097

サラシナショウマ(晒菜升麻、更科升麻:Cimicifuga simplex)

2020年も早いもので残すところあと一週間です。
例年だと、ウユニ塩湖やパタゴニア方面の年末ならびに年明けツアーの最終確認などで忙しくしていた時期ですが、今年は2020年1月に現地で購入したパタゴニアのカレンダーを寂しく眺めているだけとなってしまいました。
早く、パタゴニアへ再訪したいものです。

 

前回に引き続き、弊社大阪支社・楠と東京本社・島田が「北アルプス 槍ヶ岳銀座ルート登山」のツアーに同行させていただいた際に観察・撮影した「サラシナショウマ(晒菜升麻、更科升麻:Cimicifuga simplex)」をご紹介します。

 

サラシナショウマの花

 

被子植物 双子葉類
学名:Cimicifuga simplex
科名:キンポウゲ科(Ranunculaceae)
属名:サラシナショウマ属(Cimicifuga)

 

サラシナショウマ(晒菜升麻、更科升麻)は、キンポウゲ科サラシナショウマ属の多年草。日本では、北海道から九州、低山帯~亜高山帯と広い範囲で分布し、落葉樹林の林や草地に自生します。排水の良い肥沃な土地を好むという資料もあります。

 

草丈は50~120㎝で直立し、葉は左右に小葉がいくつか並ぶ「羽状複葉(うじょうふくよう)」で、小葉は長さ3~8㎝の卵型や楕円形で2~3裂し、先端が尖っており、葉の縁には不揃いの鋸歯が確認できます。また、両面にほんの少し短毛が確認できます。

 

花期は8~10月、夏から秋にかけて花を咲かせます。
茎頂に長さ5~10㎝ほどの花柄を出し、穂状に真っ白な花を多数つけます。花穂(かすい:穂のような形で咲く花)の長さは30㎝近くあり、一つ一つの花は非常に密集して花を付けるため、遠目からはブラシの花や、キツネの尻尾かと思ってしまう形状です。
上写真は、真っ白で小さな花が満開の状態ですが、色合いが非常に印象的で思わず目を奪われてしまう姿をしています。
下写真は、蕾が開き始めた状態のものですが、1つ1つの蕾がまるでツガザクラやスズランを思わせる花の形状の様に見え、この状態でも印象的な姿をしています。
蕾が開く前と、花が満開となった時、これほどまでに姿に変化が出るものかと、2枚の写真を比べていただくと、その驚きが判っていただけるかと思います。

 

サラシナショウマの蕾が開き始めた状態

 

花は独特の香りがあり、雄花と両性花があります。
花弁が3枚で、長さ7mmほどの雄しべを多数つけます。長さ5㎜ほどの花柄には細毛が確認できるそうです。
サラシナショウマのことを調べていると、「花弁と萼片は早く落ちてしまい、長い雄しべだけが残って目立つ花」とありましたが、確かにその通りの印象です。短い花柄の細毛と合わせ、3枚の花弁や萼片、花柄の細毛など、1つ1つの花にも注目して観察したいと思います。

 

和名のサラシナショウマは、若芽を茹で、水にさらして山菜として食べていたことに由来し、別名でヤマショウマ、ヤサイショウマとも呼ばれているそうです。
また、サラシナショウマ属の根茎は「ショウマ(升麻)」という生薬で、発汗や解熱、解毒、消化不良などに効果があるそうです。
ある資料には、2gほどの升麻を煎じたものをうがい薬として用いるというものもありました。

 

個人的には、上高地が日本の名勝の中でも大好きな場所の1つです。
国内添乗員の頃には「目を閉じたまま、歩いても河童橋まで歩ける」というくらい訪れ、個人的にも若かれし頃に北アルプスの縦走登山の際に何度も訪れ、嫁さんとの旅行でも訪れました。
実は、2021年07月に上高地で自然観察をするツアーの造成を検討しているところです。是非、上高地での植生にご興味がある方は、大阪支社へご連絡ください。

 

