カテゴリー別アーカイブ: 日本の野鳥 Birds of Japan

天売島の人気者、ケイマフリの魅力

2023年の夏を天売島で過ごした姫野からのレポートです ♪

天売島で不動の人気を誇る海鳥と言えば、ケイマフリです。もともと、アイヌの言葉で足の赤いを意味するケマフレという単語から、和名もケイマフリとなりました。その名の通り、足が赤いだけでなく、口の中も同じ赤色であるため、岩場で足を見せながら口を開けて求愛する姿を観察した方はその美しさに必ずというほど魅了されます!

天売島に生息する他のウミスズメ科の鳥に比べ飛び立ちも上手なため、水面から飛び立つ時は、水面を走るようにしながら助走をつけます。(そのほかの2種ウトウ、ウミガラスは、水面で羽ばたきながら半分泳ぐようにして助走をします)

その際に見られる、天売ブルーと呼ばれる海の色とケイマフリの赤い足の輝きは非常に美しく、これを見るためだけに天売島へいらっしゃる方も。

繁殖期後期の6月後半ごろからは餌をヒナに咥えて持ち帰る姿も観察できます。

イカナゴやギンポの仲間など、多様な餌を運ぶ姿も大変魅力的です。

ケイマフリの魅力に魅せられた天売島在住の写真家・寺沢孝毅さんはケイマフリという名前の日本酒を作られたり、ご自身の船にもケイマフリを描くほどです。

皆さんもぜひ、ケイマフリに会いに天売島にお越しください。

 

Image & text: Wataru HIMENO

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天売島(北海道)の夜の生き物 

2023年の夏を天売島で過ごした姫野のレポートです ♪

天売島は北緯44度に位置するため、春から夏にかけての日照時間が長く空が完全に暗くなるのは21時ごろです。朝も3時ごろには明るくなり始めるため、夜行性の生き物たちは短い夜を世話しなく生きています。

夜行性の生き物と言えばフクロウの仲間。2023年度は、トラフズク (Long-eared Owl) の繁殖が確認できました。

トラフズク (Long-eared Owl)

春先には、3羽のヒナを確認しましたが、7月の前半からは2羽しか確認できなくなってしまいました。自然の厳しさを実感です。

日本のキーウイ(Kiwi) こと ヤマシギ (Eurasian Woodcock) も天売島には生息しています。ニュージーランドに生息するキーウイ同様、夜行性で地表近くに生息するミミズなどを捕食しますが、ヤマシギは空を飛べますので生息範囲が広いのが特徴です。また、嘴に多数の穴が開いていて、神経が通っているため、地面に差し込んだ嘴で獲物の動きなども感知できるそうです。

ヤマシギ (Eurasian Woodcock)

ヤマシギ (Eurasian Woodcock)

ヤマシギ (Eurasian Woodcock)

また、暖かい日の夜は天売島に生息する唯一のヘビ、マムシ (Japanese Mamushi Viper, Japanese pit viper) も活発になります。

マムシ (Japanese Mamushi Viper, Japanese pit viper)

夜行性のヘビとして紹介されることも多いですが、天売島では春先などの肌寒い季節にはお昼の時間帯により活発に活動している印象を受けました。爬虫類でありながら、卵ではなく子供を直接産む卵胎生であるため、春先の一日の温度差の激しい天売島で効率的に繁殖し、この島で生息する唯一のヘビになったのではないかと思います。

マムシは、日本では最も有名な毒蛇で、「マムシ=危険」というイメージが根強く車などでも轢かないように運転する意識も、他の生き物に比べて低いためか、シーズン中には幾度となく車にひかれて亡くなったであろう個体を見かけました。

マムシ (Japanese Mamushi Viper, Japanese pit viper)

天売島に生息する唯一の両生類、ニホンアマガエル (Japanese tree frog) も夜になると活動を始めます。

ニホンアマガエル (Japanese tree frog)

周囲12kmほどの小さな島であるため、安定した淡水の水場が少なく、常に水が必要な両生類の生息できる環境は非常に限られていますが、廃船にたまった雨水やわずかな湧き水の水たまりなど、海岸からほど近い場所にも関わらず数多くの個体が繁殖しています。

