041

パン・デ・インディオ(Cyttaria darwinii)

寒い日が続いておりますが、今朝出勤時に鉢植えではありますがスイセンの花を見つけ、春が近づき、日本にも花咲く季節が近づいていることを実感することができました。

 

本日はパタゴニアの「パン・デ・インディオ(Cyttaria darwinii)」と呼ばれ、綺麗な球体をしているキノコの一種をご紹介します。

パン・デ・インディオ(Cyttaria darwinii)

菌類 子嚢菌門(しのうきんもん)
学名:キッタリア・ダーウィン(Cyttaria darwinii)
現地名:ジャオジャオ、パン・デ・インディオ等
科名:キッタリア科(Cyttariaceae) キッタリア属(Cyttaria)

 

※子嚢菌門(しのうきんもん)

菌界に属する分類群の一つであり、担子菌門と並ぶ高等菌類。
減数分裂によって生じる胞子を袋(子嚢)の中に作るのが特徴で、酵母(出芽酵母、分裂酵母)、カビ(アオカビ、コウジカビ、アカパンカビ)や、一部のキノコ(アミガサタケ、トリュフ)がある。

 

ダーウィンが航海記で「フエゴ人の食料の主要なもの」と記されているキノコの一種のパン・デ・インディオ(Cyttaria darwnii)。原住民マプチェ族はジャオジャオと呼んでいます。
先住民にとっては貴重な食糧の一つで、 特にビーグル水道近辺のフエゴ島に住んでいたヤーガン族は、このキノコを主食の一つとしていました。
カヌーを利用して狩猟採集するヤーガン族は、パタゴニアの中でも最も厳しい土地に住み、食糧は常に不足していたことから「インディオのパン(Pan de Indio)」と呼ばれるようになったと言われています。今でもパタゴニア地方では、サラダに入れて食べる人がいるそうで、アルゼンチンのチャルテンのガイドさん曰く「無味無臭」なんだとか。

 

このパン・デ・インディオは、キレイなオレンジ色(またはクリーム色)の球体でナンキョクブナに寄生しますが、その後ナンキョクブナの樹皮に木化し、まるでコブが出来たように見えます。中には「木の病気ですか?」という声も挙がるほどです。

パン・デ・インディオのコブ

パン・デ・インディオに寄生されたナンキョクブナの枝や幹は、樹液の循環を阻害されます。
ナンキョクブナは樹液の循環を取り戻そうと、コブを作り幹を太くしていきます。
その上にまたパン・デ・インディオが生えて、木はさらにコブを大きくしています。これらを繰り返し、木のコブは1m以上になることもあるそうです。
前述のチャルテンのガイドさんからは、椅子やテーブルに加工されてインテリアとしても重宝されているという話も伺いました。

 

パン・デ・インディオはパタゴニアの春~夏(11~12月)に掛けて観察することができ、木化したコブはパタゴニア各地でハイキングを楽しんでいると至るところで観察することができます。足元にはパタゴニアの花々が可憐に咲きますが、是非ナンキョクブナの木々にも注目してみてください。

パン・デ・インディオのコブ②
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クロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)

遅くなりましたが、2020年最初の投稿となります。

2020年最初の花は、1月に観察したパタゴニアのランの花の1つ「クロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)」をご紹介します。

クロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)

被子植物 単子葉類
学名:クロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)
科名:ラン科(Orchidaceae) 属名:クロラエア属(Chloraea)

 

昨年に引き続き「パタゴニアを撮る」へ同行させていただきました。
ある日のパイネ国立公園での朝焼けの撮影では天候に恵まれず、道中で虹が架かり始めたので写真タイムを取っていた時でした。
パイネ国立公園の草原に数輪咲くクロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)を発見しました。

 

花弁は白地に緑色の網目模様が特徴的で、さらに花の中央に黄色く垂れ下がる花弁も特徴的な姿をしています。
草丈は30~40cm程度、花の直径は5~7㎝です。厚めの葉は触ると少し硬さを感じます。
アルゼンチン南西部、チリ中南部に自生し、パタゴニア地方でも乾いた草地やナンキョクブナの森に花を咲かせます。花期は11~1月ごろです。

 

パタゴニアにはたくさんのラン科の花が自生していますが、一見するとグロテスクな色合い・姿をしているクロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)は「世界で最も南に分布するラン科の一種」という点が注目するポイントです。

 

私も毎年パタゴニアへ訪れていますが、なかなかこのクロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)に出会う事ができず、何気なく立ち寄った写真ポイントで発見した時には思わず興奮してしまい、撮影に夢中になってしまいました。

