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リシリソウ(利尻草:Zygadenus sibiricus)

ここ1ヶ月、社員一丸となって年末年始や冬シーズンの日本国内ツアーの造成に励み、私も冬の北海道で流氷ウォークやスノーシュー体験を楽しむ「冬の奇跡 美瑛の雪原とオホーツクの流氷世界」や南九州の2つの半島を巡る「錦江湾に浮かぶ桜島と鹿児島の2つの半島を巡る旅」を造成させていただきました。近日中には西遊通信も皆様のお手元に届く予定ですので、是非ご検討ください。

 

本日は「リシリソウ(利尻草:Zygadenus sibiricus)」をご紹介します。

 

リシリソウ(利尻草:Zygadenus sibiricus)

 

被子植物 単子葉類
学名:Zygadenus sibiricus または Anticlea sibirica
科名:シュロソウ科(Melanthaceae)
属名:リシリソウ属(Zygadenus)

 

本日ご紹介する「リシリソウ(利尻草)」の写真は弊社ツアー「花の季節に訪れる北海道最北の旅」に同行した弊社米谷が撮影したものです。

 

北海道は高緯度に位置していることから本州の3,000メートル級の山岳に匹敵する自然環境があり、様々な高山植物の観察を楽しむことができます。そのような自然環境の北海道では、北海道の中央に位置する大雪山国立公園と並ぶ花の名所が「利尻礼文サロベツ国立公園」です。
道北エリアの離島である利尻島は利尻富士を主体とした高山植物の宝庫であり、さらに日本最北の離島である礼文島は「花の浮島」とも呼ばれ、300種もの高山植物が観察できます。それぞれの島には固有種が多いのも特徴です。

 

「リシリソウ(利尻草)」は、その名の通り「利尻島」で最初に発見されたことが名の由来です。ただ、実際は利尻島で観察するのは難しく、礼文島の方がよく観察できると言われています。実際、今回の写真も礼文島・桃岩展望台で観察したものだそうです。私も西遊旅行入社前、礼文島でも観察しました。
その他、北海道の内陸部にも分布し、海外ではシベリアから中国東北部、東アジアに分布、亜高山帯~高山帯の草地に自生します。
国内ではリシリソウは、環境省のカテゴリで絶滅危惧ⅠA類に指定されています。

 

リシリソウ(利尻草)は、以前はユリ科に属していましたが、現在はシュロソウ科(Melanthaceae)に属します。
従来の分類ではユリ科に属していましたが、最近の研究で旧来のユリ科に含まれていた属は疑系統的であることが判明し、シュロソウ属、リシリソウ属、ショウジョウバカマ属、シライトソウ属、ツクバネソウ属、エンレイソウ属はシュロソウ科へ移されました。

 

草丈は10~30cmで直立し、葉は広線形で10~20㎝ほどの長さ、ほとんどが根元につき、茎葉はごく稀に数枚つきますが、無いことの方が多いです。

 

花期は7~8月、茎の上部に直径が2cm弱の小ぶりな花を総状花序(円錐形または円柱形に並び、下から咲いていく)に10個前後を付けます。
淡黄白色(または白色)の花被片が6枚つき、花被片の内側には黄緑色の大きな斑点のような腺体が(せんたい:葉や茎の表面に見られる粒状のもので、多くは匂いを持つ物質や粘液などを分泌する)ついており、印象的な色合いとなっています。
※私が観察した際、この斑点が「ハートの形」をしていると盛り上がったのを覚えています。

 

リシリソウは、有毒成分のベラトルムアルカロイドが含まれおり、謝って口にしてしまうと呼吸困難や嘔吐などの症状が出るそうです。

 

一見するとリシリソウは地味な花ですが、上述したように花被片の表面に見られる黄緑色の斑点が非常に印象的な色合いで、同じシュロソウ科のバイケイソウの花にも似ていて、気付けば心を奪われてしまう品のある花です。

リシリソウ(利尻草:Zygadenus sibiricus)②
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チングルマ(Sieversia pentapetala)

今年の夏は本当に暑いですね。コロナウイルス感染症対策としてマスクと合わせて、熱中症対策も行わなければいけない。悩ましい日々が続きますが、ここはしっかり両方の対策を講じて、一日でも早く安心できる日を迎えられるように頑張りましょう。

 

本日は「チングルマ(Sieversia pentapetala)」をご紹介します。

 

チングルマ(Sieversia pentapetala)

 

