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ピレネー・ユリ(Lilium pyrenaicum)

アルゼンチンの最北の高原砂漠「ワイルド・プーナエクスプローラー」のツアーに添乗させていただいており、ブログ更新の間隔が空いてしまいました。

 

本日は前回に引き続きユリ科の一種「ピレネー・ユリ(Lilium pyrenaicum)」紹介させていただきます。その名の通り、ピレネー山脈の固有種のユリ科の花です。

Lilium pyrenaicum(ピレネー・ユリ)

被子植物 単子葉類
学名:ピレネー・ユリ(Lilium pyrenaicum)
英名:Yellow Turk’s Cap Lily/Yellow Martagon Lily
科名:ユリ科(Liliaceae) 属名:ユリ属(Lilium )

 

黄色の色合いがとても印象的な「ピレネー・ユリ(Lilium pyrenaicum)」はピレネー山脈の固有種ですが、スペインおよび東方の山岳地帯からコーカサスまで分布範囲は広がります。

標高1,200~2,000mの草地や林間に自生していることが多く、花の開花時期は6~8月となります。
私も初めてピレネー・ユリを観察したのは、陽光が気持ちの良い6月、ピレネーのプランス側のカバルニー大圏谷(1650m)でした。

 

前回ご紹介させていただいた「マルタゴン・ユリ(Lilium martagon)」と同じく草丈は40~120㎝と高く、茎は直立して、10~15㎝ほどの細長い葉が互生しています。
日本でも同じユリ科の「エゾスカシユリ」も印象的な鮮やかなオレンジ色をしていますが、このピレネー・ユリも鮮やかな黄色の花弁が非常に印象的で、ユリ科の花の特徴である暗色の斑点も確認できます。
外側に反り返った花弁の中心から数本の雄しべが放射状に突き出しています。

 

上記の英名をご覧いただき、気付かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、「マルタゴン・ユリ(Lilium martagon)」と英名が同じくトルコ人の被るターバンに似ているということから「Turk’s Cap Lily」という英名の頭に「Yellow (黄色)」がついたものとなります。

ハイキング中、ピレネー・ユリを最初に観察したときは正直驚き、「グロテスクな色合い」という印象でしたが、観察を続けていると徐々にその魅力的な花に心を奪われる結果となりました。

 

ブログ作成のため、ピレネーの花々を撮影した写真を眺めていると、私も久々にピレネー山脈に訪れ、固有種を探し求めてハイキングを楽しみたいと感じています。

Lilium pyrenaicum(ピレネー・ユリ)
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マルタゴン・ユリ(Lilium martagon)

8月に入り、猛暑日が続いておりますが、体調など崩されていないでしょうか。そんな猛暑日に路上に咲く花など観ると、ほんの少し癒される気分になります。

 

本日はユリ科の一種である「マルタゴン・ユリ(Lilium martagon)」をご紹介します。

マルタゴン・ユリ(Lilium martagon)

被子植物 単子葉類
学名:リリウム・マルタゴン(Lilium martagon) 英名:Turk’s Cap Lily
科名:ユリ科(Liliaceae) 属名:ユリ属(Lilium )

 

日本にも咲くクルマユリやオニユリに似たマルタゴン・ユリ(Lilium martagon)は、フランス東部からモンゴルまで、ユーラシア大陸の寒冷な温帯域に分布し、標高2,000m以上の草地や日差しの射し込みやすい林間などで観察することができます。
※写真は、イタリア・アルプスのコーニュ村の周辺で観察しました。

 

草丈は30~120㎝と高く、茎は直立して、最大15㎝ほどの葉が互生し、若干の光沢を確認できます。葉には斑点(よく観察すると紫や赤色の斑点)もあり、裏には毛も生えています。
茎頂にはたくさんの花を下向きに付け(資料によって50近くの花をつけるとも)、花の直径は3~6㎝、6枚の花弁が外向きに反り返っているのが特徴です。
花はピンクより少し濃い、紅紫色という色合いで、暗色の斑点が確認でき、外側に反り返った花弁の中心から6本の雄しべが放射状に突き出しています。

 

英名「Turk’s Cap Lily」は、この花がトルコ人の被るターバンに似ているところから名付けられ、マルタゴンという名もムハンマドⅠ世愛用のターバンという説もあると聞いたことがあります。

