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プルシュ(Passiflora trifoliata)

前回に引き続き、ペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「プルシュ」をご紹介します。

 

現在、来シーズンに向けてペルー・ブランカ山群での花の観察を楽しむ「花咲くブランカ山群へ アンデスの固有種 紅色のプカ・マカをもとめて」のツアーを造成中、まもなく発表できる見込みですので、今しばらくお待ちください。

 

ペルー固有種のプルシュ(Passiflora trifoliata)

 

被子植物 双子葉類
学名:Passiflora trifoliata
現地名:プルシュ(Puroqsha / Purush)
科名:トケイソウ科(Passifloraceae)
属名:トケイソウ属(Passiflora)

 

プルシュ(Passiflora trifoliata)は、トケイソウ科トケイソウ属に属するペルー固有種の1つで、アンデスの標高3,900~4,800mの高地に位置する雲霧林や藪地、岩場などに自生し、他の樹木等を支えにして地面より幾分高いところへ茎を伸ばす蔓性植物でもあります。
プルシュ(Puroqsha / Purush)とは現地名で、標高5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群のワスカラン国立公園にあるいくつか自生地で観察できます。

 

葉は複葉で全体的に短毛が密生し、縁がしっかりしている印象でした。
花を支える花柄が伸び、その先に花被筒を包むようにして小さな苞葉をつけています。
そこから濃い紫色で筒状の花被筒(花弁や萼の基部が筒状に合着してできた部分)が伸び、その先端にオレンジ色とも、ピンク色ともいえる、何とも言えない色合いの花を咲かせます。

 

花は直径5cm程度の小ぶりで、黄色い葯と放射状に広げたたくさんの花弁が確認でき、色合いと共に非常に印象的な形状・・・、と現場では思っていたのですが、ブログ作成時に調べているとプルシュの花は披針形の萼片が放射状に広がる内側に同色で狭披針形の花弁を放射状に付けている構造(ユリのような構造?)とのことでした。
確かに写真をよくみていると、同色ですが花弁と萼の幅の違いが確認できます。来シーズンは是非とも肉眼で確認したいところですが、どうしても背の高い位置に咲いているので・・・難しいかな。

 

花後は楕円形で5cmほどの果実をつけ、5月にワスカラン国立公園を訪れた際、花と果実を横並びで観察できました。
プルシュ(Passiflora trifoliata)は「パッションフルーツの仲間」ですが、一般に食用とされるパッションフルーツ (Passiflora edulis) とは別種で食用として流通することはほとんどないそうです。

 

プルシュの実(Passiflora trifoliata)

 

少し花がそれますが、「パッションフルーツ」は「キリストの受難の花」の意味で、イエズス会の宣教師らによってラテン語で「flos passionis」と呼ばれていたのを訳したものとされており、16世紀に原産地である中南米に派遣された彼らはこの花をかつてアッシジの聖フランチェスコが夢に見たという「十字架上の花」と信じ、キリスト教の布教に利用したそうです。花の子房柱は十字架、3つに分裂した雌しべが釘、副冠は茨の冠、5枚の花弁と萼は合わせて10人の使徒、巻きひげはムチ、葉は槍であるとされ、「キリストの受難を象徴する形=キリストの受難の花」となったそうです。
また、スペインでは、キリストの手足を打ち抜いた釘の跡をふさいだのが「トケイソウ」とされていそうです。

 

ペルー固有種のプルシュ(Passiflora trifoliata)
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アウリンシャ(Bomarea albimontana)

先日、ベネズエラ・ギアナ高地『 固有種の花咲く原始境へ 太古の台地アウヤン・テプイをゆく』へ同行させていただき、2018年に同じギアナ高地のチマンタ山塊のテプイの山上で観察したウトリクラリア・フンボルティ(Utiricularia humboldtii)に再び出会うことができ、さらに多種多様なランの花の観察を楽しむことができました。

 

前回に引き続き、ペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「アウリンシャ」をご紹介します。

 

ペルー固有種『アウリンシャ』(Bomarea albimontana)

 

被子植物 単子葉類
学名:Bomarea albimontana
現地名:アウリンシャ(Aurinsha)/シュユ・シュユ(Shullu-shullu)
科名:ユリズイセン科 又は アルストロメリア科(Alstroemeriaceae)
属名:ボマレア属(Bomarea)

 