被子植物 双子葉類
学名:Sieversia pentapetalaまたはGeum pentapetalum
科名:バラ科(Rosaceae)
属名:チングルマ属(Sieversia)またはダイコンソウ属(Geum)
※学名が「Geum pentapetalum」と表記される場合もあり、これはチングルマ属(Sieversia)がダイコンソウ属(Geum)の1亜種として扱われることがあるためです。

 

今回ご紹介するチングルマの花は、弊社森田(知床半島・羅臼「知床サライ」に在籍)が7月に実施した弊社ツアー「花の北海道フラワーハイキング」で撮影したものを掲載させていただきます。

 

チングルマ(Sieversia pentapetala)は、北海道や本州の中部地方以北に分布し、海外ではサハリンやカムチャッカ半島、アリューシャン列島に分布します。

 

実はこのチングルマは草ではなく「地面を這うように生える落葉する低木」なのです。
草丈は3~10㎝と低く、地を這うようにしてチングルマは群生し、高山帯の雪渓の周辺や多湿地に自生し、大群落を形成することが多いのが特徴です。

様々な資料でチングルマは「雪田植物(せつでんしょくぶつ)」と紹介されています。
多雪地帯では小さな谷や窪地に多量の雪が積もり、その後夏期の遅くまで雪渓として雪が残ります。これを雪田と呼び、このような厳しい環境下で自生する植生を雪田植物と呼んでいます。雪田では雪がない時期というのが短く、その間に成長→開花→繁殖というサイクルを終わらせなければいけません。このため特殊な植物しか生育できず、そこに生育する種類も限られていますが、場所によって雪解けの時期が異なるため雪田の付近には多様な植物が自生します。

 

葉は奇数羽状複葉(鳥の羽根のような複葉で先端に1枚、両側に対で小葉が付く形態)で小葉は3~5枚、長さは1~1.5㎝ほど。葉には光沢も確認でき、少し厚みも感じられ、葉の縁に鋸歯も確認ができます。
葉は秋になると色鮮やかな赤色となり、森林限界以上では紅葉(草紅葉)の主役となります。

 

花期は6~8月。花柄はその長さが4~5㎝、枝先に単生(1つの花をつける)し、花弁は5枚、直径が3㎝ほどの小さく白い花を咲かせます。
多数の黄色い雌しべと雄しべがあり、花が終わると羽毛状になった雄しべが残り、これがチングルマの果実になります。果期になると花柄は7~10㎝ほどになり、タンポポの種のように風によって散布されます。これが「チングルマ」の名の由来なのです。
羽毛上の果実の形が子供の風車(かざぐるま)に見えたことから稚児車(ちごくるま)から転じて付けられたと言われています。

 

チングルマは「シーズンは3つある」と言われています。
①チングルマの花
②チングルマの果実(チングルマの穂と紹介されることもあります)
③チングルマの紅葉(草紅葉)

 

私自身、チングルマはこれまで幾度も観察しましたが、やはりチングルマと言えば「北海道・大雪山系」というイメージが強く、今でも大雪山の裾合平一帯に咲き誇るチングルマの群生、花後のチングルマの果実(穂)が広がる風景、裾合平が真っ赤に染まるチングルマの紅葉の風景は今でも目に焼き付いています。
また乗鞍岳の畳平周辺や山形県の月山でのフラワーハイキングの際もチングルマの花が群生していたのも忘れられません。

今回のブログでは「チングルマの花」の写真しか掲載できませんでしたが、私が9月に「日本で最も早い紅葉を観る!大雪山山麓一周と能取湖のサンゴ草」に同行させていただきますので、そこでチングルマの果実(穂)、紅葉(草紅葉)が観察できたら、改めて写真を掲載させていただきます。

チングルマの群生

 

<チングルマが観察できるツアー>
※これからは「チングルマの穂」や「チングルマの紅葉」が観察・撮影できるシーズンです。

 

”サンゴ草の紅葉と共にチングルマの紅葉も探しましょう”
日本で最も早い紅葉を観る!大雪山山麓一周と能取湖のサンゴ草

 

”乗鞍・畳平からご来光と共にチングルマの紅葉の撮影を”
秋の乗鞍・上高地を撮る ※私がオススメのツアーです。

 

”東北の八幡平もチングルマの群生地で有名です”
錦秋の奥羽ゆったり大縦断
ぐるっと岩手 紅葉の八幡平~遠野~北三陸ジオさんぽ
上鶴篤史氏同行シリーズ 錦秋の東北をめぐる写真撮影の旅
秋の東北スペシャル 
紅葉のみちのくの名峰7座登頂と7つの名湯巡り