 

今シーズンも世界各地でたくさんの花の観察を楽しみたいと思っておりますが、念願だったパタゴニアでのクロラエア・マゲラニカ(Chloraea magellanica)を観察・撮影ができ、2020年も幸先の良いスタートが切ることができました。

 

皆さんもパタゴニア・パイネ山群の素晴らしい風景と共に、パタゴニア特有のランの花をもとめて、是非パタゴニアへ訪れてみてください。

パイネ山群の朝焼け

 

039

レオントポディウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)

本日は、私がこれまで添乗させていただいたトレッキング・ツアーの中で、最もしんどかったネパール・エベレスト街道のクーンブ氷河上で出会い、心癒された、忘れられない花の1つ「レオントポディウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)」を紹介させていただきます。

レオントポティウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)

被子植物 双子葉類
学名:レオントポディウム・モノケファルム
科名:キク科  属名:ウスユキソウ属(Leontopodium)

 

レオントポディウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)はネパール中部~インドのシッキム、チベット南部に分布、花期は7~9月ですが、私が出会ったのは11月でした。

 

高山帯の氷河沿いの岩間や砂礫地で細く根茎を伸ばして群生し、高さは1~5㎝、私が観察した時は真っ白で可憐な色合いでしたが、乾燥すると全体に金色を帯びることもあるようです。
表面に厚い綿毛をつけ、葉の長さ5~20㎜、苞葉群(白い部分)は直径2~3㎝ほどです。

頭花は通常1つ、直径は5~7㎝、大型のものはその周囲に数個の小さな頭花を付けます。

 

この花に出会ったのは2014年11月、可憐な花との出会いは全く想像もしていなかった1日でした。

コンマ・ラ峠手前でマカルー峰展望
コンマ・ラ峠からマカルー峰を展望

朝、ローチェ南壁を目の前に望むテント場を出発し、昨日降った新雪が積もる急登ルートを登りながらこの日の難関であるコンマ・ラ峠(5535m)を目指していました。

 

息も絶え絶え、何とか急登ルートを登り切り、周囲を見渡すとマカルー峰(8463m)をはじめとする素晴らしい景観が広がっていました。

 

その後、再びガレ場の狭いルートを登り上げ、難関だった標高5535mのコンマ・ラ峠に到着頃には喜びと疲労が、複雑に絡み合うような思いでした。

 

ここで展望したマカルー峰の景観は忘れることができない光景であり、その時ご一緒した皆さんの疲労と感動が入り混じった笑顔も忘れることができません。

 

クーンブ氷河へ向けて下る
クーンブ氷河上から望むプモリ峰

コンマ・ラ峠で絶景をゆっくりと楽しんだ後、クーンブへの下りルートがスタートしました。
降り積もった雪が凍結していたため、アイゼンを着用しながら慎重に下っていると雪解けの影響で崖崩れにも遭遇し、恐る恐るの下山ルートでした。

 

コンマ・ラ峠からの急下りルートを下り切ると、クーンブ氷河のモレーン麓からいよいよ「クーンブ氷河の横断」を開始しました。

クーンブ氷河横断の際にも周囲の山々の景観、氷河上の氷河湖の景観を楽しみながら歩きましたが、恐怖の中で下りルートを終えたばかりだったこともあり、私も疲労困憊でした。

 

そんな時でした!ガレ場の陰に小さな花の姿が目に飛び込んできました!!

 

レオントポディウム・モノケファルムの可憐な花を観察していると、心が癒され、標高が5,000m以上の地でまさに命がけの撮影を楽しみました(右の写真のような場所でこの花が一株だけ咲いていました)。

 

世界各国の様々な氷河を見てきて、トレッキングもしてきました。パキスタン・バルトロ氷河、パタゴニアでのトレッキングなどを楽しんでいると、モレーン帯にはたくさんの花々が咲いているとは思っていましたが、ネパールのエベレストの麓のクーンブ氷河で咲いていたレオントポディウム・モノケファルムは一生忘れることができない花となりました。

レオントポティウム・モノケファルム(Leontopodium monocephalum)②

 

038

ボンボリ・トウヒレン(Saussurea Obvallata)

週末、嫁さんと共に京都の嵐山へ紅葉を楽しんできました。

特に大本山天龍寺塔頭・宝厳院では、苔の鮮やかな緑と相まって非常に美しい庭を見学することができ、日本の秋を楽しむことができました。

 