アウリンシャ(Bomarea albimontana)は、ユリズイセン科ボマレア属に属するペルー固有種の1つで、標高3,900~4,800mの高地に自生し、5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群のワスカラン国立公園などでいくつか自生地が確認されています。

 

ペルーの先住民族ケチュア族の言葉で 「アウリンシャ」(Aurinsha)は、花の特性から「つる植物」を意味し、現地フラワーガイドさんが、鈴なりに咲くアウリンシャが風になびく際に鳴らす音がもう1つの現地名「シュユ・シュユ」(Shullu-shullu)の名の由来であると教えてくれました。

 

アウリンシャという現地名のとおり「つる植物」で、たくさんの花を咲かせるため重さで倒れないようにケニュアルという高地の木や他の植物などに絡みついて成長します。

 

葉は細長く少し柔らかい印象、葉裏が表面より白みがかっていた印象です。また花を中心に放射線状に葉を広げていたのが非常に印象的でした。資料によっては「羽根複葉」と記しているものもあります。

 

花は淡いピンク色(オレンジ色にも見えます)が印象的ですが、実際は淡いピンクの萼片が紫色の斑点のある黄色の花弁(6枚という資料もあります)を覆っているベル型の花を咲かせます。
2~3cmほどの小さな花を20個近く密集して咲かせるため、散策をしながら観察しているとすぐに目に飛び込んできます。ただ、つる性の植物だからなのか(?)花があっちの方向に向いていたり、重みの影響で下を向いていることが多いのが難点です。

 

ある資料には「地元の人々にとっては自然の象徴のひとつ」というものもあり、冷涼で湿度のある環境を好む花であるとのことでした。

 

似た花(同じユリズイセン科ボマレア属)で現地で『ミリ・ミリ』と呼ばれる花もブランカ山群のワスカラン国立公園に咲きます。
その花のお話しは・・・またいつの日か。

 

アウリンシャの実(ユリズイセン科)
手で手繰り寄せて花をアウリンシャの花を観察
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オキ・マカ(Oqi-maqa / Gentianella tristicha)

先日、利尻島・礼文島のツアーに同行させていただき、お客様と共に高山植物の観察を楽しみ、ツアー終了後に長年訪れてみたかった北海道大学の植物園をプライベートで訪れ、園内に咲く花々を堪能し、日本の高山植物を大いに堪能できた一週間でした。

 

前回に引き続いてペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「オキ・マカ」をご紹介します。

 

オキ・マカ(Oqi-maqa / Gentianella tristicha)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gentianella tristicha
現地名:オキ・マカ(Oqi-maqa – Oqemacashaqa)
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:リンドウ属(Gentiana)

 

オキ・マカ(Oqi-maqa – Gentianella tristicha)は、リンドウ科リンドウ属に属するペルー固有種で、5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群の標高4,300m~4,900mの高所に自生し、ワスカラン国立公園などでいくつか自生地が確認されています。
ペルーの先住民族ケチュア族の言葉で 「Oqi」は、花の色合いの「ラベンダー色とピンク色の中間の繊細な色調」を意味します。

 

草丈は10~25cmほどで直立し、紫褐色の細い茎を伸ばし、上部で2~3つに枝分かれし、それぞれに直径2~3cmほどの小さな花を咲かせます。

 

葉は枝分かれした節の部分に細い針形の葉を左右対称に伸ばし、それぞれの葉は1.5~2cm程度の長さです。

 

花期はペルー・アンデスの雨季の終わりの2〜5月。
花全体は淡い紫色で、トランペット状の合弁花の先端で5つの花弁のように分かれてる形状をしています。
花の中央にはほんのりクリーム色の雌しべをしっかりと伸ばし、その脇には数本の雄しべが伸びています。その雄しべの先端の葯の部分に花粉が残っているものは雌しべと同様にほんのりクリームをしているのですが、花粉が無くなって紫色の細い糸が残っているだけのものも観察できました。

 

根は比較的丈夫で、栄養分が乏しい場所(高地の過酷な気候条件)でも生息することができる花ですが、ペルーの高山生態系の保全において重要な花の1つとして数えられ、ワスカラン国立公園などでは保護対象種とされています。

 

オキ・マカの花は現在のところ一般的な薬草としての利用は報告されていませんが、伝統的には「強さ」や「浄化」を象徴するとされ、儀式に用いられることもあるという資料もありました。

 

オキ・マカは、花の形状も美しく、淡い色合いも何とも言えない魅力を感じる花で、是非とも皆さんにも観察して欲しい花の1つです。

 

