の花の代表格ともいえる水芭蕉やカタクリの花の観察を楽しむため、厳選した花の名所を訪れ、春の花を心ゆくまでご堪能いただける4日間です。

 

春をつげる雪割草を求めて 早春の佐渡島
※南北に大佐渡、小佐渡の山地が連なり、中央には国中平野が広がる佐渡島。大佐渡山麓と世阿弥の道にてゆっくりとフラワーハイキングをお楽しみいただきます。

 

ミズバショウ(水芭蕉:Lysichiton camtschatcensis)
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ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)

先日、ザゼンソウやミズバショウの花の事を調べていると「尾瀬の花々」のことを思い出したので、本日は十数年前に尾瀬ハイキングでお客様と大いに盛り上がった花の一つだった「ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)」をご紹介します。

 

ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)

 

被子植物 双子葉類
学名:Trientalis europaea
科名:サクラソウ科(Primulaceae)またはヤブコウジ科(Myrsinaceae)
属名:ツマトリソウ属(Trientalis)

 

ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)は、ツマトリソウ属の多年草の一種です。
サクラソウ科またはヤブコウジ科と記載させていただきましたが、APG植物分類体系(第2版)では、従来サクラソウ科とされていたツマトリソウ属を含む、いくつかの属(草本)がヤブコウジ科に移しているためですが、 APG植物分類体系(第3版)ではヤブコウジ科、イズセンリョウ科を独立させず、すべての種をサクラソウ科としてまとめているとのことでした。

 

ツマトリソウは、主に北海道、本州の中部地方以北に分布し、海外では北半球北部(北アメリカの中・東部を除く)に分布します。
私も前述したとおり、6月の尾瀬で観察したことを覚えています。

 

草丈は10~15㎝で直立し、葉は茎に互生、上部になると輪生状に葉をつけます。
長さ5㎝ほどの葉は、少し幅広の披針形をしており、茎頂に5~10枚の葉をつけ、先端が少し尖っているのが確認できます。

 

花期は6~7月。花弁はまるで風車のようにキレイに7枚並んでおり、直径2㎝ほどの大きさで真っ白な花を上向きに咲かせます。
雄しべが花弁と同じく7個あり、おしべの先端には山吹色が印象的な葯(花粉を入れる袋)が色合いをより一層印象深いものとしています。
めしべは中央に1つ、非常に短いですが、黄緑色の柱頭もしっかりと確認することができます。

 

掲載した写真の花弁は真っ白ですが、花弁の先端が淡紅色に染まり、その色合いが鎧の威色目(おどしいろめ)の1つである褄取りに似ていることが「ツマトリソウ」の名の由来とのことです。
今回、ミズバショウやザゼンソウの事を調べている際、尾瀬の花を紹介しているホームページに、面白い紹介がされていました。
ツマトリソウは漢字で書くと「褄取草」です。大半の方が「妻」の字を書くと思っている方が多いそうで、そうすると「妻取草」になり、最近ニュースで頻繁に叩かれている不倫の花、略奪愛の花となってしまうと紹介がありました。
思わずその紹介ホームページを見ながら「座布団1枚」と、心の中で言ってしまうほどでしたが、これで漢字名は間違わず覚えられそうなトンチの効いた説明でした。

 

<おすすめ!! 春の花の観察ツアー>
花咲く信州 水芭蕉やカタクリの群生地を巡る

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クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)

昨日まで「たっぷり小笠原6日間」のツアーへ同行させていただいており、小笠原諸島の海でイルカにも出会え、お客様とともに童心に戻ったように楽しませていただきました。また、小笠原諸島特有の植生も楽しむことができ、小笠原の植生については、追ってご紹介させていただきます。

 

本日は形状がユニークな「クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)」をご紹介します。

 

クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)

被子植物 単子葉類
学名:Paris verticillata
和名:車葉衝羽根草
科名:シュロソウ科(Melanthiaceae)
属名:ツクバネソウ属(Paris)

 

日本では、北海道、本州、四国、九州と全国に分布し、山地帯から亜高山帯の林内に生息します。
私が初めてクルマバツクバネソウを観察したのは尾瀬ヶ原から尾瀬沼へ抜けるフラワートレッキングを楽しんでいた時で、この花を紹介された際にはその形状に驚いたことを覚えています。
日本以外では、朝鮮半島、中国、千島列島、樺太(サハリン)に分布します。

 

草丈は20~40㎝で直立、茎頂に6~8枚の楕円形状の葉を輪生し、長さは5~15㎝ほどです。
茎頂から花柄(花序などを支えるための茎)を伸ばし、直径5~7㎝で黄緑色の花を咲かせます。

