秘境ツアーのパイオニア 西遊旅行 / SINCE 1973

金の糸

196cfea02009436f©️ 3003 film production, 2019

ジョージア

金の糸

OKROS DZAPI

監督:ラナ・ゴゴベリゼ
出演:ナナ・ジョルジャゼ、 グランダ・ガブニアほか
日本公開:2022年2月26日(岩波ホールほか全国)

2022.1.12

継ぎ継ぎと、継ぎ継ぎと―90代現役のジョージア人監督が思い描く「次の時代」

ジョージア・トビリシの旧市街の片隅にある古い家で娘夫婦と暮らす作家のエレネは79歳の誕生日を迎えるが、娘のナトだけでなく、エレネと同じ名前を持つ孫ですらそのことを忘れている。

メイン

ナトは、姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始めたので、一緒に暮らせないかと母・エレネに打診する。エレネとは旧知の間柄のミランダは、ジョージアのソビエト時代に政府の高官だった女性だ。19世紀に祖先が建てた持ち家を誇りに思っているエレネだったが、渋々容認する。

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そこに、かつての恋人・アルチルから数10年ぶりに電話がかかってくる・・・

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距離的に遠く離れていて何の関連性も無いように見える文化・伝統同士が、思わぬ形でひかれあうことがあります。制作時点で91歳、2022年1月現在では93歳のラナ監督は、あるときたまたま知った日本の「金継ぎ」(陶磁器の破損部分を漆によって接着し 金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法)という技法にインスピレーションを得ました。そして、およそ100年にわたる人生分の過去を、そっくりそのまま次の時代めがけて差し出すかのような物語をつくりあげました。

サブ2

こうした文化交流の経緯もあってか、僕にとって本作は不思議にも、103歳まで生き2010年に亡くなった、日本を代表する舞踏家・大野一雄へのオマージュがなされているように終始感じました(エンドクレジットや資料を隈なくみましたが、そうとは書いていませんでした)。

ジョージアと本作の話にしっかり戻ってきますので、大野一雄のことについて少し書きたいと思います。大野一雄は1929年にスペインの舞踊家アントニア・メルセに強い影響を受け(大野一雄の人生でもやはりこのような文化交流がなされています)、舞踊の道を志しました。太平洋戦争で軍務を終えた後、「見せ物」として踊りではなく、「命がけで突っ立った死体」を理想とした舞踏を追求しました。日常的な細かな所作をも舞踊に昇華する創作精神で、晩年は車椅子に乗っても舞踏をつづけました。日本で舞踏は前衛芸術として捉えられることも多いですが、今ではbutohとして、日本を代表するダンススタイルとして海外でのほうがよく知られています(一度僕は舞踏ワークショップに参加したことがありますが、参加者の大半は外国人でした)。

本作のエレネ・アルチル・ミランダ、人生の大半を旧ソ時代のジョージアの地で過ごした「旧世代組」は、作中でしっかりと現在という時間を生きているのですが、どこかお化けのような、まさに「突っ立っている」かのような描き方がなされています。

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たとえば、誕生日を忘れられる、居住している家から離れられない(出歩いたとしても知り合いがいなく助けてもらえない)、掃除(掃除機がけ)という現実的所作を異様なまでに厭う、などといった場面です。胴体から「足場」が置いてけぼりにされている感じ、とでも言えばよいでしょうか・・・

「旧世代組」は、効率・利便性を重視した社会では「お荷物」なのでしょう(同様のテーマは昨年本コラムでご紹介した日本の名画『東京物語』などでも描かれてきました)。

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メインのロケ地となっているジョージアの首都・トビリシの伝統的地区界隈も、最近は老朽化が激しく、取り壊しが多くなってきていると資料に記載があるので、撮影場所もそうした監督の洞察を表象しているように思えました。

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そんな世の流れの中で、ジョージア人(ひいては世界中の観客)は、どこを「足場」として生きていくのかという切迫した問いかけが、春の花の香りがするような詩的なムードに包まれた上でなされている『金の糸』は2月26日(土)より岩波ホールほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。

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最後に、今年日本とジョージアは国交30周年だそうで、僕がおすすめするジョージア情報を3つ添えさせてもらいます。

・駐日大使ティムラズ・レジャバのTwitter。「徒然なるままに本国ジョージアに関して発信していきます」というプロフィール文のとおり、日常が知れて親近感が湧きます

・ワイン発祥の地としてジョージアは有名ですが、「ピロスマニ」という画家にちなんだ陶器ボトルに入ったワインが、輸入食品店などやネットで2500円ぐらいで買えます

・日本にも数度来日している人気ピアニストのカティア・ブニアティシヴィリ、おすすめ曲はアルゼンチン・タンゴの伝説的バンドネオン奏者アストル・ピアソラの名曲“Liber Tango”のカバーです(お姉さんのグヴァンツァ・ブニアティシュビリとの連弾もみどころです)

 

コーカサス3ヶ国周遊

広大な自然に流れる民族往来の歴史を、コンパクトな日程で訪ねます。
複雑な歴史を歩んできた3ヶ国の見どころを凝縮。美しい高原の湖セヴァン湖やコーカサス山麓に広がる大自然もお楽しみいただきます。