オキ・マカ(Oqi-maqa / Gentianella tristicha)

 

そういえば、現地にて前回紹介した「プカ・マカ」と今回ご紹介した「オキ・マカ」の中間種と解説を受けた花も観察しました。
見た目にはほぼ「オキ・マカ」のような形状ですが、良く観察すると5つに分かれた花弁の部分に若干の丸みがあったり、中央に伸びる雌しべの色合いに違いがあったり、学名は不明ですが、不思議な花でした。
※「オキ・マカ」と「プカ・マカ」の写真、見比べてみて下さい。

 

オキ・マカとプカ・マカの中間種
ペルー固有種の花「プカ・マカ」(リンドウ科)
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プカ・マカ(Puka maqa – Puka maqashka/Gentianella weberbaueri)

6月に入り、近所のアジサイも見頃を迎え、雨の降る嫌な季節でもアジサイの花を観ると少し心が癒されます。

 

先月、ペルーのブランカ山群へ添乗させていただき、ペルー固有種の花をいくつも観察してきました。
本日はその中から3年越しの念願だった紅色のリンドウ「プカ・マカ」をご紹介します。

 

ペルー固有種「プカ・マカ」(リンドウ科)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gentianella weberbaueri
現地名:プカ・マカ(Puka maqa – Puka maqashka)
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:リンドウ属(Gentiana)

 

上の写真を見て「この色がリンドウ??」と思われた方、「クリンソウでは?」と思われた方もいるのではないでしょうか。実のところ、私がその1人でした。

 

今から約3年前、南米の花を色々と調べている時、この花の写真を見つけました。
その際、私も「クリンソウの一種かな?」と思い、調べていくうちにアンデス山脈の一部をなすのペルー・ブランカ山群に自生するペルー固有種、現地で「プカ・マカ」と呼ばれる花であることが判り、一気に心を奪われました。

 

プカ・マカ(Puka maqa – Puka maqashka)は、リンドウ科リンドウ属に属するペルー固有種で、5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群の標高4,300m~4,900mの高所の礫地に自生し、ペルーの先住民族ケチュア族の言葉で 「puca 」は 「赤 」を意味します。

 

草丈は小さな株で30cmほど、高いもので50cm近い株も確認できました。
今回観察できたエリアでは見つかりませんでしたが、資料によっては3フィート(約90cm)のい高さになると記載されています。

 

葉は地面にイソギンチャクのように長さ10cmほどの細長く、ほんの少し厚みのある葉を広げ、その中央に赤褐色のどっしりとした印象、まるで大黒柱のような花茎を真っすぐに伸ばします。
花茎に付ける葉は地面に広がる葉に比べて短く、柄を付けず数段に分かれて放射状に葉を広げます。

 

花期は5月初旬。
花茎から2~3cmほどの花柄を伸ばし、長さ2~3cmほどの紅色の花を付けます。
1つの株が満開に花をつけた状態の個体は観察できませんでしたが、満開になると花の数は10や20ではおさまらず、30近くの花を付けそうな印象でした。
花弁は5枚のように見えましたが、高所で息も絶え絶えの中でじっくりと観察しているとトランペット状の合弁花であり、先端で5つの花弁のように分かれているのが判りました。下の写真をご覧いただくとその形状が判るかと思います。

 

紅色の花弁の中央からどっしりとした黄色の花柱と小豆のような色の柱頭の雌しべが伸び、その脇からゴマのように真っ黒な葯をつけた雌しべが4~5本伸びており、細かく観察すると様々な色合いが組み合わさった花であることが判り、その色合いが何とも言えない魅力を感じさせる花でした。

 

現地ではプカ・マカの花を宗教的な彫像の装飾に使われるそうです。
また、農村部では虫歯予防のためにこれを噛むこともあったり、茹でたエキスを赤い着色料として使用しているという資料などもありました。そういえば、現地のガイドさんがたちが「ブランカ山群は薬草の宝庫」と解説してくれていました。

 

今回は小雨が降る中、標高4,730m地点でプカ・マカを観察しました。
お客様それぞれが観察を楽しむ中、「ここにも咲いているよ~」「こっちの株は見事な咲き具合だよ~」など、雨にも負けず、高山病にも負けず、それぞれが情報を共有しながら、ペルーの固有種「プカ・マカ」の観察を楽しみました。

 