<おすすめ!! 春の花の観察ツアー>
花咲く信州 水芭蕉やカタクリの群生地を巡る
※春の花の代表格ともいえる水芭蕉やカタクリの花の観察を楽しむため、厳選した花の名所を訪れ、春の花を心ゆくまでご堪能いただける4日間です。

 

春をつげる雪割草を求めて 早春の佐渡島
※南北に大佐渡、小佐渡の山地が連なり、中央には国中平野が広がる佐渡島。大佐渡山麓と世阿弥の道にてゆっくりとフラワーハイキングをお楽しみいただきます

 

 

096

ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)

先日、ザゼンソウやミズバショウの花の事を調べていると「尾瀬の花々」のことを思い出したので、本日は十数年前に尾瀬ハイキングでお客様と大いに盛り上がった花の一つだった「ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)」をご紹介します。

 

ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)

 

被子植物 双子葉類
学名:Trientalis europaea
科名:サクラソウ科(Primulaceae)またはヤブコウジ科(Myrsinaceae)
属名:ツマトリソウ属(Trientalis)

 

ツマトリソウ(褄取草:Trientalis europaea)は、ツマトリソウ属の多年草の一種です。
サクラソウ科またはヤブコウジ科と記載させていただきましたが、APG植物分類体系(第2版)では、従来サクラソウ科とされていたツマトリソウ属を含む、いくつかの属(草本)がヤブコウジ科に移しているためですが、 APG植物分類体系(第3版)ではヤブコウジ科、イズセンリョウ科を独立させず、すべての種をサクラソウ科としてまとめているとのことでした。

 

ツマトリソウは、主に北海道、本州の中部地方以北に分布し、海外では北半球北部(北アメリカの中・東部を除く)に分布します。
私も前述したとおり、6月の尾瀬で観察したことを覚えています。

 

草丈は10~15㎝で直立し、葉は茎に互生、上部になると輪生状に葉をつけます。
長さ5㎝ほどの葉は、少し幅広の披針形をしており、茎頂に5~10枚の葉をつけ、先端が少し尖っているのが確認できます。

 

花期は6~7月。花弁はまるで風車のようにキレイに7枚並んでおり、直径2㎝ほどの大きさで真っ白な花を上向きに咲かせます。
雄しべが花弁と同じく7個あり、おしべの先端には山吹色が印象的な葯(花粉を入れる袋)が色合いをより一層印象深いものとしています。
めしべは中央に1つ、非常に短いですが、黄緑色の柱頭もしっかりと確認することができます。

 

掲載した写真の花弁は真っ白ですが、花弁の先端が淡紅色に染まり、その色合いが鎧の威色目(おどしいろめ)の1つである褄取りに似ていることが「ツマトリソウ」の名の由来とのことです。
今回、ミズバショウやザゼンソウの事を調べている際、尾瀬の花を紹介しているホームページに、面白い紹介がされていました。
ツマトリソウは漢字で書くと「褄取草」です。大半の方が「妻」の字を書くと思っている方が多いそうで、そうすると「妻取草」になり、最近ニュースで頻繁に叩かれている不倫の花、略奪愛の花となってしまうと紹介がありました。
思わずその紹介ホームページを見ながら「座布団1枚」と、心の中で言ってしまうほどでしたが、これで漢字名は間違わず覚えられそうなトンチの効いた説明でした。

 

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095

イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)

ここ数日、急に肌寒くなってきたため、我が家では電気毛布を購入するかどうか検討中です。
週末、植物の越冬について調べていると、面白い情報を知ることができました。
春先に花を咲かせる「ザゼンソウ(座禅草)」は、氷点下になる外気温でも自ら発熱して約20℃に保つことができるそうです。発熱する部分がどこか気になり、調べていると赤紫の苞葉部分ではなく、苞葉の中心部の肉穂花序の部分だそうです。さらに驚いたことに、温度が下がると、それに合わせて0.03℃の精度で制御しているとのことでした。確かに、残雪の残る時期にザゼンソウを観察していたら、ザゼンソウの周りだけ、円形に雪が解けていたような気もします。
電気毛布に頼る人間より、ザゼンソウの方が優れた生態なのかと感じた週末でした。

