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ウメバチソウ(梅鉢草:Parnassia palustris)

昨日まで「冬の奇跡 美瑛の雪原とオホーツクの流氷世界」のツアーに同行させていただき、冬の美瑛や富良野の風景、オホーツク海の流氷の風景に心癒される日々をお客様と共に過ごさせていただきました。

 

本日はウメバチソウ(梅鉢草:Parnassia palustris)をご紹介します。

 

ウメバチソウ(梅鉢草:Parnassia palustris)

 

被子植物 双子葉類
学名:Parnassia palustris
科名:ニシキギ科(Celastraceae)
属名:ウメバチソウ属(Parnassia)

 

ウメバチソウ(梅鉢草)は、日本では北海道から九州まで全国に、海外ではユーラシア大陸北部やアラスカなどに分布し、低山帯から高山帯の湿った草地などに自生します。北半球の温帯から寒帯にかけて50種ほどが確認されています。

 

以前はユキノシタ科に属していましたが、APG植物分類体系ではニシキギ目にウメバチソウ科( Parnassiaceae)が新設され、APGIIIではニシキギ科に移されたという経緯があります。

 

草丈は10~50㎝で直立し、葉は根生葉がロゼット状に生え、茎葉は無柄で丸みのある(ハート型と表現する資料もあり)葉が1枚、茎を包むように付いています。
花期は7~9月。茎頂に直径2㎝ほどの白い花を上向きに1つ付けます。花弁が5枚で鮮やかな白い花弁には緑色の脈が放射状に延びており、この脈が非常に目立ちます。

 

ウメバチソウは花弁の中央に細裂している雄しべの黄色(山吹色)が可憐さを強調している印象です。
今回のブログを作成するにあたり、花の形状を調べていると、雄しべと雌しべに関する形状が非常に興味深いものでした。

 

ウメバチソウの雄しべには「仮雄しべ」というものもあります。
上の写真をご覧いただくと、花弁と重なり合うように先端が糸状になっている部分が確認できますが、これが「仮雄しべ」です。
細かく14~17裂する仮雄しべの先端には腺体(被子植物で蜜を分泌する器官あるいは組織)が付いていますが、仮雄しべは花粉を出しません。
本雄しべは5本あり、仮雄しべと交互配置しています。5本の雄しべは順に成熟します。
上の写真をご覧いただくと、左上に先端にややクリーム色の葯がついた1本の雄しべが伸びているのが確認できます。残りの4本は中央の雌しべの柱頭に触れている状態(先端の葯が柱頭を覆っているような状態)です。
本雄しべからすべての花粉が出た後に雌しべが成熟し、雌しべの柱頭が露出し、子房が緑色になっていくそうです。
この点は、次回ウメバチソウを観察する機会があれば、是非じっくりと観察してみてください。直径2㎝ほどの小さな花なので、ルーペが必要かも。

 

和名のウメバチソウ(梅鉢草)は、花の様子を家紋に見立てたことが由来とされています。
ある資料には、属名「Parnassia」はギリシャに聳える神聖な山の「パルナッソス山(Parnassus)」が由来、種小名「palustris」は「沼地に生える」という意味であるという記載がありました。

 

真っ白で小さな花、過去に幾度か観察したことがあるからと、どうしても観察に時間を要さない花になりがちですが、雄しべと仮雄しべの違いなど、次回は是非じっくり観察を楽しんでみてください。

 

ウメバチソウ(梅鉢草:Parnassia palustris)②

 

<おすすめ!! 花の観察を楽しむツアー>
花咲く信州 水芭蕉やカタクリの群生地を巡る
※春の花の代表格ともいえる水芭蕉やカタクリの花の観察を楽しむため、厳選した花の名所を訪れ、春の花を心ゆくまでご堪能いただける4日間です。

 

春をつげる雪割草を求めて 早春の佐渡島
※南北に大佐渡、小佐渡の山地が連なり、中央には国中平野が広がる佐渡島。大佐渡山麓と世阿弥の道にてゆっくりとフラワーハイキングをお楽しみいただきます。

 

佐渡島・花咲く金北山縦走トレッキングと佐渡周遊の旅
※春の花咲くシーズンの佐渡の山旅。絶景ロッジ・ドンデン山荘に宿泊し、佐渡の最高峰金北山を目指し、花咲く楽園・アオネバ渓谷のハイキングも楽しみます。

 

花の利尻・礼文島とサロベツ原生花園
※6月から7月にかけて高山植物の開花の季節となる利尻・礼文島。専門ガイドの案内で、フラワーウォッチングや様々な植物の観察を満喫する5日間。

 

花の利尻・礼文島から世界遺産・知床半島へ
※5月下旬から高山植物の季節が始まる利尻・礼文島から、オホーツク海沿岸を走り世界遺産・知床へ。利尻島・礼文島、知床半島を一度に楽しむ旅。

 

花の尾瀬フラワートレッキングとチャツボミゴケの群生地を歩く
※専門ガイドとのんびりと花の観察を楽しみながら、尾瀬ヶ原から尾瀬沼へのフラワートレッキング。花咲く尾瀬を訪れる季節、8名様限定のツアーです。

 

花咲く千畳敷カール・乗鞍・上高地を歩く
※高山植物の宝庫として知られる千畳敷カールや乗鞍・畳平でフラワーハイキング。旅の後半は、専門ガイドと共に静寂に包まれた奥上高地の徳沢を目指す。高山植物の観察と合わせて絶景も楽しむ5日間。

 

日本各地で高山植物などの花々を楽しむツアーも続々と発表しております。ご興味のあるコースがありましたら、是非お問い合わせください。
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106

エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子:Dianthus superbus var. superbus)

弊社でも春~夏へ向けての国内ツアー造成に励んでおり、私自身も高山植物観察ツアーに励む中、同時に花のブログ更新も進めていると、日に日に高山植物の観察、撮影したいという想いが日に日に強くなってきます。

 

本日は「エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子:Dianthus superbus var. superbus)」をご紹介します。

 

エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子:Dianthus superbus var. superbus)

 

被子植物 双子葉類
学名:Dianthus superbus var. superbus
科名:ナデシコ科(Caryophyllaceae)
属名:ナデシコ属(Dianthus)

 

エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子)は、中部以北から北海道にかけて、海外でもユーラシア大陸の北部~中部にかけて分布し、高山帯から海岸線まで幅広いエリアで自生します。

 

草丈は30~50㎝ほどで直立し、叢生(そうせい:草木などが群がって生えること)します。茎は上部で枝分かれし、葉は長さ5㎝ほどで少し白みを帯びており、細長い広線形をしています。ある資料に「葉の基部は茎を抱く」とあり、次回観察の際には注目してみたいと思います。

 

花期は6~9月。茎の上部で枝分かれした茎頂にそれぞれ1つずつ上向きに花を咲かせます。淡いピンク色が印象的な花は直径5㎝ほどで花弁は5枚。
花弁は扇のような形状をしており、先端部が細裂しており、風でなびくエゾカワラナデシコを観察していると、イソギンチャクが浮遊しているように見えることもあります。花弁の先端が細裂している点がエゾカワラナデシコの花を最も印象的なものにしている部分です。
花の付け根の萼筒は長さ2㎝ほど、苞は2対で十字に対生し、細長く先端が尖っている印象です。

 

エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子)とカワラナデシコ(河原撫子)は非常に似ており、カワラナデシコはエゾカワラナデシコの変種の1つです。見分けることが難しく、私自身も「カワラナデシコ(の仲間)ですよ」と案内してしまうことが多いのも事実です。見分け方を色々と調べていると、本当に大差はないようで、大半の資料でも見分けが難しいと記載されています。

 

エゾカワラナデシコとカワラナデシコの違いは以下の部分になります。

①分布
・エゾカワラナデシコは中部地方以北に分布
・カワラナデシコは本州、四国、九州に分布
②草丈
・エゾカワラナデシコは30~50㎝ほどで直立
・カワラナデシコは30~80㎝ほどで直立
③花の大きさ
・エゾカワラナデシコは直径5㎝ほど
・カワラナデシコは3㎝ほど
④花弁の先端部の幅の広さ
・エゾカワラナデシコは扇状で先端(爪部)が細裂
・カワラナデシコはエゾカワラナデシコより先端(爪部)が細い
⑤花弁の隙間
・エゾカワラナデシコに比べると、カワラナデシコは花弁の間に隙間がある。
⑥苞の違い
・エゾカワラナデシコは苞が2対で十字に対生し、細長く先端が尖っているのに
・カワラナデシコは苞が3~4対で丸みを帯びて先端が尖る(栗みたい)形状。
※上記④⑤(花弁)と⑥(苞)が見分けるポイントとして重要のようです。

 

次回、エゾカワラナデシコやカワラナデシコを観察する際に上記6点を確認し、見比べてみてください。

 

エゾカワラナデシコ(蝦夷河原撫子:Dianthus superbus var. superbus)②

 

<おすすめ!! 花の観察を楽しむツアー>
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※春の花の代表格ともいえる水芭蕉やカタクリの花の観察を楽しむため、厳選した花の名所を訪れ、春の花を心ゆくまでご堪能いただける4日間です。

 

春をつげる雪割草を求めて 早春の佐渡島
※南北に大佐渡、小佐渡の山地が連なり、中央には国中平野が広がる佐渡島。大佐渡山麓と世阿弥の道にてゆっくりとフラワーハイキングをお楽しみいただきます。

 

佐渡島・花咲く金北山縦走トレッキングと佐渡周遊の旅
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花の利尻・礼文島とサロベツ原生花園
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花の利尻・礼文島から世界遺産・知床半島へ
※5月下旬から高山植物の季節が始まる利尻・礼文島から、オホーツク海沿岸を走り世界遺産・知床へ。利尻島・礼文島、知床半島を一度に楽しむ旅。

 

花の尾瀬フラワートレッキングとチャツボミゴケの群生地を歩く
※専門ガイドとのんびりと花の観察を楽しみながら、尾瀬ヶ原から尾瀬沼へのフラワートレッキング。花咲く尾瀬を訪れる季節、8名様限定のツアーです。

 

花咲く千畳敷カール・乗鞍・上高地を歩く
※高山植物の宝庫として知られる千畳敷カールや乗鞍・畳平でフラワーハイキング。旅の後半は、専門ガイドと共に静寂に包まれた奥上高地の徳沢を目指す。高山植物の観察と合わせて絶景も楽しむ5日間。

 

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105

エゾスカシユリ(蝦夷透百合:Lilium pensylvanicum)

早いもので2021年も1ヶ月が過ぎました。
今年は1897年(明治30年)以来、124年ぶりに節分の日が2月2日でした。毎年恒例の恵方巻も、例年より1日早く嫁さんと共に「無言」でいただきました。

 

本日は「エゾスカシユリ (蝦夷透百合:Lilium pensylvanicum)」をご紹介します。

 

