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イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)

ここ数日、急に肌寒くなってきたため、我が家では電気毛布を購入するかどうか検討中です。
週末、植物の越冬について調べていると、面白い情報を知ることができました。
春先に花を咲かせる「ザゼンソウ(座禅草)」は、氷点下になる外気温でも自ら発熱して約20℃に保つことができるそうです。発熱する部分がどこか気になり、調べていると赤紫の苞葉部分ではなく、苞葉の中心部の肉穂花序の部分だそうです。さらに驚いたことに、温度が下がると、それに合わせて0.03℃の精度で制御しているとのことでした。確かに、残雪の残る時期にザゼンソウを観察していたら、ザゼンソウの周りだけ、円形に雪が解けていたような気もします。
電気毛布に頼る人間より、ザゼンソウの方が優れた生態なのかと感じた週末でした。

 

本日はザゼンソウの紹介ではなく、北海道で観察した「イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)」をご紹介します。

 

イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)

 

被子植物 双子葉類
学名:Pennellianthus frutescens
和名:イワブクロ(岩袋)/別名:タルマイソウ(樽前草)
科名:オオバコ科(Plantaginaceae)
属名:イワブクロ属(Pennellianthus)

 

イワブクロ(岩袋)は、北海道と東北地方に分布し、火山性の山の高山帯の砂礫などに自生します。海外では、シベリアやカムチャッカにも分布します。
イワブクロは、別名を「タルマイソウ(樽前草)」と言います。北海道の樽前山(たるまえざん)の7合目以上で群生する斜面が多いことが別名の由来だそうです。
私も樽前山には登ったのですが、時期が異なっていたため、観察はできませんでした。
掲載した写真は、北海道の大雪山・旭岳の麓で観察したものです。

 

オオバコ科イワブクロ属に属する多年草で、ある資料には「パイオニアプラントの1つ」と紹介されていました。あまり聞き慣れないパイオニアプラントという言葉でしたが、伐採地や崩壊地などの裸地に真っ先に生える植物の総称、 先駆植物とも言われるそうです。
イワブクロは岩場や火山砂礫にいち早く侵入、群生するパイオニアプラント(先駆植物)で、根茎が長く地中で広がるそうです。

 

草丈は10~20㎝で直立し、長さ5cm強、幅が1㎝強で長楕円形の葉が対生します。葉は少し厚みがあり、縁が浅めの鋸歯となっています。葉の表裏には毛は確認できませんが、浅い鋸歯の先端は刺々しくなっているのが確認できます。
葉の基部は茎を包むように丸まっており、葉の先端へ向かうにつれて外側に反り返るように生えています。
茎は赤褐色で、短い毛が生えていることが確認できます。
ある資料で「茎の断面は4稜形(4角柱)」と紹介されていました。
日頃、茎の形状は注目したことがなく、花図鑑などでも記載しているものは見たことがありませんでした。私が見落としているだけかもしれませんが、茎の形(断面)は円形が数多く、その他に2稜形、3稜形(3角柱)、4稜形(4角柱)、6稜形などがあるそうです。

 

桐の花に似ているイワブクロの花期は6~8月。茎頂に長さ3cm前後で筒形の唇形花を横向きに密集して咲かせます。
花の色は淡紫色で、上唇の部分が2裂、下唇の部分が3裂しています。
長さ1㎝弱の太くて短い花柄や長さ1㎝ほどの萼には、それぞれ腺毛が確認でき、花弁の外側にも同様に軟毛が確認できます。
雄しべは筒状の内部に4つあり、昆虫が花に潜り込む際に邪魔をして、昆虫の背が葯や柱頭に振れやすくする構造と考えられています。

 

花後は、花が抜け落ち、長さ1㎝ほどの蒴果が萼に包まれて残ります。

 

イワブクロ属(Pennellianthus)は、ゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)に分類されていましたが、APG分類体系ではオオバコ科に分類されることとなりました。

 

今回のブログ作成では、ザゼンソウの越冬の不思議や、茎の断面の形状など、イワブクロの事以外でも様々な点を知ることができました。今後も勉強が必要なようです。

 