その他、オキ・マカ(リンドウ科)やアウリンシャ(ユリズイセン科)、プルシュ(トケイソウ科)などのペルー固有種や私が大好きなスリッパ型のゴマノハグサ科の花など、様々な花の観察を楽しむことができました。
それらの花々の紹介は・・・次回に続く。

ペルー固有種の花「プカ・マカ」(リンドウ科)
花茎を伸ばす前のプカ・マカ(リンドウ科)
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ウトリクラリア・フンボルティ(Utiricularia humboldtii)

今回は、ベネズエラ・ギアナ高地のチマンタ山塊のテプイの山上で観察した『ウトリクラリア・フンボルティ』(Utiricularia humboldtii)をご紹介します。

 

ウトリクラリア・フンボルティ(タヌキモ科)

 

被子植物 双子葉類
学名:Utricularia humboldtii
科名:タヌキモ科(Lentibulariaceae)
属名:タヌキモ属(Utricularia)

 

タヌキモ属(Utricularia)には、2つのタイプが存在します。
①水中に浮遊するもの:和名でタヌキモと呼ばれるもの
②湿地に自生するもの:和名でミミカキグサと呼ばれるもの

 

今回ご紹介するウトリクラリア・フンボルティ(Utiricularia humboldtii)は②ミミカキグサ類に属する大型の多年生の食虫植物です。南米大陸のベネズエラ・ギアナ高地をはじめ、ガイアナ、ブラジルに分布し、標高1,200~2,500mの間で観察できるものですが、標高300mの低地でも発見されているという資料もありました。

 

ミミカキグサと言えば、指先より小さな花という印象ですが、ウトリクラリア・フンボルティはタヌキモ属の中でも最大の花を咲かせます。初めてギアナ高地で観察した際、お客様と「ゾウのミミカキくらいの大きさ」などと話題にしていたくらいです。

 

ブロッキニアに寄生したウトリクラリア・フルボルティミミカキグサ類は、土の中へ地中茎を伸ばし、補虫袋(捕虫嚢:ほちゅうのう:捕獲用トラップ)を付けていますが、木の幹に着生したり、開けたサバンナの浅瀬や湿った土壌などに自生すると一般的に言われていますが、自生地では上の写真のように(ギアナ高地・チマンタ山塊で観察したもの)大型のブロメリア(ブロッキニア等のパイナップル科の総称)の水の溜まった葉筒内に寄生するように生育するのが特徴です。

 

葉筒内に地下茎から葉が伸びる仕組み

 

一般的な補虫嚢は0.2~2.5mmとされていますが、ウトリクラリア・フンボルティなタヌキモ属の中でも最大の捕虫嚢(1cm前後)を持つとされ、最大1.2cmのものもあるという資料もあります。また、大小2つのタイプの捕虫嚢をもつ種でもあります。
ギアナ高地で観察した際、確かに米粒より小さな補虫嚢をたくさんつけた地下茎、1cm前後の補虫嚢をいくつかつけた地下茎の両方を観察しました。下の2つの写真を比べてもらうとその大きさは一目瞭然です。

 

ウトリクラリア・フンボルティの小さな補虫嚢
ウトリクラリア・フンボルティの大きな補虫嚢
葉筒内に地下茎から葉が伸びる仕組み

補虫嚢は、アンテナ状の部分が獲物(水中のミジンコなどの微生物)を誘導する役割があり、補虫嚢が外液を取り込んで膨らむ際に微生物が補虫嚢内に吸い込まれる仕組みとなっています。取り込まれた獲物は、通常数時間内に消化酵素によって溶かされます。とある資料には、ゾウリムシが補虫嚢に取り込まれたら75分ほどで消化されるとありました。

 

ギアナ高地のテプイ山上で忽然と姿を見せるウトリクラリア・フンボルティの淡い紫色の花は目を惹く美しさですが、ミミカキグサと考えれば、その大きさに驚きます。また、自生(着生)する仕組みや補虫嚢のことを知ると、より興味深い植生となります。

 

ウトリクラリア・フンボルティに興味を持たれた方は、是非ギアナ高地へご一緒しませんか?

