パピチャ 未来へのランウェイ

c782031dfd52874a(C)2019 HIGH SEA PRODUCTION – THE INK CONNECTION – TAYDA FILM – SCOPE PICTURES – TRIBUS P FILMS – JOUR2FETE – CREAMINAL – CALESON – CADC

アルジェリア

パピチャ 未来へのランウェイ

 

Papicha

監督:ムニア・メドゥール
出演:リナ・クードリ、シリン・ブティラほか
日本公開:2020年

2021.9.22

アルジェリア「暗黒の10年」の渦中で、輝きを求めたファッション学生たち

90年代、アルジェリアの首都・アルジェ。内戦によるイスラム原理主義の台頭により、町中には女性のヒジャブ着用を強要するポスターがいたるところに貼りだされている。

ファッションデザイナーを夢みる大学生のネジュマは、ナイトクラブのトイレで自作のドレスを販売して自分の表現を追求している。現実に抗うネジュマは、ある悲劇的な出来事をきっかけに、自分たちの自由と未来をつかみ取るため、命がけともいえるファッションショーを、大学構内で開催することを決意する・・・

おそらく、日本の多くの観客にとって、本作は「初めて観たアルジェリア映画」となるのではないかと思います。最近デジタル・リマスターがなされた『アルジェの戦い』という1966年のイタリア映画があるにはあるのですが、アルジェリア人(ムニア・メドゥール監督は女性です)が監督した作品というのは、私は初めて観ました。文学でもフランツ・カフカの作品ぐらいでしか、「アルジェリア」という国名に遭遇したことはないかと思います。

1990年代アルジェリアの世界を旅できる本作ですが、先日ご紹介した隣国・モロッコの『モロッコ、彼女たちの朝』にそっくりな点があります。それは、カメラに映される場所がとても限られているという点です。主要なロケ地は、主人公たちの学校の構内・学生寮・ナイトクラブ、主人公の実家、車内、何箇所かの路上、ボーイフレンドの家ぐらいでしょうか。

もちろん、広い画角で撮ってしまうと1990年代らしからぬ物が映ってしまうという都合もあったかと思います。ですが、『モロッコ、彼女たちの朝』と同じく、女性の自由・権利が抑圧されている強さに合わせて、物語の中でカメラが行ける範囲も強く制限するという制作者の狙いを感じました。そして、物語の終盤に突如訪れる「ある事件」は、実際にあった出来事をモチーフにしています。その展開は正直なところ悲しいですが、本作の主題は「パピチャ」(アルジェリアのスラングで「愉快で魅力的で常識にとらわれない自由な女性」の意味)です。

権力を回避しやすい車の中で「アルジェリアに住み続けたい人なんていない」「アルジェリアという国は巨大な待合所のようで、皆が何かを待っている」など、若者たちは不満を噴出させます。しかし、主人公のネジュマだけは「アルジェリアに住み続けて、夢を追いたい」とまっすぐな瞳で語ります。

2020年代に「暗黒の10年」「テロルの10年」とも呼ばれるアルジェリアの過去を、なぜ振り返る必要があるのか? 現在、アフガニスタンでもこの作品で描かれているような混乱が巻き起こっていますが、1990年代を描きながらも、とても現代的・普遍的なメッセージを持った作品に仕上がっています。アルジェリアの歴史・文化を何も知らないでも観れるように配慮がされているので、ぜひ身構えずご覧になってみてください。

アルジェリア探訪

ティムガッドも訪問 望郷のアルジェに計3泊と世界遺産ムザブの谷。