027

ラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)

本日はスペインのピレネー山脈のフランス側・ガヴァルニー圏谷で観察した「ラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)」をご紹介します。

ラモンダ・ミコニ/オニイワタバコ
(Ramonda myconi)

被子植物 双子葉類
学名:ラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)
和名:オニイワタバコ  現地名:ピレネー・イワタバコ
科名:イワタバコ科(Geseneriaceae) 属名:ラモンダ属(Ramonda)

 

ラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)はイワタバコ科の可憐な花で、原産地はスペインとフランスの国境に聳えるピレネー山脈です。
石灰質の岩場、礫岩の割れ目など、若干湿気の多い場所に自生し、時折思いがけない岩場の斜面などにも咲いているのが観察できます。

 

花弁は紫色(青紫色)は5枚で深く避けており、中央部の黄色い雄しべの部分との色合いが何とも印象的な花です。

草丈は10~15㎝、葉は卵型でロゼット状(地表に葉を平らに並べたように広がる状態)に広がり、葉の縁がギザギザした鋸歯で、表面にうっすらと毛が生えているのが観察できます。

 

イワタバコという名は、葉の形がタバコの葉に似ていることから名付けられました。
イワタバコの葉は昔から胃腸薬などの薬に利用されていました。ピレネー山脈のスペイン側のガイドからは、呼吸器疾患の薬としても重宝されていたという話を聞いた記憶があります。
また、このブログのために調べものをしていると、春のイワタバコの若葉はお浸しや和え物、天ぷらなどの山菜として好まれているという情報もあり、個人的に興味の沸く情報でした。

 

イワタバコ科の花は日本の山やハイキングルートでも観察できますが、ピレネー山脈が原産のラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)も是非ピレネー山脈で観察していただきた花です。
清水が滴り落ちる岩場に咲くラモンダ・ミコニ(Ramonda myconi)の姿は、花好きの方々の心を奪う、思わず足を止めてゆっくりと観察したくなる可憐な花です。

ラモンダ・ミコニ/オニイワタバコ
(Ramonda myconi)
026

コマクサ(Dicentra peregrina)~高山植物の女王

先日、兵庫県の六甲高山植物園に「青いケシ」の観察へ出掛けました。
残念ながら見頃を過ぎていましたが、数輪のケシを観察することができ、その他フウロソウやマツムシソウ、タカネナデシコなどがキレイに咲いており、シモツケソウが非常に印象深い色合いで咲いていました。また、リシリヒナゲシなど思いがけない花にも出会え、思わず興奮しました。
奥さんと、また現場で偶然一緒になった同僚の島田(山ツアー担当)と共に花の観察を楽しむ良い休暇となりました。

 

本日は、六甲高山植物園で観察した「コマクサ(Dicentra peregrina)」をご紹介します。

コマクサ(Dicentra peregrina)

被子植物 双子葉類
学名:Dicentra peregrina 和名:コマクサ/駒草
科名:ケシ科(Papaveraceae)  属名:コマクサ属(Dicentra)

 

高さは約5~10㎝、花の径は約2~3㎝、葉は根生葉(地面に広がって立ち上がっていない葉)で細かく裂けており、白く粉を帯びます。
花弁は4個で外側と内側に2個ずつついており、外側の花弁は下部が大きくふくらみ、先端が反り返り、内側の花弁はやや小さく、中央がくびれる独特な形状ですが「高山植物の女王」という通り、艶やかなピンク色の花を咲かせます。
花の形が馬(駒)の顔に似ていることから「コマクサ(駒草)」名付けられたと言われています。
驚く点は「コマクサの根」です。他の植物が生育できないような厳しい環境(砂礫地など)で育つため、可憐に咲く小さな花から想像できない50~100 cmの長い根を張るというから驚きです。

 