また夜の観察後には、きれいな星空が広がっていることも。晴れさえすれば、ほぼ確実に流れ星も確認できます。

夜の前浜港

天売にいらっしゃった際は、最後に夜空も見上げてみてください。

Image & Text: Wataru HIMENO
Observations at Teuri Island in Summer 2023

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天売島2023・ウミガラス観察近況

オロロン鳥ことウミガラス Common guillemot の日本で唯一の繁殖地となっている天売島では、今年もウミガラスが餌を巣に持ち帰る姿が確認されました。餌を持ち帰るということは、ヒナが順調に生まれているということです、非常にうれしいですね!初めて確認をしたのは7月8日になりますので、ウミガラスの繁殖時期は例年通りのようです。

また、今年は繁殖地になっている洞窟では、デコイと本物のウミガラスを合わせて非常に窮屈になっており、まるで東京の満員電車のようです。

その為か、今年は7月に入ってから繁殖地の洞窟とは別に赤岩本体にも止まっている個体が頻繁に確認されています。

赤岩では、ヒメウ Pelagic cormorant も繁殖しており、隣の窪みに沢山集まっていました。この場所は陸上からは確認できない場所にあるため観察ができるのは、海鳥観察用の船の上からだけになります。

ウミガラスが集団で飛んでいる姿や、50羽ほどで海に浮いている姿も確認できていますのでウミガラスの観察は良好です。

群れで飛ぶウミガラス

群れで浮かぶウミガラス

一時は13羽まで減ってしまったウミガラスですが、個体数は順調に増えています。ただ、今年も繁殖場所は1か所のみと、繁殖場所の増加は確認されておりません。1か所だけだと天敵が現れるなど何かあった際に個体数が激減してしまうことも懸念されますので、次は繁殖場所が増えていってくれることを祈ります。

 

Photo & text : Wataru HIMENO

Observation : May-Jul 2023, Teuri Island, Hokkaido

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天売島で人気のウミスズメ科の鳥3種類(ケイマフリ、ウミガラス、ウトウ)共通の特徴

天売島を訪れるバーダーの間で人気があるウミスズメ科の鳥たち3種類、ケイマフリ(Spectacled guillemot)、ウミガラス(Common guillemot)、ウトウ(Rhinoceros Auklet)の共通の特徴をご紹介します!

 

①魚は咥えたまま運びます

天売島では、80万羽生息するウトウが一斉に夕方帰巣する様子を観察するナイトツアーがシーズン中(4月ごろ~7月いっぱいくらいまで)が毎夕行われています。観察のメインとなるのはヒナに与えるために大きな魚を咥えてくる様子です。これは、ウミスズメ科に共通する特徴で、水の中で泳ぎながら獲物を飲み込むことのできる彼らは一度飲み込んだ獲物を吐き出してヒナに与えることが出来ません。そのため、大きな餌を咥えたまま飛び、巣まで持って帰ってきます。

魚を銜えて飛ぶウミガラス。

中でもウトウはヒナに餌を与えるタイミングが夕方の一斉に帰巣をする1日1回のみのため、銜えてくる魚の数がとても多いのです!

 

②羽が短く、飛び立つには助走が必要です

ウミスズメ科の鳥たちは海での潜水の際、水中でも羽ばたくようにして泳ぎます。その為、水中で抵抗にならないよう同じ大きさの他の鳥たちに比べて羽が短く、小さくなっています。

ケイマフリの羽。

ウトウの羽の大きさと、天敵・ウミネコの羽の大きさを比べると一目瞭然です。

このため翔能力も高くなく、空中では羽ばたく回数が同じ大きさの鳥に比べて非常に多いのが特徴です。また、海に浮いている状態から大空へ飛び立つ為には勢いをつけるため助走が必要です。

中でも助走の際に赤い足の輝くケイマフリの姿は、非常に美しいです。目の前で、ケイマフリの飛び立ちを観察できるのは海鳥観察用の小型ボート「ケイマフリ号」の早朝クルーズだけです。天売島にいらっしゃった際はぜひこの美しさを体感してください!