<おすすめ!! 春の花の観察ツアー>
花咲く信州 水芭蕉やカタクリの群生地を巡る

 

イワブクロ(岩袋:Pennellianthus frutescens)②
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ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)

現在、弊社では春に向けての日本国内ツアーの造成に励んでいます。
私も信州へ訪れ、カタクリや水芭蕉の群生地を巡るツアーを造成し、HPでも発表させていただきました。まだまだ寒い日が続いていますが、一足早い春の訪れを感じていただくため、是非HPを覗いてみてください。

 

本日は、北海道・大雪山国立公園で観察した「ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)」をご紹介します。

 

ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)

 

被子植物 双子葉類
学名:Weigela middendorffiana
和名:鬱金空木
科名:スイカズラ科(Caprifoliaceae)
属名:タニウツギ属(Weigela)

 

ウコンウツギ(鬱金空木、学名:Weigela middendorffiana)はスイカズラ科タニウツギ属の落葉低木の1つです。北海道から東北北部にかけて分布する高山植物で、非常に耐寒性のある植物です。

 

樹高は1~2mで、長さ5~10㎝ほどの葉先の尖った卵型の葉を3~4対つけます。鮮やかな緑色の葉には葉柄がほとんどなく、葉脈も明瞭でほんの少し光沢を感じることができます。縁には少し鋸歯が確認できます。
樹皮は灰褐色で縦に裂け、古枝になると樹皮が徐々に剥離して落ちるのが特徴です。

 

春に芽吹き始め、花期は6~7月。枝先などから長さ2~3㎝ほどの花柄を出し、3~4㎝弱の漏斗型(細長いラッパ型)で鮮やかなクリーム色の花を2~4個ずつ咲かせます。
漏斗型の花は下部は1㎝弱と細く、中央部分から先端部分にかけて膨れ、花弁の先端は浅く5裂しています。雄しべは5個、花後にも残る萼は2裂し、子房の下には小さな苞が2個付きます。
果実は2cmほどの長楕円形で、種子は5㎜前後で両端に長い翼のようなものが付いています。

 

ウコンウツギの花の色合いを印象的にするのが、花の内部にある斑紋で、花の咲き始めは黄色い斑紋ですが、古くなると徐々に赤く変わります。
この点は私も知っていたのですが、今回のブログを作成時に色々と調べていると、斑紋の色の変化は「ミツバチへの合図」ということでした。

斑紋が黄色いものは「蜜があるサイン」、赤いものは「受粉を終えて蜜も花粉もないサイン」とのことでした。
受粉を終えた後も落ちずに花を残しているのは受粉の手助けをするマルハナバチをおびき寄せるためで、花に寄ってきたマルハナバチは蜜のサインを見つけて黄色い方へ向かっていくそうです。
蜜や花粉の有無を花の内部の斑紋で知らせるウコンウツギの仕組みは、非常に興味深いものです。ウコンウツギのように色を変化させていく花はこの他にもいくつもあるようです。今後、調べてみたいと思います。よい情報があれば、ご連絡ください。

 

コロナウイルス感染拡大が心配な中、弊社でも十分に感染症対策を行い、ツアーを実施させていただきます。皆さんも体調管理に十分お気を付けください。

 

<おすすめ!! 春の花の観察ツアー>
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ウコンウツギ(鬱金空木:Weigela middendorffiana)

 

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ムラサキベンケイソウ(紫弁慶草:Hylotelephium pallescens)

本日は「ムラサキベンケイソウ(Hylotelephium pallescens)」をご紹介します。

 

ムラサキベンケイソウ(紫弁慶草:Hylotelephium pallescens)

 

被子植物 双子葉類
学名:Hylotelephium pallescens
科名:ベンケイソウ科(Crassulaceae)
属名:ムラサキベンケイソウ属 (Hylotelephium)

 