 

本日はザゼンソウの紹介ではなく、北海道で観察した「イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)」をご紹介します。

 

イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pennellianthus frutescens
和名:イワブクロ(岩袋)/別名:タルマイソウ(樽前草)
科名:オオバコ科(Plantaginaceae)
属名:イワブクロ属(Pennellianthus)

 

イワブクロ(岩袋)は、北海道と東北地方に分布し、火山性の山の高山帯の砂礫などに自生します。海外では、シベリアやカムチャッカにも分布します。
イワブクロは、別名を「タルマイソウ(樽前草)」と言います。北海道の樽前山(たるまえざん)の7合目以上で群生する斜面が多いことが別名の由来だそうです。
私も樽前山には登ったのですが、時期が異なっていたため、観察はできませんでした。
掲載した写真は、北海道の大雪山・旭岳の麓で観察したものです。

 

オオバコ科イワブクロ属に属する多年草で、ある資料には「パイオニアプラントの1つ」と紹介されていました。あまり聞き慣れないパイオニアプラントという言葉でしたが、伐採地や崩壊地などの裸地に真っ先に生える植物の総称、 先駆植物とも言われるそうです。
イワブクロは岩場や火山砂礫にいち早く侵入、群生するパイオニアプラント(先駆植物)で、根茎が長く地中で広がるそうです。

 

草丈は10~20㎝で直立し、長さ5cm強、幅が1㎝強で長楕円形の葉が対生します。葉は少し厚みがあり、縁が浅めの鋸歯となっています。葉の表裏には毛は確認できませんが、浅い鋸歯の先端は刺々しくなっているのが確認できます。
葉の基部は茎を包むように丸まっており、葉の先端へ向かうにつれて外側に反り返るように生えています。
茎は赤褐色で、短い毛が生えていることが確認できます。
ある資料で「茎の断面は4稜形(4角柱)」と紹介されていました。
日頃、茎の形状は注目したことがなく、花図鑑などでも記載しているものは見たことがありませんでした。私が見落としているだけかもしれませんが、茎の形(断面)は円形が数多く、その他に2稜形、3稜形(3角柱)、4稜形(4角柱)、6稜形などがあるそうです。

 

桐の花に似ているイワブクロの花期は6~8月。茎頂に長さ3cm前後で筒形の唇形花を横向きに密集して咲かせます。
花の色は淡紫色で、上唇の部分が2裂、下唇の部分が3裂しています。
長さ1㎝弱の太くて短い花柄や長さ1㎝ほどの萼には、それぞれ腺毛が確認でき、花弁の外側にも同様に軟毛が確認できます。
雄しべは筒状の内部に4つあり、昆虫が花に潜り込む際に邪魔をして、昆虫の背が葯や柱頭に振れやすくする構造と考えられています。

 

花後は、花が抜け落ち、長さ1㎝ほどの蒴果が萼に包まれて残ります。

 

イワブクロ属(Pennellianthus)は、ゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)に分類されていましたが、APG分類体系ではオオバコ科に分類されることとなりました。

 

今回のブログ作成では、ザゼンソウの越冬の不思議や、茎の断面の形状など、イワブクロの事以外でも様々な点を知ることができました。今後も勉強が必要なようです。

 

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イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)②
094

ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)

現在、弊社では春に向けての日本国内ツアーの造成に励んでいます。
私も信州へ訪れ、カタクリや水芭蕉の群生地を巡るツアーを造成し、HPでも発表させていただきました。まだまだ寒い日が続いていますが、一足早い春の訪れを感じていただくため、是非HPを覗いてみてください。

 

本日は、北海道・大雪山国立公園で観察した「ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)」をご紹介します。

 

ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)

 

被子植物 双子葉類
学名:Weigela middendorffiana
和名:鬱金空木
科名:スイカズラ科(Caprifoliaceae)
属名:タニウツギ属(Weigela)

 