「ケイマフリ号」から海鳥を至近距離で撮影。「ケイマフリ号」は海鳥撮影に最適のボートです。

”天売ブルー”の海に浮かぶケイマフリ号。

 

Photo & text : Wataru HIMENO

Observation : May-Jul 2023, Teuri Islaand, Hokkaido

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海鳥の聖域・天売島で繁殖する海鳥たち(北海道)

2023年の初夏を天売島で過ごした姫野より、まさに「海鳥の聖域」と呼ぶにふさわしい天売島で繁殖する海鳥たちを紹介いたします。

ウミガラス(オロロン鳥)英名:Common murre, Common guillemot

足が体の後方にあるためペンギンのような見た目が特徴的です。日本国内では天売島の赤岩近くにある崖の洞窟1か所のみで繁殖します。繁殖場所の洞窟を観察できるのは海上からのみになりますが、赤岩展望台などから海上に浮かぶ姿も確認できることもあります。2002年には13羽まで数を減らしましたが、今では100羽を超え、数は増加傾向です♪♪

ウミガラス

ウミガラス

 

ケイマフリ 英名:Spectacled guillemot

赤い足と赤い口の中がとってもキュートなケイマフリは、天売島南西~北側にかけて広がる崖の隙間で繁殖します。水面を走るように助走をつけて飛び立つ瞬間は、天売ブルーと呼ばれる海の色とケイマフリの真っ赤な足が最も美しく輝く瞬間の一つです。早朝の海鳥観察用小型ボートのケイマフリ号では、すぐ目の前で観察できます。

赤い足で海面を蹴って助走するケイマフリ

赤岩展望台より

 

ウトウ 英名:Rhinoceros auklet

英名のrhinocerosは、サイを意味しその名の通り天売島にやってくる4月~7月の繁殖期の時期にのみサイの角のような突起物が現れます。天売島では、現在80万~100万羽ほど繁殖をしているといわれており、夕方日暮れと共に一斉に帰巣する姿は圧巻です。鳥の仲間では珍しく、陸上に穴を掘って巣を作るため、帰巣の際には比較的近くで観察できるのも魅力の一つです。

夕日の中、帰巣するウトウ

雛に魚を運ぶウトウ

 

ウミスズメ 英名:Ancient murrelet

天売島では、毎年5月下旬から6月上旬にかけて海鳥観察用小型ボートのケイマフリ号から姿が確認されています。多いときは10羽ほどの群れを形成し、動物プランクトンなどを捕食しています。潜水頻度も高く体も小さいため、波のうねりが高い日の観察は非常に難しいです。日本国内での繁殖は天売島のみと言われています。

ウミスズメ

ウミスズメ

 

ヒメウ 英名:Pelagic Cormorant

普段は外洋に生活するウの仲間で、天売島にやってくる繁殖期は全身の羽が非常にきれいな光沢を纏い、嘴の根元は赤く染まります。非常に細かい巣材を唾液や泥を使って固めながら、崖のちょっとしたでっぱりや窪みに巣を作ることが出来るため、哺乳類などの天敵は巣に近づくことが出来ません。

ヒメウの巣 モフモフの雛の姿も

巣材を運ぶヒメウ

 

ウミウ 英名:Japanese cormorant

日本全土に広く分布するウの仲間。繁殖期には、頭の周りが白くなります。ウの仲間は視界の悪くなる水中深くに潜って狩りを行うため、暗視時に見やすい青色の瞳をしています。水中で泳ぎやすいように体表の油分が少なく、泳いだ後は体を乾かすために岩場で羽を広げる姿が観察できます。

ウミウ

ウミウ

 

ウミネコ 英名:Black-tailed gull

黄色い足と黒い帯の入った尻尾が特徴のカモメの仲間。天売島では近年、急激に数を増やしており推定巣数は2年前(2021年)の約2倍にあたる5000個(2023年)ほどと推定されています。ウミネコの一大繁殖地になっている黒崎海岸は、フンで黒い岩が真っ白になったため「白崎海岸」と呼ばれるほどです。

ウミネコ

ウミネコ

 

オオセグロカモメ 英名:Slaty-backed gull

ピンク色の足と真っ白な尻尾が特徴の大型のカモメ。天売島では生物ピラミットの頂点に君臨する生き物で、体長38cmほどのウトウの成鳥をも丸飲みします。その他、ウミネコの雛、マムシ、ウニなども大好物で町中にウニの殻が落ちていたらこのオオセグロカモメが食べた残骸であることが多いです。

ウニを食べるオオセグロカモメ

このオオセグロカモメ、ウトウを丸飲みした直後で、口から翼があふれ、胸がウトウで膨れています!!