ムラサキベケイソウ(紫弁慶草)は、ベンケイソウ科に属する多年草です。
日本では北海道に分布し、山地をはじめ草地などに自生します。中部以北に分布するという資料もありましたが、同じムラサキベンケイソウ族のベンケイソウ(Hylotelephium erythrostictum)が中部以北に分布と記載している資料が多いので、もしかしたらそちらのことかと思われます。
海外では、シベリアやモンゴル、中国などにも分布します。
因みに、ムラサキベンケイソウ属はベンケイソウやオオベンケイソウなどの種がこの属に属し、東アジアを中心に28種ほどが分布します。

 

草丈は30~50㎝ほど、9月にサロマ湖畔で観察した際にも腰の位置より少し低いくらいでした。
葉は深緑色で互生、対生とまちまちのようです。
葉の形状は楕円形で少し卵型にも見え、長さは5cmほど、幅は1.5~3㎝で縁が鋸歯になっており、ほんの少し肉厚な葉であることが確認できます。

 

花期は8~9月。
茎頂に直径1cm弱の小さな花を密集させ、散房状(全体がドーム状)に花を咲かせます。
花弁は淡いピンク色をしていますが、よく観察すると先端部がピンク色、根元部分(中心部に近い部分)が白色となっているので、全体的に淡い色合いに見えるのかもしれません。花弁は先端がとがっており、5枚。星形といった表現がぴったりな形状です。
花の中央より雄しべが10本前後直立しており、上の写真をごらんいただくと、雄しべの先端の葯(やく:花粉を入れる袋状構造)が黄色くなっているのが判るかと思います。この黄色いのは、葯が裂開して花粉が出ている状態です。裂開する前は濃紅色です。
中央に饅頭(小さな饅頭が4つ)のようにみえる部分は子房です。

 

私が9月下旬に北海道・サロマ湖畔で観察した際には、最盛期が過ぎていたのか、花を咲かせているのはわずか1~2本ほどでしたが、密集して花を咲かせる姿は美しく、1つ1つの小さな花をじっくりと観察してみると、より美しさを感じる花でした。

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シラタマノキの実(白玉の木:Gaultheria pyroloides)

本日は、9月に北海道・旭岳の麓で観察した「シラタマノキ(白玉の木:Gaultheria pyroloides)の実」をご紹介します。

 

シラタマノキの実(白玉の木:Gaultheria pyroloides)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gaultheria pyroloides
科名:ツツジ科(Ericaceae)
属名:シラタマノキ属(Gaultheria)

 

シラタマノキ(白玉の木)はツツジ科の高さが10~30㎝程度の常緑小低木です。
日本では本州・中部地方の以北から北海道に分布し、海外では東北アジアからアラスカまで分布します。亜高山帯~高山帯にかけて、比較的日当たりの良い礫地などに自生します。

 

葉は楕円形をしており、ほんの少し厚みがあり、光沢も若干確認ができます。葉脈が表も裏もくっきりと出ており、葉の縁が少し鋸歯となっています。

 

この9月には観察できませんでしたが、花は長さが0.5㎝程度と小さく、丸みを帯びた壺型で下向きに垂れ下がるように咲き、花の先端(キュっとしぼんだ部分)が浅く5裂しています。
アオノツガザクラなどと花の形状は壺型でよく似ていますが、個人的にはシラタマノキの花の方が少し角ばっている印象があり、アオノツガザクラの方がより丸い形状をしている印象です。
また、南米パタゴニアで観察したチャウラも同じシラタマノキ属です。花の形状は似ていますが、実は真っ赤です。

 

花期が過ぎ、9月を過ぎると萼の部分が大きくなり、果実を覆います。1㎝弱の小さな果実が、上の写真のように真っ白な玉状の実をつけることから「シラタマノキ」という和名になったと言われています。別名で「シロモノ」ともよばれ、同じシラタマノキ属で「アカモノ」という花もあります(別名はイワハゼ)。

 

シラタマノキの実は、口にすると甘味はあるそうですが・・・実は筋肉疲労などの塗り薬でも使われる「サロメチール(サリチル酸)」の匂い、味がします。
私は口にしたことはありませんが、落ちていた実を割って匂いは確認したことがあります。皆さん、是非匂いを確認してみてください・・・と言いたいところですが、生っている実を採ってはいけませんよ。

 