前回は「セーター植物」という種類のトウヒレンの一種「ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)」をご紹介しましたが、本日は「温室植物」という種類の「ボンボリ・トウヒレン(Saussurea Obvallata)」をご紹介します。

ボンボリ・トウヒレン(Saussurea Obvallata)

被子植物 双子葉類
学名:サウスレア・オヴァラータ Saussurea obvallata
和名:ボンボリ・トウヒレン
現地名:ブラマー・カマル(インド北部)
科名:キク科  属名:トウヒレン属(Saussurea)

 

温室植物と聞くと、植物園で育てられた花のように聞こえますが今回は違います。
写真でご覧いただけるように、葉(少し半透明)や苞葉を広げ花を覆い、高山地帯での低温や紫外線など過酷な環境から身(花)を守るため、自ら「温室」を作ります。今回ご紹介するボンボリ・トウヒレンは、温室植物の代表例として紹介されることの多い花の1つです。

 

ヒマラヤ全域や中国西部、チベットの高山帯の岩場やモレーン帯(氷堆石)の斜面に自生し、比較的隔離されて点在します。

花期は8~9月で高さは20㎝、大きいもので80㎝に達するものもあります。

基部の葉には柄があり、葉身は細長い楕円形で長さは20㎝ほど、周囲に鋸歯があるのも特徴です。

茎頂に密集して数個~数十個の小さな暗紫色の花を咲かせ、白い膜質の苞が小さな花を包み込んでいます。花は雌雄同体(雄と雌の両方の器官を持っている)であり、昆虫によって受粉されます。

 

インド北部では、この花を「ブラマー・カマル(Brahma Kamal)」と呼び、白い苞葉を裏返したものを蓮の花に見立てて、山の神に捧げるそうです。シーク教の儀式に用いる神聖な花となっています。

以前、チベット添乗で観察した際には現地ガイドから、この花は昔からチベット医学では植物全体が薬草として使用されており、風邪や咳の治療に効果があると聞いたことがあります。

 

高山帯でボンボリ・トウヒレンを見つけると、まずはその容姿に驚かされ、じっくり観察すると白色や淡い黄緑色の苞葉に包まれた暗紫色のトウヒレンの花(中の花を観察して初めてトウヒレンと実感します)の美しさに驚かされ、一度で二度楽しめる花でもあります。

インド・ガルワール地方や東チベットのコンボ地方へ、セーター植物や温室植物の花々を観察へ、是非出掛けてみてください。

ボンボリ・トウヒレン(Saussurea Obvallata)②
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ワタゲ・トウヒレン(Saussurea gossypiphora)

日本各地で紅葉が見頃を迎えるというニュースを目にする機会が増えてきました。
私も京都にでも出かけ、紅葉を楽しもうかと計画中です。

 

本日は、久々にアジアの花をご紹介します。
皆さん「セーター植物」という言葉はご存知でしょうか?
11月下旬ともなると「今日は寒くなりそうだからセーターを1枚追加しよう」と考えることもあるかと思います。高山植物も同じです。環境の厳しい条件(低温が続く高地など)に耐えるため、太陽エネルギーの吸収のため、全体を綿毛で覆う植物もあります。

そのような植物を「セーター植物」と言います。

今回はセーター植物の中でも代表的な「ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)」をご紹介します。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)①

被子植物 双子葉類
学名:Saussurea gossypiphora
和名:ワタゲ・トウヒレン 英名:Snow ball
科名:キク科  属名:トウヒレン属(Saussurea)

 

トウヒレン属は、中国西部の山岳地帯を中心として北半球に多く分布します。
シノ・ヒマラヤ地域(中国南西部からヒマラヤにかけての山岳地帯のことを植物地理学上ではそう呼びます)では、綿毛で覆われたセーター植物や、苞葉(ほうよう:花芽を包む葉)に覆われた温室植物、地上茎がなく茎が伸びず葉を地上に広げたロゼッタ植物など、トウヒレン属の植物は厳しい環境に対応する様々な適応・順応が見られます。

 

セーター植物の代表例ともいえるワタゲトウヒレンは、インドのガルワールからブータン、チベット南部で観察することができ、地域によって多少の誤差はありますが、7月中旬~8月後半にかけて観察することができます。
もう10年以上前になりますが、私も夏のブータンで観察することができ、お客様とその姿を観て興奮したことを覚えています。

 