 

この花の形状、見た目に「どこが花?」というのが難しい部分です。

 

黄緑色の花弁のように見える部分は「外花被片」と呼ばれ、いわゆる萼片です。長さは3~4㎝ほどで枚数は4枚です。
その外花被片の間から細く垂れ下がる部分が「内花被片」で花弁となる部分。こちらも4枚あり、黄色を帯びています(写真では外花被片と同じく緑色でした)。

 

クルマバツクバネソウを特徴づける中央に細長く上向きに伸びた部分は「雄しべ」で長さは5~8㎜で本数は8~10本です。
雄しべの黄色い部分が「葯(花粉を入れる袋状の部分)」であり、葯の先端には「葯隔(やくかく:花粉塊を隔てる壁、二分する葯の接合部)」が長く伸びています。
雄しべの中央には黒色の「雌しべ」があり、花柱が4つに分かれている(4裂)のが特徴です。

 

クルマバツクバネソウの名は、葉が車輪のように輪生する姿から「車葉」、花の形状が羽子板遊びの羽根「衝羽根(つくばね)」に似ていることが由来とのことです。

 

クルマバツクバネソウに似た「ツクバネソウ(Paris tetraphylla)」との違いについて、下記のとおり非常に判りやすくまとめてくれていた資料がありましたので、参考にさせていただきました。
●ツクバネソウの葉は4枚(たまに5枚~6枚)、クルマバツクバネソウは6~8枚
●クルマバツクバネソウは葯隔(やくかく)が突き抜ける
●ツクバネソウは花弁が無い、クルマバツクバネソウは糸状の花弁が4個
●ツクバネソウの子房(雌しべの基部)は緑色、クルマバツクバネソウの子房は黒色
●ツクバネソウの葉は長楕円形、クルマバツクバネソウは倒披針形

 

見た目に目立たず、パッと見ただけでは花弁の落ちて雄しべだけが残っているような形状のため、フラワーハイキングなどをしていると見落としがちのクルマバツクバネソウですが、私も尾瀬で初めて観察した際には、その形状をゆっくり説明してもらいましたが、そのユニークな形状を細かく説明してもらううちに、いつの間にか心を奪われてしまった花でした。

 

クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)
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ハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata)

私は7月22日より「甑島列島探訪と噴煙たなびく桜島5日間」のツアーへ同行させていただき、現在上甑島から下甑島へ向かっているところです。

 

本日も日本の花の1つ、白山を冠した18種の植物のうちの1つである「ハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata)」をご紹介します。

 

ハクサンチドリ:白山千鳥:ラン科)

被子植物 単子葉類
学名:Dactylorhiza aristata
和名:ハクサンチドリ(白山千鳥) 別名:シラネチドリ
科名:ラン科(Orchidaceae)
属名:ハクサンチドリ属(Dactylorhiza)

 

ハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata:白山千鳥)は、本州の中部以北から北海道にかけて、亜高山帯から高山帯の草地に自生し、本州では高山植物として知られているが、北海道内では山岳地帯から海岸近くまで幅広く分布しています。海外でも北太平洋地域、アラスカまで分布します。
私も白馬岳の登山の際に観察し、北海道・礼文島で群生を観察したのを覚えています。上の写真はサハリンにて観察したものです。

 

草丈は10~40㎝ほどで直立し、葉は細長の楕円形(広線形)から披針形をし、長さ10~15㎝ほどの葉が数枚互生(ごせい:茎の一つの節に1枚ずつ方向をたがえてつくこと)します。

 

花は直立した茎の真ん中から頂部にかけて、2㎝ほどの小さな花を密集して総状につけます。
色合いは鮮やかな紫色や暗赤紫色など変異が多く、中には白い花のものも見られます。
唇弁(しんべん:下側にある花弁が他面のより大きく、花を下から受けるように広がる形になる花弁のこと)はくさび形で先端が3裂し、中裂片の先端は鋭く尖った形状が特徴です。
萼片や花弁も先端が鋭くとがっており、萼片(側萼片)が左右に広がり、まるで鳥が翼を広げているように見えることから「チドリ」の名がついたとも言われています。
花弁と萼片が左右から蕊柱(ずいちゅう:雄蕊と雌蕊が合体したもの)を包み込むような形状をしていますが、蕊柱は小さすぎて目立たないので、虫眼鏡などで観察する必要があります。

 

