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ハシブトウミガラス Brünnich’s Guillemot (スピッツベルゲン島アルケフィエッレ)

スピッツベルゲン島とノールアウストランネ(北東島)の間に広がるヒンローペン海峡。その西岸にそびえる断崖アルケフィエッレ(Alkefjellet)は、スヴァールバル諸島を代表する海鳥の一大コロニーです。Alke=ハシブトウミガラス、Fiellet=山で「ハシブトウミガラスの山」を意味します。

ゾディアックに乗りこみ、断崖で営巣するハシブトウミガラスを観察します。

ハシブトウミガラスの糞で断崖が白とピンクに染まります。ピンク色は甲殻類を食べている影響でしょうか。

高さ100mもの垂直な崖には、およそ6万のハシブトウミガラスのつがいが、短い夏に命をつなぐ営みが繰り広げられます。シロカモメやミツユビカモメも少数ながらこの断崖を利用しています。

崖の周囲では、ハシブトウミガラスが絶え間なく飛び交います。この光景が見られるのは、氷が解ける夏の営巣期だけ。わずかな期間に求愛・産卵・抱卵・雛の巣立ちまでを終えなければなりません。夏の繁殖シーズンが終わるとこの断崖には一羽もいなくなり、また翌年同じ個体が同じ場所に戻ってきます。

断崖は玄武岩の一種であるドレライト(粗粒玄武岩)でできており、自然に形成された柱上の台の上が産卵場所になります。


上の写真はハシブトウミガラスの卵です。抱卵していないので放棄された卵に見えます。ハシブトウミガラスは巣を作りません。巣材は使わず、岩の上に直接卵を産みます。その卵は先端が細くなった楕円形で、転がっても海へ落ちず、くるくると回って元の位置に戻る仕組みで、崖から落下しにくくなっています。

ハシブトウミガラスは優れた潜水能力を持ち、翼を使って水中を飛ぶように泳ぎ、小魚や甲殻類を捕らえます。獲物をくちばしにくわえて断崖の巣まで運び、雛に与えます。

7月のこの時期はまだ抱卵中でしたが、雛が巣立つ時は、まだ飛ぶ力が弱いので真っ逆さまに海へ飛び降ります。そのため海から近い断崖に卵を産みます。海から遠い断崖の場合は、ヒナは歩いて海までたどり着かないといけません。海まで辿り付けないとその間にシロカモメやホッキョクグツネなどに食べられてしまうこともあります。その後、沖合で親から餌をもらいながら成長します。


ハシブトウミガラスを捕食するシロカモメ

営巣地の背後には氷河が広がり、雪解け水が無数の小さな滝となって断崖を流れ落ちています。澄んだ水と黒い玄武岩、そして空を舞う海鳥たち――この時期だけの北極の絶景です。

Photo & Text : Wataru YAMOTO

Observation : Jul 2025, Alkefjellet, Spitsbergen, Svalbard, Norway

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