 

<ウトリクラリア・フンボルティに出会えるツアー>
固有種の花咲く原始境へ 太古の台地アウヤン・テプイをゆく
※私は9月26日出発コースへ添乗予定です。

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エバーラスティング・デージー(Everlasting Daisies)をもとめて西オーストラリアへ

本日は、このブログ「世界の花だより」で初めて西オーストラリアの花、『エバーラスティング・デージー』(Everlasting Daisies)と呼ばれる花をご紹介します。

 

皆さんは「エバーラスティング・デージ」という花の名前を聞いたことはあるでしょうか。「デージーなら聞いたことある!」と思われた方は多いと思います。最後に紹介するツアーを弊社前川が造成を開始するまで「エバーラスティング・デージー」という言葉は聞いたことがありませんでした。

 

現地で「イエローポンポン」と呼ばれるエバーラスティング・デージー(Everlasting Daisies)

 

被子植物 双子葉類
英名:エバーラスティング・デージー(Everlasting Daisies)
科名:キク科(Asteraceae)
属名:ムギワラギク属(Xerochrysum)/ヘリクリサム属(Helichrysum)

 

日本の約24倍の面積を誇る広大な島国オーストラリアは、動植物の変化に富み、種類も多く、どの地域を訪れても独特の植生、生態系を観察することができます。
そんな中でも西オーストラリアは最も多くの野生植物が観察でき、その種類の多さ、美しさは世界の野生植物の宝庫と言われる南アフリカにも劣らないと言われています。

 

オーストラリア大陸は2/3は砂漠地帯。
砂漠地帯や乾燥地帯に自生する植生のイメージと言えば、アメリカ大陸ではサボテン類、アフリカ大陸では多肉植物、それぞれ茎葉に水分を多く蓄えて多肉化して乾燥から身を守るように進化しているという認識ですが、オーストラリアの砂漠地帯や乾燥地帯では多肉化した植生は少なく、その代わりに根を深く張るものが多く、ムギワラギクのような、花に珪酸質を含みカサカサした乾燥花が多く自生するのが特徴です。

 

珪酸質を含みカサカサとした乾燥花は、特にキク科の花が多く、その種類は数百種にも及ぶという資料もあり、これらキク科の花を総称して「エバーラスティング」(Everlastings)、「永久花」 と呼ばれてるそうです。
「永久花」と聞くと「年中枯れずに咲き続ける」とイメージしてしまいそうですが、ある資料で「外見上の新鮮さと自然のままの色を長期にわたって保有できる事でエバーラスティングと呼ばれるようになった」とのことでした。

 

エバーラスティングと呼ばれるキク科の花は、資料によっては『ムギワラギク属』(Xerochrysum)、少し古い資料だと『ヘリクリサム属』(Helichrysum)と表記されています。どうやら、20世紀末から21世紀初頭にかけての分類見直しの結果、ムギワラギクはXerochrysum属の種ということになり、ムギワラギク属の和名もXerochrysum属を指して用いられるようになったそうです。

 

エバーラスティング・デージーと呼ばれる花々は群生をなして咲き乱れることが多いため、花のシーズンに訪れると、カラフルなデージーが一面に咲き誇る素晴らしい景観を楽しむことができます。
ワイルドフラワーの宝庫と称される西オーストラリア、エバーラスティング・デージーに興味をお持ちの方は是非西オーストラリアを訪れてみてください。

 

<エバーラスティング・デージーに出会えるツアー>
春の西オーストラリア ワイルドフラワー探訪
※8月下旬、西オーストラリアは冬から春への移ろいを迎え、州全域が色とりどりのワイルドフラワーで彩られます。

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メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata) ~ブルーポピーをもとめて 西部ヒマーチャルへ

節分も終わり(西南西を向いて恵方巻は食べましたか?)、まもなく春を迎えようとする中、寒い日が続きますが、体調を崩されずにお過ごしでしょうか

 

突然ですが、皆さんは『ブルーポピー』を観察したことはありますか?
ブルーポピーと言っても、多種多様。
ブルーポピーと呼ばれる種は、俗にケシ科メコノプシス属に属するもので西ヨーロッパ、中央アジア、ヒマラヤの高山地帯(パキスタン、インド北部、ネパール、ブータン、中国・チベット自治区)、中国の青海省、甘粛省、雲南省と隔離分布し、50種近くの草本が確認されています。

 

メコノプシス属は花弁が青色の種だけではなく、青紫色、紫紅色、紅色(淡~暗)、白色、黄色など多彩で、気象条件などで色の変化も多いのが特徴です。また、近縁種と交雑しやすいと言われ、同定すること、個体ごとに花名を見極めるのは困難と言われています。実際、辞書を片手に観察しても混乱することがあります。