今年はシラタマノキの花を観察することができなかったので、いつの日か観察した際に花の方も改めてご紹介します。

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キタノコギリソウ(北鋸草:Achillea alpina subsp. japonica)

本日は「キタノコギリソウ(北鋸草:Achillea alpina subsp. japonica)」をご紹介します。

 

キタノコギリソウ(北鋸草:Achillea alpina subsp. japonica)

 

被子植物 双子葉類
学名:Achillea alpina subsp. japonica
科名:キク科(Asteraceae)
属名:ノコギリソウ属(Achillea)

 

キタノコギリソウ(北鋸草)は、本州の中部地方以北から北海道にかけて分布し、海外では南千島、サハリンに分布します。海岸から低山の草地などに生育します。

 

草丈は50㎝~100㎝にも及ぶものもあり、私が9月に北海道・サロマ湖周辺で観察した際も腰の位置くらいで観察できました。茎の部分にほんの少しだけ産毛が確認することもできました。

 

葉は非常に細長く、長さは5~10㎝弱の先端部が少し尖った葉が互生します。
葉の縁が細かく羽状に浅裂しているのが特徴で、この葉の形状が「鋸草」と呼ばれる所以です。
ノコギリソウは種類が多く、そんな中でノコギリソウ、エゾノコギリソウ、キタノコギリソウは非常に似ていて、判別が難しいところです。
ある資料には、キタノコギリソウの葉の切れ込みは、ノコギリソウより浅く、エゾノコギリソウより深いとありました。また、葉の付け根に葉片(葉身:葉の主要部分)が1~2対あるのが特徴という資料もありましたが、その点は確認できず、次回の宿題です。

 

花期は7~9月。花は茎頂に花柄を伸ばし、直径1㎝ほどの小さな花を多数咲かせて密集する、見た目には小さな花が密集してドーム型に広がっています(散房花序)。
花の中心部(上写真で黄色い部分)は、筒状花(とうじょうか:花弁が筒状になっている花)を6~8枚の白や淡いピンク色の舌状花(ぜつじょうか:花弁の先端が広がり舌のような形になっているもの)が取り囲んでいます。

 

花の形状に関しては、このブログを作成している際に改めて勉強になりました。
キク科の花は、多数の花びらが円形に並んでいるように見え、普通はこれを以て一つの花だと考えがちですが、実際には個々の花びらと見えるのは、それぞれが一つの花なのです。花に見えるものは、多数の花が集まったものであって、つまり花序であると考えなければいけません。
分解してよく観察すれば、それぞれに雄しべや雌しべがあり、小さいながらも花の構造を持っているのが分かるという資料もありましたが、一度ゆっくり構造を観察したいものです。
「何度も観察して知っている花」と思っていても、まだまだ勉強が必要だと、今回のブログを作成して感じました。

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エゾオヤマリンドウ (蝦夷御山竜胆:Gentiana triflora var. japonica f. montana)

先日、西遊通信を発行させていただき、弊社ホームページでも12月から冬にかけてのツアーを次々と発表しております。
私も春の訪れを感じる花々を観察を楽しむことができるツアーを現在造成中です。

 

本日は、9月末に訪れた北海道の大雪山・層雲峡で観察した「エゾオヤマリンドウ (蝦夷御山竜胆)」をご紹介します。

 

エゾオヤマリンドウ (蝦夷御山竜胆)

 

被子植物 双子葉類
学名:Gentiana triflora var. japonica f. montan
科名:リンドウ科(Gentianaceae)
属名:リンドウ属(Gentiana)

 

エゾオヤマリンドウ(蝦夷御山竜胆)は、日本原産のリンドウであり、北海道と本州では山形県より以北に分布します。主に亜高山~高山帯、湿った草地などに生育します。
同じリンドウ科の花で似た名称のエゾリンドウ(蝦夷竜胆:Gentiana triflora var. japonica)がありますが、エゾオヤマリンドウはエゾリンドウの高山種となります。また、同じくオヤマリンドウ(御山竜胆:Gentiana makinoi)もありますが、これら3つの区別は非常に難しいです。

 