コマクサの花は、千島列島・樺太・カムチャッカ半島・シベリア東部の東北アジアと日本の北海道から中部地方の高山帯の風衝岩屑斜面などの砂礫帯に分布しています。日本各地でコマクサの咲くポイントはありますが、私は「コマクサといえば燕岳」が強くイメージとして残っていますが、皆さんはいかがでしょうか。

 

以前、日本国内の添乗員をしている頃、昔は御岳山の登山者に一株一銭でコマクサが売られていたことから「一銭草」と呼ばれていたという話をバスガイドさんから聞いたことを今でも覚えています(記憶違いでしたら、申し訳ありません)。

 

久々に観察したコマクサの花は、やはり心惹かれる可憐な花でした。たまには日本でも花の観察を楽しみたいと改めて感じた1日でした。
今後、日本で観察した花もこの「世界の花だより」で紹介させていただきます。

025

サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)

夏も近づき、いよいよ高山植物のシーズンがやってきました。
北半球では、高山植物と言えば7月というイメージですが、ヨーロッパのピレネー山脈は、アルプス山脈より1ヶ月ほど早い6月に花の見頃を迎えます。

 

本日は、固有種の多いピレネー山脈で観察した花の中で最も衝撃を受けた花であるユキノシタ科の一種の「サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)」をご紹介します。

サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)

被子植物 双子葉類
学名:サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)
英名:King’s crown(王冠)
科名:ユキノシタ科(Saxifragaceae)  属名:ユキノシタ属(Saxifraga)

 

ユキノシタ科の仲間は、非常に大きなグループで400種以上もあると言われています。その多くがアジア、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、アフリカに分布し、とくに高山地帯の岩場に生育します。

 

今回ご紹介する「サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)」は、スペインでは王冠を意味する「コロナ・デ・レイ(Corona de rey)」と呼ばれているそうです。

 

スペインとフランスの国境に跨るピレネー山脈やスペイン東部の山々に生育し、ピレネー山脈では標高700~2,400mあたりの石灰岩の渓谷や、険しい断崖で観察することができるピレネーの固有種です(資料によって北アフリカのアトラス山脈でも自生するというものもありますが・・・)。

 

葉の長さは3~8㎝、幅は3~8㎜でロゼット状(地表に葉を平らに並べたように広がる状態)に広がります。
花茎の長さは30~50㎝もあり、大きな円錐花序(花序の軸が数回分枝し、最終の枝が総状花序となり、全体が円錐形をしている状態)に直径1cmほどの小さな白色の花を多数つけます。大きいものでは何と500以上の花を付けるものもあります。

サキシフラガ・ロンギフォリアの花

 

ハイキングやドライブをしながら、岩場の斜面などでサキシフラガ・ロンギフォリアを見つけた時は「岩場にイソギンチャクが貼りついている」と思ってしまう形状です。

 

このサキシフラガ・ロンギフォリアの形状以外に驚くべき点がもう1つあります。
何と開花までに5~7年(稀に2~3年)を要し、一度花を咲かせ種子が形成されてしまうと枯死してしまうのです。開花後。枯死する前に匍匐枝(ほふくけい:地上近くを這って伸びる茎のこと)が伸びて新苗を生じるようです。

 

そのため、ピレネー山脈に訪れても、場合によってはこのサキシフラガ・ロンギフォリアを観察できないかもしれません。
私が訪れた時は、現地ガイドさん曰く「当たり年」だったようで、道中の岩場の斜面の至るところに咲いていたため、5~7年に一度しか咲かないという案内が信じられませんでした。

ピレネー山脈は、ヨーロッパアルプスにはない固有種の宝庫。フラワーハイキングをしているだけで楽しい場所で、興味の尽きることのない楽園です。ユキノシタ科の花も今回紹介したサキシフラガ・ロンギフォリアだけではなく、たくさんの種類を観察することができます。
ピレネーの固有種やユキノシタ科の花は・・・また後日紹介させていただきます。