民族の十字路 大コーカサス紀行

シルクロードの交差点コーカサス地方へ。見どころの多いジョージアには計8泊滞在。独特の建築や文化が残る上スヴァネティ地方や、トルコ国境に近いヴァルジアの洞窟都市も訪問。

Tbilisi

トビリシ

クラ川に面したジョージア(グルジア)の首都。ペルシャ系、トルコ系、モンゴル系と様々な民族の侵略を受けて来た歴史を持ちます。市内を一望できる丘の上にはジョージア正教のメテヒ教会が建ち、旧市街の中にも数多くの教会やシナゴーグが建っています。

ざくろの色

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アルメニア

ざくろの色

 

監督: セルゲイ・パラジャーノフ
日本公開:1991年

2022.1.5

フィルムに焼き付けられた 世界最古のキリスト教国・アルメニアの精神世界

18世紀、アルメニア。王妃に恋をした宮廷詩人サヤトは、想いを詩と琴の演奏で伝える。しかし恋が実ることはなく、サヤトは修道院に幽閉されてしまう・・・

「詩人の幼年時代」「詩人の青年時代」「王の館」「修道院」「詩人の夢」「詩人の老年時代」「死の天使との出会い」「詩人の死」の8章構成で、サヤト・ノバの生涯が摩訶不思議に描かれていく・・・

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皆さんは「年に一度は観たくなる映画」がありますか?
僕は何本かありまして、特に年末年始に観たくなるアルメニアの名匠セルゲイ・パラジャーノフ監督の代表作をご紹介できればと思います(また、来週頃にコーカサスの作品を紹介するからという理由もあります)。

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1969年に制作された本作(あるいはセルゲイ・パラジャーノフ作品)は、いわゆる「カルト映画」と呼ばれる区分に入る作品で、長きにわたって世界各地に一定数の熱狂的なファンを保持し続けています。アルメニアという国が、ノアの箱舟伝説で有名なアララット山の麓に広がる、世界最古(西暦301年以来)のキリスト教国であることも、本作が伝説的作品と呼ばれるひとつの所以となっているはずです。

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1ショット1ショットが絵画 あるいは 舞台かのような本作は、正直、多少コーカサスやアルメニアの背景知識を学んで鑑賞したとしても、何がどうなっている話なのかさっぱりわかりません。

しかし、その「わからなさ」が面白く、それはつまり、観れば確実に「旅気分」とでもいえるアドベンチャーを味あわせてくれるということです。物語のあらすじが分からなくても、タイトルにあるザクロや魚・羊・書物などのモチーフが登場してかなり凝った演出がなされるので、鑑賞環境さえしっかり整えればいつの間にか異世界に引きずり込まれてしまうのではと思います。

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セリフらしいセリフは全くなく、サヤト・ノバの詩やアルメニア民族伝統楽器・歌唱によって映画のリズムが織りなされているのですが、まさに異世界と呼ぶにふさわしい世界観で、「ずいぶん遠くに来たなぁ」と旅先で思うような心地にさせてくれます。

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今後数回も、異世界を味あわせてくれるコーカサスの作品を紹介できればと思います。まだ海外旅行を検討するには探り探りな世の中ですが、今年も映画鑑賞を通じて海外秘境旅行気分を味わうお手伝いをできればと思います。

コーカサス3ヶ国周遊
アゼルバイジャン・ジョージア・アルメニア

広大な自然に流れる民族往来の歴史を、コンパクトな日程で訪ねます。アルメニアでは、ペルシャとアナトリアを結んだ古代のシルクロードを走りエレヴァンへ向かいます。途中、アルメニアの至宝と呼ばれるノラヴァンク修道院も見学。エレヴァンではエチミアジン大聖堂をはじめとする教会、修道院など、ゆっくりと周辺の見どころを見学します。

オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険

A2A_poster©Aichholzer Film 2020

オーストリア(ロシア・カザフスタン・キルギス・中国・パキスタン・インド)

オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険

監督・出演:アンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒス
日本公開年:2022年

2021.12.15

カラフルで滋味あるスムージーのような、つぶつぶ感のある映像旅行記

オーストリアからオーストラリアまで、陸路1万8000キロを自転車で走破するべく旅に出た2人の青年、アンドレアスとドミニク。

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モスクワの赤の広場、カザフスタンのステップ砂漠、カラコルム・ハイウェイなどを経ながらユーラシア大陸を横断して、目的地のオーストリア・ブリスベンまでVlog(ビデオ・ブログ)を撮りながらの旅が始まる。

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カメラは豪雨、水・食料の枯渇、灼熱、日射病、ケンカなど、道中で起きる様々な出来事を記録していく・・・

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旅に出る理由というのはいわば「何でもあり」なわけですが、その中で最もオーソドックスな手法は、「宮殿ホテルでマハラジャ気分を味わいたい」「ウユニ塩湖が鏡面状になっている景色を見たい」「ヒマラヤでブルーポピーの花が咲いているのを見たい」など、何かしらの形で「ゴール地点を定める」ということでしょう。