エゾオヤマリンドウの草丈は20~40㎝で直立し、低地に生育するエゾリンドウに比べて少し草丈が低くなります。
葉は長さが5~8cmほどで披針形、長楕円形、先端が尖った形状をしており、茎に対生し、葉の裏面は表面に比べて若干白色を帯びています。鮮やかな緑色の葉ですが、秋になると葉は少し紅葉を思わせる色合いへ変化していきます。

 

花期は8~9月、茎頂や茎上部に少数の花を束状に咲かせます。秋の訪れを知らせる花ですが、7月中旬頃から咲きだす個体もあるそうです。
花はリンドウらしい濃青紫色の色合いで長さ3~5㎝弱の釣鐘型の形状で、先端が浅く5裂していますが、私が観察したときは先端が閉じてしまっていたので5裂している部分は確認することができませんでした。他のリンドウ科の花のように目一杯花が開くわけではなく、開花時は先端部がほんの少しだけ開く程度です。黒岳ロープウェイの係員さんに伺ったところ「花が咲くのは晴れた日の日中だけで、雨や曇りのときは日中でも花は閉じてしまっています」とのことでした。
花を支える萼片が濃紫色で長さはバラバラでした。

 

今回エゾオヤマリントウを観察していると周囲に白色のリンドウが咲いており、別のリンドウ科の種類かと思っていましたが、前述の黒岳ロープウェイの係員さんに伺ったところ「エゾオヤマリントウは時折白花種も咲かせる」とのことでした。

 

高山に咲く「リンドウ」は漢名で「竜胆」と書きますが、リンドウの根が非常に苦く、熊の胆よりももっと苦いことから、熊よりランクの高い竜(架空の動物)の胆の苦さにあて、竜胆という漢字名がついたと言われています。

 

今回、北海道の層雲峡で黒岳ロープウェイへ乗車し、その後リフトへ乗り換えて黒岳7合目を目指しながら、秋の紅葉を楽しむツアーでした。今年は色付きが非常に遅く、想像していたような紅葉ではありませんでしたが、それでも所々の紅葉・黄葉は素晴らしいものでした。
また、リフト乗車時や黒岳7合目周辺には秋の訪れを告げるエゾオヤマリントウがたくさん咲いており、北海道の秋を楽しむことができました。

 

エゾオヤマリンドウ (蝦夷御山竜胆)の白花種
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チングルマの穂(Sieversia pentapetala)

本日、日本外務省より新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて全世界が対象になっていた渡航自粛を求める危険情報を引き下げる方向で検討を進めているというニュースが流れました。海外ツアー再開に向けて半歩前進した、嬉しいいニュースでした。

 

本日は、以前「075.チングルマ(Sieversia pentapetala)」の花をご紹介しましたが、先日「大雪山山麓一周と能取湖のサンゴ草」に同行させていただいた際に「チングルマの穂」を観察することができましたので、ご紹介します。

 

チングルマの穂(Sieversia pentapetala)

 

被子植物 双子葉類
学名:Sieversia pentapetalaまたはGeum pentapetalum
科名:バラ科(Rosaceae)
属名:チングルマ属(Sieversia)またはダイコンソウ属(Geum)

 

前回もご紹介しましたが、チングルマ(Sieversia pentapetala)は北海道や本州の中部地方以北に分布し、海外ではサハリンやカムチャッカ半島、アリューシャン列島に分布する落葉小低木の高山植物です。

 

北海道・大雪山を彩る紅葉・黄葉は、木はナナカマドが紅葉の、ダケカンバが黄葉の主役となります。ただ、森林限界を超えるエリアとなると、紅葉の主役は「草紅葉」となり、その主役はチングルマとなります。
草紅葉に関しては、大雪山・銀泉台では、アラスカなどで「アルパイン・ベアーベリー」と紹介される「ウラシマツツジ(裏縞ツツジ︓ツツジ科の落葉⼩低⽊)」も真っ赤に染まります。

 

チングルマは、花が終わるとおしべが長く伸びはじめ羽毛状になって残り、果実を付けます。果期になると花柄は7~10㎝ほどになり、タンポポの種のように風によって散布され、チングルマの果実になります。果期になると花柄は7~10㎝ほどになり、タンポポの種のように風によって散布されます。
上の写真をご覧いただくとイメージが付きやすいかと思いますが、羽毛上の果実の形が子供の風車(かざぐるま)に見えたことから稚児車(ちごくるま)から転じて付けられたと言われています。

