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サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)

最近、我が家の周辺には白いアヤメがたくさん咲いており、調べてみると「シャガ(Iris japonica)」という種類のアヤメでした。
アヤメの周辺のツツジには蕾がつき始めていることも確認でき、私が住んでいる大阪市福島区が毎月発行している広報誌では区の花「のだふじ」の季節が近づいていることを知らせる記事が載っていました。
ここ最近は外出を控えなければいけない状況でありますが、季節を知らせる花は例年と変わらず咲いてくれることの喜びを感じながら、一日でも早い終息し、気兼ねなく花見ができる日が訪れることを願うばかりです。

 

本日はインド北部・ザンスカール地方で観察した「サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)」をご紹介します。

サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)

被子植物 双子葉類
学名:Saussurea gnaphalodes
科名:キク科(Asteraceae) 属名:トウヒレン属(Saussurea)

 

キク科のアザミ亜科の1つであるトウヒレン属は中国からヒマラヤ地域、ロシアのシベリアにかけて多くの種が分布し、日本には60数種が分布、北半球に約400種が分布します。

 

サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)は中央アジア周辺からヒマラヤ地域、チベット、中国西部に生息し、高山帯上部の乾いた風にさらされた礫地に生え、非常に強い根が地下に横向きに伸びています。

花茎は高さが2~5cmと小型であり、葉は少し肉厚の長円形で、長さが1.5~3cm、全体に綿毛が生え、ロゼット状に広がっています。

茎頂に頭花が密集し、全体に直径2~3cmの半球状の花序を作ります。頭花は直径5~8mm、花期は7~8月です。凍結しやすい高地の礫地の斜面に生え、花期に早くも羽毛上の冠毛がのびて空気をはらみ、子房を保護します。

 

サウスレア・グナファロデスは以前にご紹介したワタゲ・トウヒレン(Saussurea gossypiphora)と同様「セーター植物」と呼ばれる花の1つです。サウスレア・グナファロデスは茎がほとんどない小型の植物で、葉や頭花に綿毛が密生していても綿毛が花序や花茎を包むことはありません。

 

葉も綿毛で覆われて頭花も淡い紫色のため、礫地に目立たずひっそりと咲いているイメージのサウスレア・グナファロデスですが、小さな頭花が密集している花を1つ1つゆっくりと観察していると、徐々に心惹かれていく不思議な花の1つです。

サウスレア・グナファロデス(Saussurea gnaphalodes)②
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ワタゲ・トウヒレン(Saussurea gossypiphora)

日本各地で紅葉が見頃を迎えるというニュースを目にする機会が増えてきました。
私も京都にでも出かけ、紅葉を楽しもうかと計画中です。

 

本日は、久々にアジアの花をご紹介します。
皆さん「セーター植物」という言葉はご存知でしょうか?
11月下旬ともなると「今日は寒くなりそうだからセーターを1枚追加しよう」と考えることもあるかと思います。高山植物も同じです。環境の厳しい条件(低温が続く高地など)に耐えるため、太陽エネルギーの吸収のため、全体を綿毛で覆う植物もあります。

そのような植物を「セーター植物」と言います。

今回はセーター植物の中でも代表的な「ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)」をご紹介します。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)①

被子植物 双子葉類
学名:Saussurea gossypiphora
和名:ワタゲ・トウヒレン 英名:Snow ball
科名:キク科  属名:トウヒレン属(Saussurea)

 

トウヒレン属は、中国西部の山岳地帯を中心として北半球に多く分布します。
シノ・ヒマラヤ地域(中国南西部からヒマラヤにかけての山岳地帯のことを植物地理学上ではそう呼びます)では、綿毛で覆われたセーター植物や、苞葉(ほうよう:花芽を包む葉)に覆われた温室植物、地上茎がなく茎が伸びず葉を地上に広げたロゼッタ植物など、トウヒレン属の植物は厳しい環境に対応する様々な適応・順応が見られます。

 

セーター植物の代表例ともいえるワタゲトウヒレンは、インドのガルワールからブータン、チベット南部で観察することができ、地域によって多少の誤差はありますが、7月中旬~8月後半にかけて観察することができます。
もう10年以上前になりますが、私も夏のブータンで観察することができ、お客様とその姿を観て興奮したことを覚えています。

 

荒涼とした礫質の斜面に多く生え、高さは10~20㎝ほど。基部の葉は細長く、長さは10㎝前後で縁がギザギザとした鋸歯です。
一見アザミを思わせる姿形ですが、葉や茎に棘はありません(これもトウヒレン属の特徴)。チベットで観察できるもの、ブータンで観察できるもの、鋸歯の形状が少し異なります。

上の写真①がチベットで観察したもと、下の写真②がブータンで観察したものです。葉の違いが見てとれるかと思います。

観察した時の写真はフィルム写真だったので、下の写真②は2019年に弊社太田がブータンで撮影した写真を拝借しています。

綿毛の様子もはっきりわかるキレイな写真です。

 

茎の中部から上部の葉に綿毛が生え、直立して花序(かじょ)をふんわりと包みます。茎の頂部は半円上に広がり、直径5㎜程度の小さな花(花の色は少し濃い紫です)を密集して咲かせます。

 

全体を覆った綿毛は「花粉媒介を行う昆虫を誘うための装置」とも言われています。
昆虫の活動も低温によって制約を受けてしまいます。寒さをしのぐため、綿毛に覆われたセーター植物に避難するそうです。
全体を覆っているように見えますが、頂部には小さな穴が開いており、蜂などが出入りをし、花の花粉媒介を助けます。
※ある資料には、内部の温度は外気温より15度前後も温かいというものもあります。

 

シノ・ヒマラヤ地域の高地で綿毛に包まれたワタゲトウヒレンを観察すると、その真っ白な姿に目を奪われます。その真っ白な綿毛には、保温効果とともに、花粉媒介を誘導するような仕組みもあることも知っていると、また少し見方も変わるかもしれません。

ワタゲトウヒレン(Saussurea gossypiphora)②