荒涼とした礫質の斜面に多く生え、高さは10~20㎝ほど。基部の葉は細長く、長さは10㎝前後で縁がギザギザとした鋸歯です。
一見アザミを思わせる姿形ですが、葉や茎に棘はありません(これもトウヒレン属の特徴)。チベットで観察できるもの、ブータンで観察できるもの、鋸歯の形状が少し異なります。

上の写真①がチベットで観察したもと、下の写真②がブータンで観察したものです。葉の違いが見てとれるかと思います。

観察した時の写真はフィルム写真だったので、下の写真②は2019年に弊社太田がブータンで撮影した写真を拝借しています。

綿毛の様子もはっきりわかるキレイな写真です。

 

茎の中部から上部の葉に綿毛が生え、直立して花序(かじょ)をふんわりと包みます。茎の頂部は半円上に広がり、直径5㎜程度の小さな花(花の色は少し濃い紫です)を密集して咲かせます。

 

全体を覆った綿毛は「花粉媒介を行う昆虫を誘うための装置」とも言われています。
昆虫の活動も低温によって制約を受けてしまいます。寒さをしのぐため、綿毛に覆われたセーター植物に避難するそうです。
全体を覆っているように見えますが、頂部には小さな穴が開いており、蜂などが出入りをし、花の花粉媒介を助けます。
※ある資料には、内部の温度は外気温より15度前後も温かいというものもあります。

 

シノ・ヒマラヤ地域の高地で綿毛に包まれたワタゲトウヒレンを観察すると、その真っ白な姿に目を奪われます。その真っ白な綿毛には、保温効果とともに、花粉媒介を誘導するような仕組みもあることも知っていると、また少し見方も変わるかもしれません。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)②
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ニュージーランドに白色と黄色の花が多い理由

先日まで、いくつかニュージーランドの花をご紹介しました。
本日は「ニュージーランドの花~番外編」として現地ガイドさんから伺った「ニュージーランドに白色と黄色の花が多い理由」についてご紹介します。

 

マウントクックリリー(Mount cool lily)

ニュージーランドで観察できる花の種類は、ゴンドワナ大陸の時代から進化したもの、もしくは風や鳥によって運ばれてきて新環境に順応したもののどちらかであると言えます。

ニュージーランドの花の色は、大半が白色か黄色です。他の国で観察できるような色鮮やかな色の種類はありません。

ラージ・マウンテン・デイジー(Large Mountain Daisy)

※現地ガイドさん曰く、色鮮やかな花の大半は外来種とのことです。

 

白色と黄色の花が多い理由については、諸説様々あるようです。
一番有力な説としては「昆虫」に関係があると言われています。
現地ガイドさんの話によると、ニュージーランドには、30種ほどしか蝶(ちょう)が生息しておらず(北米には700種を超える蝶が生息)、受粉を手助けする長い舌を持つ蜂(ハチ)がいないそうです。

 

 

 

では、誰が花の受粉の手助けをするのでしょうか・・・
その正体は、約1,700種生息すると言われている「蛾(ガ)」です。

 

 

サウスアイランド・エーデルワイス(South Island Edelweiss)

風が穏やかになり始める夕暮れから夜明けまでの間に飛び回り、多くの花に受粉をするそうです。

薄暗い状況下では、白色や黄色の花が最も目立つためにより多く受粉され、数を増やしてきたと言われています。

もう1つ興味深い話として、ニュージーランドの花の多くは形状が浅いと言われており、ニュージーランドに多く生息するハエやカブトムシなどによる受粉を容易にしているという報告もあるそうです。

 

ニュージーランドの森には約2,200種もの花が生息しているそうです。
2,200種すべてをご紹介するのは難しいですが、またいつかニュージーランドの花のご紹介の続きをさせていただきます。

 

さて、次はどの国の花の紹介をしましょうかね。

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グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)

本日もニュージーランドの花を1つ、変わった形をしたランの一種である「グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)」をご紹介します。

グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)

被子植物 双子葉類
学名:Pterostylis banksii
英名:グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)
マオリ名:TUTUKIWI
科名:ラン科(Orchidaceae)  属名:プテロスティリス属(Pterostylis)

 

グリーンフード・オーキッド(Greenhood orchid)は、マオリ語で「TUTUKIWI(トゥトゥキウィ)」と呼ばれ、和名ではその形状から「頭巾ラン」などと呼ばれているランの一種です。

 

プテロスティリス属は、ニュージーランドをはじめ、オーストラリア、パプアニューギニア、ニューカレドニアなどに分布し、100種近くが確認されています。ニュージーランドでは20種ほどが確認されており、樹林帯から亜高山帯まで生育しています。
掲載した写真は、ニュージーランド南島のルートバーン・トラックのキーサミットへ向かう樹林帯の中で観察したものです。