ゴール地点が定まると、いわゆる「あてのない旅」ではなくなるわけですが、そのゴール地点に必ずしも意味付けがあるとは限りません。たとえば、僕は大学のときに青春18切符(JRの在来線5日間乗り放題)で「とにかく遠くまで行こう」と、特段具体的な理由なしに、ひたすら在来線で東京から鹿児島の指宿まで行きました。若い発想だな、と自分の行動ながらに思います。

本作は「オーストリアはオーストラリアと名前が似ているから、オーストラリアに行こう(しかも陸路 かつ オーストラリアもしっかり横断する)」という若々しい発想にもとづく旅で、目的地はしっかり定まっているものの、旅内容の具体性の無さが、旅先で多くの人々・現象を引き寄せていきます。

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たとえば、カザフスタンやパキスタンで、彼らは偶然出会った現地人に食事・結婚式に誘われたり、歓迎の宴を催してもらったりします。もし、何か急ぐべき理由があったら、このような現象は起きていないはずです。

僕自身も規模はかなり違いますが、同じようなやり方で旅をしたことがあります。器のように、何かを受け止められるような態勢を保ちながら旅をする、とでもいえばいいでしょうか。そのような「受け」あるいは「待ち」の姿勢は、なかなか普通の社会勉強では会得し難いものではないかと思います。

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本作には、西遊旅行のお客様であれば、場所が判別できるシーンがたくさんあるはずです。特に僕がドキリとしたのはパキスタンのカラコルム・ハイウェイです。「あの断崖絶壁の悪路を、自転車で行ったとのか・・・」と、想像するだけで怖くなり、主人公の2人を尊敬しました。

オサマ・ビン・ラディンが暗殺されたカラコルム・ハイウェイの入り口の町・アボッタバード、中国の新疆ウイグル自治区・カシュガルの市場、インド・パンジャーブ地方 アムリトサルのゴールデン・テンプル(シク教の聖地)など・・・
様々な町の様子が主観的映像を中心に映し出され、本当に現地を旅をしているかのような心地になるはずです。

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リアルな映像の連続で、GoProなどウェアラブル・カメラが欲しくなってしまうかもしれない『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は、2022年2月11日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町・アップリンク吉祥寺ほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。

天山の真珠 キルギスとカザフスタン 6日間

イシク・クル湖畔に宿泊し、紺碧の湖と雪を頂くテルスケイ・アラ・トー山脈の美しい景観をお楽しみください。
約1時間のボートクルーズにもご案内。近郊に残る古代サカ族の刻画が残る野外岩絵博物館も見学します。

クンジュラブ峠越え パミール大横断12日間

イスラマバードからカシュガルへ、パキスタンと中国を結ぶ1,300㎞のカラコルム・ハイウェイを大走破!峻険な山々や美しい名峰、雄大なパミール高原やカラクリ湖、迫力の大自然を間近に望めるアドベンチャー・ロードです。上部フンザ・アッタバード湖沿いにトンネルが開通したことにより、移動時間が大幅に短くなった新しいカラコルム・ハイウェイをお楽しみください。シルクロードの要衝カシュガルも訪問します。

印パ国境越え ムガール帝国・王の道を行く

パキスタンのイスラマバードから、ラホール、アムリトサル、デリー、アグラへとかつての「王の道」を辿って国境を越えます。アムリトサルからアグラまでは一部王の道に併走する列車の旅をお楽しみいただきます。

Shari

27f72ba92f0e5bab(C)2020 吉開菜央 photo by Naoki Ishikawa

北海道(日本)

Shari

 

監督: 吉開菜央
公開:2021年

2021.12.8

知床・斜里(しゃり)町にドロンと現れる、得体の知れない「赤いやつ」

日本最北に位置する知床半島・斜里町。希少な野生動物が人間と共存する希有な土地として知られるこの町には、羊飼いのパン屋、鹿を狩る夫婦、海のゴミを拾う漁師、秘宝館の主人、家の庭に住むモモンガを観察する人など個性的な人々が暮らし、冬になるとオホーツク海沿岸に流氷がやって来る。

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しかし2020年の冬は雪が全く降らず、流氷もなかなか姿を現さない。そんな異変続きの斜里町に、どくどくと波打つ血の塊のような空気と気配を身にまとった「赤いやつ」が突如として出現。

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「赤いやつ」は町内を自由自在にさまよい歩き、子どもの相撲大会に飛び込んでいく・・・

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本作はダンサーでもある吉開菜央さんの監督作で、「鑑賞する」というよりも、作中に込められているダンス・振り付けのような動きのパワーを「体感する」というほうが、作品の手触わりを言い表すのに相応しいかもしれません。

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「シャリッ」という雪の音を筆頭に、さまざまな擬音がカット変遷のペースを握っているのですが、擬音(オノマトペ)というのは不思議なものだなと思うことが、子育てをしてから多くなりました。

もともと、旅先で自分とは喋る言葉が違う人に会うと、擬音や畳語(繰り返し言葉)はよく話の種になるので、関心はありました。犬・鶏・羊など生き物の鳴き声、お腹の鳴る音、料理の音、ゴジラの鳴き声、ゴワゴワ・サクサク・ニヤニヤなどという言葉を、どうやって多言語に翻訳するのかに度々悩まされた記憶があります。