074

ムニンヒメツバキ(無人姫椿:Schima mertensiana)

大変長らくお待たせしましたが、政府による旅行費補助「Go To トラベルキャンペーン」に関して、西遊旅行及び弊社の宿泊施設・知床サライもGo To トラベル参加事業者として認可を受け、キャンペーン価格でツアー掲載を開始いたしました。詳細は弊社ホームページをご確認ください。
Go To トラベルキャンペーンで日本の魅力を再発見

 

先日に引き続き、小笠原諸島で観察した固有種の1つ「ムニンヒメツバキ(無人姫椿:Schima mertensiana)」をご紹介します。

 

ムニンヒメツバキ(無人姫椿:Schima mertensiana)

 

被子植物 双子葉類
学名:Melastoma tetramerum
和名:無人姫椿
英名:Rose Wood
科名:ツバキ科(Theaceae)
属名:ツバキ属(Camellia)

 

ムニンヒメツバキ(Schima mertensiana)は小笠原諸島の固有種であり、小笠原村の花に指定されています。小笠原諸島の島内に広く分布しており、山地の中腹などで生育します。

 

ムニンヒメツバキは、ツバキ科の常緑高木で樹高は7~8mとなります。樹皮そのものは褐色(少し暗みを感じました)で、成木は樹肌が縦横に裂けるそうです。
葉は細長い楕円形が互生し、で少し光沢が確認できます。時折、葉裏に白い産毛のあるものもあるそうです。

 

花期は5~6月、今回は8月に観察しましたが、残りわずかなムニンヒメツバキの花を観察することができました。
※調べてみると、木(個体)によって8月ごろまで花をつけるものもあるようです。
花は真っ白な花弁を5枚つけ、サザンカ(山茶花)の花に似た花を咲かせ、花そのものは枝先に集中して咲きます。大きさは直径5㎝弱と小ぶりですが、山吹色の葯(花粉の袋)がとても印象的に伸びていることで、印象より少し大きく感じます。

 

ムニンヒメツバキは花が終わると、直径1㎝ほどの球体の果実がふくらみます。長い柄の先についた実は11月ごろから上部が裂けはじめ、実の中に入っている種子を弾き出し、弾き出た種子は春になると茎が細く赤褐色の芽(実生)が顔を出します。

 

ムニンヒメツバキの英名はRose Woodと言いますが、小笠原では「ロースード」と呼ばれています。これは英名のRose Woodが転訛したものと言われており「」バラのような花が咲く木」という意味があるそうです。

 

興味深い小笠原の植生ですが、季節を変えてゆっくりと林間を散策し、小笠原固有の植生を観察してみたいものです。個人的には⼩笠原諸島で固有の着⽣ランを探すツアーなんか楽しそうと思うのですが・・・いかがですか?

 

枝先に集中して花を付けるムニンヒメツバキ

 

<小笠原諸島の植生を楽しむことのできるツアー>
たっぷり小笠原6日間
小笠原諸島を歩く 6日間
小笠原諸島を歩く たっぷり小笠原12・13日間
たっぷり小笠原の海 マッコウクジラに出会う 12・13日間

073

ムニンノボタン(無人野牡丹:Melastoma tetramerum)

本日は「たっぷり小笠原6日間」で観察した小笠原諸島の固有種の1つ「ムニンノボタン(無人野牡丹:Melastoma tetramerum)」をご紹介します。

 

ムニンノボタン(無人野牡丹:Melastoma tetramerum)

被子植物 双子葉類
学名:Melastoma tetramerum
和名:無人野牡丹
科名:ノボタン科 (Melastomataceae)
属名:ノボタン属(Melastoma)

 

小笠原諸島は東京から南南東約1000kmの太平洋上に浮かぶ30余の島々の総称です。小笠原の島々は大陸から遠く離れた洋上に出現し、その後一度も大陸と陸続きになったことのない、ハワイ諸島やガラパゴス諸島と並ぶ典型的な海洋島です。
小笠原諸島が成立した際にはまったく生物・植物のない裸の島でした。小笠原には海流によって流れ着いたり、細かな種子や胞子が風で流れ着いたり、鳥によって運ばれたり、様々な要因で小笠原に辿り着き、海洋島として隔離された環境条件が小笠原に生育しない固有種が多くなった理由と言われています。

 

ムニンノボタンはノボタン科ノボタン属の低木で、小笠原諸島・父島の固有種です。
草丈は1~1.5mとなり、枝を多数分枝します。温暖な小笠原らしく、葉は一年を通じて常緑です。
葉は比較的先が尖った長楕円形をしており、約5~8㎝の葉が対生します。葉には若干短めの産毛が確認でき、若葉の方がより明確に確認ができました。