ウコンウツギ(鬱金空木、学名:Weigela middendorffiana)はスイカズラ科タニウツギ属の落葉低木の1つです。北海道から東北北部にかけて分布する高山植物で、非常に耐寒性のある植物です。

 

樹高は1~2mで、長さ5~10㎝ほどの葉先の尖った卵型の葉を3~4対つけます。鮮やかな緑色の葉には葉柄がほとんどなく、葉脈も明瞭でほんの少し光沢を感じることができます。縁には少し鋸歯が確認できます。
樹皮は灰褐色で縦に裂け、古枝になると樹皮が徐々に剥離して落ちるのが特徴です。

 

春に芽吹き始め、花期は6~7月。枝先などから長さ2~3㎝ほどの花柄を出し、3~4㎝弱の漏斗型(細長いラッパ型)で鮮やかなクリーム色の花を2~4個ずつ咲かせます。
漏斗型の花は下部は1㎝弱と細く、中央部分から先端部分にかけて膨れ、花弁の先端は浅く5裂しています。雄しべは5個、花後にも残る萼は2裂し、子房の下には小さな苞が2個付きます。
果実は2cmほどの長楕円形で、種子は5㎜前後で両端に長い翼のようなものが付いています。

 

ウコンウツギの花の色合いを印象的にするのが、花の内部にある斑紋で、花の咲き始めは黄色い斑紋ですが、古くなると徐々に赤く変わります。
この点は私も知っていたのですが、今回のブログを作成時に色々と調べていると、斑紋の色の変化は「ミツバチへの合図」ということでした。

斑紋が黄色いものは「蜜があるサイン」、赤いものは「受粉を終えて蜜も花粉もないサイン」とのことでした。
受粉を終えた後も落ちずに花を残しているのは受粉の手助けをするマルハナバチをおびき寄せるためで、花に寄ってきたマルハナバチは蜜のサインを見つけて黄色い方へ向かっていくそうです。
蜜や花粉の有無を花の内部の斑紋で知らせるウコンウツギの仕組みは、非常に興味深いものです。ウコンウツギのように色を変化させていく花はこの他にもいくつもあるようです。今後、調べてみたいと思います。よい情報があれば、ご連絡ください。

 

コロナウイルス感染拡大が心配な中、弊社でも十分に感染症対策を行い、ツアーを実施させていただきます。皆さんも体調管理に十分お気を付けください。

 

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ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)

 

093

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)

長らくブログの更新が途絶えてしまい、申し訳ありません。
久々のブログ更新となりましたが、本日は大分県の国東半島にある国の重要文化財である熊野摩崖仏の見学の際に観察したユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)」をご紹介します。

 

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)

 

被子植物 双子葉類
学名:Saxifraga stolonifera
英名:マザー・オブ・サウザンス(子宝草)
ドイツ名:ユーデンバールト(ユダヤ人のひげの意)
中国名:虎耳草(こじそう)
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)
属名:ユキノシタ属(Saxifraga)

 

ユキノシタ(雪の下:Saxifraga stolonifera)は、ユキノシタ科ユキノシタ属に属し、日本の本州、四国、九州に分布し、海外では中国にも分布する多年草です。
陰湿な岩場や沢沿いの石垣などに自生し、鑑賞用の花として植えられることもあります。

 

草丈は20~50㎝で直立し、根元から5~10㎝弱の葉柄を持つ根出葉を出し、ロゼット状に密集します。少し丸みを帯びた団扇を広げたような形状をしており、暗緑色で白色の粗い斑が入り、葉柄と葉には毛が確認できます。

 

種子による繁殖だけでなく、親株から地上茎である赤紫色の匍匐枝(ほふくし:走出枝とも呼ぶ)を出し、先端に新しい苗が生えて栄養繁殖も行います。

 

花期は5~7月(今回は大分県で11月に観察しました)、草丈20~50㎝の花茎の上部に多数の花を咲かせます。

 