エゾスカシユリ (蝦夷透百合:Lilium pensylvanicum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Lilium pensylvanicum
科名:ユリ科(Liliaceae)
属名:ユリ属(Lilium)

 

エゾスカシユリと言えば、エゾキスゲ(蝦夷黄菅)の際にもお伝えしましたが、個人的に思い出されるのが北海道・小清水原生花園です。レモンイエローのエゾキスゲとオレンジ色のエゾスカシユリの両方を観察できたのが、良い思い出です。因みに北海道の小清水町がエゾスカシユリを町の花に指定しています。
また、北海道北部のサロベツ原生花園でも群生したエゾスカシユリを観察したのを覚えています。

 

エゾスカシユリ(蝦夷透百合)は、北海道の低地の原生花園に咲く代表的な花の1つです。海外では、シベリアやサハリンなどに広く分布します。海岸線の砂地・砂丘や産地の草地、岩場に自生し、北海道の道東や道北では原生花園以外の場所でも観察することができます。

 

草丈は30~100㎝と比較的大型で直立し、葉は先の尖った披針形で互生します。
花期は6~7月。茎頂に鮮やかなオレンジ色(橙赤色)で直径10cmほどの花を1~5個ほど、上向きに花を咲かせます。
花被片は6枚で、上部が外側に反り返っており、花被片の内側には濃紅色の斑点があるのが特徴的です。
※ユリの花は6枚の花被片のうち、外側の3枚が萼、内側の3枚が花弁です。
花被片内側の基部付近、花柄、蕾などには白い細かな毛が密集しています。

 

上の写真でも確認できますが、他のユリ科の花よりも花被片の根元が細くなっており隙間ができています。
この隙間(透かし)がある構造が和名の「スカシユリ」の由来となっています。

 

西遊旅行に入社する前、カナディアンロッキーのフラワーハイキングツアーに同行した際(確かボウバレー州立公園だったように記憶しています)、現地では「ウエスタン・ウッド・リリー」と呼ばれているエゾスカシユリに似た「Lilium philadelphicum」を観察しました。エゾスカシユリより赤みが強く、数は少なかったのですが、非常に印象深く、現地で「エゾスカシユリにそっくり」と大いに盛り上がりました。
その時のガイドさんが「日本のエゾスカシユリとウエスタン・ウッド・リリーは近縁種」と説明がありました。また、ウエスタン・ウッド・リリーの学名「Lilium philadelphicum」には、アメリカのフィラデルフィアの地名が、エゾスカシユリの学名「Lilium pensylvanicum」にはアメリカの州の1つであるペンシルベニア州の名が含まれているが、その理由は不明とのことでした。
エゾスカシユリは北米に分布しないはずなのに・・・。その時は解決できず、ブログを作成の際にも調べてみましたが、理由は判りませんでした。
ある資料には「エゾスカシユリにペンシルベニアの名が入っているのは腑に落ちない」とあり、原記載した研究者の勘違いかもとありました。

 

学名の不思議はありますが、色鮮やかで可憐な花であるのは間違いありません。
エゾスカシユリをはじめとするユリ科の花に出会った際は、是非細部までゆっくりと観察してみてください。

 

<これまでご紹介したユリ科の花々>
030.マルタゴン・ユリ(Lilium martagon)
031.ピレネー・ユリ(Lilium pyrenaicum)
054.クロユリ(Fritillaria camschatcensis)
070.カノコユリ(鹿の子百合:Lilium speciosum)
071.ニシノハマカンゾウ(西の浜萱草:Hemerocallis fulva var. aurantiaca)
080.エゾキスゲ(蝦夷黄菅:H. lilioasphodelus var. yezoensis)

 

エゾスカシユリ (蝦夷透百合:Lilium pensylvanicum)②

 

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ハマナス(浜茄子:Rosa rugosa)

先日、大分県日田市立博物館で「ウシ柄のウナギ」が話題を呼んでいるというニュースを見ました。昨年10月に市内の養殖所で見つかったそうですが、白黒のまだら模様のニホンウナギで、数万匹に一匹の突然変異の個体のようです。

 

本日は「ハマナス(浜茄子:Rosa rugosa)」の花をご紹介します。

 

ハマナス(浜茄子:Rosa rugosa)

 

被子植物 双子葉類
学名:Rosa rugosa
英名:Ramanas rose、Rugosa rose、Japanese rose
科名:バラ科(Rosaceae)
属名:バラ属(Rosa )

 

『知床の岬に はまなすの咲くころ 思い出しておくれ 俺たちのことを』

 

個人的にはハマナスの花を見るたびに、加藤登紀子さんの「知床旅情」の歌を思い出します。私は44歳のため、この曲がリリースされたときは生まれていませんが、国内添乗員だった頃に北海道ツアーへ行くとバス車中でバスガイドさんがよく歌ってくれたのを覚えています。

 

ハマナス(浜茄子)と言えば、北海道の花という印象で、北海道の花にも指定されています。
日本国内では、北海道以外にも本州にも分布し、太平洋側では茨城県が、日本海側では島根県(確か大山だったような記憶も)が南限とされています。太平洋側と日本海側で大きな距離があるので調べてみると、ハマナスが砂浜・砂丘植物であることが太平洋側に自生する場所が少ない原因のようです。海外でもサハリン、千島列島に分布し、主に海岸線や砂地に自生します。

 

地下茎を延ばして群生し、草丈1~1.5mに成長する落葉低木。海岸線と内陸で草丈に差が出るようです。幹は叢生(そうせい:草木などが群がって生えること)し、茎は多方面に枝分かれして立ち上がります。
私もここまでは認識していたのですが、ある資料によると「樹皮が灰黒色から徐々に灰色となり、短い軟毛がある」とあり、驚きました。これまでハマナスを観察する際に注目していなかった部分だったので、次回は樹皮も注目してみたいと思います。枝には大小の棘があるので、観察時には十分気を付けて観察しなければいけません。

