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プルシュ(Passiflora trifoliata)

前回に引き続き、ペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「プルシュ」をご紹介します。

 

現在、来シーズンに向けてペルー・ブランカ山群での花の観察を楽しむ「花咲くブランカ山群へ アンデスの固有種 紅色のプカ・マカをもとめて」のツアーを造成中、まもなく発表できる見込みですので、今しばらくお待ちください。

 

ペルー固有種のプルシュ(Passiflora trifoliata)

 

被子植物 双子葉類
学名:Passiflora trifoliata
現地名:プルシュ(Puroqsha / Purush)
科名:トケイソウ科(Passifloraceae)
属名:トケイソウ属(Passiflora)

 

プルシュ(Passiflora trifoliata)は、トケイソウ科トケイソウ属に属するペルー固有種の1つで、アンデスの標高3,900~4,800mの高地に位置する雲霧林や藪地、岩場などに自生し、他の樹木等を支えにして地面より幾分高いところへ茎を伸ばす蔓性植物でもあります。
プルシュ(Puroqsha / Purush)とは現地名で、標高5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群のワスカラン国立公園にあるいくつか自生地で観察できます。

 

葉は複葉で全体的に短毛が密生し、縁がしっかりしている印象でした。
花を支える花柄が伸び、その先に花被筒を包むようにして小さな苞葉をつけています。
そこから濃い紫色で筒状の花被筒(花弁や萼の基部が筒状に合着してできた部分)が伸び、その先端にオレンジ色とも、ピンク色ともいえる、何とも言えない色合いの花を咲かせます。

 

花は直径5cm程度の小ぶりで、黄色い葯と放射状に広げたたくさんの花弁が確認でき、色合いと共に非常に印象的な形状・・・、と現場では思っていたのですが、ブログ作成時に調べているとプルシュの花は披針形の萼片が放射状に広がる内側に同色で狭披針形の花弁を放射状に付けている構造(ユリのような構造?)とのことでした。
確かに写真をよくみていると、同色ですが花弁と萼の幅の違いが確認できます。来シーズンは是非とも肉眼で確認したいところですが、どうしても背の高い位置に咲いているので・・・難しいかな。

 

花後は楕円形で5cmほどの果実をつけ、5月にワスカラン国立公園を訪れた際、花と果実を横並びで観察できました。
プルシュ(Passiflora trifoliata)は「パッションフルーツの仲間」ですが、一般に食用とされるパッションフルーツ (Passiflora edulis) とは別種で食用として流通することはほとんどないそうです。

 

プルシュの実(Passiflora trifoliata)

 

少し花がそれますが、「パッションフルーツ」は「キリストの受難の花」の意味で、イエズス会の宣教師らによってラテン語で「flos passionis」と呼ばれていたのを訳したものとされており、16世紀に原産地である中南米に派遣された彼らはこの花をかつてアッシジの聖フランチェスコが夢に見たという「十字架上の花」と信じ、キリスト教の布教に利用したそうです。花の子房柱は十字架、3つに分裂した雌しべが釘、副冠は茨の冠、5枚の花弁と萼は合わせて10人の使徒、巻きひげはムチ、葉は槍であるとされ、「キリストの受難を象徴する形=キリストの受難の花」となったそうです。
また、スペインでは、キリストの手足を打ち抜いた釘の跡をふさいだのが「トケイソウ」とされていそうです。

 

ペルー固有種のプルシュ(Passiflora trifoliata)
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アウリンシャ(Bomarea albimontana)

先日、ベネズエラ・ギアナ高地『 固有種の花咲く原始境へ 太古の台地アウヤン・テプイをゆく』へ同行させていただき、2018年に同じギアナ高地のチマンタ山塊のテプイの山上で観察したウトリクラリア・フンボルティ(Utiricularia humboldtii)に再び出会うことができ、さらに多種多様なランの花の観察を楽しむことができました。

 

前回に引き続き、ペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「アウリンシャ」をご紹介します。

 

ペルー固有種『アウリンシャ』(Bomarea albimontana)

 

被子植物 単子葉類
学名:Bomarea albimontana
現地名:アウリンシャ(Aurinsha)/シュユ・シュユ(Shullu-shullu)
科名:ユリズイセン科 又は アルストロメリア科(Alstroemeriaceae)
属名:ボマレア属(Bomarea)

 

アウリンシャ(Bomarea albimontana)は、ユリズイセン科ボマレア属に属するペルー固有種の1つで、標高3,900~4,800mの高地に自生し、5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群のワスカラン国立公園などでいくつか自生地が確認されています。

 