 

すべての花がそうではありませんが、花期が終わっても、色合いなどの印象が変化していく姿を観察すると、その花の良さを改めて感じることがあります。
9月末に北海道・大雪山国立公園へ訪れ、旭岳の麓の散策を楽しみました。決して天候に恵まれたとは言えませんでしたが、チングルマの草紅葉は十分に楽しませていただきました。

 

大雪山・旭岳の麓がチングルマの草紅葉で赤く染まる
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アッケシソウ(厚岸草:Salicornia europea)

先日「日本で最も早い紅葉を観る!大雪山山麓一周と能取湖のサンゴ草」に同行させていただき、私自身も数十年ぶりに訪れた大雪山国立公園の大自然をお客様と共に満喫してきました。

 

本日は、能取湖やサロマ湖で観察した「アッケシソウ(サンゴソウ)」をご紹介します。

 

アッケシソウ(厚岸草:Salicornia europea)

 

被子植物 双子葉類
学名:Salicornia europea
科名:ヒユ科(Amaranthaceae)/アカザ科(Chenopodiaceae)
属名:アッケシソウ属(Salicornia)
別名:サンゴソウ
海外名:シーアスパラガス(Sea Asparagus)、シービーンズ(Sea beans)、
シーピクルス(Sea pickles)、サムファイアー(Samphire)、
パスピエール(仏:Passe Pierre)

 

アッケシソウ(Salicornia europea)は、1891年(明治24年)、厚岸湖の牡蠣島で初めて発見・採取され、その後、発見・採取された厚岸湖の名をとり「アッケシソウ」と名付けられました。
北海道を代表する塩生植物の1つ。北海道東部に分布し、本州では瀬戸内海沿岸や東京の埋め立て地、岩手県や宮城県での発見例もあります。

 

アッケシソウ(Salicornia europea)は、ヒユ科の一年草。資料によってはアガサ科と表記されているものもあります。アガサ科は独立の科として扱っている資料も多いようですが、APG植物分類体系ではヒユ科の中に含まれ、ヒユ科のアカザ亜科が設けられているものもあるようです。

 

皆さんは「塩性植物」というもの、言葉をご存知でしょうか?
塩性植物とは、一言で言えば「高塩濃度に耐えうる種子植物」です。
海潮の満ち引きによって定期的に冠水する湿地帯や干潟、河口や湖口の汽水帯など、水の影響がある地域で生育します。海外では、塩湖、砂漠の湿地などでも生育し、塩害で放棄された耕作地にも生育するという資料もありました。
通常、植物は台風の影響などで海水が吹き込んでしまうと植物が枯れるという印象、塩害と考えてしまいますが、塩性植物という高濃度の海水にも負けず生育する植物もあるという点は非常に興味深いものです。ちなみに、マングローブも塩生植物に分類されます。
アッケシソウの学名「Salicornia europea」は、ラテン語の「Sal(塩)」と「cornu(角笛)」の組み合わせのようです。

 

草丈は10~30㎝で多肉質、茎は円柱型で直立します。
真っ赤に群生するアッケシソウの群落地の写真だけでは想像は付かないかもしれませんが、しっかり観察すると円柱状の茎には節があり、その節から茎と同じような円柱形の枝が対生します。

 

アッケシソウと言えば、真っ赤な色合いのイメージが強いですが、アッケシソウの茎は濃緑色。
5月頃から緑色の芽を発芽し、夏~秋の間に20~30㎝までに成長し、秋になると茎全体が徐々に赤く色付いてきます。アッケシソウの色素は、同じヒユ科に属するテンサイ(サトウダイコン、ビートのこと)の根で合成される色素と同種のベタシアニンとのことです。
茎と枝が多肉質で節があり、秋になると赤く色付く、その姿が宝石サンゴを思わせることが「サンゴソウ」と呼ばれる所以です。

 