 

葉は、奇数羽状複葉で互生(ごせい:茎の周りに葉が螺旋状につくこと)します。
奇数羽状複葉とは、前回(103.エゾニュウ)にご紹介しましたが、中央の1本の軸の左右に小葉が並んでいるものを「羽状複葉」といい、奇数なのでてっぺんに一枚の小葉、2列目以降は左右に並んで小葉がつくものを言います。
小葉は長さ3cmほどの長楕円形、葉脈がハッキリとしており、葉縁には若干の鋸歯が確認できます。葉はほんの少し厚みがあり、表面は光沢が確認でき、裏面には少し細かい毛も確認できます。
全体に棘や細かい毛が多いのは、潮風による塩分付着を防止するためという解説を聞いたことがあります。

 

花期は6~8月。鮮やかなピンク色が印象的な花で、直径が10㎝ほど、花弁は5枚。
花の中央には多数の雄しべをつけ、淡い黄色色の雄しべが花弁のピンク色をより鮮やかなものにしています。群生して咲いていることが多いので、長らく咲いている印象の方も多いようですが、実は色鮮やかなハマナスの花は開花後5日前後で枯れてしまいます。

 

花後にできる真っ赤な実は、偽果(ぎか:子房ではなく、子房以外の部分に由来する果実)で、熟すと甘酸っぱい味がし、以前はバスガイドさんが「ハマナスのジャム」をよく紹介していました。ただ、昨年9月に久々に北海道へ訪れた際に「1つの実から採れる果肉が少ないため、最近ではあまり土産店で売っていない」と聞きました。また、最近では、薬用植物としての研究も進んでいるそうです。

 

ハマナスは根が染料となり、花はお茶になり、果実はローズヒップやジャムとして使われます。
ハマナスの名の由来は諸説ありますが、前述した甘酸っぱい果実が「梨」に例えられたことが由来とされています。
では、なぜ和名で「茄子」と付くのか・・・調べてみると、江戸時代の書籍に「茄子の如し、食に耐えたり、故にハマナスと呼ぶ」とあったことが由来するそうですが、茄子とは似てないという指摘(ツッコミ)もあるようです。

 

今回ハナマスのことを色々と調べていて一番驚いたのが、ハマナスは「皇后・雅子様のお印」となっていることでした。ちなみに天皇徳仁様のお印は「梓」とのことでした。
ハマナスは何度も観察した花ですが、改めて色々と調べてみると非常に興味深い花でした。

 

ハマナス(浜茄子)の実

 

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エゾニュウ(蝦夷ニュウ:Angelica ursina)

先週完成した「西遊通信」がそろそろ皆様のお手元に届いている頃かと思います。春から夏にかけて様々なツアーを発表しております。春の花、夏の花、高山植物を観察するツアーも充実しておりますので、ご興味あるコースがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

本日は大型のセリ科植物の「エゾニュウ(蝦夷ニュウ:Angelica ursina)」をご紹介します。

 

エゾニュウ(蝦夷ニュウ:Angelica ursina)※ベニア原生花園にて

 

被子植物 双子葉類
学名:Papaver fauriei
科名:セリ科(Apiaceae)
属名:シシウド属(Angelica)

 

高山植物を観察していると一際大きな存在感を放つのがセリ科の植物です。
セリ科の植物を見つけた際に「あれはセリ科の花」「ウドの仲間」と認識されている方も多いのではないでしょうか。それだけ見分けが難しい植物でもあり、私も自身がなく前述のように説明してしまうことが多い植物です。
「エゾニュウ(蝦夷ニュウ)」はセリ科シシウド属で、北海道の沿岸部の原生花園などで観察する機会が多いですが、国内では北海道以外にも本州の中部地方以北に、海外では千島列島、サハリン、カムチャッカ半島に分布し、沿岸部の草地から山地と幅広く自生します。

 

草丈は1.5m~2m、大きいので3mにも達するものもあり、太い赤みを帯びた茎が直立します。この赤みを帯びた太い茎は中空で直径10㎝にも及ぶものもあるそうです。

 

葉は比較的大型、二回三出複葉で小葉は長楕円形です。

  • 複葉とは、葉身(葉の平たい部分)が小葉と呼ばれる小さな部分に分かれている葉のことで、別々の小さな葉の集まりのように見えるものも、実は全てを合わせて1枚の葉と考えます。
  • 複葉の中にもいくつか種類があり、中央の1本の軸の左右に小葉が並んでいるものを「羽状複葉」、羽状複葉が集まって全体としてさらに大きな羽状複葉を構成している場合、複葉の回数に合わせて「ニ回羽状複葉」、 「三回羽状複葉」と言います。

 

茎頂に大きな蕾をつけ、蕾を覆う苞は深い皺がはいり、少々薄気味悪い印象を与えます。この苞の部分は開花直後に剝がれ落ちてしまいます。
※エゾニュウの蕾の状態の写真はありませんでしたが、同じセリ科の植物の蕾の写真を見つけました(サハリンで撮影)ので、イメージとして掲載しておきます。

 

セリ科の植物の蕾

 