子育てをして気付いたのは、擬音や畳語というのは特段教え込まなくても、子どものボキャブラリーにスッと自然に加わっていくことです。とても不思議です。そして、ときどき大人がポカンとさせられるのは、モクモク・パクパク・プンプンなど、大人にとっては何ら面白くない言葉を言うだけで大爆笑になるときです。

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本作に登場する謎の存在「赤いやつ」は、そんな童心の壮大さを体現しているような気が僕はしました。可笑しく不可解で、時にはブルッと震えるような恐ろしさも持ち合わせている(「赤」は血も象徴しています)とでもいいましょうか・・・

シャリッと雪を踏んだ足音が、地球を一周回って色々貫通した末に再び自分の身体に戻ってくるような想像は、大人になるといつしかできなく(しなく)なってしまうなと、童心への憧憬を本作から僕は感じさせられました。

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体全体がグワッと映画に引き寄せられて、いつの間にかジワッと知床半島・斜里の地に身体に溶け込んでいるかのような心地がする『Shari』は、10/23(土)より全国順次上映中。詳細は公式ホームページをご確認ください。

冬の奇跡 美瑛の雪原とオホーツクの流氷世界く

ツアーでは富良野に2泊し、富良野の冬景色を上空から満喫する熱気球フライト、美瑛では白銀の世界の中でスノーシュー体験へご案内。また、冬の北海道の代名詞である流氷を堪能するための流氷クルーズはもちろんのこと、流氷を直接肌で感じていただける流氷ウォーク®にもご案内。通常の冬の北海道ツアーでは味わうことのできない体験ができる充実の5日間です。。

風をつかまえた少年

89f9019d2445dac7(C)2018 BOY WHO LTD / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE / PARTICIPANT MEDIA, LLC

マラウィ

風をつかまえた少年

 

監督: キウェテル・イジョフォー
日本公開:2019年

2021.12.1

現代マラウィ版・宮本武蔵―14歳の少年はどのように風をつかみ、水を味方につけたか?

2001年、アフリカの最貧国の内の一国・マラウィを大干ばつが襲う。14歳のウィリアムは貧困で学費を払えず通学を断念するが、図書館で出合った1冊の本をきっかけに、独学で風力発電のできる風車を作り、畑に水を引くことを思いつく。

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しかし、ウィリアムの暮らす村はいまだに祈りで雨を降らそうとしているところで、ウィリアムの考えに耳を貸す者はいなかった。それでも家族を助けたいというウィリアムの思いが、徐々に周囲を動かし始める・・・

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本作は『風をつかまえた少年―14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった』という、2010年に出版されたノンフィクション本をもとにした作品です。タイトルには「風」が前面に出ていて、遍く吹き抜ける風が、物語において象徴的要素になっていますが、僕は本作は「水」の話だと受け取りました。

2001年当時、マラウィでは人口の2%しか電気を使うことができなかったそうです。主人公のウィリアム少年は学費が払えずに退学になりつつも、両親を含む大人たちが直面するシビアな飢餓の危機を目の前にして、図書館にある本を読もうとする熱意を捨て去りません。その様子はさながら、荒れ地に流れこんできては地に吸い取られ、それでもまた流れこんで来る水流のようです。

ウィリアムは、風力で電気を得て、畑に水を行き渡らせる動力源となる水車を回そうと試みます。畑に水が行き渡れば、もちろん作物を実らせる環境を整えることができるのですが、映画のつくり手である僕からするとそれ以上に、キャラクター造形における「水」の重要性が見て取れます。ウィリアム少年自身は、まるである時期の宮本武蔵のように、「水」の本質を体現しようと自己研鑽していくのです。

武蔵は中年にさしかかかったとき、道端で遭遇した伊織という少年を養子にとり、共に数年がかりで荒れ野を開墾し、治水して田畑を作りました。その田畑のある村が山賊に襲われた際には、山賊と闘い、村人にも闘い方を教えて一丸となって村を守ったと言われています。

「9.11の同時多発テロ事件の裏側で、アフリカのマラウィではどのようなことが起こっていたか?」という疑問は、本や映画がなければまず抱かないはずですが、強力な渦潮のようなグローバル社会の流れの中で「風をつかまえる」という行動に最貧国の一国・マラウィに暮らす少年が行き着けたのは、宮本武蔵さながらに「水」を味方につけて家族を守ろうとした結果なのです。劇中で大雨のシーンが印象的ですが、ただ大雨が降っているということではなく、そのようなキャラクター造形の意図のもと雨が降っているのだという視点を持って鑑賞されると、映画の深みが増すと思います。

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宮本武蔵の『五輪書』を構成する「地の巻」「水の巻」「火の巻」「風の巻」「空の巻」がすべて含まれているような本作は、約20年前のマラウィの厳しい状況を、小川のような穏やかな流れの中で味わう旅に案内してくれます。

