199

ネオティネア・ウストゥラタ(Neotinea ustulata)

本日もピレネー山脈で観察した、形状が非常に特徴的なラン科の「ネオティネア・ウストゥラタ」(Orchis ustulata)をご紹介します。

 

ネオティネア・ウストゥラタ(ラン科ネオティネア属)

 

被子植物 単子葉類
学名:ネオティネア・ウストゥラタ(Neotinea ustulata)/オルキス・ウストゥラタ(Orchis ustulata)
英名:Burnt Orchid / Burnt-tip Orchid
科名:ラン科(Orchidaceae)
属名:ネオティネア属(Neotinea)

 

ネオティネア・ウストゥラタ(Neotinea ustulata)は、中央~南部ヨーロッパの山岳地域に生息する地生ラン(地下に球状の塊茎をもつラン)の1つです。
この花を観察したのは15年以上前、ピレネー山脈のスペイン側のオルデサ渓谷だったように記憶しておりますが、その際は「オルキス・ウストゥラタ」(Orchis ustulata)と認識しており、当時の観察資料にもそのように記載しています。
今回のブログ作成にあたり、「Orchis ustulata」で検索しても同じ花は出てきますが、聞き慣れない「Neotinea属」(ネオティネア)という表記の資料も出てきます。
色々と調べてみると、Neotinea属(ネオティネア)は、ヨーロッパを中心に分布する地生ランのグループで分類学的研究によって位置づけが大きく変わってそうで、かつては「Orchis属」に含められていたようです。

 

ネオティネア・ウストゥラタは、山岳地帯の標高1,000m前後の草地や林道から標高2,000m以上の主に石灰岩地帯の高山帯まで幅広く自生します。
草丈は10cm~35cmほど(資料によっては50cmほどにもなるとあります)、根元の部分に5~10枚ほどの広披針形の根生葉が確認でき、茎の上部には鱗片形の葉を付けます。

 

花期は5~7月上旬。直立した花茎より0.5cm程度の花茎を伸ばし、非常に小さく特徴的な花を咲かせます。この花を見つけると花の小ささに驚き、じっくり観察するとその特徴的な形状に心惹かれます。

 

唇弁(下に伸びた部分)は0.3~0.5cmほどで3深裂し、全体的に白色ですが赤紫色の斑点が特徴です。さらにじっくり観察すると、唇弁の中央裂片は先端が2裂しているのが確認できます。
萼と側花弁が集まっている上部分(兜のようと表現された資料もあります)は暗赤色で長さは0.3cmほどで唇弁とほぼ同じくらいです。唇弁とは対照的にも見えますが、斑点部分と同色にも見え、何とも言えない魅力を感じる色合いです。
ある資料に「人形のような形状」とあり、確かに帽子をかぶった人形のようにも見えます。形状をイメージするにぴったりの表現です。

 

開花した直後は密に固まって花を咲かせますが、徐々に開花が進んでくると、最終的には円筒状になり、何と最大で60~70個の花を咲かせるそうです。私も15年以上前に下から上に向けてたくさんの花を咲かせる個体を観察しましたが、さすがに花の個数までは数えませんでした。
花は強い芳香を持ち、「蜂蜜に似た香り」と資料もありましたが、蜜は生成しないそうです。

 

また、ネオティネア・ウストゥラタは別名「バーント・オーキッド」(Burnt Orchid / Burnt-tip Orchid)と呼ばれ、花序の先端(蕾の状態の部分)が焼け焦げたような外観をしていることに由来するするそうです。
この花が焼け焦げたような名前なら、ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)はどう表現するのでしょう、と思ってしまいます。

 

実は、ピレネー山脈には今回紹介したNeotinea属(ネオティネア)の花は数種咲き、その他ハクサンチドリ属(Dactylorhiza)も数種咲いています。
この手のラン科の花が好きな方にも魅力的なフラワーハイキングが楽しめるエリアです。
是非、この夏にピレネー山脈を訪れ、Neotinea属の「ネオティネア・ウストゥラタ」 の花の個数を数えてみませんか。

 

◆ピレネー山脈に咲くネオティネア・ウストゥラタが観察できるツアー
 花咲くピレネー山脈ハイキング 高貴なピレネー・リリーをもとめて

ネオティネア・ウストゥラタ(ラン科ネオティネア属)
198

ゲンチアナ・カムペストリス(Gentiana campestris)

新年あけましておめでとうございます。
本年も1つでも多く、花の紹介をできるよう、努めていきますので、よろしくお願いいたします。

 