花期は7~8月。複散形花序(花軸から放射状に柄を伸ばし、その先に散形花序をつける)で、白色(クリーム色)の小さな花を多数つけます。
エゾニュウの大花序は50個近く柄を伸ばし、その先につく小花序は30~40個ほどの柄を放射状に出し球形となります。その姿は、まるで打ち上げ花火が大きく広がったようにも見えます。
それぞれの花はルーペがないと見えないくらいの大きさですが、花弁が4~5枚、その中央に長い雄しべが伸びます。ある資料に「雄しべがにゅーっと伸びる」とあり、可愛らしい表現で、エゾニュウの説明にピッタリな表現でした。

 

エゾニュウは、秋田県では「ニョウサク」「サク」「ニオ」などと呼ばれ、塩蔵して冬に食べる越冬山菜の代表として紹介されています。
また、アイヌ語では「シウキナ(若い草)」と呼ばれ、ある資料にアクが強くアイヌでは若い茎の皮を剥いて生のまま『エゾニュウ甘くなれ』とおまじないをかけながら食べていた地域もあったと紹介されていました。

 

見分けが非常に難しいセリ科の植物ですが、また別の機会にセリ科の植物をご紹介したいと思います。まずは見分け方から勉強しないといけませんが・・・。

 

エゾニュウ(蝦夷ニュウ:Angelica ursina)②※ベニア原生花園にて

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リシリヒナゲシ(利尻雛罌粟:Papaver fauriei)

先日、国内ツアーをご紹介する「西遊通信」が完成し、間もなく皆さんのもとへ届く予定です。
春の花の観察を楽しむツアー、さらに夏の高山植物を観察を楽しむツアーも掲載しており、私も「花咲く千畳敷カール・駒ケ岳・上高地を歩く」と「花の尾瀬フラワートレッキングとチャツボミゴケの群生地を歩く」を新たに造成させていただきました。ホームページでも随時更新していきますので、お楽しみに。

 

本日は久々に北海道の花、「リシリヒナゲシ(利尻雛罌粟:Papaver fauriei)」をご紹介します。

 

六甲高山植物園で観察したリシリヒナゲシ(利尻雛罌粟)

 

被子植物 双子葉類
学名:Papaver fauriei
科名:ケシ科(Papaveraceae)
属名:ケシ属(Papaver)

 

リシリヒナゲシ(利尻雛罌粟)は、日本固有種で、日本で唯一自生するケシの種類です。北海道・利尻島に聳える利尻山(利尻富士)の中腹から山頂部にかけての火山崩壊礫の斜面に自生します。

 

私も十数年前、国内添乗員だった頃に利尻山の登山ツアーに同行した際に観察しました。初めて観察したのは、登山開始直後から暴風雨に見舞われ、登山半ばで下山することを決定した直後でした。花の観察どころではないくらいの暴風雨の中、下山前に”キジ撃ち”をしようと男性数人で木陰に向かった際に斜面に咲く一輪のリシリヒナゲシを見つけました。暴風に煽られていたため、撮影どころではありませんでしたが、”キジ撃ち”を中断して皆さんと風にも負けず観察を楽しみました。登頂は断念して気落ちしていたところに、一輪の癒しを観察できたことが救いだったと今でもハッキリと覚えています。
今回掲載した上写真は、2019年に嫁さんと一緒に神戸・六甲高山植物園にて観察したものです。

 

草丈は20~30㎝ほどで直立し、茎全体に荒い毛(剛毛と表記する資料も)が密集しています。
葉は茎の根元に根生葉を付け、少し白みを帯びた緑色の葉の縁は細かく切れ込み(細裂)が確認できます。葉全体にも荒い毛(剛毛)が密集しているのが確認できます。

 

花期は7~8月。茎頂に直径5㎝ほどの花を上向きに咲かせます。
他のケシ科の花にも見られることですが、蕾の状態の時には茎頂の先端が垂れ下がり、蕾は下向きですが、開花すると茎頂も直立して上向きに花を咲かせます。ケシ科の花を観察する際、周囲に蕾の状態のものを探して開花時との茎頂の違いを観察してみるのも面白いかもしれません。

 

花弁を4枚つけ、透けて向こう側が見えるくらいの淡黄色の色合いがリシリヒナゲシが可憐に見える所以だと、個人的には感じています。

 

上の写真を一度確認してみてください。
淡い色合いが印象的なリシリヒナゲシですが、花の中央の部分も非常に印象的な形状をしています。
花の中央に緑色の団子のように見えるのは、雌しべの子房(種になる部分)です。雌しべの先に6~8本の柱頭(花粉を受け取る部分)が放射線状に伸びて柱頭盤をつくります。
雄しべは、緑色の子房部分の周辺に多数付けているのも確認ができます。

 

リシリシナゲシは、環境省のレッドリストでは、近い将来における絶滅の危険性が高いとされる絶滅危惧IB類(EN)に登録されています。

 

今回のブログ作成のために調べていると、「リシリヒナゲシの遺伝的解析」についての資料を見つけました。
自生地のリシリヒナゲシと利尻島の市街地(ホテルの庭などにも栽培されています)に咲くリシリヒナゲシが遺伝的に同一のものか定かでないこと、近縁の移入種との種間雑種ではないかという点が懸念されているという資料がありました。
また、別の資料では、遺伝子検査で外見が似ている外来種か栽培種が利尻山上部の自生地で本種と混じって生えていることが判明したというものもありました。
中には「モドキ」という表記を使っているものもありましたが、地元では遺伝子を確認しながら自生地に自生株を増やそうする努力は行われているようです。
下の写真は、利尻島のホテルで栽培されていたリシリヒナゲシの写真です。

 