 

色合いが特徴的なユリ科のマルタゴン・ユリ。ヨーロッパには色合いの違ったユリ科がたくさん観察できます。また次回、別の色合いのユリ科の花を紹介させていただきます。

マルタゴン・ユリ(Lilium martagon)

 

 

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デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)

ゴールデンウィークも終わり、いよいよ本格的な高山植物のシーズンが近づいてきました。皆さんはどちらの国へ花の観察にお出かけされる予定でしょうか。
近所に咲く「のだふじ」の見頃も終え、次はどのような花が観察できるのか注視しながら出勤する毎日が続いています。

 

本日紹介する花は、ブータンで観察した着生ランの1つ「デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)」です。

デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)

被子植物 双子葉類
学名:デンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)
科名:ラン科(Primulaceae) 属名:セッコク属(Dendrobium )

 

中国南部、インド、マレーシアなど広く分布する着生ランですが、私がこの着生ランを観察したのは、春のブータンの峠道で花の観察を楽しんできる時でした。

 

茎が20㎝から60㎝もの長さとなり、斜上するか、垂れ下がるように伸びています。若い茎に長さ5~10㎝ほどの楕円状の葉を付け、落葉後、茎の節に1~2個の花を咲かせます。開花期は春です。
花は淡い紫色の色合いで、直径は3~5㎝ほど。唇弁(しんべん)は白く(クリーム色)ラッパ状に丸くなり、よく観察すると唇弁の先が細裂し、表面には軟毛があるのが判ります。萼片と側花弁は白から淡い桃色になり、紫の筋紋や斑紋が入ります。

 

1つ1つの花をじっくり観察しても印象的な着生ランですが、緑あふれる森林で花の観察を楽しんでいると、垂れ下がる茎に「しだれ桜」のようにたくさんの花を付けるデンドロビウム・アフィルムを観察することもできます。
開花期に葉がないことが(落葉後に花を咲かせます)、印象深い色合いを際立たせているのかもしれません。

 

ブータンなど、アジアの低山帯では、様々な着生ランを観察することができますが、種類を問わずラン科の花を見つけると心が踊ります。
「世界の各地へ着生ランを求める旅」、いつしか実現させたいものです。
またいつか、別の種類の着生ランも紹介させていただきます。

樹木に垂れ下がるデンドロビウム・アフィルム(Dendrobium aphyllum)
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ホテイアツモリソウ(Cypripedium macranthum var. hotei-atsumorianum)

先日、大阪城公園にて花見へ行ってきました。見頃の時期、さらには週末だったこともあり、人の多さに圧倒されてしまいましたが、キレイな桜とともに桃園では数種類の桃の観察も楽しむことができました。

 

本日ご紹介するのは、花の姿、形状が非常に見栄えが良く、地域変異のバリエーションが多いアツモリソウの一種である「ホテイアツモリソウ(Cypripedium macranthum var. hotei-atsumorianum)」です。
日本では「レブンアツモリソウ(礼文敦盛草 C. marcanthos var. rebunense)」が圧倒的な知名度ですが、ホテイアツモリソウは、花全体の色合いがとても美しく、観察を続けて行く中で、どんどん心が奪われていくアツモリソウです。

ホテイアツモリソウ:布袋敦盛草

被子植物 単子葉類
学名:Cypripedium macranthos var. hotei-atsumorianum
和名:ホテイアツモリソウ(布袋敦盛草)
科名:ラン科(Orchidaceae) 属名:アツモリソウ属(Cypripedium)

 

アツモリソウは、漢字では「敦盛草」と書きます。この漢字名の由来は、袋状の唇弁(しんべん)の部分が、平敦盛が背負った母衣に見立てて名付けられました。

 

アツモリソウの中でも日本が世界に誇れるホテイアツモリソウは、本州中部(長野:釜無、大鹿、経ヶ岳、霧ヶ峰、戸隠、安房、山梨:櫛形、八ヶ岳、新潟、岩手)や北海道に分布しており、海外では中国やロシアに分布しています。
※上の写真は、ロシアのサハリン南部で観察したものです。
盗掘・乱獲のために、既に絶滅してしまっている地域も多く、日本では1997年にレブンアツモリソウに相次いで特定国内希少野生動植物指定を受けました。