さっそくですが(遅くなりましたが)、2026年最初の投稿はピレネー山脈で観察した「ゲンチアナ・カムペストリス」(Gentiana campestris)をご紹介します。

 

ゲンチアナ・カムペストリス(Gentiana campestris)

 

被子植物 双子葉類
学名:ゲンチアナ・カムペストリス(Gentiana campestris)
英名:フィールド・ゲンチアン(Field gentian)
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:リンドウ属(Gentiana)

 

中央部の花筒から産毛のようなもの(花弁の基部の繊毛です)が出ている部分が非常に印象的なリンドウ。
日本ではチシマリンドウにも似ているような気もしますが、ゲンチアナ・カムペストリス(Gentiana campestris)は同じリンドウ科リンドウ属に属し、ヨーロッパ・アルプスの全域に生息し、スペインとフランスの国境に沿って連なるピレネー山脈でも観察することができます。

 

標高1,300m~2,750mまでの林間部や低木地帯、草原や尾根などの開けたエリアに自生し、茎は直立し、草丈は5~15cmほど。
葉は対生し、卵状披針形で葉柄を持たないのが特徴です。

 

地域によって多少の差はありますが、花期は7~10月。花の大きさは1~3cmと小さく、私がピレネー山脈で観察したものは、淡い紫色の花でしたが、薄青紫色やピンク色、白色の個体もあるそうです。

 

花弁と萼片は合着(合弁花)しており、花弁は4枚で基部に繊毛があるのが特徴です。
通常のリンドウは、花が開く際に花弁が5弁であると螺旋が解けるように花が開きますが、花弁が4弁の場合は、まず1枚が開き、その内側の2枚が同時に広がった後に最後の1枚の花弁が開く、と言われています。この話は以前に伺ったことがあったのですが、順番に花弁が開いていく様子を一度観てみたいものです。
また、花弁と同様に萼片も4枚で、大きさが異なる(2枚は広く、2枚は狭い)のが特徴です。
この花を特徴付けている花弁の基部に繊毛は、雌しべや雄しべを保護する役割があるそうです。

 

草丈も低く、花も小さいため、見落としてしまうことの多いゲンチアナ・カムペストリス(Gentiana campestris)ですが、実際に観察するとその特徴的な姿に心躍る花の1つです。

 

ゲンチアナ・カムペストリス(Gentiana campestris)も観察でき、ヨーロッパ・アルプスとは異なる高山植物が観察できる「花咲くピレネー山脈ハイキング 高貴なピレネー・リリーをもとめて」を発表しました。
2026年の夏は、特有の高山植物を観察できるピレネー山脈へ訪れてみませんか?

 

◆ピレネー山脈に咲く特有の高山植物を観察できるツアー
花咲くピレネー山脈ハイキング 高貴なピレネー・リリーをもとめて

ピレネー山脈に咲く高貴な花 ピレネーリリー(Lilium pyrenaicum)
197

ミリ・ミリ(Bomarea dulcis)

久々の投稿です。
10月半ばまでは半袖に軽く上着を羽織る程度の服装で出勤していたのに、急に朝晩・日中共に肌寒くなりましたが、体調を崩されずお過ごしでしょうか。

 

先日ペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「アウリンシャ」をご紹介しましたが、本日は同エリアで観察できるもう1つのユリズイセン科の花「ミリ・ミリ」をご紹介します。

 

ミリ・ミリ(Bomarea dulcis)

 

被子植物 単子葉類
学名:Bomarea dulcis(ボマレア・ダルキス)
現地名:ミリ・ミリ(Milli milli)/マンカ・パキ(Manca-paqui)
科名:ユリズイセン科 又は アルストロメリア科(Alstroemeriaceae)
属名:ボマレア属(Bomarea)

 

先日ご紹介した「アウリンシャ」はペルー固有種でしたが、本日ご紹介の「ミリ・ミリ」(Bomarea dulcis)は、ペルー以外にもボリビア、チリのアンデス地域に自生し、標高約3,900~4,900mの岩塊付近に生育します。
私も5月にペルー・ブランカ山群へ訪れた際、ウルタ渓谷(標高約4,700m)の岩場の斜面にて観察しました。

 

直立性の草本で、大きく枝を張る木に巻き付くように(つる植物)1.5~2mほどの長さに成長し、茎の先端に約3~5mの花を2~5つ程つけると資料にありますが、私が観察した際は7つ付ける株もありました。

 