火山崩壊礫の斜面、利尻山の中腹から山頂部という厳しい状況の中で可憐に咲くリシリヒナゲシ。自生株が無くならないことを願い、私たちも十分に気を付けながら観察する必要を、ブログを作成しながら感じました。

 

おすすめ!! 春の花が観察できるツアー>
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※5月下旬から高山植物の季節が始まる利尻・礼文島から、オホーツク海沿岸を走り世界遺産・知床へ。利尻島・礼文島、知床半島を一度に楽しむ旅。

 

日本各地で高山植物などの花々を楽しむツアーも続々と発表しております。ご興味のあるコースがありましたら、是非お問い合わせください。
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利尻島のホテルで観察したリシリヒナゲシ

 

 

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クルマユリ(車百合:Lilium medeoloides)

今年に入り首都圏1都3県に緊急事態宣言が発令され、さらに13日には7府県が追加発令されました。最近「コロナ慣れ」という言葉を耳にする事が多くなりましたが、今こそ気を引き締めて生活をしなければいけないと感じる日々です。
皆さんも体調管理、感染症対策に十分お気をつけください。

 

先日、カタクリの花をご紹介しましたが、本日は同じユリ科の「クルマユリ(車百合:Lilium medeoloides)」をご紹介します。

 

クルマユリ(車百合:Lilium medeoloides)

 

被子植物 単子葉類
学名:Lilium medeoloides
科名:ユリ科(Liliaceae)
属名:ユリ属(Lilium)

 

クルマユリ(車百合)は、北海道から本州、四国に分布し、亜高山帯や高山帯に自生しますが、北海道では低地にも自生します。海外では、中国、朝鮮半島、サハリン、カムチャッカ半島、千島列島などに分布します。

 

草丈は30~100㎝で直立し、茎の中ほどに長さ10㎝前後の披針形の葉を5~10枚、数段にかけて輪生します。茎の上部に向かうにつれ、葉は小さくなっていき、まばらに互生します。
葉が輪生するユリは珍しいそうで、ある資料によると「クルマユリ(車百合)」という名の由来は、茎の中ほどで輪生する葉を車輪に見立てたことから「車百合」と名付けられたとありました。私も知らなかったので、新たな発見でした。

 

花期は7~8月。茎頂に直径5㎝ほどのオレンジ色(朱色、朱赤色と表記されるものもある)の花を下向きに咲かせます。鮮やかなオレンジ色の花被片を6枚つけ、花弁の上半分が大きく反り返っているのが特徴です。時折、花被片が8枚になるものも確認されているそうです。

 

カノコユリをご紹介した際にも記載させていただきましたが「花弁が6枚」ではありません。
ユリの花は3枚の花弁と3枚の萼片に分かれており、外側の萼片はやや幅が狭く外花被と呼ばれ、内側の3枚は幅がやや広く内花被と呼ばれ、百合の花の構造の共通点です。
花弁、萼片とも外側に反り返った形状ですが、このように丸まっている姿が手毬のように見えることから「手毬型」と表記されています。
6枚の花被片には濃紅色の斑点が付いており、これもユリ科の花によく見られる特徴です。

 

下向きに咲く花の中央に花被片より少し短い雄しべが6本伸び、雄しべの上部に赤褐色の葯(花粉を入れる袋)があり、この葯の色合いがクルマユリの色合いを印象的なものにしていると、個人的に思っています。
花の中央に雌しべが1本伸びており、先端の柱頭(粘液を分泌して花粉を受ける部分)もハッキリと確認ができます。先端が丸いのが柱頭=雌しべ、先端が細長いのが葯=雄しべと見分けます。

 

アイヌ料理では、秋にクルマユリやエゾスカシユリの鱗茎を米と混ぜて炊き、杓子で鍋の片隅から飯を潰していく調理方法があるそうです。

 

ユリ科の花は非常に色鮮やかなものが多く、花の観察に出掛け、ユリの花に出会うと絶対に足を止めてしまい、ゆっくりと観察・撮影を楽しみたくなる花の1つです。ユリの花を観察する際、花被片や雄しべ・雌しべなど、細かな点にも一度注目をしてみてください。

 

<色鮮やかなユリの花>
カノコユリ(鹿の子百合:Lilium speciosum)
ニシノハマカンゾウ(西の浜萱草:Hemerocallis fulva var. aurantiaca)
ピレネー・ユリ(Lilium pyrenaicum)
マルタゴン・ユリ(Lilium martagon)
クロユリ(黒百合:Fritillaria camschatcensis)

 

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クルマユリ(車百合:Lilium medeoloides)
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ミズバショウ(水芭蕉:Lysichiton camtschatcensis)

2018年04月から「世界の花だより」のブログを開始し、今回は記念すべき100回目です。
記念すべき100回目は、ミズバショウ(水芭蕉:Lysichiton camtschatcensis)」の花をご紹介します。

 

ミズバショウ(水芭蕉:Lysichiton camtschatcensis)

 

被子植物 単子葉類
学名:Lysichiton camtschatcensis
科名:サトイモ科(Araceae)
属名:ミズバショウ属(Lysichiton)

 

夏がくれば思い出す はるかな尾瀬 遠い空
・・・水芭蕉の花が咲いている 夢見て咲いている水の畔

 

『夏の思い出』の歌でおなじみのミズバショウ(水芭蕉)と言えば、尾瀬が真っ先に浮かびます。私も十数年前に尾瀬や鬼無里の群生地で観察したことを覚えています。

 