アッケシソウは花も咲かせます・
花期は真っ赤に色付く前、8~9月。節の境目に3個ずつ、非常に小さな白い花を咲かせます。私も写真でしか見たことがありませんが、言われなければ判らないくらい小さく、咲いているというより「数㎜の粒が飛び出している」ような見た目でしたが、一度、虫メガネを持参して観察してみたいものです。

 

ヨーロッパなどでは野菜として販売されており、私もフランス・パリのマーケットで見たことがあります。さっと塩ゆでしてサラダとして食することが多いようで、最近では日本でも販売されているそうです。海外では、シーアスパラガス(Sea Asparagus)、シービーンズ(Sea beans)、シーピクルス(Sea pickles)、サムファイアー(Samphire)、パスピエール(仏:Passe Pierre)など、呼び名は様々です。

 

アッケシソウは、環境庁のレッドデータブックでは絶滅危惧IB類に分類されています。
環境庁のレッドデータブックのHPによると、かつて本州の宮城県、四国の愛媛県や徳島県にも生育が確認されていたが、海岸開発が主原因で減少、絶滅してしまったとのことです。
初めて発見・採取された厚岸湖・牡蠣島でも地形が変化し、干潮時でも水没している状況になり、回復が見込めないことから平成6年に天然記念物指定が解除されたそうです。
そのようなアッケシソウを後世に残そうと厚岸町教育委員会文化財係が中心となり試験栽培地の造成を実施したり保護・増殖に取り組んできたそうです。
2016年からは、厚岸町海事記念館の前庭のプランターで土質や肥料などの条件を変えて試験栽培を行っているそうです。
厚岸町海事記念館のHPに保護育成活動が随時更新されており、観察日記のようで非常に面白いので、是非ご覧ください。

 

色付き始めのアッケシソウ(厚岸草:Salicornia europea)
アッケシソウ群生地である能取湖
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エゾイソツツジ(蝦夷磯躑躅:Ledum palustre ssp.diversipilosum)

先日、北海道・大雪山麓に引き続き「秋の乗鞍・上高地を撮る」に同行させていただき、お客様と乗鞍の紅葉や上高地の自然の撮影を満喫させていただきました。

 

本日はエゾイソツツジ(蝦夷磯躑躅:Ledum palustre ssp.diversipilosum)をご紹介します。

 

エゾイソツツジ(蝦夷磯躑躅:Ledum palustre ssp.diversipilosum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Leontopodium discolor
和名:蝦夷磯躑躅
別名:イソツツジ、変種カラフトイソツツジ(変種樺太磯躑躅)
科名:ツツジ科(Ericaceae)
属名:イソツツジ属(Ledum)

 

エゾイソツツジ(蝦夷磯躑躅)は、北海道、東北の高山帯に自生し、主に岩礫地や湿地などに自生します。資料によっては北海道固有というものあります。
私は現場で観察したことはありませんが、北海道では川湯温泉・硫黄山麓の群落が有名です。私は大雪山・旭岳の山麓でフワラーハイキングを楽しんだ際に観察したのを覚えています。

 

エゾイソツツジ(蝦夷磯躑躅)は、ツツジ科の常緑小低木で、樹高は30~100㎝ほどで自然環境(風の強弱など)によって樹高に差が生じるようです。
葉は長さが3~5㎝ほどで細長い披針形、少し厚みがあり、葉裏や若い枝の部分に茶褐色の毛が密集しているのも確認できます。

 

花期は6~7月。花の直径は1㎝ほどと小さく、花弁は5枚。10本の雄しべが5枚の花弁の中央から真っすぐに伸びているのが印象的ですが、雄しべの真ん中にのびる雌しべも印象的です。真っ白な雄しべの花糸に比べ、緑色の雌しべは子房(将来種子になる部分)がぷっくりと膨らみ、花柱と柱頭(花粉がつく部分)もハッキリと判る姿をしており、まるで花のつくりを紹介する図鑑のような花の構造をしています。
枝の先端に花を密集して咲かせ、直径5~7㎝ほどの球体(ぼんぼりのような姿)となります。

 