葉は細長く、アウリンシャに比べて葉裏が表面より白みがかっていた印象はなく、葉も密集している印象はありませんでした。また、若干表面に光沢を感じました。もしかしたら、ウルタ渓谷で観察した時が小雨模様だったかも・・・。

 

花はユリズイセン科らしい筒状で、赤みの強いピンク色の萼片の内側に黄色い花弁を伸ばし、萼片・花弁共に縁が緑色から黒色へ変化するそうです。
アウリンシャに比べて色合いは濃い印象で、現地では縁の色の変化がアウリンシャとミリ・ミリの花を区別する目安となりました。

 

色々と調べてみると、「ミリ・ミリ」は現地ケチュア語で「双子」を意味します。
また、もう1つの現地名であるマンカ・パキ(Manca-paqui)は同じケチュア語で「マンカ」は「土鍋」、「パキ」は「壊れる」を意味し、花を摘んで持ち帰ると土鍋が割れると信じている人々もいたことからそう呼ばれるようになったそうです。

 

ペルー固有種「アウリンシャ」、今回ご紹介した「ミリ・ミリ」が観察できる『花咲くブランカ山群へ アンデスの固有種 紅色のプカ・マカをもとめて』も催行決定となりました。まだ残席もございますので、是非2つの花を見比べにブランカ山群へ訪れてみませんか?

 

ミリ・ミリ(Bomarea dulcis)
ペルー固有種『アウリンシャ』(Bomarea albimontana)
196

プルシュ(Passiflora trifoliata)

前回に引き続き、ペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「プルシュ」をご紹介します。

 

現在、来シーズンに向けてペルー・ブランカ山群での花の観察を楽しむ「花咲くブランカ山群へ アンデスの固有種 紅色のプカ・マカをもとめて」のツアーを造成中、まもなく発表できる見込みですので、今しばらくお待ちください。

 

ペルー固有種のプルシュ(Passiflora trifoliata)

 

被子植物 双子葉類
学名:Passiflora trifoliata
現地名:プルシュ(Puroqsha / Purush)
科名:トケイソウ科(Passifloraceae)
属名:トケイソウ属(Passiflora)

 

プルシュ(Passiflora trifoliata)は、トケイソウ科トケイソウ属に属するペルー固有種の1つで、アンデスの標高3,900~4,800mの高地に位置する雲霧林や藪地、岩場などに自生し、他の樹木等を支えにして地面より幾分高いところへ茎を伸ばす蔓性植物でもあります。
プルシュ(Puroqsha / Purush)とは現地名で、標高5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群のワスカラン国立公園にあるいくつか自生地で観察できます。

 

葉は複葉で全体的に短毛が密生し、縁がしっかりしている印象でした。
花を支える花柄が伸び、その先に花被筒を包むようにして小さな苞葉をつけています。
そこから濃い紫色で筒状の花被筒(花弁や萼の基部が筒状に合着してできた部分)が伸び、その先端にオレンジ色とも、ピンク色ともいえる、何とも言えない色合いの花を咲かせます。

 

花は直径5cm程度の小ぶりで、黄色い葯と放射状に広げたたくさんの花弁が確認でき、色合いと共に非常に印象的な形状・・・、と現場では思っていたのですが、ブログ作成時に調べているとプルシュの花は披針形の萼片が放射状に広がる内側に同色で狭披針形の花弁を放射状に付けている構造(ユリのような構造?)とのことでした。
確かに写真をよくみていると、同色ですが花弁と萼の幅の違いが確認できます。来シーズンは是非とも肉眼で確認したいところですが、どうしても背の高い位置に咲いているので・・・難しいかな。

 

花後は楕円形で5cmほどの果実をつけ、5月にワスカラン国立公園を訪れた際、花と果実を横並びで観察できました。
プルシュ(Passiflora trifoliata)は「パッションフルーツの仲間」ですが、一般に食用とされるパッションフルーツ (Passiflora edulis) とは別種で食用として流通することはほとんどないそうです。

 

プルシュの実(Passiflora trifoliata)

 

少し花がそれますが、「パッションフルーツ」は「キリストの受難の花」の意味で、イエズス会の宣教師らによってラテン語で「flos passionis」と呼ばれていたのを訳したものとされており、16世紀に原産地である中南米に派遣された彼らはこの花をかつてアッシジの聖フランチェスコが夢に見たという「十字架上の花」と信じ、キリスト教の布教に利用したそうです。花の子房柱は十字架、3つに分裂した雌しべが釘、副冠は茨の冠、5枚の花弁と萼は合わせて10人の使徒、巻きひげはムチ、葉は槍であるとされ、「キリストの受難を象徴する形=キリストの受難の花」となったそうです。
また、スペインでは、キリストの手足を打ち抜いた釘の跡をふさいだのが「トケイソウ」とされていそうです。