 

本日は、インドのヒマーチャル・プラデーシュ州で観察できるブルーポピー『メコノプシス・アクレアタ』(Meconopsis aculeata)をご紹介します。

 

メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata Royle)

被子植物 双子葉類
学名:メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata Royle)
科名:ケシ科(Papaveraceae)
属名:メコノプシス属(Meconopsis)

 

 

メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata)は、西ヒマラヤ~チベット、インドでは北部のカシミール、ウッタラーカンド州の東側のクマーウーン、ヒマーチャル・プラデーシュ州などに分布します。
今回は、インドのヒマーチャル・プラデーシュ州を訪れるツアーで観察したものをもとに解説します。

 

直立して伸びる花茎は20~40cmほどで、高山帯の岩場や岩の割れ目、岩礫質の草地などで自生し、花茎全体に赤褐色の毛が確認でき、よく観察すると刺毛であることが判ります。
私も観察したことはないですが、資料には「地下にゴボウ状の根が長く伸びる」とあります。観てみたい気もしますが、現場でブルーポピーを掘り起こす添乗員、ガイドが居たら・・・想像しただけでも恐ろしいです。

 

基部には、長さが5~10cmほどの柄を付けた長円形の葉をつけ、葉の長さは5cmほどで羽根状に深裂し、裂片には丸みが確認できます。基部の葉に比べて上部の葉は小さい印象で、基部の葉とは違い無柄であるのも確認できます。また、花茎と同様、葉全体にも赤褐色の刺毛が確認できます。

 

花期は自生エリアによって前後はありますが、6~9月と言われ、インドのヒマーチャル・プラデーシュ州では7月に観察できました。

 

1つの花茎に5~10個ほどの花を咲かせ、花弁は丸に近い卵型の花弁を4枚付け、色は淡青色で光の加減で透きとおった色合いが何とも印象的なものです。
ただ、このメコノプシス・アクレアタの花弁の色は淡青色だけではなく、淡紫紅色の個体もあります。写真(下の写真の方が判りやすいかも)をご覧いただくと、ブルーポピーらしい淡青色の一部分に淡紫紅色の色合いが確認できます。観察する際「ブルーじゃないから残念」と言わず、色合いの違いを楽しんでください。

 

メコノプシス属のすべての種がそうではありませんが、このメコノプシス・アクレアタは一回結実性(1世代に1回しか開花・結実しないで結実後は自然に枯死してしまう植物のこと)です。

 

花の中央部に山吹色の雄しべが密集しているのが確認できますが(山吹色は雄しべの葯の部分)、その中央部分に白色の花柱(雌しべ)が確認できます。花の周辺にイガグリのように見える子房(雌しべの下部の膨らんだ部分)も確認できます。

 

次回ブルーポピーを観察する際に是非注目してほしいのが、雄しべ葯の部分を支える花糸の部分です。ご存じの方もいるかもしれませんが、この花糸も「青色」なのです。花弁に比べて少し濃い青色ですが、ブルーポピーというのは、花弁だけが蒼い訳ではないのです。私もこのことを現地フラワーガイド(四姑娘山麓の日隆のガイドだった記憶が・・・)に教えてもらったときは衝撃的でした。

 

今回は、インドのヒマーチャル・プラデーシュ州で観察できるメコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata Royle)をご紹介しましたが、ブルーポピーは奥が深いもの。またいつか別の種のブルーポピーをご紹介したいと思います。

 

<メコノプシス・アクレアタに出会えるツアー>
花の西部ヒマーチャル 最奥のパンギ渓谷を訪ねて
※多く高山植物の観察ができる7月限定ツアーで、催行間近(2月現在)です。
メコノプシス・アクレアタをもとめて西部ヒマーチャルへ出掛けてみませんか?