ユキノシタは小さな花ですが、形状が非常に印象的な花であります。
花弁は5枚ですが、上部3枚の花弁は心形で上向きの先端が少し尖っており、基部が丸みのある可愛らしい花弁です。心形の葉は白色から薄ピンク色をしており(基部だけが白いものも)、中央には濃紅色の斑が印象的な色合いをしています。
さらに印象的なのは、下部2枚の花弁です。上部3枚の花弁に比べて長く、長さが1㎝ほどあります。真っ白な披針形の花弁が下向きに真っすぐ伸びていることで、全体の印象が”ハサミを広げたような形状”に見えます。
掲載した写真は、下部2枚の花弁が重なっているため”ハサミが閉じたような形状”に見えます。

 

色合いの印象をより強くするのが、中央にある子房です。鮮やかな黄色が印象的ですが、この色合いがより真っ白な花弁を引き立てているように感じます。
5枚の花弁の合間から5㎜ほどの雄しべが伸び、放射状に広がっています。雌しべは中央に短く延びています。

 

ユキノシタの名の由来は、諸説様々です。
雪が積もっても、雪の下では枯れずに緑の葉が残ることに由来する説、白い花を雪(雪虫)に見立てて、その下に緑の葉があることに由来する説、葉の白い斑を雪に見立てた説などあります。以前、下部の真っ白な2枚の花弁が舌のように見えるから「雪の舌」という名になったと聞いたこともあります。

上記に外国名も記載させていただきました。
ドイツではユダヤ人の髭を意味する「ユーデンバールト」、英名ではマザー・オブ・サウザンス(子宝草)、中国名では葉がトラの耳のように見えることから「虎耳草(こじそう)」とも呼ばれているそうです。
花の形状から、ドイツ名が一番しっくりくるように思うのは、私だけでしょうか。

 

今回は季節外れのような時期に咲くユキノシタを大分県の国東半島で観察することができました。
出発間際に見つけたため、ゆっくりと撮影はできませんでしたが、見事な群生でした。根生葉の撮影を忘れたのが心残りです。
群生するユキノシタもキレイでしたが、この花は是非1つ1つをじっくりと観察し、形状も楽しんでいただきたい花の1つです。

 

上の写真を少しアップにしてみました
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アカモノ(赤物:Gaultheria adenothrix)

朝の出勤時も寒くなってきており、コートを着て出勤されている方の姿が多くなってきました。皆さんもコロナウイルスの感染症対策も大事ですが、風邪対策にも十分お気を付けください。

 

本日は「アカモノ(赤物:Gaultheria adenothrix)」という名の花をご紹介します。
今回の花の写真は弊社東京本社・島田が裏磐梯の方で撮影したものです。私も観察したことがあるのですが、日本のどこだったかな~、思い出したらお知らせします。

 

アカモノ(赤物:Gaultheria adenothrix)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gaultheria adenothrix
別名:イワハゼ(岩黄櫨)
科名:ツツジ科(Ericaceae)
属名:シラタマノキ属 (Gaultheria)

 

アカモノ(赤物:Gaultheria adenothrix)は、ツツジ科の常緑小低木、先日ご紹介したシラタマノキの実と同じシラタマノキ属に属します。
アカモノ(赤物)は日本固有の植物で、本州では近畿以北の日本海側に分布し、その他、北海道や四国にも分布し、低山帯から亜高山帯に自生します。

 

上の写真の花は白いですが、和名はアカモノ(赤物)。少々可笑しなネーミングですが、名の由来は赤い実をつけることから「アカモモ」から転じたものと言われています。色々と調べていると、実が白いものもあるそうで、それは「シロミノアカモノ」と言われるそうです。頭が混乱しそうです。
また、別名「イワハゼ(岩黄櫨)」とも呼ばれ、実が蝋を取るハゼの実に似ている事が由来です。

 

草丈は10~20㎝、葉は2~5㎝弱の卵型、楕円形の葉が互生し、茎と若枝には短い腺毛が確認でき、ほんの少し葉の光沢も確認できます。

 