 

ペルー固有種のプルシュ(Passiflora trifoliata)
195

アウリンシャ(Bomarea albimontana)

先日、ベネズエラ・ギアナ高地『 固有種の花咲く原始境へ 太古の台地アウヤン・テプイをゆく』へ同行させていただき、2018年に同じギアナ高地のチマンタ山塊のテプイの山上で観察したウトリクラリア・フンボルティ(Utiricularia humboldtii)に再び出会うことができ、さらに多種多様なランの花の観察を楽しむことができました。

 

前回に引き続き、ペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「アウリンシャ」をご紹介します。

 

ペルー固有種『アウリンシャ』(Bomarea albimontana)

 

被子植物 単子葉類
学名:Bomarea albimontana
現地名:アウリンシャ(Aurinsha)/シュユ・シュユ(Shullu-shullu)
科名:ユリズイセン科 又は アルストロメリア科(Alstroemeriaceae)
属名:ボマレア属(Bomarea)

 

アウリンシャ(Bomarea albimontana)は、ユリズイセン科ボマレア属に属するペルー固有種の1つで、標高3,900~4,800mの高地に自生し、5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群のワスカラン国立公園などでいくつか自生地が確認されています。

 

ペルーの先住民族ケチュア族の言葉で 「アウリンシャ」(Aurinsha)は、花の特性から「つる植物」を意味し、現地フラワーガイドさんが、鈴なりに咲くアウリンシャが風になびく際に鳴らす音がもう1つの現地名「シュユ・シュユ」(Shullu-shullu)の名の由来であると教えてくれました。

 

アウリンシャという現地名のとおり「つる植物」で、たくさんの花を咲かせるため重さで倒れないようにケニュアルという高地の木や他の植物などに絡みついて成長します。

 

葉は細長く少し柔らかい印象、葉裏が表面より白みがかっていた印象です。また花を中心に放射線状に葉を広げていたのが非常に印象的でした。資料によっては「羽根複葉」と記しているものもあります。

 

花は淡いピンク色(オレンジ色にも見えます)が印象的ですが、実際は淡いピンクの萼片が紫色の斑点のある黄色の花弁(6枚という資料もあります)を覆っているベル型の花を咲かせます。
2~3cmほどの小さな花を20個近く密集して咲かせるため、散策をしながら観察しているとすぐに目に飛び込んできます。ただ、つる性の植物だからなのか(?)花があっちの方向に向いていたり、重みの影響で下を向いていることが多いのが難点です。

 

ある資料には「地元の人々にとっては自然の象徴のひとつ」というものもあり、冷涼で湿度のある環境を好む花であるとのことでした。

 

似た花(同じユリズイセン科ボマレア属)で現地で『ミリ・ミリ』と呼ばれる花もブランカ山群のワスカラン国立公園に咲きます。
その花のお話しは・・・またいつの日か。

 

アウリンシャの実(ユリズイセン科)
手で手繰り寄せて花をアウリンシャの花を観察
194

オキ・マカ(Oqi-maqa / Gentianella tristicha)

先日、利尻島・礼文島のツアーに同行させていただき、お客様と共に高山植物の観察を楽しみ、ツアー終了後に長年訪れてみたかった北海道大学の植物園をプライベートで訪れ、園内に咲く花々を堪能し、日本の高山植物を大いに堪能できた一週間でした。

 

前回に引き続いてペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「オキ・マカ」をご紹介します。

 

オキ・マカ(Oqi-maqa / Gentianella tristicha)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gentianella tristicha
現地名:オキ・マカ(Oqi-maqa – Oqemacashaqa)
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:リンドウ属(Gentiana)

 

オキ・マカ(Oqi-maqa – Gentianella tristicha)は、リンドウ科リンドウ属に属するペルー固有種で、5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群の標高4,300m~4,900mの高所に自生し、ワスカラン国立公園などでいくつか自生地が確認されています。
ペルーの先住民族ケチュア族の言葉で 「Oqi」は、花の色合いの「ラベンダー色とピンク色の中間の繊細な色調」を意味します。

 

草丈は10~25cmほどで直立し、紫褐色の細い茎を伸ばし、上部で2~3つに枝分かれし、それぞれに直径2~3cmほどの小さな花を咲かせます。

 

葉は枝分かれした節の部分に細い針形の葉を左右対称に伸ばし、それぞれの葉は1.5~2cm程度の長さです。

 