 

草丈は20~50cm、花は袋状で、茎の頂上に通常1つ、まれに2つの花つけこともあるそうです。径は6~10cm、幅の広い楕円形(時に円形に近いものがある)の葉を4~5枚互生(1つの節には1枚の葉しかつかない)し、アツモリソウに比べて全体に大きい印象を受けます。
色合いも、アツモリソウより濃く、桃色から紅色、黒ずんだ暗濃紅色の花と非常に多くの地域・個体バリエーションがあります。

 

サハリン南部で見つけたホテイアツモリソウの群生地。お客様とともに夢中になって観察したことを今でも覚えています。
日本でも観察できるアツモリソウですが、サハリンの地で観察するホテイアツモリソウも、また格別の美しさでした。
是非、ホテイアツモリソウを求めてサハリンの地へ。

ホテイアツモリソウ:布袋敦盛草

<ホテイアツモリソウが観察できるツアー>
花のサハリン紀行

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ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)

本日は、ラン科の「ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)」をご紹介します。

ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)

被子植物 単子葉類   時期:7~8月
学名:Nigritella nigra ニグリテラ・ニグラ
和名:バニララン 英名:BLACK Vanilla Orchid
科名:ラン科(Orchidaceae) 属名:ニグテリア属(Nigritella)

 

一見すると地味ですが、ラン科の花の中では私がもっとも好きな花が今回の「ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)」です。
初めてこのニグラ・バニラランに出会ったのは、イタリア・アオスタ山麓でした。その時のイタリアのガイドさんから「このランは香りが特徴的なんだ」と紹介され、ガイドさんの奥様もこのニグラ・バニラランが大好きだったそうです。
その時の出会い以来、私もヨーロッパ・アルプスにフラワーハイキングへ出かける際、お客様へ紹介したい花の1つとなりました。

 

ニグラ・バニララン(Nigritella nigra)は、ヨーロッパの中部から南部にかけて、ヨーロッパ・アルプスでは標高1,000~2,000mの草地に生息するラン科の花で、草丈は5~20cm程度で、葉は非常に細く茎頂に向けて垂直についています。
茎頂に花弁が深紅色の小さな花がたくさんつき、見た目にはたまご型に花が密集しております。

 

注目すべきは「花の向き」です。
普通のラン科は、花の唇弁が下向きであるのに対し、このニグラ・バニラランは唇弁が最上位にあり、上向きになっているのが特徴です。

 

もう1つの注目すべき点は、冒頭でもお伝えした「花の香り」です。
たまご型に密集している花からは、バニラの香りが漂っており、少し離れた位置からもその強い芳香を感じることができます。
ただ、誰もがこのバニラの香りを好むわけではありません。
ヨーロッパ・アルプスに放牧された牛は、このニグラ・バニラランを避けて食べません。間違って牛がこのニグラ・バニラランを食べてしまうと・・・何と、ミルクがブルー色に染まってしまい、この牛乳でつくるチーズやバターなどもバニラの匂いがしてしまうそうです。
また、スイスでは乾燥させたニグラ・バニラランを虫よけとしてタンスの中に置いていたそうで、「衣蛾草(Schabenkrant)」とも呼んでいる地方もあるそうです。

 

一見すると日本ではワレモコウ(バラ科:ワレモコウ属)にも似ていますが、日本にはニグラ・バニラランの近縁種はないそうです。

ニグラ・バニラランは草地一面に群生するといったことはないようですが、花の色合いからヨーロッパ・アルプスを歩いているとすぐに見つかります。
花の観察の際、花の前で腹ばいになり、是非花の香りを感じてみてください。
あまりの香りの良さから、間違えて食べないようにご注意ください。

雨露のついたニグラ・バニララン(Nigritella nigra)

 

<ニグラ・バニラランに出会えるツアー>
アルプス三大名峰展望 花のアオスタ山麓ハイキング(イタリア)
花のドロミテハイキング(イタリア)
ドロミテ周遊トレッキング(イタリア)
花のモンブラン山麓ハイキング(フランス、イタリア)
ツール・ド・モンブラン Tour du Mont Blanc(フランス、イタリア、スイス)
スペイン・フランス国境越え 花のピレネー山脈トレッキング