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チシマフウロ(Geranium erianthum)

昨日、日本では緊急事態宣言が39県で解除されました。また、世界の一部の国・地域でも6月や7月から国境をオープンするという緩和情報も入ってきておりますが、国境オープンという情報があっても、国際線の再開や空港オープンの明確な情報はありません。
日本全体で回復傾向であるというニュースも多いですが油断はせず、世界各国の渡航緩和がされた際、「日本からの渡航者なら問題なし」と思ってもらえるよう、今一度気を引き締めて頑張らなければいけないと、ニュースを観て感じました。

 

本日はフウロソウの一種である「チシマフウロ(Geranium erianthum)」をご紹介します。

 

サハリンで観察したチシマフウロ(Geranium erianthum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Geranium erianthum  和名:千島風露
科名:フウロソウ科(Geraniaceae)
属名:フウロソウ属(Geranium)

 

フウロソウ科(Geraniaceae)は花は約420種ともいわれ、日本の低地から高山帯、世界各地にも分布します。
フウロソウ属の学名はGeraniumですが、日本国内で「ゼラニウム」と呼ばれる品種の多くがテンジクアオイ属です。フウロソウ属の多くは、国内ではハクサンフウロやエゾフウロなど「地域の名前○○+フウロ」というふうに呼ばれています。

 

チシマフウロ(Geranium erianthum)は、本州北部では亜高山帯や高山帯に分布し、北海道は海岸地帯にも分布・生育します。海外ではサハリン、千島列島、北太平洋沿岸域を回りこんでカナダ北西部まで分布します。

 

日当たりの良い草地や砂礫地に自生し、草丈は20~50㎝。
葉は掌状に5~7裂に裂け、切れ込みは浅く裂片の先はそれほど鋭く尖らない形状をしています。姿がそっくりのエゾフウロ(蝦夷風露:Geranium yezoense)の葉は切れ込みが深いため、見分けるポイントと言われています。

 

花は茎頂に直径3㎝ほど、5枚の花弁で左右対称で青紫色の花をいくつか咲かせます。花期は6~8月です。
北海道の中央高地では淡い色のチシマフウロが多いという資料もありました。

 

花弁に比べ、葯(やく:おしべの一部で花糸の先端に生じ花粉形成が行われる袋状の部分)の部分が若干濃い紫色であるため、この色合いの違いが花の美しさであると個人的に思っています。

 

花弁の基部や萼(がく:花全体を支える役割の花弁の付け根にある緑色の小さな葉のような部分)には産毛のような白毛が確認できます。学名の「erianthum」は「軟毛の生えた花の」という意味を持つそうです。

 

フウロソウ科は日本を含め、世界各地で観察ができます。そのため、それぞれを見分けることが非常に難しく、お客様へも「フウロソウですよ」と説明しがちになり、まだまだ勉強が必要です。
北海道の中央高地にはチシマフウロの花色の淡いものが「トカチフウロ(Geranium erianthum f. pallescens)」として区別され、完全な白花品をシロバナノチシマフウロ(Geranium erianthum DC. f. leucanthum)とされています。
色々と調べていると、この3種を「チシマフウロの三兄弟」と表現されているブログがあり、非常に印象的な面白い表現で、私もいつしかこの三兄弟の観察・撮影を楽しみたいものです。

 

チシマフウロ(Geranium erianthum)
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エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)

非常事態宣言が続く中でのゴールデンウィークが終了しましたが、皆さんはどのようにゴールデンウィークを過ごされたのでしょうか。
私は数日に1回、自宅前のスーパーマーケットへの買い物以外は外出をせず、大半を自宅で過ごす中で「ぬか床づくり」をはじめました。また、ゴールデンウィーク最終日に買い物へ出かけた際、自宅マンションのつつじが満開となっており、非常事態宣言の中、心癒される風景でした。

 

本日は日本の大雪山系やロシアのサハリン(旧樺太)で観察した「エゾクロユリ(蝦夷黒百合)」をご紹介します。

 

エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)

 

被子植物 単子葉類
学名:クロユリ(Fritillaria camschatcensis)
和名:エゾクロユリ(蝦夷黒百合)
英名:Kamchatka lily、Chocolate lily 他
科名:ユリ科(Liliaceae) 属名:バイモ属(Fritillaria)

 

クロユリ(Fritillaria camschatcensis)は、その姿と花の色からクロユリと名付けられていますが、ユリ科のユリ属ではなく、ユリ科のバイモ属の高山植物です。
日本の北海道、東北地方の月山、飯豊山、中部地方に分布し、西限は北陸地方の白山とされ、石川県では「郷土の花」に指定されています。
海外では、千島列島、ロシアのサハリン、カムチャッカ半島、北アメリカ北西部に分布し、学名の「camschatcensis」は生育地の「カムチャッカ」を意味します。

 

広義のクロユリはミヤマクロユリ(Fritillaria camtschatcensis var.alpina)とエゾクロユリ(Fritillaria camschatcensis)を含めたものとされ、ミヤマクロユリは亜高山帯~高山帯に自生し、エゾクロユリは低地、海岸近くの林の下でも生育、観察できることもあります。
※掲載した写真はサハリンの海岸線近くの藪の中で観察したエゾクロユリです

調べてみると、エゾクロユリとミヤマクロユリは草丈の違いもありますが、染色体数に違いがあるようです。ミヤマクロユリの染色体数は2 対24本(2倍体というそうです)、エゾクロユリは3 対36本(3 倍体)とのことです。

 

地下にある鱗茎(りんけい:球根の一種)は多数の鱗片からなり、茎は直立で10~50㎝の高さになります。葉は長さ3~10㎝の披針形をし、数段にわたり輪生(りんせい:茎の一節に葉が3枚以上つくこと)しています。

 

花期は6~8月で、花は鐘状で茎先にやや下向きに咲き、長さが約3㎝、6枚の黒褐色の花被片をつけ、表面には細かい斑点と筋模様が確認できる花を咲かせます。
クロユリの花は独特の臭いがあります。クロユリの花粉を運ぶのは大部分がハエと言われており、この臭いがハエを呼び寄せているとも言われています。
花が終わると徐々に上を向くように変化し、実が膨らみ羽をもった種子をたくさんつけますが、発芽率は良くなく、繁殖の大半は栄養繁殖と呼ばれる地下の鱗茎が分裂して数を増やしています。

 

私が初めてクロユリを観察したのが「北海道の大雪山縦走登山」をしているときでした。その後、日本では北陸地方の白山でも観察しました。
アイヌ語ではクロユリは「アンラコル」と呼ばれ、アンが「黒」、ラが「葉」、コルが「持つ」という意味で、アイヌ民族はクロユリの鱗茎を干したものを食用にしてきたそうです。

 

北海道の大雪山国立公園は高山植物の宝庫です。
緊急事態宣言の中、外出や旅行を自粛する中でゴールデンウィークは我慢して生活をしてきました。高山植物の開花が始まる頃には、安心して旅行を楽しめるようになることを願うばかりです。

その願いを込めて弊社でも「花の北海道フラワーハイキング」を発表しました。
大雪山国立公園へクロユリやチングルマ、高山植物の女王コマクサを求めて、北海道へ訪れてみませんか?

 

エゾクロユリ(蝦夷黒百合:Fritillaria camschatcensis)