花期はペルー・アンデスの雨季の終わりの2〜5月。
花全体は淡い紫色で、トランペット状の合弁花の先端で5つの花弁のように分かれてる形状をしています。
花の中央にはほんのりクリーム色の雌しべをしっかりと伸ばし、その脇には数本の雄しべが伸びています。その雄しべの先端の葯の部分に花粉が残っているものは雌しべと同様にほんのりクリームをしているのですが、花粉が無くなって紫色の細い糸が残っているだけのものも観察できました。

 

根は比較的丈夫で、栄養分が乏しい場所(高地の過酷な気候条件)でも生息することができる花ですが、ペルーの高山生態系の保全において重要な花の1つとして数えられ、ワスカラン国立公園などでは保護対象種とされています。

 

オキ・マカの花は現在のところ一般的な薬草としての利用は報告されていませんが、伝統的には「強さ」や「浄化」を象徴するとされ、儀式に用いられることもあるという資料もありました。

 

オキ・マカは、花の形状も美しく、淡い色合いも何とも言えない魅力を感じる花で、是非とも皆さんにも観察して欲しい花の1つです。

 

オキ・マカ(Oqi-maqa / Gentianella tristicha)

 

そういえば、現地にて前回紹介した「プカ・マカ」と今回ご紹介した「オキ・マカ」の中間種と解説を受けた花も観察しました。
見た目にはほぼ「オキ・マカ」のような形状ですが、良く観察すると5つに分かれた花弁の部分に若干の丸みがあったり、中央に伸びる雌しべの色合いに違いがあったり、学名は不明ですが、不思議な花でした。
※「オキ・マカ」と「プカ・マカ」の写真、見比べてみて下さい。

 

オキ・マカとプカ・マカの中間種
ペルー固有種の花「プカ・マカ」(リンドウ科)
193

プカ・マカ(Puka maqa – Puka maqashka/Gentianella weberbaueri)

6月に入り、近所のアジサイも見頃を迎え、雨の降る嫌な季節でもアジサイの花を観ると少し心が癒されます。

 

先月、ペルーのブランカ山群へ添乗させていただき、ペルー固有種の花をいくつも観察してきました。
本日はその中から3年越しの念願だった紅色のリンドウ「プカ・マカ」をご紹介します。

 

ペルー固有種「プカ・マカ」(リンドウ科)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gentianella weberbaueri
現地名:プカ・マカ(Puka maqa – Puka maqashka)
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:リンドウ属(Gentiana)

 

上の写真を見て「この色がリンドウ??」と思われた方、「クリンソウでは?」と思われた方もいるのではないでしょうか。実のところ、私がその1人でした。

 

今から約3年前、南米の花を色々と調べている時、この花の写真を見つけました。
その際、私も「クリンソウの一種かな?」と思い、調べていくうちにアンデス山脈の一部をなすのペルー・ブランカ山群に自生するペルー固有種、現地で「プカ・マカ」と呼ばれる花であることが判り、一気に心を奪われました。

 

プカ・マカ(Puka maqa – Puka maqashka)は、リンドウ科リンドウ属に属するペルー固有種で、5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群の標高4,300m~4,900mの高所の礫地に自生し、ペルーの先住民族ケチュア族の言葉で 「puca 」は 「赤 」を意味します。

 

草丈は小さな株で30cmほど、高いもので50cm近い株も確認できました。
今回観察できたエリアでは見つかりませんでしたが、資料によっては3フィート(約90cm)のい高さになると記載されています。

 

葉は地面にイソギンチャクのように長さ10cmほどの細長く、ほんの少し厚みのある葉を広げ、その中央に赤褐色のどっしりとした印象、まるで大黒柱のような花茎を真っすぐに伸ばします。
花茎に付ける葉は地面に広がる葉に比べて短く、柄を付けず数段に分かれて放射状に葉を広げます。

 

花期は5月初旬。
花茎から2~3cmほどの花柄を伸ばし、長さ2~3cmほどの紅色の花を付けます。
1つの株が満開に花をつけた状態の個体は観察できませんでしたが、満開になると花の数は10や20ではおさまらず、30近くの花を付けそうな印象でした。
花弁は5枚のように見えましたが、高所で息も絶え絶えの中でじっくりと観察しているとトランペット状の合弁花であり、先端で5つの花弁のように分かれているのが判りました。下の写真をご覧いただくとその形状が判るかと思います。

 