 

Photo & report  : Wataru HIMENO

Observation : May-Jul 2023, Teuri Island, Hokkaido, Japan

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天売島「海鳥塾」 海鳥のこと、環境のこと

天売島 海鳥塾  (2)

2021年の7月上旬、天売島の自然写真家・寺沢孝毅さんの案内で4日間の「天売島・海鳥塾」を実施しました。これまでも西遊旅行では天売島を目的とするツアーを行ってきましたが、4日間天売島のみに滞在し、海鳥のこと、環境・海洋ごみ問題、島の暮らしに触れる旅は初めての企画です。

4日間どうなるか心配なところもありましたが、お天気にも味方され、朝・夕のケイマフリ号からの海鳥観察、ウトウの帰巣の様子、フットパス・ウォーク、海岸清掃、漁船での釣り、島の海の幸炭火焼、寺沢さんの海鳥レクチャーと盛りだくさんでした。

ケイマフリ Spectacled guillemot 天売島 Teuri Island 海の宇宙館 ケイマフリ号 (7)

ケイマフリもたっぷり観察。 >ケイマフリの観察レポートはこちら

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (11)

オロロン鳥ことウミガラスも観察。今年は80羽を越えてるそうです。 >ウミガラス観察レポートはこちら

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (15)

ウトウもしっかり観察。今年の繁殖は、栄養価の高い魚が獲れず雛が育たなかったため危機的な状況となってしまいました。一羽でも多く巣立つことを祈るばかりです。

>ウトウの帰巣のレポートはこちら  >岩に乗るウトウのレポートはこちら

ウニ漁とウトウ 天売島 海鳥塾 (1)

この季節はムラサキウニ漁が行われています。風のない、ベタ凪の日はウニ漁船が朝6時30分に一斉に出漁します。ウトウ、ケイマフリとウニ漁船、天売島らしい風景です。

天売島 海鳥塾  (7)

これはウミネコの幼鳥を食べるオオセグロカモメです。ウミネコ繁殖地で観察していたとき、ウミネコがハシブトガラスに警戒して騒ぎ出したすきを狙ってオオセグロカモメが幼鳥を襲いました。つつかれて、やがて動かなる幼鳥。ここまで育ったのに・・・残念ですが、こうやってオオセグロカモメの命が繋がれていいます。小型の海鳥の繁殖地ではハシブトガラスやオオセグロカモメの捕食圧が気になりました。

天売島 海鳥塾  (1)

地元の漁師さんにお世話になり、水深15mほどの砂地でヒラメを狙いました。40分ほどで大きいヒラメ一匹とカレイを3匹を釣りましたが、このヒラメは5キロあり30人分のお刺身が取れます。

天売島 海鳥塾  (3)

すぐにうろこを取り、鰓を処理して締めます。取ります。スーパーの「ヒラメの刺身」しか知らない我々には、生息域から釣り上げて、締めて、解体して切り身になるまでの行程を学ぶことになりました。

天売島 海鳥塾  (4)

「天売島おらが島活性化会議」の協力も得て海岸清掃をしました。ネットや縄は岩の間に入り込んで取り出すのが大変です。次回はもっと準備して取り組もうと思いました。

天売島 海鳥塾

さえずるケイマフリ、ケイマフリが大好きな岩場にもゴミが。まずは、海鳥が繁殖する岩場のロープやネットを取り除きたいです。海に出たときに浮いているゴミも取りましたが、やはり細かくなったプラスチック<マイクロプラスチック>が浮遊していました。

天売島 海鳥塾  (2)

そして最後の夜は、「天売島おらが島活性化会議」による天売島の海の幸の炭火焼きを、「宇宙館」の庭でセッティングしてくださいました。採れたばかりの天売島のムラサキウニです。

天売島 海鳥塾  (1)

天売島の甘えびです。天売島の沖に日本海で有数の甘えびの漁場があります。お刺身と炭火、エビ汁でいただきました。

天売島 海鳥塾  (3)

いよいよ炭火焼です。天売島のホタテ貝、天売島の水だこの頭、ムラサキウニ。さらに焼尻島の「幻のめん羊サフォーク」の塩焼きとジンギスカンも加わり、天売島の食体験、すごすぎました。

天売島 海鳥塾  (4)

夕食後、島の宿・大一からの夕景を堪能。利尻富士が美しく見えました。

天売島 海鳥塾  (5)

そして天売港からの星天。

天売島 海鳥塾  (8)

たくさんの思い出と経験をいただき、天売島をあとにしました。

「宇宙館」と寺沢孝毅さん、「島の宿・大一」のみなさん、「天売島おらが島活性化会議」と島のみなさまに心より感謝です!!