 

花期は7~8月、茎先に4弁の花弁をつける白い花を咲かせ、1つの枝先に花は1つのようです。今回は観察することはできませんでしたが、時折花便が5弁の個体もあるそうです。

 

ムニンノボタンのつぼみ(左)と実(右)

球体の蒴果(さくか:乾いた果実の一種で一つの果実が複数の癒着した袋状果皮から成るもの)をつけ、裂開すると黒い小さな種子が姿をみせます。
今回は裂開する前の蒴果を観察することができました(上写真の右が蒴果です)。

 

ニンノボタンの「ムニン」は、小笠原諸島の古い呼称である「無人島(むにんじま)」が由来で、これは英語による呼称「Bonin Islands」(ボニン・アイランズ)の由来でもあります。小笠原諸島には「ムニン」を和名に冠する植物が50種近くあります。

 

ムニンノボタンは小笠原諸島の父島の固有種ですが、同じ小笠原諸島の母島には淡い赤紫色の花を咲かせる「ハハジマノボタン(Melastoma tetramerum var.pentapetalum)」や北硫黄島の標高4~700mに自生する紫色の「イオウノボタン(Melastoma candidum var.alessandrense)」が生育します。

 

ムニンノボタンは環境省のレッドリストに登録され、絶滅が危惧されています(絶滅危惧ⅠA類)。1980年代には父島・東平に1株だけとなり絶滅が危惧されたそうですが、最後の1株から東大理学部付属植物園で増殖に成功し、父島で植えなおしが行われ、現在では順調に生育しているそうです。

 

私が観察したのも父島・東平の「アカガシラカラズバト・サンクチュアリー内の林間で、現地ガイドさんの説明ではこの株も植えなおしの株であるとのことでした。種を落としているそうですが、外来種として増えてしまったネズミが種を食べてしまい、新たな株が根付かないそうです(10年ほど前に父島・字東海岸にて40株ほどの自生地が見つかったという資料もありました)。

 

小笠原諸島には興味深い植生が多く、維管束植物(いかんそくしょくぶつ:体内に維管束をもつ植物群の総称でシダ植物,裸子植物および被子植物を含む)は300種で、その約40%が固有種、木本植物(もくほんしょくぶつ:茎が木質化し開花結実を繰り返し長い寿命を持つ植物)だけに限ると約70%が固有種だそうです。
小笠原と言えば「ボニンブルー」と称される海の美しさが有名ですが、独特な植生を楽しむために小笠原諸島に訪れるのもオススメです。

 

数少なくなったムニンノボタンの株

 

<小笠原諸島の植生を楽しむことのできるツアー>
たっぷり小笠原6日間
小笠原諸島を歩く 6日間
小笠原諸島を歩く たっぷり小笠原12・13日間
たっぷり小笠原の海 マッコウクジラに出会う 12・13日間

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クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)

昨日まで「たっぷり小笠原6日間」のツアーへ同行させていただいており、小笠原諸島の海でイルカにも出会え、お客様とともに童心に戻ったように楽しませていただきました。また、小笠原諸島特有の植生も楽しむことができ、小笠原の植生については、追ってご紹介させていただきます。

 

本日は形状がユニークな「クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)」をご紹介します。

 

クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)

被子植物 単子葉類
学名:Paris verticillata
和名:車葉衝羽根草
科名:シュロソウ科(Melanthiaceae)
属名:ツクバネソウ属(Paris)

 

日本では、北海道、本州、四国、九州と全国に分布し、山地帯から亜高山帯の林内に生息します。
私が初めてクルマバツクバネソウを観察したのは尾瀬ヶ原から尾瀬沼へ抜けるフラワートレッキングを楽しんでいた時で、この花を紹介された際にはその形状に驚いたことを覚えています。
日本以外では、朝鮮半島、中国、千島列島、樺太(サハリン)に分布します。

 

草丈は20~40㎝で直立、茎頂に6~8枚の楕円形状の葉を輪生し、長さは5~15㎝ほどです。
茎頂から花柄(花序などを支えるための茎)を伸ばし、直径5~7㎝で黄緑色の花を咲かせます。

 

この花の形状、見た目に「どこが花?」というのが難しい部分です。

 