紅色の花弁の中央からどっしりとした黄色の花柱と小豆のような色の柱頭の雌しべが伸び、その脇からゴマのように真っ黒な葯をつけた雌しべが4~5本伸びており、細かく観察すると様々な色合いが組み合わさった花であることが判り、その色合いが何とも言えない魅力を感じさせる花でした。

 

現地ではプカ・マカの花を宗教的な彫像の装飾に使われるそうです。
また、農村部では虫歯予防のためにこれを噛むこともあったり、茹でたエキスを赤い着色料として使用しているという資料などもありました。そういえば、現地のガイドさんがたちが「ブランカ山群は薬草の宝庫」と解説してくれていました。

 

今回は小雨が降る中、標高4,730m地点でプカ・マカを観察しました。
お客様それぞれが観察を楽しむ中、「ここにも咲いているよ~」「こっちの株は見事な咲き具合だよ~」など、雨にも負けず、高山病にも負けず、それぞれが情報を共有しながら、ペルーの固有種「プカ・マカ」の観察を楽しみました。

 

その他、オキ・マカ(リンドウ科)やアウリンシャ(ユリズイセン科)、プルシュ(トケイソウ科)などのペルー固有種や私が大好きなスリッパ型のゴマノハグサ科の花など、様々な花の観察を楽しむことができました。
それらの花々の紹介は・・・次回に続く。

ペルー固有種の花「プカ・マカ」(リンドウ科)
花茎を伸ばす前のプカ・マカ(リンドウ科)
192

ウトリクラリア・フンボルティ(Utiricularia humboldtii)

今回は、ベネズエラ・ギアナ高地のチマンタ山塊のテプイの山上で観察した『ウトリクラリア・フンボルティ』(Utiricularia humboldtii)をご紹介します。

 

ウトリクラリア・フンボルティ(タヌキモ科)

 

被子植物 双子葉類
学名:Utricularia humboldtii
科名:タヌキモ科(Lentibulariaceae)
属名:タヌキモ属(Utricularia)

 

タヌキモ属(Utricularia)には、2つのタイプが存在します。
①水中に浮遊するもの:和名でタヌキモと呼ばれるもの
②湿地に自生するもの:和名でミミカキグサと呼ばれるもの

 

今回ご紹介するウトリクラリア・フンボルティ(Utiricularia humboldtii)は②ミミカキグサ類に属する大型の多年生の食虫植物です。南米大陸のベネズエラ・ギアナ高地をはじめ、ガイアナ、ブラジルに分布し、標高1,200~2,500mの間で観察できるものですが、標高300mの低地でも発見されているという資料もありました。

 

ミミカキグサと言えば、指先より小さな花という印象ですが、ウトリクラリア・フンボルティはタヌキモ属の中でも最大の花を咲かせます。初めてギアナ高地で観察した際、お客様と「ゾウのミミカキくらいの大きさ」などと話題にしていたくらいです。

 

ブロッキニアに寄生したウトリクラリア・フルボルティミミカキグサ類は、土の中へ地中茎を伸ばし、補虫袋(捕虫嚢:ほちゅうのう:捕獲用トラップ)を付けていますが、木の幹に着生したり、開けたサバンナの浅瀬や湿った土壌などに自生すると一般的に言われていますが、自生地では上の写真のように(ギアナ高地・チマンタ山塊で観察したもの)大型のブロメリア(ブロッキニア等のパイナップル科の総称)の水の溜まった葉筒内に寄生するように生育するのが特徴です。

 

葉筒内に地下茎から葉が伸びる仕組み

 

一般的な補虫嚢は0.2~2.5mmとされていますが、ウトリクラリア・フンボルティなタヌキモ属の中でも最大の捕虫嚢(1cm前後)を持つとされ、最大1.2cmのものもあるという資料もあります。また、大小2つのタイプの捕虫嚢をもつ種でもあります。
ギアナ高地で観察した際、確かに米粒より小さな補虫嚢をたくさんつけた地下茎、1cm前後の補虫嚢をいくつかつけた地下茎の両方を観察しました。下の2つの写真を比べてもらうとその大きさは一目瞭然です。

 

ウトリクラリア・フンボルティの小さな補虫嚢
ウトリクラリア・フンボルティの大きな補虫嚢
葉筒内に地下茎から葉が伸びる仕組み

補虫嚢は、アンテナ状の部分が獲物(水中のミジンコなどの微生物)を誘導する役割があり、補虫嚢が外液を取り込んで膨らむ際に微生物が補虫嚢内に吸い込まれる仕組みとなっています。取り込まれた獲物は、通常数時間内に消化酵素によって溶かされます。とある資料には、ゾウリムシが補虫嚢に取り込まれたら75分ほどで消化されるとありました。

 

ギアナ高地のテプイ山上で忽然と姿を見せるウトリクラリア・フンボルティの淡い紫色の花は目を惹く美しさですが、ミミカキグサと考えれば、その大きさに驚きます。また、自生(着生)する仕組みや補虫嚢のことを知ると、より興味深い植生となります。

 

ウトリクラリア・フンボルティに興味を持たれた方は、是非ギアナ高地へご一緒しませんか?