サキシフラガ・ロンギフォリア(Saxifraga longifolia)②
024

青いケシ「メコノプシス・ホリドゥラ」(Meconopsis horridula)

先日、我が家の最寄駅で六甲高山植物園の「ヒマラヤの青いケシ展」の広告看板が目に留まりました。ゴールデンウィーク明けから開催されており、6月23日(日)までのようです。ロックガーデンには、高山植物の女王として知られるコマクサやエーデルワイスなども観察できるそうです。週末に行ってみようと思います。

 

今回は青いケシの花の1種である「メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)」の花をご紹介します。

青いケシの花「メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)」

被子植物 双子葉類
学名:メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)
英名:Prickly Blue poppy
科名:ケシ科(Papaveraceae)  属名:メコノプシス属(Meconopsis)

 

青いケシの「メコノプシス属(Meconopsis)」は、ヒマラヤの高山地帯(パキスタン、インド北部、ネパール、ブータン、チベット自治区)、中国の高山帯(青海省、甘粛省、四川省、雲南省)などに分布をする一年生もしくは多年生の花です。
イギリスに野生のメコノプシス属が一種あるそうです。

 

属名のメコノプシス(Meconopsis)は、ギリシャ語が由来、「mekon(けし) + opsis(似る)」が語源とされています。
葉は互生で、萼片は2~3枚、花弁は4~5枚、多いもので16枚という種もあります。
花は横から下を向き、強い光を受けると花弁のしわがのびて全開すると言われています。
花の色は多彩で、黄色、青、青紫、赤、淡紅、白色などがあり、気候条件などにより色が変化するそうです。

 

メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)は、ヒマラヤなどの標高4,000mを越えた地域に自生します。ある資料には標高7,000mでも観察された記録があるそうです。
長さが7~10㎜に達する棘毛が密生し、硬質で折れにくい。葉は長円状で、短い柄を含めて2~10㎝、花は直径2~5㎝で、全体の高さは3.5~30㎝です。花は一株に5~20個も付けます。

 

先程、天候によって色の変化が生じると記載しましたが、このメコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)も日照の強い場所に自生するものは色が濃く、花期に降雪や氷結に見舞われると紫紅色に変化します。

 

私がこのメコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)を初めて観察したのは、大阪の鶴見緑地でした。1990年に開催された国際花と緑の博覧会のブータン館でした。ブータンでは国の花に指定されています。
その時はあまり目に留まらなかったのですが、その後、海外添乗に出るようになり、中国の四姑娘山の山麓やインド・ザンスカール、ブータンなど、様々な場所で観察することができました。

 

約50種にも及ぶメコノプシス属の花ですが、「青いケシ」と言えばどの種なのでしょうか。私の認識では、今回ご紹介した「メコノプシス・ホリドゥラ(Meconopsis horridula)」でした。色々と調べると「幻の青いケシ」などと紹介もされていました。

ただ、別種のメコノプシス・ベトニキフォリア(Meconopsis betonicifolia )は「Himalayan blue poppy」と称され「ヒマヤラの青いケシ」と紹介されています(主産地は中国雲南省の高山地帯のようです)。
その他、メコノプシス・グランディス(Meconopsis grandis)は、主産地がヒマラヤで中国には産しないので「ヒマヤラの青いケシ」の名にふさわしい、という資料もありました。
ただ、どの種も気象状況により色合いの変化はみられるようです。

 

調べるうちに頭が混乱することもありましたが、やはり各地、各国の高山地帯で青いケシに出会った時は、どのような状況下でも、高山病が吹っ飛び、笑顔になります。ようやく出会えた喜びとともに、日の光を浴びた際、薄い花びらが透きとおる青色(薄紅色など)が、何とも言えない美しい姿を見せてくれます。

この夏は青いケシを求めて、中国・四姑娘山の山麓やブータンの高山地帯などへ訪れてみませんか?

美しい青いケシ(メコノプシス属)