ミズバショウ(水芭蕉)は、日本では北海道と本州・中部地方以北、特に日本海側に分布、南限は兵庫県養父市の加保坂峠とされ、隔離分布しているそうです。
海外ではシベリア、サハリン、千島列島、カムチャッカ半島に分布します。名の種小名camtschatcensisはカムチャッカ半島に由来します。
主に積雪の多い地域の湿地、湿った草地、湧水の湧き出る地、沼地などに自生し、ミズバソウは「湿地を代表する花」と紹介されることもあります。

 

「ミズバショウの真っ白な花」とよく聞きますが、これは間違いです。
実はミズバショウを印象的なものとする真っ白な部分は「仏炎苞(ぶつえんほう)」とよばれ、花を守るために葉が変化したものです。
草丈は10~30㎝(開花時)、発芽した直後に真っ白な仏炎苞という苞が開きます。真っ白な仏炎苞の鮮やかさが非常に印象的で、まだ他の花が咲き始める前の湿地などでミズバショウの群生地に出会うと、その美しさに魅了されるのは仏炎苞の色鮮やかさが所以です。
ただ、ミズバショウは霜に弱いと言われており、群生地を訪れても日焼けしたように仏炎苞の部分が茶色くなってしまっていることをよく見かけます。本当に真っ白で色鮮やかな仏炎苞に包まれたミズバショウに出会えるのは珍しいことです。

 

では、ミズバショウの花はどこに咲くのでしょうか?
ミズバショウの花は、仏炎苞に包まれた肉質の円柱状の花序(肉穂花序)に淡い黄色の小さな花が密集して咲いています。資料によっては「ヤングコーンのような形状」と紹介されているものもあり、この表現が一番わかりやすいかもしれません。
花期は5~7月。花序の高さは10~30㎝ほどで、仏炎苞の中央に伸びる円柱部分に数十~数百の小花が密集して咲かせます。

 

葉は花後につけます。明瞭な葉脈を持つ長楕円形で長さは80㎝ほど、幅も20~30㎝ほどと大きく、長さ1mにも及ぶものもあります。
ミズバショウの群落地に行くとガイドさんなどから「ミズバショウは熊の大好物」と紹介されることがあり、尾瀬などでも熊に食い荒らされたミズバショウの姿を観察したことがあります。
私もミズバショウ=熊の大好物という認識でしたが、今回色々と調べていると、熊は花後につく大きくなった葉の部分が大好物だそうです。その他、ザゼンソウやアザミ類なども好んで食べるという資料もありました。

 

水芭蕉の名の由来は様々あります。
花後につける大きな葉が「バショウの葉」に似ており、水辺(湿地)に咲くことから「水芭蕉」と呼ばれる説や、松尾芭蕉が閑居した庵に門人から贈られて庭に植えたことから「芭蕉」という名が付けられてという説もあります。

 

見た目に美しいミズバショウですが、実は有毒で食べると下痢を引き起こし、ひどい場合は呼吸困難を引き起こすといわれています。熊がミズバショウを食するのは冬眠後に老廃物を排出するためという話も伺いました。また、触ると手がかぶれてしまうから触れないように事前注意を受けたこともあります。

 

日本のミズバショウはそれほど香りは強くないですが、同じミズバショウ属のザゼンソウ(座禅草:Symplocarpus renifolius)は悪臭が強く、北米地方では別種の仏炎苞が黄色いものもあり、ザゼンソウと合わせて「スカンクキャベツ」と呼ばれているそうです。

 

春の訪れを知らせる花の代表格ともいえるミズバショウ。群生した風景も素晴らしいものですが、1つ1つじっくり観察してみるのも興味深いものですが、決して触れないようにご注意ください。

 

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ミズバショウ(水芭蕉:Lysichiton camtschatcensis)
099

カタクリ(片栗:Erythronium japonicum)

新年あけましておめでとうございます。
2021年も日本各地、世界各地の花をご紹介させていただきます。
一日でも早く安心して旅行が満喫できる日が、各地で花々の観察が楽しめる日が訪れることを願うばかりです。

 

2021年、最初の投稿は代表的な春の花の1つである「カタクリ(片栗:Erythronium japonicum)」をご紹介します。

 

カタクリ(片栗:Erythronium japonicum)

 

被子植物 単子葉類
学名:Erythronium japonicum
古名:堅香子(カタカゴ)
(万葉集では、大伴家持がカタクリの花を「堅香子」と詠んでいます)
科名:ユリ科(Liliaceae)
属名:カタクリ属(Erythronium)

 

カタクリの花は、雪解けを迎えた落葉樹林の林床でニリンソウなどと共に真っ先に花を咲かせることから、春の花の代表格として紹介されます。
日本では、北海道から九州まで、特に中部地方以北に多く分布します。海外では、北東アジア(朝鮮半島、サハリン、千島列島)い分布します。
私もしばらくの間、カタクリの花は観察していませんが、三重県・鈴鹿山脈の藤原岳で観察したことを覚えています。
今回の写真は、弊社東京本社の堤が福島県三春にて観察したものです。

 

カタクリの鱗茎は長さ5~6㎝あり、毎年更新を続け、開花株では鱗茎は地中深くにもぐります。
カタクリの名の由来は、かつて鱗茎が栗の片割れに姿が似ていることから「片栗」と名付けられたといわれ、カタクリの鱗茎から抽出した澱粉が「片栗粉」です。

 

草丈は20~30㎝で直立しますが、花の大きさ(重さ)で前屈みのような状態のイメージです。
カタクリは淡い紫色の花弁の色合いが印象的ですが、葉の色合いも特徴的です。
葉は茎の根元に通常2枚(若い株は1枚のものも)つけ、長い柄を持ち、長楕円形で長さは6~10㎝と大きめです。
やや厚みを感、淡い緑色の葉には紫褐色のまだら模様が葉の色合いの印象を強いものにします。