花期は5~7月。直径5~7mmの小さな釣鐘型の花を下向きに咲かせ、縁が浅く5裂しており、ほんの少しだけカールしていることが確認できます。
花を支える萼は非常に鮮やかな赤色をしており、花全体の色合いのアクセントになっています。この萼にも茎や若枝と同様、腺毛が密生していることが確認でき、萼の部分の腺毛は短いものと長いものが混在しています。

 

花期が終わると、シラタマノキの実と同様、萼の部分が大きく肥大し、果実となります。ただ、シラタマノキの白い実とは違い、赤い身を上向きにつけます。

 

釣鐘型の真っ白な小さな花、花弁の表面にカールした縁の部分から萼の方に向かってうっすらと紅を引いたような線、色鮮やかな萼、本当に花の色合いのバランスが美しく、形状のバランスやカールした先端部分の可愛らしいさも含め、非常に魅力あふれる花の1つです。

 

アカモノ(赤物:Gaultheria adenothrix)

 

 

091

アケボノソウ(曙草:Swertia bimaculata)

先日「姫島にも泊まる大分周遊」に同行させていただきました。
大分の見どころを凝縮した6日間では非常に天候にも恵まれ、耶馬渓では見事な紅葉を観賞することができ、各所での名物料理・郷土料理も満喫できる充実したツアーでした。春にも設定させていただく予定にしております。

 

本日は、先日に引き続き熊野古道・中辺路で観察した「アケボノソウ(曙草:Swertia bimaculata) 」をご紹介します。

アケボノソウ(曙草:Swertia bimaculata)

 

被子植物 双子葉類
学名:Swertia bimaculata
別名:キツネノササゲ
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:センブリ属 (Swertia)

 

アケボノソウ(曙草)は、リンドウ科センブリ属に属する二年草です。
二年草(二年生植物)とは、1回の生活環を完了するのに2年を要する植物のこと。
二年草は、1年目に茎や葉、根などの栄養器官を形成し、休眠して越冬します。2年目の春または夏に開花し、種子を生産して枯れ、生活環を終えます。

 

日本では北海道、本州、四国、九州と広く分布し、伯耆富士とも呼ばれる鳥取県では代表的な花として紹介されることもあります。海外では中国、朝鮮半島の温帯地方に分布します。

 

草丈は60~90㎝で直立し、非常に鮮やかな緑色の茎の色合いが印象的です。
葉は長さ5~10㎝程度、披針形または卵型で先が尖っているので少し細長い卵型という印象を受ける形状です。光沢はほとんど確認はできません。
根生葉は茎葉に比べて大きく、花が開くと落ちてしまうと資料にありましたが、私が観察した際には根生葉も残っていました。

 

花期は9~10月。茎から枝分かれして伸びる長さ1~5㎝程度の花柄に、直径1.5~2㎝ほどの真っ白な花を数個ずつ咲かせます(集散状円錐花序)。
花弁が5弁のように見えますが、実際は花冠は深く5裂しており、基部で合着している形状です(今回観察するまで5弁の花弁と思っていましたが、観察して驚きました)。

 

花弁のように見える裂片に緑色の斑点が2つずつ付いていることが確認できます。
これは「蜜腺」です。ここから蜜を分泌し、昆虫(特にアリ)が蜜を採取しているのも観察することがよくあります。
また、アケボノソウ(曙草)の最大の特徴ともいえる裂片につく斑点が多数ついており、この斑点を「夜明けの空」に見立てたことが「曙草」という名前の付いた所以です。
まれに花冠に斑点がない品種として「ホシナシアケボノソウ(フナシアケボノソウ)」という名のアケボノソウもあります。

果実は蒴果で花冠より少しだけ長く裂開し、黒褐色で長さ1 mmほどの表面に細かい粒状突起で黒褐色の種子を出します。発芽後の1年目はロゼットのまま過ごします。

 

今回は熊野古道・中辺路ルートでの道中、牛馬童子に到着する間際に咲いていたアケボノソウを観察しました。
10月末であったため、花の観察は期待していませんでしたが、先日紹介したアサマリンドウや今回のアケボノソウなどの花々に心癒される時間もあり、1000年以上にわたって多くの人々が歩んだ中辺路を、熊野古道の魅力を感じながら語り部と共に歩く旅は本当に充実した旅でした。