ドラケンスバーグも訪れる 知られざる東南アフリカ5ヶ国縦断

世界遺産マラウィ湖からインド洋に面したモザンビーク島、さらに南部アフリカの中で未だ訪れる観光客の少ないモザンビーク、エスワティニ(旧スワジランド)、レソトを縦断。南アフリカとレソトの国境では「龍の山」とも呼ばれ、緑の谷と峻険な奇峰群が連なるドラケンスバーグ山脈の大自然をご覧いただきます。

夫とちょっと離れて島暮らし

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日本(加計呂麻島・奄美大島)

夫とちょっと離れて島暮らし

 

監督:國武綾
公開:2021年

2021.11.17

期間限定移住という旅―加計呂麻島が若手イラストレーターにもたらしたもの

幼い頃から東京暮らしのイラストレーター・ちゃず。結婚4年目の時、仕事に追われる東京での毎日に息苦しさを感じていたちゃずは、都会に住みたい夫を東京に残し、単身で1300km離れた奄美群島・加計呂麻島(鹿児島県)に期間限定の移住生活を2018年3月からし始めた。

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地域の人々との交流た大自然に囲まれた島での暮らしは、ちゃずにとってしっくり来るもので、移住生活は延長が繰り返されて約2年間に及び、「円満な別居生活」が日常となった。

ちゃずは写真・動画共有SNS・インスタグラムに移住記をマンガで連載して人気を博し、島内外問わず、その暮らしぶりが知られるようになっていた。

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ちゃずの移住生活が終わりを迎える数ヶ月前(奇しくもコロナ禍に突入する直前)の2020年2月、ファンの一人である監督は、ちゃずの生き方を映像に残したいと思い立ち、奄美群島へ向かう・・・

本作は、僕の作品にも出演いただいたことがある、女優・國武綾さんが「今撮らなければ!」と思い立って監督した作品です。「旅は道連れ世は情け」という江戸時代のことわざがありますが、撮影後、主人公のちゃずさんを撮った側の國武さんご自身が、奄美大島に引き込まれて移住することになるという、不思議なバックグラウンドのもとに成り立っている作品です(ちなみに、ご存じの方も多いかと思いますが、今年7月に奄美群島のうち奄美大島・徳之島は世界自然遺産に登録されました)。

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僕自身も移住者(2016年に東京から福岡に拠点を変えました)ですし、ご縁あって奄美大島には年に数回撮影に行っていますが、離島の生活リズム・社会環境・大自然は、都会人を「生きるとは何か?」という根源的な疑問に立ち返らせてくれます。

ちゃずさんが、ダイビングショップの壁にイラストを書き終わって記念撮影をする際に逆立ちを急にするのですが、都会から離島への旅というのは、まさに旅程を通じて逆立ちをしているような心地にさせられるものです。

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映画の冒頭に「東京に帰っちゃうのはさびしい」「すぐまたいらっしゃいよ」とご近所さんに呼びかけられたときに、ちゃずさんは「来ます」「まだ居ます」と返します。

移住というのも旅の一種だとすると、その特徴は、「行く」「帰る」「来る」「戻る」の使い分けに戸惑うことや、「居る」と「居ない」の境界線が揺らぐことだと本作を観て感じました。

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おそらく、ちゃずさんはいつの日かまた加計呂麻島を訪れる際には「帰る」という言葉を使うかと思いますし、加計呂麻島に「居ない」けれども、想像力をちょっと働かせれば加計呂麻島に「居る」ことが今でもできるはずです。島の人々と共に過ごした時間・場や生活リズムの蓄積が、「居なくても居る」ことを可能にしてくれるのです。

テクノロジー的にはオンラインでいろんな人に会ったり場所に行ったりすることができるようになりはしましたが、「居なくても居る」ことができるような、豊かな想像が心のなかに宿るような出会いや交流の機会がコロナ後の世界を作っていくのだなと、ほっこりとした心地になる作品でした。

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離島での移住生活や多拠点生活ににひょっとすると興味が出るかもしれないし、夫婦生活の選択肢の多様さを考える上で「離れたほうがうまくいく」という好例が記録されているという意味で、離島生活・移住にさほど興味がないという方でも楽しめる内容になっている『夫とちょっと離れて島暮らし』は、2021年12月25日(土)より新宿K’s cinemaにて2週間限定公開ほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。

加計呂麻島も訪れる 奄美大島と喜界

加計呂麻島は美しいグラデーションの海が広がる一方で、戦争の歴史や奄美の典型的な集落が今でも残る島です。その一方、隆起サンゴでできた喜界島は今でも隆起が続く生きた島です。奄美大島だけではなく、特色のある加計呂麻島と喜界島をお楽しみいただけます。

喜界島、加計呂麻島、与論島にも泊まる
薩南諸島縦断

鹿児島県薩摩川内市の西方約26kmの東シナ海上に位置し、北から上甑島、中甑島、下甑島の三つの島から形成される甑島を訪問。下甑島では、平家の落人伝説の残る手打集落を現地案内人と一緒に散策し、甑島の歴史にふれていただきます。また奄美大島や徳之島、沖永良部島など「奄美群島」として新しく2017年に国立公園に登録された島々の個性的で魅力ある自然と文化にふれます。これら薩南諸島の間のスムーズな移動は難しく、今ツアーではフェリーと海上タクシー、国内線をつなぎ、コンパクトかつ無理ない日程を実現しました。