 

グリーンフード・オーキッドは、その形状もユニークなものですが、受粉方法もユニークなのが特徴です。何と、動く唇弁によって虫を柱頭に寄せ付けるのです。

 

主にコバエなどの小さな虫は、グリーンフード・オーキッドの香りに引き寄せられるように風下からは花に近づき、花の入口にある舌のような部分に虫が停まり、舌のような部分がバネのように虫を奥の柱頭に向けて弾き飛ばします。

その後、花弁を閉じ(現地ガイドから10~15分近く閉じると解説がありました)、その間にその虫が持ってきた花粉で受粉します。
その後、花が開き虫が逃げ出す際にはグリーンフード・オーキッドの花粉を付け、出ていくという仕組みです。

 

開花時期は11~2月、主に樹林帯の湿った草地やコケが覆う場所などに生育するため、花の色合いからすぐに目に飛び込んでくる花ではありませんが、草丈10~15㎝のグリーンフード・オーキッドは、ユニークな形状であるため、すぐに気付かれる方もいらっしゃるかもしれません。
ニュージーランドの樹林帯で観察の機会がありましたら、是非そのユニークな形状もゆっくりと観察していただきたいラン科の花の1つです。

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ラージ・マウンテン・デイジー(Large Mountain Daisy)

前回に引き続き、ニュージーランドの花をご紹介します。

ニュージーランドには、50種ほどのデイジーが確認されているそうです。ミルフォード・トラックやルートバーン・トラックなどを歩いていると、様々な種類のデイジーと出会うことができます。

 

本日ご紹介するのが、ニュージーランドにあるデイジーのある中で一番大きな種類である「ラージ・マウンテン・デイジー(Large Mountain Daisy)」です。

ラージ・マウンテン・デイジー(Large Mountain Daisy)

被子植物 双子葉類
学名:Celmisia semicordata
英名:ラージ・マウンテン・デイジー(Large Mountain Daisy)
マオリ名:TIKUMU
科名:キク科(Asteraceae) 属名:ケルミシア属(Celmisia)

 

花径は8~10㎝と大きく、草丈は30~70㎝で頑丈な茎に12月中旬~2月にかけて小低木や岩礫が混じる草地に花を咲かせます。葉は剣のような形をしており、長さは30~60㎝、幅は5~10㎝ほどで密集したたくさんの葉をつけます。

 

大きな花径の花に目を奪われがちですが、ラージ・マウンテン・デイジーの葉にも注目してみてください。
これまで紹介したニュージランドの花と同様、葉は水分を保つため、表面は「ろう質」、裏面は細かい毛で覆われています。

ミルフォード・トラックのガイドさんから聞いた話だと、ラージ・マウンテン・デイジーの葉は厚くて頑丈だったこともあり、昔マオリの人々はフラックスの葉合わせて衣装を作ったり、初期の入植者たちは傷の包帯がわりに使用していたこともあるそうです。

 

ニュージーランドでハイキングを楽しんでいると、ルート上でたくさんのデイジーを観察することができます。花の大きさも様々、葉もクッション状のものや、針のような葉をつけるものなど葉の形状だけでも様々です。

正直、花図鑑を片手に見分けるだけでも大変ですが、トレイル上に咲くデイジーの花の群生は、ニュージーランドの風景の代名詞の1つとだと思います。

ラージ・マウンテン・デイジー(Large Mountain Daisy)
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サウスアイランド・エーデルワイス(South Island Edelweiss)

先日ネットニュースにて、鳥取県のフラワーパーク「とっとり花回廊」で大山(だいせん:1729m)を背景に約10万株のサルビア・スプレンデンスが丘一面に広がる風景が紹介されていました。丘一面に広がる真っ赤な風景の写真に思わず圧倒されてしまいました。また「とっとり花回廊」のHPを見てみると、コスモスも咲き始めたというお知らせも掲載されていました。

一度、是非訪れてみたいものです。

 

先週に引き続き、ニュージーランドの可憐な花の1つご紹介します。

 

皆さんは「エーデルワイス」や「ウスユキソウ」と名前を聞くと、どこの国・地域を連想されるでしょうか? 以前ご紹介したヨーロッパ・アルプスのエーデルワイスや日本の礼文島のレブンウスユキソウ、早池峰山のハヤチネウスユキソウなどを連想される方が多いのではないでしょうか。中には世界各国で花の観察をされている方は中央アジアを連想される方もが多いかと思います。