ハクサンチドリは形状と色には変異が多く、有名なものは下記の2種です。
1.ウズラバハクサンチドリ(鶉葉白山千鳥:Dactylorhiza aristata f. punctata)
・葉に暗紫色の斑点、ウズラの卵に似た模様の葉を持つ。

2.シロバナハクサンチドリ(白花白山千鳥:Dactylorhiza aristata f. albiflora)
・その名の通り、白い花を咲かせる(下写真)。

 

日本ではラン科の高山植物の中で一番よく見かけると言われるハクサンチドリ。特に北海道では驚く量の群生が見られることもあります(資料によっては「雑草のごとく生えている」と)。
色合いや特徴ある形状の観察とともに、周囲を見渡してシロバナハクサンチドリやウズラバハクサンチドリも探してみてはいかがでしょうか。

 

シロバナハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata f. albiflora)

 

 

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ゴゼンタチバナ(Cornus canadense)

蕾が大きくなり花開く日も近いとお伝えしていた我が家の「アデニウム・オベスム(Adenium obesum)」。先日直径4~5㎝ほどの花を2つ咲かせました。真っ赤で色鮮やかな色合いが非常に美しく、砂漠のバラと称されていることに納得できる色合いと美しさでした。先端が真っ赤な蕾が現在5つ確認できていることから、この先がさらに楽しみです。

 

本日は「ゴゼンタチバナ(Cornus canadense)」をご紹介します。久々に私自身が撮影したものですが、日本の花として紹介しますが撮影した場所はサハリンです。

 

ゴゼンタチバナ(Cornus canadense:御前橘)

 

被子植物 双子葉類
学名:Cornus canadense
和名:御前橘
科名:ミズキ科(Cornaceae)
属名:ミズキ属(Cornus)
属名:ゴゼンタチバナ(亜)属(Chamaepericlymenum)

 

ゴゼンタチバナ(Cornus canadense:御前橘)は、本州(中部地方以北)、四国(石鎚山など)、北海道に自生するミズキ科(Cornaceae)の多年草です。
北海道では大雪山の稜線や道北の海岸近くの林下までと生育範囲が広いのも特徴のようです。
四国の石鎚山系と赤石山系が南限とされ、海外では北東アジアや北米などにも分布します。

 

和名の「御前橘」は、日本三霊山として知られる白山の最高峰「御前峰」に由来します。私も初めて観察したのは白山登山の時でした。白山は日本三霊山という点が有名ですが、花の百名山の1つでもあり、美しい花畑が広がる日本有数の花の山でもあります。
「ハクサン」の名が付く植物は別名(最高峰・御前峰の「ゴゼンタチバナ」など)を含め20種以上が自生しています。調べてみると、白山は日本で高山帯を有する山岳としては最も西に位置しているため、早くから植物の研究が進んでいたことから「ハクサン」と名の付く種が多いそうです。

 

草丈は5~15㎝、地下茎から広がった茎には「花を咲かせる茎」と「花を咲かせない茎」がそれぞれ立ち上がります。
葉は倒卵形(とうらんけい:相撲の行司が持つ軍配のような形)、写真でもわかるように枚数は6枚です。6枚が輪生(茎の一節に3枚以上が車輪状になってつくつき方)しているように見えますが、調べてみると2枚の対生葉(葉が茎の一つの節に2枚向かい合ってつくこと)と液性の短枝に2個ずつ葉が付き、計6枚の輪生に見えるそうです。さらに「花を咲かせない茎」には4枚の葉がつくそうで、葉の枚数にも違いがあるそうです。
私も初めて知った興味深い形状です。いつかゴゼンタチバナに再会した際には葉の付き方にも注目したいものです。

 

花期は6~8月、花は長さが1㎝ほどの苞(ほう:つぼみを包むように葉が変形した部分)が4枚付き、その中央部分に2.5㎜ほどの小さな筒状の花が密集して咲きます。一見すると白い小さな花のように見えますが、中央部の密集したものが本来のゴゼンタチバナの花です。
秋になると同じミズキ科のハナミズキ(花水木)に似て、直径5㎜ほどの赤い果実をつけます。

 

ゴゼンタチバナは環境省により、中部山岳国立公園、南アルプス国立公園、白山国立公園などで自然公園指定植物となっているそうです。環境省としての、レッドリストの指定はないようですが、絶滅の危機に瀕していることから保護管理計画など各地域で実施されているそうです。
可憐な形状のゴゼンタチバナだけではありませんが、私たちも花の観察を楽しむ際には十分気を付けて、大事に花の観察を楽しまなければいけないですね。

 

ゴゼンタチバナ(Cornus canadense:御前橘)

 

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