喜界島にも泊まる奄美群島縦断スペシャル

奄美大島でのリバートレック、沖永良部島でのケイビング、加計呂麻島でのカヤックやSUP(12月コース)、ザトウクジラのウォッチングツアー(2月コース)など、各地でアクティビティを楽しみながら奄美群島を縦断します。
アクティビティだけでなく、各島々での見どころもしっかりと見学します。群島の歴史を学べる奄美博物館や、琉球国の祭司であったノロや国指定重要無形民俗文化財である諸鈍シバヤに関する展示を行う瀬戸内町立郷土館などで加計呂麻の風習に触れます。また奄美十景のひとつ沖永良部島の田皆岬や大島海峡を望む高知山展望台などの奄美群島屈指の景勝地の数々を訪れます。

東京物語

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尾道(日本)

東京物語

 

監督: 小津安二郎
日本公開:1953年

2021.11.10

1953年から変わらず保たれている、港町・尾道の原風景的景観

広島県の港町・尾道で暮らす老夫婦・周吉ととみは、東京で暮らす子どもたちを訪ねるため久々に上京する。しかし医者の長男・幸一も美容院を営む長女・志げもそれぞれの生活に忙しく、両親を構ってばかりはいられない。唯一、戦死した次男の妻・紀子だけが彼らに優しい心遣いを見せるのだった・・・

(C)1953/2017 松竹株式会社
(C)1953/2017 松竹株式会社

海外の映画メディアが、往年の日本映画ベストランキングを作成する際に、必ずベスト5に入る作品が本作『東京物語』です。1953年公開の作品ですがストーリーはとても現代的(現代社会の諸現象に通ずる点が多い)で、「血縁関係のない人のほうが血縁関係がある人よりも気遣いをみせてくれる」というストーリー展開については、僕が最近監督した作品でも本作をマネました。

西遊旅行のツアーには、目的地が秘境であるがゆえによく使われるキーワードがいくらかありますが、僕が在職中に最も多く関わったのは「原風景」に関連したツアーです。特にブータンは「昔の日本はこうだった」とお客様が見入るような、四季折々の稲田の風景がツアーの魅力のひとつでした。

今回、西遊旅行の国内ツアーを眺めているときに、尾道に対して「原風景」というキーワードが使われていることに気づきました。奇しくも僕は尾道を重要なロケ地として作品を撮ったことがあるのですが、尾道の場合、「原風景」というのは何を意味するのか『東京物語』を今一度観ながら考えてみました。そして、それはおそらく「繰り返しおとずれ、かつ、変わっているようで変わらないものがある」ということかと思いました。

『東京物語』は、老夫婦の東京への旅を挟む形で、オープニングとエンディングが尾道で展開され、オープニングとエンディングを比較するとある人物の不在が際立つストーリー構成となっています。その不在を包むのは、尾道の景観と人々の日常です。尾道市街と対面する向島とを数十分単位で往復する通称「ポンポン船」、市街を走る電車、小学校から聞こえる合唱の声、尾道市街を一望する浄土寺で迎える夜明け。こういった要素で映画は始まり、終わっていきます。

そして、尾道が何より魅力的なのは、もちろん多少形は変わってはいるものの、こうした景観や地域の人々の日常がほぼそのまま残っている(変わっているようで変わらない)ことにあります。ぜひ、尾道のツアーに参加される前には、『東京物語』をご覧になってからの参加されてみてください。

日本の原風景紀行
鞆の浦と尾道&錦帯橋と厳島を歩く

鞆の浦は「潮待ちの港」として江戸時代から栄え、坂本龍馬ともゆかりの深い港町。古い町並みを歩いて散策します。近年では「崖の上のポニョ」の舞台としても有名です。尾道は多くの映画の舞台にもなった海と山と坂とお寺の町。日本遺産でもある「箱庭的都市」を歩きます。迷路のようでレトロな坂の町、そして船の行き交う海辺を歩きます。

友だちのうちはどこ?

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イラン

友だちのうちはどこ?

 

Where Is the Friend’s House?

監督: アッバス・キアロスタミ
出演: ババク・アハマッドプール、アハマッド・アハマッドプールほか
日本公開:1987年

2021.11.3

イラン版『はじめてのおつかい』―宿題ノート一冊に宿る「全世界」

イラン北部にあるコケール村の小学校。モハマッドは宿題をノートではなく紙に書いてきたため先生からきつく叱られ、「今度同じことをしたら退学だ」と告げられる。しかし隣の席に座る親友アハマッドが、間違ってモハマッドのノートを自宅に持ち帰ってしまう。ノートがないとモハマッドが退学になると焦ったアハマッドは、ノートを返すため、遠い隣村に住む彼の家を探し回るが、なかなか見つけることができず、ジグザグ道や入り組んだ路地を右往左往する・・・

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「旅と映画」で既に何作かご紹介したイラン映画界の巨匠アッバス・キアロスタミ監督作品のデジタル・リマスター版特集上映が、2021年10月から全国で順次おこなわれています。キアロスタミ監督の代表作である本作はまだご紹介していなかったので、この機会に書きたいと思います。