 

Text : Mariko SAWADA

Photo : Mariko SAWADA, Wataru HIMENO

Observation : July 2021, Teuri Island, Hokkaido

Special Thanks : 自然写真家・寺沢孝毅さん

岩礁のウトウ(天売島)

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (5)

7月上旬に行った、天売島在住の自然写真家・寺沢孝毅さんによる「天売島海鳥塾」。朝、寺沢さん操船するケイマフリ号で海へ。赤岩の付近にウトウが上りたがる岩礁があります。

ウトウは北日本沿岸から千島列島、アリューシャン列島、アラスカ州まで北太平洋沿岸に広く分布するとされていますが、これらの地域でウトウを見るのはそんなに簡単ではありません。意外と見れる場所は少ないのです。

天売島はウトウの世界最大の繁殖地であり、繁殖中の「ツノ」がある成鳥を見られる(しかも簡単に)、世界でも貴重な場所です。

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (3)

このウトウの「ツノ」は英名がRhinoceros Aukletと「サイの角」の名がつくように、「ツノ」のような突起が繁殖期に現れます。幼鳥や非繁殖羽ではこの突起が見られません。初めてウトウを見たとき(根室海峡のマッコウクジラのクルーズ中でした)、それはそれは興奮しました。

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (8)

赤岩の付近に潮の干満で現れる岩礁があります。なぜかこの岩礁に乗ろうとし、何やら社会的アクティビティが行われているように見えるのです。中には登ってくる個体を妨害するものも。

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (1)

会話をしているかのような4羽。

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (7)

アクション。

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (11)

仲がいい?

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (12)

これも仲がいい??

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (13)

この2羽はペアですね!

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (10)

ずっと見ていられるほどおもしろいウトウの行動です。ウトウにとって大切な場所なのでしょう。

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography

赤岩の展望台から見たらこんな感じです。確実に、岩の周りにウトウが集まっています。

天売島 ウトウ ケイマフリ号 Rhinoceros Auklet Teuri Island Bird Photography (15)

観察していたら、突然、一斉に飛び立って行きました。とてもウトウの面白い行動を観察できた朝でした。2021年の繁殖状況が大変心配されるウトウ、一羽でも多くの雛が巣立つことを祈ります。

 

Text & Photo : Mariko SAWADA

Observation : July 2021, Teuri Island, Hokkaido

Special Thanks : 自然写真家・寺沢孝毅さん

夕景の天売島とウトウの帰巣

天売島 ウトウの帰巣 ウトウ Rhinoceros Auklet Teuri Island Sunset 天売島の夕陽 (2)

7月上旬に行った、天売島在住の自然写真家・寺沢孝毅さんによる「天売島海鳥塾」。この日の夕方は雲がありましたが、風がなくベタ凪。わずかに夕陽に期待してケイマフリ号で海へ出ました。やさしい太陽の光の中をウトウが群れを作って飛びます。

天売島 ウトウの帰巣 ウトウ Rhinoceros Auklet Teuri Island Sunset 天売島の夕陽 (3)

水面ぎりぎりを飛翔するウトウ。日没前に繁殖地の崖の下の海に集まり、帰巣のタイミングを待ちます。

天売島 ウトウの帰巣 ウトウ Rhinoceros Auklet Teuri Island Sunset 天売島の夕陽 (6)

ウトウがどんどん集まっています。

天売島 ウトウの帰巣 ウトウ Rhinoceros Auklet Teuri Island Sunset 天売島の夕陽 (1)

でも、いつもと様子が違うのです。お魚をくわえたウトウがほとんどいません。通常だと、巣にいる雛に与える魚をくちばし一杯にくわえて海面で待機したり、飛んでいるのに。

「今日は不漁?」と聞くと、寺沢さんが「毎日が不漁。もう雛の半分は餓死しているだろう。」と。

天売島 ウトウの帰巣 ウトウ Rhinoceros Auklet Teuri Island Sunset 天売島の夕陽 (8)