 

実は南半球のニュージーランドにも「エーデルワイス」という名前の付く花があります。本日は「サウスアイランド・エーデルワイス(South Island Edelweiss)」をご紹介します。

サウスアイランド・エーデルワイス(South Island Edelweiss)

被子植物 双子葉類
学名:Leucogenes grandiceps
英名:サウスアイランド・エーデルワイス(South Island Edelweiss)
科名:キク科(Asteraceae) 属名:レウコゲネス属(Leucogenes)

 

本日ご紹介する「サウスアイランド・エーデルワイス」は、ヨーロッパで観察できるエーデルワイス(キク科ウスユキソウ族)とは別属の花で、ニュージーランドのみに存在する属のレウコゲネス属です。

 

花の縁の白い部分は花弁のように見えますが、これは花序の周囲を飾る苞葉と呼ばれる葉です。これはウスユキソウ属も同じで、水分を保つためにたくさんの白い毛に覆われているのです。

 

白いガクを含めた花径は1.5~2.0㎝、草丈は2.5~10㎝と非常に小ぶりで、花弁(中央の黄色い部分)は15枚ほど、白くフワフワとした葉の中央に密集して花を咲かせます。じっくりと観察すると、ウスユキソウ属と花の作りが違うことがよく判ります。

葉や茎もウスユキソウ属とは異なり、一見すると多肉植物かと感じてしまうほどです。多肉植物のような葉の形状を見て、エーデルワイスと説明しても信じてもらえない時があるくらいです。

花の開花時期は11月下旬~2月、標高1,500m前後の高山帯などの岩場や岩礫地に咲いています。

 

レウコゲネス属は、ニュージーランドのみに分布し、北島に咲く「ノースアイランド・エーデルワイス」を含め、4種が確認されています。
私は、北島の「ノースアイランド・エーデルワイス」を観察したことがなく、是非一度観察してみたいものです。

サウスアイランド・エーデルワイス(South Island Edelweiss)
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マウントクックリリー(Mount cool lily)

日本、北半球の花のシーズンも一段落し、紅葉のシーズンが待ち遠しく感じる日々。それと同時に南半球では花のキレイなシーズンを迎えるところが多く、今シーズンはどのような花と出会えるのか、楽しみで仕方ありません。

 

という訳で、本日は南半球に咲く花、ニュージーランドの在来種である「マウントクックリリー(Mount cool lily)」をご紹介します。

マウントクックリリー(Mount cool lily)

被子植物 双子葉類
学名:Ranunculs lyallii
別名:ジャイアント・バターカップ(Giant Buttercup)
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae) 属名:キンポウゲ属(Ranunculus)

 

マウントクックリリーという名の花ですが、ユリ科の花ではなく「キンポウゲ科」に属する花です。この花の葉がスイレン(ウォーター・リリー)に似ていることから名付けられました。
世界最大種のキンポウゲ(Buttercup)と言われており、別名「ジャイアント・バターカップ(Giant Buttercup)」とも呼ばれる花です。

 

マウントクックと付いている花ですが、ニュージーランド最高峰のマウントクック(標高3,724m)の聳えるフッカーバレーのみに生息する訳ではなく、ニュージーランド南島とスチュアート島の比較的標高の高いエリア(700〜1,500m)、花の時期としては11~1月にかけて観察することができます。

 

私が初めてマウントクックリリーを観察したのは、ニュージーランドで最も人気のトレックルート「ミルフォード・トラック」のマッキノン峠付近でした。

 

花径は5~7cm、10~20枚の透明感のある真っ白な花弁を付け、中央の黄色い雄しべと相まってとても印象的な色合いをしています。ほのかに甘い香りのするのも特徴です。
頑丈な根茎を持ち、葉は光沢のある濃緑色、草丈は40cmから大きなもので100cmにも達するものがあり、キンポウゲ種の中での最大種であることがうなずける大きさです。

 

この種は、スコットランドの著名な植物学者であり医師でもあるデビッド・ライオール(1817~95年)によって発見されたと言われています。

 

透明感のある印象的な色合い(高貴な花と紹介されていることもあります)でありながら、大きさの割には控えめな印象もあるマウントクックリリーは、ニュージーランドを代表する高山植物の1つです。マウントクックリリーを観察するため、是非ニュージーランドのミルフォード・トラックへ訪れてみてください。

マウントクックリリー(Mount cool lily)