子育ての経験があってもなくても、テレビ番組『はじめてのおつかい』で、主人公の子どもを応援したくなってしまう気持ちは万人共通かと思います。

本作の主人公・ババク少年は、“はじめて”どころか、大人の頼み事や先生の厳しい言葉をしたたかに受け止めていく「大人びた子ども」なのですが、ついつい劇中の要所要所で「頑張れ!」「負けるな!」と応援してしまいたくなる作品です。

ババク少年はたかが(しかし少年にとっては「全世界」のような)宿題ノート一冊のために違う村まで山を越えていき、土砂降りの雨に降られて、友だちの学校生活のためにあくせくするのですが、平凡な彼がノート一冊のために惑う姿を見ていると、非常に不思議なのですが「自分の見ている“世界”というのは一体どれだけのものだろうか?(きっと思っているほど大したものではないんだろう)」というような、心が洗われる気分にさせられます。

実はごく最近、本作のことを連想した日常の光景がありました。僕の住まいのから数駅行ったところに昔からの商店街があるのですが、夜は日本酒の角打ちをやっているお店の前で、オーナーの方が持っている畑でできたという4色ほどのトマトがバスケットに入って売られていて、おそらく6歳ぐらいの娘さんが客引きやお会計をかなり立派にこなしていました。

なんというか、お店の切り盛りが彼女にとっての「全世界」のような感じがお店一帯に漂っていてババク少年の有様を思い出しましたし、どこか秘境に旅行して、交通の要所の売店で店の手伝いをする子どもに出会ったような心地になりました。まだまだ遠くに気軽に行きにくい日々が続きそうですが、日本にも、近所にも、秘境旅行を味わえる場はたくさんあるのだと思わされた光景でした。

『友だちのうちはどこ?』も含むアッバス・キアロスタミ監督作品7作がデジタル・リマスターで観れる特集上映「そしてキアロスタミはつづく」は、2021年10月16日からユーロスペースほか全国順次上映中です。詳細は公式ホームページをご確認ください。

パピチャ 未来へのランウェイ

c782031dfd52874a(C)2019 HIGH SEA PRODUCTION – THE INK CONNECTION – TAYDA FILM – SCOPE PICTURES – TRIBUS P FILMS – JOUR2FETE – CREAMINAL – CALESON – CADC

アルジェリア

パピチャ 未来へのランウェイ

 

Papicha

監督:ムニア・メドゥール
出演:リナ・クードリ、シリン・ブティラほか
日本公開:2020年

2021.9.22

アルジェリア「暗黒の10年」の渦中で、輝きを求めたファッション学生たち

90年代、アルジェリアの首都・アルジェ。内戦によるイスラム原理主義の台頭により、町中には女性のヒジャブ着用を強要するポスターがいたるところに貼りだされている。

ファッションデザイナーを夢みる大学生のネジュマは、ナイトクラブのトイレで自作のドレスを販売して自分の表現を追求している。現実に抗うネジュマは、ある悲劇的な出来事をきっかけに、自分たちの自由と未来をつかみ取るため、命がけともいえるファッションショーを、大学構内で開催することを決意する・・・

おそらく、日本の多くの観客にとって、本作は「初めて観たアルジェリア映画」となるのではないかと思います。最近デジタル・リマスターがなされた『アルジェの戦い』という1966年のイタリア映画があるにはあるのですが、アルジェリア人(ムニア・メドゥール監督は女性です)が監督した作品というのは、私は初めて観ました。文学でもフランツ・カフカの作品ぐらいでしか、「アルジェリア」という国名に遭遇したことはないかと思います。

1990年代アルジェリアの世界を旅できる本作ですが、先日ご紹介した隣国・モロッコの『モロッコ、彼女たちの朝』にそっくりな点があります。それは、カメラに映される場所がとても限られているという点です。主要なロケ地は、主人公たちの学校の構内・学生寮・ナイトクラブ、主人公の実家、車内、何箇所かの路上、ボーイフレンドの家ぐらいでしょうか。

もちろん、広い画角で撮ってしまうと1990年代らしからぬ物が映ってしまうという都合もあったかと思います。ですが、『モロッコ、彼女たちの朝』と同じく、女性の自由・権利が抑圧されている強さに合わせて、物語の中でカメラが行ける範囲も強く制限するという制作者の狙いを感じました。そして、物語の終盤に突如訪れる「ある事件」は、実際にあった出来事をモチーフにしています。その展開は正直なところ悲しいですが、本作の主題は「パピチャ」(アルジェリアのスラングで「愉快で魅力的で常識にとらわれない自由な女性」の意味)です。

権力を回避しやすい車の中で「アルジェリアに住み続けたい人なんていない」「アルジェリアという国は巨大な待合所のようで、皆が何かを待っている」など、若者たちは不満を噴出させます。しかし、主人公のネジュマだけは「アルジェリアに住み続けて、夢を追いたい」とまっすぐな瞳で語ります。