つらい現実です。繁殖の初期から栄養価の高い魚を親鳥が運ぶことができず、雛たちは餓死。巣穴付近で見た雛の死体も、この巣立ちを迎える季節なのにまだ小さく、栄養が足りてないことを物語っていました。

美しい天売の空を飛ぶウトウの姿、もう待つ雛がいない親鳥が多いのでしょう。

天売島 ウトウの帰巣 Rhinoceros Auklet Teuri Island (2)

翌日の夕方は赤岩の展望台でウトウの帰巣を待ちました。

天売島 ウトウの帰巣 Rhinoceros Auklet Teuri Island (1)

陽が沈むとウトウが鳴きながら巣に戻ってきました。やはり魚を持って帰るウトウの数は多くなく、魚を持っているウトウが見られると「がんばったね!」と、観察する人たちの間から声が上がりました。

天売島 ウトウの帰巣 Rhinoceros Auklet Teuri Island

ようやくお魚をくわえたウトウを近くで発見。例年だと、魚をくわえた親鳥が着地すると、それを横取りする他のウトウがやってくるのですが、今年はその光景もありませんでした。それほどに、雛がいないのです。

寺沢さんによると、過去にもこういうことはあったそうです。何とか一羽でも多く巣立つことを祈るばかりです。

どうして今年は魚がいないのか、海水温上昇のためなのか、潮の流れが変わったのか、どこかで誰かが獲っているのか。天売島は世界最大のウトウの繁殖地です。この天売島で繁殖ができなくなったらウトウはどうなってしまうのでしょう。気候など、私たちにどうしようもないことが原因かもしれませんが、これ以上の要因がないように、何かできることはないのか考えさせられました。

 

Text : Mariko SAWADA

Photo : Mariko SAWADA, Wataru HIMENO

Observation : July 2021, Teuri Island, Hokkaido

Special Thanks : 自然写真家・寺沢孝毅さん

ウミガラス – 天売島のオロロン鳥

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (18)

7月上旬に行った、天売島在住の自然写真家・寺沢孝毅さんによる「天売島海鳥塾」。朝、寺沢さん操船するケイマフリ号で海へ。赤岩の付近の岸壁に「ウミガラス」繁殖地があります。

サハリンのチュレニー島、千島列島、カムチャッカ半島から北極海の海にかけて広い地域で見られるウミガラス。日本国内では、以前は北海道の離島の松前小島、ユルリ島、モユルリ島にも繁殖地コロニーがありましたが、現在は天売島だけになりました。日本でたった一つのウミガラスの繁殖地なのです。

天売島へは、1960年代には8000羽のウミガラスが繁殖のために飛来していましたが、1970年代には500~1000羽、1980年代には130~600羽、1990年代は20羽~80羽、2000年代以降は30羽前後にまで減ってしまいました。

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (14)

ウミガラスの復活を目指して、1990年からデコイが設置されました。集団で繁殖する習性を利用した誘い込み作戦です。

写真はケイマフリ号から見上げたデコイの設置場所=ウミガラスの繁殖地です。左の方の穴にはデコイしかありませんが、右の方の穴にはデコイと本物のウミガラスで密になっています。

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (16)

手前の「羽毛」感があるのが本物のウミガラス。ツルっとしているのがデコイです。

ここでは繁殖個体を誘引するためにウミガラスの鳴き声をスピーカーで流しています(あまり「オロローン」とは聞こえませんが)。

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (19)

ウミガラスはどうしてこんなに減ってしまったのでしょう。1960年~70年にかけて行われたサケ・マス流し網漁などによる混獲がひとつの原因と言われています。この流し漁網に潜水するウミガラスが多数かかってしまいました。その他、大型で雑食のハシブトガラスやオオセグロカモメによる捕食圧、主食となる魚の減少(これも原因解明が難しい)などが推測されます。

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (17)

最近は個体数が少しづつ増加傾向にあり、2017年は56羽、2018年は58羽、2019年は62羽が飛来し、2021年は80羽ほどではないかとのことでした。実際に、2018年に訪問した時と比べてもしっかり観察できました。

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (12)

岩に乗っているウミガラスです!!ウトウもそばに浮かんでいて幸せな光景。

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (11)

4羽のウミガラス。

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (10)

水面を蹴るウミガラス。

オロロン鳥 ウミガラス 天売島 ウミガラス繁殖地 Common Murre Common Guillemot Teuri island (11)