エゾイソツツジ(蝦夷磯躑躅)は、別名を変種カラフトイソツツジ(変種樺太磯躑躅)や、単に、イソツツジとも言います。 様々な資料で名前につく「イソ」は、エゾが誤って(転訛して)「イソ」となったと紹介されています。海岸で咲くからではありません。

 

以前、サハリンへ添乗させていただいた際、東北地方からシベリアまでに自生する常緑小低木「カラフトイソツツジ」とガイドさんが案内していたものを観察しました。
カラフトイソツツジを調べていると、エゾイソツツジと同じと説明している資料や、葉裏に白毛の多いものを変種エゾイソツツジと呼んでいたという資料もあり、そのあたりの違いが難しいところでした。今後、北海道へ行った際にその違いを伺い、結果報告をさせていただきます。

サハリンで観察した「カラフトイソツツジ(樺太磯躑躅)」

 

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キバナシャクナゲ(黄花石楠花:Rhododendron aureum)

北海道・旭岳で、その後に富士山でも初冠雪が観測されました。
先日北海道・旭岳に初冠雪直後に訪れ、チングルマの葉紅葉と共にうっすらと積もる雪や葉先が凍るハイマツ帯の風景を楽しむことができました。

 

本日はキバナシャクナゲ(黄花石楠花:Rhododendron aureum)をご紹介します。

 

キバナシャクナゲ(黄花石楠花:Rhododendron aureum)

 

被子植物 双子葉類
学名:Rhododendron aureum
和名:黄花石楠花
科名:ツツジ科(Ericaceae)
属名:ツツジ属(Rhododendron)

 

キバナシャクナゲ(黄花石楠花:Rhododendron aureum)は、高山帯の自生する常緑低木。
日本では北海道から中部地方にかけて分布し、北海道では標高1,000~2,000m、本州では2,500~3,000mに自生します。北海道は高緯度に位置していることから本州の3,000m級の山岳に匹敵する自然環境があるため、自生標高に差が生じます。
海外ではシベリアの東部、朝鮮半島北部、カラフト、千島列島、カムチャツカなどの寒冷地に広く分布します。
私は、木曽駒ケ岳の千畳敷カールから険しい岩山である宝剣岳を登頂後、別ルートを周遊するかたちで極楽平へ向かった際に大群落とはいきませんでしたが、たくさんのキバナシャクナゲを観察したのを覚えています。

 

樹高は20~100㎝、風の強い稜線などに自生するものは枝が地面をはう様に広がるため樹高が低くなり、風の弱い山腹に自生するものは枝が斜上するため樹高が少し高くなります。エリア、自然環境によって樹高に差が生じます。今回掲載した写真は弊社森田が北海道の大雪山系・銀泉台で観察したもののため、樹高が低くなっています。

 

葉は長さが5㎝ほどで厚みがあり、細長い楕円形をし、少し光沢が確認できます。葉は無毛で、葉の縁が葉裏に向かって少し巻き込んでいるのが特徴的です。

 

花期は6~7月。「キバナシャクナゲ」という名前ですが、白色に近い淡黄白色をしており、花は直径3~4㎝ほどで漏斗型で5中裂し、枝先に2~5個ほど密集して花をつけます。
上写真でも判る通り、花冠の基部付近に茶色い斑点が多数確認できます(私も気に掛けたことがなかったので、次回観察の際には確認してみたいと思います)。
10本の雄しべが花弁から突き出ており、雌しべの子房に少し毛が生えているのが確認できます。
キバナシャクナゲという名の通り、黄色となるのは開花前のつぼみの状態のときだけです。
花の終わりには赤みがさし、花後には長さ1.5㎝ほどの蒴果を付けます。

 

「しゃくなげ」という名の由来は、枝が曲がっていて真っ直ぐな部分が1尺(約30.3cm)にもならないことから「シャクナシ」、これがなまった言葉が「しゃくなげ」となったという説が有力と言われています。

シャクナゲと言えば、真っ先にネパールやブータンを思い出しますが、今回キバナシャクナゲのブログを作成しているうちに、日本でゆっくりシャクナゲを観察してみたいと感じました。

キバナシャクナゲ(黄花石楠花)の群落