2020年代に「暗黒の10年」「テロルの10年」とも呼ばれるアルジェリアの過去を、なぜ振り返る必要があるのか? 現在、アフガニスタンでもこの作品で描かれているような混乱が巻き起こっていますが、1990年代を描きながらも、とても現代的・普遍的なメッセージを持った作品に仕上がっています。アルジェリアの歴史・文化を何も知らないでも観れるように配慮がされているので、ぜひ身構えずご覧になってみてください。

アルジェリア探訪

ティムガッドも訪問 望郷のアルジェに計3泊と世界遺産ムザブの谷。

くじらびと

8963294def009790(C)Bon Ishikawa

インドネシア

くじらびと

 

Lamafa

監督:石川梵
出演:ラマレラ村の人々
日本公開:2021年

2021.9.15

「村の命運は 鯨が決める」―自然優位な流れの中で生きるインドネシアの漁村民たち

インドネシアの小さな島にある人口1500人のラマレラ村。住民たちは互いの和を何よりも大切にし、自然の恵みに感謝の祈りを捧げ、言い伝えを守りながら生きている。

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その中で、「ラマファ」と呼ばれるクジラの銛打ち漁師たちは最も尊敬される存在だ。彼らは手造りの小さな舟と銛1本で、命を懸けて巨大なマッコウクジラやマンタに挑む。

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「クジラが10頭獲れれば 1年過ごすだけの稼ぎとなる」というサイクルの中で暮らすラマレラ村の人々の生き方は、利便性・経済発展を軸に生きる人々とは全く異なる、非論理と畏怖心を基盤にしている。それゆえに、村でどんなに悲しい出来事起きようとも、伝承の力を借りて一丸となって対処していく・・・

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本作の舞台となるラマレラ村は、以前「旅と映画」でご紹介した『世界でいちばん美しい村』(2015年ネパール大震災震源地の村のドキュメンタリー)を監督された石川梵さんが、ライフワークとして約30年前から通い続けてきた場所です。

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メインの撮影はコロナ前の2017年から2019年までですが、30年前のフッテージが不自然さゼロで引用されるシーンもあり、監督が長い時間をかけて被写体と築いてきた信頼関係が映画全編に浸透しています。

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話がそれるようですが、私はここ数年で(子どもを2人育てるようになってから)、食事の際の食器の並べ方・食べ物の食べ方に異様にこだわるようになりました。以前はあまりそういうことは気にしませんでしたし、むしろ小さい頃から高校ぐらいまで両親から食事マナーに関して怒られっぱなしでした。今は、5歳になっておしゃべりになってきた娘から聞かれる「何でそんなふうに食べなければいけないの?」「何でそう置かなきゃいけないの?」というような質問に答えを返す立場となりましたが、「食べ物は“物”じゃなくて“命”なんだから それを感じるためだよ」とか「肘つくな」「足組むな」「いただきます/ごちそうさま言った?」と、毎日のように言っています。

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幼稚園児には難しいかもしれないのですが、分からなくてもいいので、呪文のように言い聞かせています(いつかその意味を分かってくれるときが来るといいのですが。。。)

『くじらびと』に話を戻しますが、劇中で村人たちが語る「漁の最中きたない言葉は使ってはいけない」とか「漁の前日は喧嘩してはいけない」とか「銛を刺すときは狙う箇所だけ見て 決してクジラの目は見るな」という、都会人からすれば非論理的で因果関係も特定できなさそうな伝承のひとつひとつが、前述のように娘の教育に試行錯誤している私にとっては、とても響きました。

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思うに、「こうすれば こうなる」というような「確実さの担保」が、世の中の価値判断において重視されすぎているのです。私は「どうなるか皆目見当がつかない物事」に極力熱を注ぎたいと日々思っているのですが、映画の企画にしても、他分野の話を聞くにつけても、そういったスタンスというのは世の中であまりウェルカムではないようです。

「確実さ」のサイドにいたほうが楽なので、当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、私はどうしてもその流れの中に居続けることができません(おそらく秘境旅行・冒険旅行を好まれる西遊旅行のお客さまにはこの考えを理解して頂きやすいと、勝手ながら予想しています)。そういう意味で、ラマレラ村の人々が言い伝えを拠り所にして不確実さの中を力強く突き進んでいく様子を本作で観て、生活環境は全く違いますが、ある種の親近感を私は感じました。

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私は生まれ変わりでもしない限り、ラマレラ村の人々のような暮らし方をすることは無いと思います。しかし彼らのように、ギュッと身が詰まっている瑞々しい果実のような、規律・思想・言葉・作法を持った人物 になりたいという憧れがあります。これから折にふれて私の頭の中には、ラマレラ村の人々の表情や言葉の響きがフラッシュバックすることと思います。

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リーダーシップ論あり、教育・精神・家族論ありの『くじらびと』は、9/3(金)より新宿ピカデリー他にて全国公開中。詳細は公式ホームページをご確認ください。

西遊旅行退職後、2014年に初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」を監督。国内 外で好評を博し、日本映画監督協会新人賞にノミネート。その後、国内外でフィ クション・ドキュメンタリーを監督・編集。最新作は日本・シンガポール・イラ ン・トルコ・ケニアでロケを行った"On the Zero Line"(2022年以降公開予定)。    HP: y-jimbo.com



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