 

カタクリは、種子で繁殖しますが、発芽から開花までは10年近くを要します。
花期は4~6月。茎頂に直径5㎝ほどの薄紫、淡いピンク色の花を1つ下向きに咲かせ、稀に白い花を咲かせる個体もあり、シロバナカタクリ(Erythronium japonicum f. leucanthum)と呼ばれます。
花弁は非常に細長い5㎝ほどで6枚、大きく反り返った花弁がカタクリの花の最大の特徴とも言えますが、是非注目してもらいたいのが花弁の基部です。
葉と同じく濃紫色のまだら模様(W字型と表現する資料も)があり、三重県で観察していた際、このまだら模様がハートの形に見えると盛り上がったことを覚えています。

 

カタクリの花は晴天時に朝日を浴びると開花し、夕暮れには閉じてしまいます。
また、1年のうちで地上に出ているのは春先の2ヶ月足らずで、開花の期間は2週間ほどと短い間だけとなります。その短い間に光合成をし、栄養分を鱗茎に蓄えます。その後、葉を枯らし、次の春を迎えるまで土中の鱗茎は休眠して過ごします。
カタクリの花が「春の妖精」や「スプリング・エフェメラル」と呼ばれる植物の1つと紹介される所以、エフェラルは「はかない命」という意味です。

 

様々調べていると、種子の散布に「蟻」が強く関係しているそうです。
種子にはエライオソームという蟻が好む物質が付着しているため、蟻が種子を運ぶことによって生息地を広げているそうです。
これは、スミレにも見られるため、「蟻は紫色の花が好きなのかな?」と思ってしまいました。

 

万葉集(大伴家持の一首)にも読まれていたカタクリの花、群生した風景は驚きと共に、心癒される素晴らしい風景です。

 

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カタクリ(片栗:Erythronium japonicum)②

 

 

098

ヤチトリカブト(谷地鳥兜:Aconitum senanense ssp. paludicola)

2020年最後の投稿となります。
今年はコロナウイルスの影響に伴い、とんでもない一年になってしまいました。
4月に緊急事態宣言が出され、弊社でもテレワークの日々が続いたこともありました。その頃から日本国内の花の紹介を続けてきましたが、2020年最後は「ヤチトリカブト(谷地鳥兜:Aconitum senanense ssp. paludicola)」をご紹介します。

 

ヤチトリカブト(谷地鳥兜:Aconitum senanense ssp. paludicola)

 

被子植物 双子葉類
学名:Aconitum senanense ssp. paludicola
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:トリカブト属(Aconitum)

 

トリカブト属は、ドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物の一つとされており、日本国内には約20種が自生しています。
本州の北アルプスに分布し、亜高山帯~高山帯の湿った草地などに自生する日本固有の花です。
「ヤチ」とは湿地を意味することから、和名に用いられています。
私も上高地で観察したことがありますが、その際に「上高地で最初に発見された種類」とガイドさんより伺ったことを覚えています。
※今回掲載の写真は、弊社大阪支社・楠と東京本社・島田が「北アルプス 槍ヶ岳銀座ルート登山」のツアーに同行させていただいた際、上高地をスタートした直後に観察・撮影した写真です。

 

草丈は70~150㎝で直立し、葉は3~5裂、中裂~深裂しています。
花期は8~9月。茎頂は分枝し、葉の付け根部分から花柄を伸ばし、先端に5~10個の青紫の色鮮やかな花を咲かせます。
花の付き方も、標高の高低によって異なり、高山帯では散房花序(さんぼうかじょ:主軸が短く、長い柄をもった花が間を詰めて花がつく)、標高が比較的低い場所では円錐状花序(複総状花序とも言い、主軸が長く伸び、柄のついた間隔を開けて伸び、その先端にさらに同様に総状花序がつくもの)となります。
雄しべは無毛で、萼と花柄には開出した単純毛と腺毛が多く確認できます。

 

ある資料にトリカブトの見分け方が紹介されており、トリカブトで見られる花柄の毛は3種類あるそうです。
ヤチトリカブトは花柄の毛が開出毛(茎に対して直角に生える毛)であるのが特徴と記されていました。
その他、ガッサントリカブトやミヤマトリカブト、キタダケトリカブトなどは花柄全体が屈毛(先が曲がった毛)、タカネトリカブトは無毛とのことでした。
この点を観察の際に見分けるには虫メガネがルーペが必要かもしれませんが、非常に興味深い見分け方の紹介でした。来夏、上高地へ自然観察を楽しむツアーの造成を予定しておりますが、その際にはトリカブトの観察のため、ルーペを持って出掛けたいと思います。

 

トリカブトの名前の由来は、古来の衣装である鳥兜・烏帽子に似ているからとも、鶏の鶏冠(とさか)に似ているからとも言われ、海外では「僧侶のフード(monkshood)」と呼ばれています。
以前、ピレネー山脈で観察した「060.リコクトヌム・トリカブト(Aconitum lycoctonum)」も是非ご覧ください。

 

2021年もしばらくの間は感染症対策に気を付けながらの生活が続くと思います。
この「世界の花だより」のブログが少しでも皆様の気晴らしページとなるよう、2021年も頑張って更新していきたいと思います。
また、2021年07月に乗鞍や上高地でフラワーハイキングを、さらには尾瀬でのフラワートレッキングのツアー造成を進める予定です。
興味がある方は、是非大阪支社へご連絡ください。

 

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