黄緑色の花弁のように見える部分は「外花被片」と呼ばれ、いわゆる萼片です。長さは3~4㎝ほどで枚数は4枚です。
その外花被片の間から細く垂れ下がる部分が「内花被片」で花弁となる部分。こちらも4枚あり、黄色を帯びています(写真では外花被片と同じく緑色でした)。

 

クルマバツクバネソウを特徴づける中央に細長く上向きに伸びた部分は「雄しべ」で長さは5~8㎜で本数は8~10本です。
雄しべの黄色い部分が「葯(花粉を入れる袋状の部分)」であり、葯の先端には「葯隔(やくかく:花粉塊を隔てる壁、二分する葯の接合部)」が長く伸びています。
雄しべの中央には黒色の「雌しべ」があり、花柱が4つに分かれている(4裂)のが特徴です。

 

クルマバツクバネソウの名は、葉が車輪のように輪生する姿から「車葉」、花の形状が羽子板遊びの羽根「衝羽根(つくばね)」に似ていることが由来とのことです。

 

クルマバツクバネソウに似た「ツクバネソウ(Paris tetraphylla)」との違いについて、下記のとおり非常に判りやすくまとめてくれていた資料がありましたので、参考にさせていただきました。
●ツクバネソウの葉は4枚(たまに5枚~6枚)、クルマバツクバネソウは6~8枚
●クルマバツクバネソウは葯隔(やくかく)が突き抜ける
●ツクバネソウは花弁が無い、クルマバツクバネソウは糸状の花弁が4個
●ツクバネソウの子房(雌しべの基部)は緑色、クルマバツクバネソウの子房は黒色
●ツクバネソウの葉は長楕円形、クルマバツクバネソウは倒披針形

 

見た目に目立たず、パッと見ただけでは花弁の落ちて雄しべだけが残っているような形状のため、フラワーハイキングなどをしていると見落としがちのクルマバツクバネソウですが、私も尾瀬で初めて観察した際には、その形状をゆっくり説明してもらいましたが、そのユニークな形状を細かく説明してもらううちに、いつの間にか心を奪われてしまった花でした。

 

クルマバツクバネソウ(Paris verticillata)
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ニシノハマカンゾウ(西の浜萱草:Hemerocallis fulva var. aurantiaca)

前回に引き続き、「甑島列島探訪と噴煙たなびく」で観察した甑島の花、ニシノハマカンゾウ(西の浜萱草:Hemerocallis fulva var. aurantiaca)をご紹介します。

 

ニシノハマカンゾウ(西の浜萱草:Hemerocallis fulva var. aurantiaca)

 

被子植物 単子葉類
学名:Hemerocallis fulva var. aurantiaca
科名:ユリ科 (Liliaceae)
属名:ワスレナグサ属(Myosotis)

 

先日ご紹介したカノコユリ(鹿の子百合:Lilium speciosum)と同じくユリ科の花ですが、ワスレナグサ属に属し、ハマカンゾウの亜種とされています。
九州西部に分布し、今回は鹿児島県・下甑島の夜萩円山(よはぎまるやま)公園で群生を観察することができました。

 

草丈は70~80㎝、主に海岸線に群生し、葉は線状で60~70㎝、幅は1~1.5㎝と細長い形状をしています。非常に色濃い緑色の葉は少し光沢があり、触れてみると少々厚みを感じるほどでした。

 

花は色鮮やかな山吹色が印象的な色合いをし、ユリ科の特徴である3枚の花弁と3枚の萼片に分かれています。カノコユリほど幅の違いは感じませんでしたが、 外側の萼片(外花被)はやや幅が狭く、内側の3枚(内花被)の幅はやや広くなっています。
カノコユリのように花弁と萼片は先端で反り返ることはなく、カンソウの花らしくラッパ状で上向きに花を咲かせます。
花は朝に花開き、夕方にはしぼんでしまう一日花とのことでした。

 

ニシノハマカンゾウもレッドリストに登録されており、長崎県のレッドデータブックでは絶滅危惧Ⅱ 類(絶滅の可能性が増大している)に指定されているという資料もありました。
鹿児島・甑島では、6月下旬~7月下旬に山吹色のニシノハマカンゾウが、7月上旬~8月中旬にピンク色のカノコユリが花咲くシーズンです。今回は同じ場所に2つの花が群生するのは観察することができませんでしたが、甑島の海の風景を見ながら緑鮮やかな草地に咲くカノコユリとニシノハマカンゾウが同時に群生する風景を一度は観察してみたいものです。
それぞれが群生するのを観察できたので、贅沢かもしれませんが・・・。

 

ニシノハマカンゾウの群生を楽しむ