メコノプシス・アクレアタ(Meconopsis aculeata Royle)

 

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ガビレア・アラウカナ(Gavilea araucana)

遅くなりましたが、2025年最初の投稿となります。

 

本日は、先日パタゴニアで観察した「ガビエラ・アラウカナ」(Gavilea araucana)をご紹介します。何度も訪れているパタゴニアでなかなか観察機会に恵まれず、ようやく観察できたランの花です。

 

ガビレア・アラウカナ(Gavilea araucana)

 

被子植物 単子葉類
学名:ガビレア・アラウカナ(Gavilea araucana)
科名:ラン科(Orchidaceae)
属名:ガビレア属(Gavilea)

 

ガビレア・アラウカナ(Gavilea araucana)はチリ・パタゴニアのパイネ国立公園のあるマガジャネス・イ・デ・ラ・アンタルティカ・チレーナ州やアルゼンチンに分布し、湖の畔や明るい林床に自生します。
今回私が観察したのが、チリ・パタゴニアのパイネ国立公園でした。

 

草丈が30~40cm(資料には70cmに成長するものもあるとのこと)で直立し、花茎が枝分けれし、それぞれの花茎の頂に淡いクリーム色~白色の花をつけ、1つの個体に5~8個の花を咲かせます。
葉は花をつける上部には確認できず、根元の部分に数枚の根生葉を対生するようにつけ、照葉樹の葉とまでは言いませんが、光沢のある披針形の葉が確認できます。

 

ガビレア・アラウカナの花期は12月(南半球なので夏です)。
花の形状がとても印象的で、外花被片3枚と内花被片2枚から構成されています。
外花被片3枚は、上向きの背萼片が1枚、横向きに対を成すように側萼片が2枚延びており、それぞれが細長い卵型をしているのですが、先端部を「ひとつまみ」したようにみえるのが特徴的でした。また、内側に対を成すように外花被片より小さい(というより短い)内花被片2枚が確認できます。内花被片2枚、外花被片3枚とも、花茎と同じ色合いの緑色の筋が入っており、基部の方がより色濃い筋が確認できます。

 

内花被片2枚の間には唇弁が垂れ下がっており、唇弁は萼片の筋とは違い、色合いは同じ緑ですが、斑点模様になっているのがとても印象的、さらに唇の両縁がレモン色となっているのも印象的な花です。個人的にはこの唇弁の両縁のレモン色が心を惹きつける要因だと感じています。
ただ、今にして思えば、このレモン色・・・花粉だったのか?今後の宿題です。

 

大好きなパタゴニアで新年を迎えることができ、念願だったランの花「ガビレア・アラウカナ」も観察でき、催行の2025年のスタートを切ることができました。
今年も1つでも多く、世界中に咲く花々を紹介していきますので、お楽しみに。

 

<2025年:新たな花の観察へ出掛けませんか?>

花咲くブランカ山群へ
アンデスの固有種 紅色のプカ・マカをもとめて

05月07日(水) ~ 05月16日(金) 10日間(催行決定)

 

花咲くカナディアンロッキー・ハイキング
黄色いグレーシャー・リリーをもとめて
06月23日(月) ~ 07月01日(火) 9日間(催行決定)
07月17日(木) ~ 07月25日(金) 9日間

 

春の西オーストラリア ワイルドフラワー探訪
08月19日(火) ~ 08月27日(水) 9日間

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【新企画】花咲くブランカ山群へ アンデスの固有種 紅色のプカ・マカをもとめて

2024年も各地へ添乗させていただき、様々な花を観察させていただきました。

 

2024年に観察した花の中で一番の思い出は・・・、実際には比べることは難しいですが、やはり『グレーシャー・リリー』でした。
この花を観察したいというほぼ個人的な想いからツアーを造成させてもらい、実際に現場(カナディアンロッキー)に立ち、その花を目にした時は「希望が叶った」という嬉しさを感じ、少しこみあげてくるものがありました。
加えて、一番の衝撃は同じカナディアンロッキーで観察した『マウンテン・レディース・スリッパー』でした。どの資料にも「個体数が減少」とあった小ぶりで真っ白なアツモリソウを観察できた時の衝撃は忘れられません。

 

「2025年も素晴らしい花や未だ観ぬ花を観察したい!」
そんな思いを胸に下記のツアーを発表させていただきました。

 

花咲くブランカ山群へ アンデスの固有種 紅色のプカ・マカをもとめて
05月07日(水) ~ 05月16日(金) 10日間(高山植物の花咲く季節)

アンデス固有の紅色のリンドウ「プカ・マカ」

ある資料を見ている際に「紅いリンドウ科の花!?」と衝撃を受けたのが、3年前のことでした。
その花がペルー・ブランカ山群に咲いているという情報を得て、現地手配会社やフラワーガイドさんと連絡を重ね、ようやくツアーを発表することができました。

 