ペルーの先住民族ケチュア族の言葉で 「アウリンシャ」(Aurinsha)は、花の特性から「つる植物」を意味し、現地フラワーガイドさんが、鈴なりに咲くアウリンシャが風になびく際に鳴らす音がもう1つの現地名「シュユ・シュユ」(Shullu-shullu)の名の由来であると教えてくれました。

 

アウリンシャという現地名のとおり「つる植物」で、たくさんの花を咲かせるため重さで倒れないようにケニュアルという高地の木や他の植物などに絡みついて成長します。

 

葉は細長く少し柔らかい印象、葉裏が表面より白みがかっていた印象です。また花を中心に放射線状に葉を広げていたのが非常に印象的でした。資料によっては「羽根複葉」と記しているものもあります。

 

花は淡いピンク色(オレンジ色にも見えます)が印象的ですが、実際は淡いピンクの萼片が紫色の斑点のある黄色の花弁(6枚という資料もあります)を覆っているベル型の花を咲かせます。
2~3cmほどの小さな花を20個近く密集して咲かせるため、散策をしながら観察しているとすぐに目に飛び込んできます。ただ、つる性の植物だからなのか(?)花があっちの方向に向いていたり、重みの影響で下を向いていることが多いのが難点です。

 

ある資料には「地元の人々にとっては自然の象徴のひとつ」というものもあり、冷涼で湿度のある環境を好む花であるとのことでした。

 

似た花(同じユリズイセン科ボマレア属)で現地で『ミリ・ミリ』と呼ばれる花もブランカ山群のワスカラン国立公園に咲きます。
その花のお話しは・・・またいつの日か。

 

アウリンシャの実(ユリズイセン科)
手で手繰り寄せて花をアウリンシャの花を観察
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オキ・マカ(Oqi-maqa / Gentianella tristicha)

先日、利尻島・礼文島のツアーに同行させていただき、お客様と共に高山植物の観察を楽しみ、ツアー終了後に長年訪れてみたかった北海道大学の植物園をプライベートで訪れ、園内に咲く花々を堪能し、日本の高山植物を大いに堪能できた一週間でした。

 

前回に引き続いてペルーのブランカ山群に咲くペルー固有種「オキ・マカ」をご紹介します。

 

オキ・マカ(Oqi-maqa / Gentianella tristicha)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gentianella tristicha
現地名:オキ・マカ(Oqi-maqa – Oqemacashaqa)
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:リンドウ属(Gentiana)

 

オキ・マカ(Oqi-maqa – Gentianella tristicha)は、リンドウ科リンドウ属に属するペルー固有種で、5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群の標高4,300m~4,900mの高所に自生し、ワスカラン国立公園などでいくつか自生地が確認されています。
ペルーの先住民族ケチュア族の言葉で 「Oqi」は、花の色合いの「ラベンダー色とピンク色の中間の繊細な色調」を意味します。

 

草丈は10~25cmほどで直立し、紫褐色の細い茎を伸ばし、上部で2~3つに枝分かれし、それぞれに直径2~3cmほどの小さな花を咲かせます。

 

葉は枝分かれした節の部分に細い針形の葉を左右対称に伸ばし、それぞれの葉は1.5~2cm程度の長さです。

 

花期はペルー・アンデスの雨季の終わりの2〜5月。
花全体は淡い紫色で、トランペット状の合弁花の先端で5つの花弁のように分かれてる形状をしています。
花の中央にはほんのりクリーム色の雌しべをしっかりと伸ばし、その脇には数本の雄しべが伸びています。その雄しべの先端の葯の部分に花粉が残っているものは雌しべと同様にほんのりクリームをしているのですが、花粉が無くなって紫色の細い糸が残っているだけのものも観察できました。

 

根は比較的丈夫で、栄養分が乏しい場所(高地の過酷な気候条件)でも生息することができる花ですが、ペルーの高山生態系の保全において重要な花の1つとして数えられ、ワスカラン国立公園などでは保護対象種とされています。

 

オキ・マカの花は現在のところ一般的な薬草としての利用は報告されていませんが、伝統的には「強さ」や「浄化」を象徴するとされ、儀式に用いられることもあるという資料もありました。

 

オキ・マカは、花の形状も美しく、淡い色合いも何とも言えない魅力を感じる花で、是非とも皆さんにも観察して欲しい花の1つです。

 

オキ・マカ(Oqi-maqa / Gentianella tristicha)

 