 

熊野古道に咲くアケボノソウ
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アサマリンドウ(朝熊竜胆:Gentiana sikokiana Maxim)

11月に入り肌寒い日が続いており、そろそろコートも必要なシーズンになってきました。
私は先日「熊野古道巡礼 中辺路を歩き熊野三山を巡る旅」に同行させていただきました。私自身、十数年ぶりの熊野古道、那智山の観光でしたが、非常に天候に恵まれ、また語り部さんの解説も非常に勉強になるものでした。

 

本日は、熊野古道の道中や新宮市の神倉神社の参道で観察した「アサマリンドウ(朝熊竜胆:Gentiana sikokiana Maxim)」をご紹介します。

 

アサマリンドウ(朝熊竜胆:Gentiana sikokiana Maxim)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gentiana sikokiana Maxim
和名:朝熊竜胆
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:リンドウ属 (Gentiana)

 

アサマリンドウ(朝熊竜胆)は、リンドウ科・リンドウ属に分類され、日本の固有種です。本州の紀伊半島・南部、中国地方、四国、九州に分布します。
和名の「アサマ」は、長野県の「浅間山」と思ってしまいそうですが、アサマリンドウは三重県の「朝熊山」で最初に発見されたため、「アサマ」の名がつきました。

 

草丈は10~25cmで直立し、葉は長さが5㎝前後の卵型(長楕円形のものも)で、少し光沢のある葉が数個が対生します。また、葉の縁が少し波打っている(しわがある)ことも確認できました。

 

花期は9~11月。茎頂に長さ4~5㎝の淡い青紫色の花を1~4個、漏斗状・鐘型の花を上向きに咲かせます。花弁の先端は5裂し、筒部の内部に白縞模様が入っており、この縞模様がリンドウらしい特徴です。今回観察したものは、筒部の内部に斑点があるのを確認しましたが、斑点がつかないものもあるそうです。
萼は緑色、裂片は卵型で5裂し、平らに開きます。上の写真で少しボケていますがその様子が判ります。

 

和名のことを調べていると「朝熊七草」という言葉が出てきました。
1932年、三重県の植物誌著者・伊藤武夫氏が『三重県植物誌』の中で「朝熊山七草」を発表したそうです。七草とは、以下の7つだそうです。
1.アサマギク、2.ティショウソウ、3.スズコウジュ、4.アサマリンドウ、5.トリガタハンショウヅル、6.ミスミソウ、7.チャボホトトギス
いつの日か、朝熊七草を探すツアーも実施したいものです。

 

今回は熊野古道を歩きながら、また熊野三所⼤神が最初に降臨した地といわれる新宮市の熊野速玉大社の摂社である「神倉神社」の参道階段で観察することができました。
特に、神倉神社の参道階段ではたくさん群生しており、非常に心癒される瞬間でした。ただ、538段の階段はしんどかった・・・。

 

神倉神社でアサマリンドウ(朝熊竜胆)の群生に出会う

 

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ムラサキベンケイソウ(紫弁慶草:Hylotelephium pallescens)

本日は「ムラサキベンケイソウ(Hylotelephium pallescens)」をご紹介します。

 

ムラサキベンケイソウ(紫弁慶草:Hylotelephium pallescens)

 

被子植物 双子葉類
学名:Hylotelephium pallescens
科名:ベンケイソウ科(Crassulaceae)
属名:ムラサキベンケイソウ属 (Hylotelephium)

 

ムラサキベケイソウ(紫弁慶草)は、ベンケイソウ科に属する多年草です。
日本では北海道に分布し、山地をはじめ草地などに自生します。中部以北に分布するという資料もありましたが、同じムラサキベンケイソウ族のベンケイソウ(Hylotelephium erythrostictum)が中部以北に分布と記載している資料が多いので、もしかしたらそちらのことかと思われます。
海外では、シベリアやモンゴル、中国などにも分布します。
因みに、ムラサキベンケイソウ属はベンケイソウやオオベンケイソウなどの種がこの属に属し、東アジアを中心に28種ほどが分布します。