山麓の村・ワラスで6連泊しながら、現地の英語ガイド、さらには現地のフラワーガイド(日本語)と共にブランカ山群の絶景ポイント、高山植物の観察ポイントへ専用車にて巡るツアーです。
発表した直後から少しずつお問い合わせも増えており、気付けばまもなく催行決定という状況です。
ご興味を抱かれた方は、是非西遊旅行大阪支社へご一報ください。

「オキ・マカ」と呼ばれるリンドウ科の花
ウルタ渓谷よりブランカ山群の山々を展望

 

また、グレーシャー・リリーを観察するカナディアンロッキーのフラワーハイキングのコースも発表しておりますので、併せてご検討ください。

 

花咲くカナディアンロッキー・ハイキング 黄色いグレーシャー・リリーをもとめて
06月23日(月) ~ 07月01日(火) 9日間(催行決定:高山植物の花咲く季節)

グレーシャー・リリー(Erythonium grandiflorum)
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インディアン・ペイントブラシ(Castilleja miniata)

今年も10月末になり、北海道や山形県の月山で初雪・初冠雪のニュースを見たかと思えば、翌日には全国的に夏日に近い気温となり、何とも不思議な天気が続いています。このブログも半袖シャツを着ながら作成しています。

 

本日はカナディアンロッキーで観察した『インディアン・ペイントブラシ』(Castilleja miniata)をご紹介します。

 

インディアン・ペイントブラシ(Castilleja miniata)

 

被子植物 単子葉類
学名:Castilleja miniata
和名:インディアン・ペイントブラシ
英名:Great Red Paintbrush
科名:ハマウツボ科/ゴマノハグサ科(Orchidaceae)
属名:カスティレア属(Castilleja)

 

インディアン・ペイントブラシ(Castilleja miniata)は、北米大陸西部とカナダ中部に分布する多年草で、湿った川岸や草地、林床など、様々な生息環境に適応して自生します。
6月末に訪れたカナディアンロッキーでも各所で観察することができました。ある資料では、カナディアンロッキーの中で最も色の種類の多い花と紹介されています。確かに、現場で観察をした際に濃い色合い~淡い色合いまで、観察するたびに「ここのは少し色が濃いね」などとお客様とお話ししながら観察を楽しんでいました。

 

ペイントブラシという名のとおり、その姿が「絵筆」に見立てられて名付けられたそうです。日本でも女性の口紅を塗る筆に見立てられて「ケショウヤナギ」がありますが、それらと発想は同じようです。

 

草丈は20~70cm、濃い紫色の花茎を真っすぐに伸ばし(分岐しないそうです)、茎頂付近(花序の付近)に若干の繊毛が確認できました。葉は切れ込みなどのない披針形で花茎の根元付近から茎頂まで規則正しく付けています。

 

花期は6~8月。まっすぐに伸びた茎頂に鮮やかな赤色~淡い橙色の色合いが特徴的です。ただ、赤色~淡い橙色に見える部分は花弁ではなく、萼片でもなく『苞葉』(芽やつぼみを包んでいる特殊な形をした葉)です。よく観察すると苞葉には切れ込みが確認でき、苞葉の根元部分に花茎と同様に若干の繊毛が確認できます。

 

この苞葉の色合いには変異が多く、ピンク色やウエスタン・ペイントブラシと呼ばれるクリーム色の個体もあるそうです。ある資料には、「カスティレア属はインディアン・ペイントブラシの総称」と紹介され、200種ほどあるそうです。また、そのほとんどが北米西部に分布するとのことです。

 

花は苞葉の内側に黄緑色の筒状花があり、花弁のくちばしは徐々に苞葉の左記へ突き出てくるようです。写真をご覧いただくと淡い橙色の苞葉から黄色い筒状の花(蕾かな?)が突き出ているのが判るかと思います。

 

インディアン・ペイントブラシは、他の植物の根に自分の根を規制して栄養を取っているそうです。そのため、資料によっては「半寄生性」と紹介されています。そういった特性もあり、インディアン・ペイントブラシは異種交配しやすく中間種が生まれやすいため、分類を困難にしているそうです。観察する場所によって色合いに変化があったのも頷けます。

 

これまでカナディアンロッキーの花をいくつか紹介してきました。
現在2025年シーズンのツアー造成を進めており、まもなく弊社ホームページにて発表予定です。ロッキー山脈の風景と共に可憐に咲くカナディアンロッキーの花々に興味のある方は・・・もう少しお待ちください。

 

インディアン・ペイントブラシ(Castilleja miniata)