そういえば、現地にて前回紹介した「プカ・マカ」と今回ご紹介した「オキ・マカ」の中間種と解説を受けた花も観察しました。
見た目にはほぼ「オキ・マカ」のような形状ですが、良く観察すると5つに分かれた花弁の部分に若干の丸みがあったり、中央に伸びる雌しべの色合いに違いがあったり、学名は不明ですが、不思議な花でした。
※「オキ・マカ」と「プカ・マカ」の写真、見比べてみて下さい。

 

オキ・マカとプカ・マカの中間種
ペルー固有種の花「プカ・マカ」(リンドウ科)
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プカ・マカ(Puka maqa – Puka maqashka/Gentianella weberbaueri)

6月に入り、近所のアジサイも見頃を迎え、雨の降る嫌な季節でもアジサイの花を観ると少し心が癒されます。

 

先月、ペルーのブランカ山群へ添乗させていただき、ペルー固有種の花をいくつも観察してきました。
本日はその中から3年越しの念願だった紅色のリンドウ「プカ・マカ」をご紹介します。

 

ペルー固有種「プカ・マカ」(リンドウ科)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gentianella weberbaueri
現地名:プカ・マカ(Puka maqa – Puka maqashka)
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:リンドウ属(Gentiana)

 

上の写真を見て「この色がリンドウ??」と思われた方、「クリンソウでは?」と思われた方もいるのではないでしょうか。実のところ、私がその1人でした。

 

今から約3年前、南米の花を色々と調べている時、この花の写真を見つけました。
その際、私も「クリンソウの一種かな?」と思い、調べていくうちにアンデス山脈の一部をなすのペルー・ブランカ山群に自生するペルー固有種、現地で「プカ・マカ」と呼ばれる花であることが判り、一気に心を奪われました。

 

プカ・マカ(Puka maqa – Puka maqashka)は、リンドウ科リンドウ属に属するペルー固有種で、5,000~6,000m級の氷雪峰が聳えるブランカ山群の標高4,300m~4,900mの高所の礫地に自生し、ペルーの先住民族ケチュア族の言葉で 「puca 」は 「赤 」を意味します。

 

草丈は小さな株で30cmほど、高いもので50cm近い株も確認できました。
今回観察できたエリアでは見つかりませんでしたが、資料によっては3フィート(約90cm)のい高さになると記載されています。

 

葉は地面にイソギンチャクのように長さ10cmほどの細長く、ほんの少し厚みのある葉を広げ、その中央に赤褐色のどっしりとした印象、まるで大黒柱のような花茎を真っすぐに伸ばします。
花茎に付ける葉は地面に広がる葉に比べて短く、柄を付けず数段に分かれて放射状に葉を広げます。

 

花期は5月初旬。
花茎から2~3cmほどの花柄を伸ばし、長さ2~3cmほどの紅色の花を付けます。
1つの株が満開に花をつけた状態の個体は観察できませんでしたが、満開になると花の数は10や20ではおさまらず、30近くの花を付けそうな印象でした。
花弁は5枚のように見えましたが、高所で息も絶え絶えの中でじっくりと観察しているとトランペット状の合弁花であり、先端で5つの花弁のように分かれているのが判りました。下の写真をご覧いただくとその形状が判るかと思います。

 

紅色の花弁の中央からどっしりとした黄色の花柱と小豆のような色の柱頭の雌しべが伸び、その脇からゴマのように真っ黒な葯をつけた雌しべが4~5本伸びており、細かく観察すると様々な色合いが組み合わさった花であることが判り、その色合いが何とも言えない魅力を感じさせる花でした。

 

現地ではプカ・マカの花を宗教的な彫像の装飾に使われるそうです。
また、農村部では虫歯予防のためにこれを噛むこともあったり、茹でたエキスを赤い着色料として使用しているという資料などもありました。そういえば、現地のガイドさんがたちが「ブランカ山群は薬草の宝庫」と解説してくれていました。

 

今回は小雨が降る中、標高4,730m地点でプカ・マカを観察しました。
お客様それぞれが観察を楽しむ中、「ここにも咲いているよ~」「こっちの株は見事な咲き具合だよ~」など、雨にも負けず、高山病にも負けず、それぞれが情報を共有しながら、ペルーの固有種「プカ・マカ」の観察を楽しみました。

 

その他、オキ・マカ(リンドウ科)やアウリンシャ(ユリズイセン科)、プルシュ(トケイソウ科)などのペルー固有種や私が大好きなスリッパ型のゴマノハグサ科の花など、様々な花の観察を楽しむことができました。
それらの花々の紹介は・・・次回に続く。

ペルー固有種の花「プカ・マカ」(リンドウ科)
花茎を伸ばす前のプカ・マカ(リンドウ科)