 

<ウトリクラリア・フンボルティに出会えるツアー>
固有種の花咲く原始境へ 太古の台地アウヤン・テプイをゆく
※私は9月26日出発コースへ添乗予定です。

191

エバーラスティング・デージー(Everlasting Daisies)をもとめて西オーストラリアへ

本日は、このブログ「世界の花だより」で初めて西オーストラリアの花、『エバーラスティング・デージー』(Everlasting Daisies)と呼ばれる花をご紹介します。

 

皆さんは「エバーラスティング・デージ」という花の名前を聞いたことはあるでしょうか。「デージーなら聞いたことある!」と思われた方は多いと思います。最後に紹介するツアーを弊社前川が造成を開始するまで「エバーラスティング・デージー」という言葉は聞いたことがありませんでした。

 

現地で「イエローポンポン」と呼ばれるエバーラスティング・デージー(Everlasting Daisies)

 

被子植物 双子葉類
英名:エバーラスティング・デージー(Everlasting Daisies)
科名:キク科(Asteraceae)
属名:ムギワラギク属(Xerochrysum)/ヘリクリサム属(Helichrysum)

 

日本の約24倍の面積を誇る広大な島国オーストラリアは、動植物の変化に富み、種類も多く、どの地域を訪れても独特の植生、生態系を観察することができます。
そんな中でも西オーストラリアは最も多くの野生植物が観察でき、その種類の多さ、美しさは世界の野生植物の宝庫と言われる南アフリカにも劣らないと言われています。

 

オーストラリア大陸は2/3は砂漠地帯。
砂漠地帯や乾燥地帯に自生する植生のイメージと言えば、アメリカ大陸ではサボテン類、アフリカ大陸では多肉植物、それぞれ茎葉に水分を多く蓄えて多肉化して乾燥から身を守るように進化しているという認識ですが、オーストラリアの砂漠地帯や乾燥地帯では多肉化した植生は少なく、その代わりに根を深く張るものが多く、ムギワラギクのような、花に珪酸質を含みカサカサした乾燥花が多く自生するのが特徴です。

 

珪酸質を含みカサカサとした乾燥花は、特にキク科の花が多く、その種類は数百種にも及ぶという資料もあり、これらキク科の花を総称して「エバーラスティング」(Everlastings)、「永久花」 と呼ばれてるそうです。
「永久花」と聞くと「年中枯れずに咲き続ける」とイメージしてしまいそうですが、ある資料で「外見上の新鮮さと自然のままの色を長期にわたって保有できる事でエバーラスティングと呼ばれるようになった」とのことでした。

 

エバーラスティングと呼ばれるキク科の花は、資料によっては『ムギワラギク属』(Xerochrysum)、少し古い資料だと『ヘリクリサム属』(Helichrysum)と表記されています。どうやら、20世紀末から21世紀初頭にかけての分類見直しの結果、ムギワラギクはXerochrysum属の種ということになり、ムギワラギク属の和名もXerochrysum属を指して用いられるようになったそうです。

 

エバーラスティング・デージーと呼ばれる花々は群生をなして咲き乱れることが多いため、花のシーズンに訪れると、カラフルなデージーが一面に咲き誇る素晴らしい景観を楽しむことができます。
ワイルドフラワーの宝庫と称される西オーストラリア、エバーラスティング・デージーに興味をお持ちの方は是非西オーストラリアを訪れてみてください。

 

<エバーラスティング・デージーに出会えるツアー>
春の西オーストラリア ワイルドフラワー探訪
※8月下旬、西オーストラリアは冬から春への移ろいを迎え、州全域が色とりどりのワイルドフラワーで彩られます。

190

メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata) ~ブルーポピーをもとめて 西部ヒマーチャルへ

節分も終わり(西南西を向いて恵方巻は食べましたか?)、まもなく春を迎えようとする中、寒い日が続きますが、体調を崩されずにお過ごしでしょうか

 