ウミガラスの飛翔。

ウミガラスがケイマフリと一緒に飛んでいる 天売島

ケイマフリに混ざって飛んでいるウミガラス。

繁殖個体が増えたウミガラスのニュースは大変うれしいことです。

 

Text : Mariko SAWADA

Photo : Mariko SAWADA, Wataru HIMENO

Observation : July 2021, Teuri Island, Hokkaido

Special Thanks : 自然写真家・寺沢孝毅さん

Reference : 「海の宇宙観」

天売島のケイマフリ Spectacled Guillemot

ケイマフリ Spectacled guillemot 天売島 Teuri Island 海の宇宙館 ケイマフリ号 (5)

7月上旬、天売島在住の自然写真家・寺沢孝毅さんの案内のもと、天売島で「海鳥塾」を開催。海鳥のことを学び、写真を撮り、環境問題を考え、天売島を満喫した3泊4日でした。

滞在中、海が穏やかな朝、寺沢さんが操船するケイマフリ号で海鳥観察クルーズへ。この時期の夜明けは4時頃で、6時の出発でも十分な明るさです。前浜漁港を出るとウトウがちらほら浮いています。ここから赤岩の方へ船を走らせます。

ケイマフリ Spectacled guillemot 天売島 Teuri Island 海の宇宙館 ケイマフリ号 (6)

赤岩付近に来るとケイマフリが飛んでいます!ケイマフリはオホーツク海沿岸、日本では青森県と北海道だけで繁殖している海鳥で、世界でも繁殖地を観察できる場所は意外と少ないのです。

ケイマフリ Spectacled guillemot 天売島 Teuri Island 海の宇宙館 ケイマフリ号 (11)

赤岩と屏風岩付近はケイマフリがいっぱいいました。ケイマフリの英名はSpectacled Guillemot でまさに「眼鏡をかけた」ような見事なアイリングです。千島列島のウミバトの中には目の周りが白っぽく「ケイマフリ?」と悩む個体がいましたが、ケイマフリのアイリングは見事。

ケイマフリ Spectacled guillemot 天売島 Teuri Island 海の宇宙館 ケイマフリ号 (3)

岩に乗るケイマフリです。寺沢さんによるとケイマフリにとって岩場はとても重要な場所。この岩場でそまざまな行動が観察され、交尾もこの岩の上で行われます。

ケイマフリ Spectacled guillemot 天売島 Teuri Island 海の宇宙館 ケイマフリ号 (1)

岩の上のケイマフリ、さえずりも聞こえます。いったいどんな会話をしてるのか、本当にずっと、見ていられる光景です。

ケイマフリ Spectacled guillemot 天売島 Teuri Island 海の宇宙館 ケイマフリ号 (4)

こちらも、2羽の会話を見守るかのよう。

ケイマフリ Spectacled guillemot 天売島 Teuri Island 海の宇宙館 ケイマフリ号 (8)

素敵なペア。右の個体の羽毛が個性的です。

ケイマフリ Spectacled guillemot 天売島 Teuri Island 海の宇宙館 ケイマフリ号 (10)

そして、あるタイミングで飛び立ちます。水面を蹴るケイマフリの赤い脚。

天売島 ケイマフリ号 海の宇宙館

ケイマフリ号は6人乗りの小型船です。あの光景をアイレベルで見れるのはケイマフリ号だけですね!この素敵なペイントは寺沢さんがご自身で描かれただそうです。

天売島日本酒 ケイマフリ 海の宇宙館 (2)

「海の宇宙館」の純米酒・ケイマフリ。旭川の高砂酒造さんの北海道産米100%使用のお酒です。そしてこのラベルのケイマフリは絵本作家・あべ弘士さんの絵です。とても素敵なラベル。

朝に美しいケイマフリを見て、夜は美味しいお酒・ケイマフリで天売島のウニをいただく・・。

●IMG_5313

「天売島おらが島活性化会議」の方々による「天売の幸炭火焼」。この季節はムラサキウニの最盛期です!ちなみに写真の上にあるジンギスカンは焼尻島の幻のめん羊サフォーク。焼尻の幸もいただいてしまいました。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Observation : July 2021, Teuri island, Hokkaido

Special Thanks : 自然写真家・寺沢孝毅さん、「天売島おらが島活性化会議」