 

草丈は30~50㎝ほど、9月にサロマ湖畔で観察した際にも腰の位置より少し低いくらいでした。
葉は深緑色で互生、対生とまちまちのようです。
葉の形状は楕円形で少し卵型にも見え、長さは5cmほど、幅は1.5~3㎝で縁が鋸歯になっており、ほんの少し肉厚な葉であることが確認できます。

 

花期は8~9月。
茎頂に直径1cm弱の小さな花を密集させ、散房状(全体がドーム状)に花を咲かせます。
花弁は淡いピンク色をしていますが、よく観察すると先端部がピンク色、根元部分(中心部に近い部分)が白色となっているので、全体的に淡い色合いに見えるのかもしれません。花弁は先端がとがっており、5枚。星形といった表現がぴったりな形状です。
花の中央より雄しべが10本前後直立しており、上の写真をごらんいただくと、雄しべの先端の葯(やく:花粉を入れる袋状構造)が黄色くなっているのが判るかと思います。この黄色いのは、葯が裂開して花粉が出ている状態です。裂開する前は濃紅色です。
中央に饅頭(小さな饅頭が4つ)のようにみえる部分は子房です。

 

私が9月下旬に北海道・サロマ湖畔で観察した際には、最盛期が過ぎていたのか、花を咲かせているのはわずか1~2本ほどでしたが、密集して花を咲かせる姿は美しく、1つ1つの小さな花をじっくりと観察してみると、より美しさを感じる花でした。

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シラタマノキの実(白玉の木:Gaultheria pyroloides)

本日は、9月に北海道・旭岳の麓で観察した「シラタマノキ(白玉の木:Gaultheria pyroloides)の実」をご紹介します。

 

シラタマノキの実(白玉の木:Gaultheria pyroloides)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gaultheria pyroloides
科名:ツツジ科(Ericaceae)
属名:シラタマノキ属(Gaultheria)

 

シラタマノキ(白玉の木)はツツジ科の高さが10~30㎝程度の常緑小低木です。
日本では本州・中部地方の以北から北海道に分布し、海外では東北アジアからアラスカまで分布します。亜高山帯~高山帯にかけて、比較的日当たりの良い礫地などに自生します。

 

葉は楕円形をしており、ほんの少し厚みがあり、光沢も若干確認ができます。葉脈が表も裏もくっきりと出ており、葉の縁が少し鋸歯となっています。

 

この9月には観察できませんでしたが、花は長さが0.5㎝程度と小さく、丸みを帯びた壺型で下向きに垂れ下がるように咲き、花の先端(キュっとしぼんだ部分)が浅く5裂しています。
アオノツガザクラなどと花の形状は壺型でよく似ていますが、個人的にはシラタマノキの花の方が少し角ばっている印象があり、アオノツガザクラの方がより丸い形状をしている印象です。
また、南米パタゴニアで観察したチャウラも同じシラタマノキ属です。花の形状は似ていますが、実は真っ赤です。

 

花期が過ぎ、9月を過ぎると萼の部分が大きくなり、果実を覆います。1㎝弱の小さな果実が、上の写真のように真っ白な玉状の実をつけることから「シラタマノキ」という和名になったと言われています。別名で「シロモノ」ともよばれ、同じシラタマノキ属で「アカモノ」という花もあります(別名はイワハゼ)。

 

シラタマノキの実は、口にすると甘味はあるそうですが・・・実は筋肉疲労などの塗り薬でも使われる「サロメチール(サリチル酸)」の匂い、味がします。
私は口にしたことはありませんが、落ちていた実を割って匂いは確認したことがあります。皆さん、是非匂いを確認してみてください・・・と言いたいところですが、生っている実を採ってはいけませんよ。

 

今年はシラタマノキの花を観察することができなかったので、いつの日か観察した際に花の方も改めてご紹介します。