突然ですが、皆さんは『ブルーポピー』を観察したことはありますか?
ブルーポピーと言っても、多種多様。
ブルーポピーと呼ばれる種は、俗にケシ科メコノプシス属に属するもので西ヨーロッパ、中央アジア、ヒマラヤの高山地帯(パキスタン、インド北部、ネパール、ブータン、中国・チベット自治区)、中国の青海省、甘粛省、雲南省と隔離分布し、50種近くの草本が確認されています。

 

メコノプシス属は花弁が青色の種だけではなく、青紫色、紫紅色、紅色(淡~暗)、白色、黄色など多彩で、気象条件などで色の変化も多いのが特徴です。また、近縁種と交雑しやすいと言われ、同定すること、個体ごとに花名を見極めるのは困難と言われています。実際、辞書を片手に観察しても混乱することがあります。

 

本日は、インドのヒマーチャル・プラデーシュ州で観察できるブルーポピー『メコノプシス・アクレアタ』(Meconopsis aculeata)をご紹介します。

 

メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata Royle)

被子植物 双子葉類
学名:メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata Royle)
科名:ケシ科(Papaveraceae)
属名:メコノプシス属(Meconopsis)

 

 

メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata)は、西ヒマラヤ~チベット、インドでは北部のカシミール、ウッタラーカンド州の東側のクマーウーン、ヒマーチャル・プラデーシュ州などに分布します。
今回は、インドのヒマーチャル・プラデーシュ州を訪れるツアーで観察したものをもとに解説します。

 

直立して伸びる花茎は20~40cmほどで、高山帯の岩場や岩の割れ目、岩礫質の草地などで自生し、花茎全体に赤褐色の毛が確認でき、よく観察すると刺毛であることが判ります。
私も観察したことはないですが、資料には「地下にゴボウ状の根が長く伸びる」とあります。観てみたい気もしますが、現場でブルーポピーを掘り起こす添乗員、ガイドが居たら・・・想像しただけでも恐ろしいです。

 

基部には、長さが5~10cmほどの柄を付けた長円形の葉をつけ、葉の長さは5cmほどで羽根状に深裂し、裂片には丸みが確認できます。基部の葉に比べて上部の葉は小さい印象で、基部の葉とは違い無柄であるのも確認できます。また、花茎と同様、葉全体にも赤褐色の刺毛が確認できます。

 

花期は自生エリアによって前後はありますが、6~9月と言われ、インドのヒマーチャル・プラデーシュ州では7月に観察できました。

 

1つの花茎に5~10個ほどの花を咲かせ、花弁は丸に近い卵型の花弁を4枚付け、色は淡青色で光の加減で透きとおった色合いが何とも印象的なものです。
ただ、このメコノプシス・アクレアタの花弁の色は淡青色だけではなく、淡紫紅色の個体もあります。写真(下の写真の方が判りやすいかも)をご覧いただくと、ブルーポピーらしい淡青色の一部分に淡紫紅色の色合いが確認できます。観察する際「ブルーじゃないから残念」と言わず、色合いの違いを楽しんでください。

 

メコノプシス属のすべての種がそうではありませんが、このメコノプシス・アクレアタは一回結実性(1世代に1回しか開花・結実しないで結実後は自然に枯死してしまう植物のこと)です。

 

花の中央部に山吹色の雄しべが密集しているのが確認できますが(山吹色は雄しべの葯の部分)、その中央部分に白色の花柱(雌しべ)が確認できます。花の周辺にイガグリのように見える子房(雌しべの下部の膨らんだ部分)も確認できます。

 

次回ブルーポピーを観察する際に是非注目してほしいのが、雄しべ葯の部分を支える花糸の部分です。ご存じの方もいるかもしれませんが、この花糸も「青色」なのです。花弁に比べて少し濃い青色ですが、ブルーポピーというのは、花弁だけが蒼い訳ではないのです。私もこのことを現地フラワーガイド(四姑娘山麓の日隆のガイドだった記憶が・・・)に教えてもらったときは衝撃的でした。

 

今回は、インドのヒマーチャル・プラデーシュ州で観察できるメコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata Royle)をご紹介しましたが、ブルーポピーは奥が深いもの。またいつか別の種のブルーポピーをご紹介したいと思います。

 

<メコノプシス・アクレアタに出会えるツアー>
花の西部ヒマーチャル 最奥のパンギ渓谷を訪ねて
※多く高山植物の観察ができる7月限定ツアーで、催行間近(2月現在)です。
メコノプシス・アクレアタをもとめて西部ヒマーチャルへ出掛けてみませんか?

メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata Royle)