タグ別アーカイブ: アルジェリア

裸足になって

(C)THE INK CONNECTION – HIGH SEA – CIRTA FILMS – SCOPE PICTURES FRANCE 2 CINÉMA – LES PRODUCTIONS DUCH’TIHI – SAME PLAYER, SOLAR ENTERTAINMENT

アルジェリア

裸足になって

 

Houria

監督:ムニア・メドゥール
出演:リナ・クードリ、ラシダ・ブラクニほか
日本公開:2023年

2023.6.14

逆境を踊りで跳ね除ける―現代アルジェリア女性の生き方

内戦の傷跡が残る北アフリカのイスラム国家アルジェリア。バレエダンサーを夢見る少女フーリアは、男に階段から突き落とされて大ケガを負い、踊ることも声を出すこともできなくなってしまう。

失意の底にいた彼女がリハビリ施設で出会ったのは、それぞれ心に傷を抱えるろう者の女性たちだった。フーリアは彼女たちにダンスを教えることで、生きる情熱を取り戻していく。

以前本コラムでもご紹介した『パピチャ 未来へのランウェイ』の監督が、主演女優はそのままに、舞台は90年代から現代に移し替えて女性の生き方を描いているのが本作『裸足になって』です。原題は主人公の名前そのままHouria(フーリア)で、アラビア語で「自由」や「天使」を意味するそうです。

アルジェリアの具体的にどこが舞台になっているのかは言及されませんが、海辺の景観や物語の特性上、おそらく首都のアルジェではないかと予想されます。

本作を観て「歴史は身体に影響する」ということを感じました。監督の前作の舞台設定だった90年代アルジェリア紛争期「暗黒の時代」や、それよりもっと前の出来事がフーリアひいては女性たちの身体に影響を及ぼしているということが、映画の言語で語られていきます。

映画の言語というのは例えば、ダンサーの主人公が足を怪我して声も失う、鳥カゴの中の鳥はカゴという不自由はあるけれども自由に動いて止まり木の上にも立てる、警察(権力サイド)の女性職員は饒舌・食欲旺盛で男性と張り合って仕事をしているなど、それらすべての連関のことです。物語序盤では比較的型にはまったクラシックダンスをしている主人公は、終盤でより現代的なダンスを志向していきます。

もう1つさりげないながらもビジュアル的に強いのは、逆光の演出です。レンズフレアという、カメラ本体内で出る光の反射も、かなり強調されています。

レンズフレアはミュージックビデオなどスタイリッシュで「撮っている」ということが自明(フィクションではない)な場面でよく使われますが、本作における逆光演出全般は「逆境」にいる主人公を象徴する意味合いがあるように思えました。

物語の後半、フーリアの身体からリハビリ施設の女性たちに有り余るエネルギーが伝播していくように、身体に宿った思いは伝播するという特性もあります。フーリアが暮らす町自体はかなり限定的にしか映らないのですが、アルジェリアに行くとふとした時にフーリアのような女性の生き方から勇気・元気をもらうような瞬間もあるのではと、不思議と旅情が湧く一作です。

『裸足になって』は7月21日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。詳細は公式HPでご確認ください。

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サハラのカフェのマリカ

(C)143 rue du desert Hassen Ferhani Centrale Electrique -Allers Retours Films

アルジェリア

サハラのカフェのマリカ

 

143 rue du desert

監督:ハッセン・フェルハーニ
出演:マリカほか
日本公開:2022年

2022.8.24

サハラ砂漠を縦断する道路沿いのカフェ その一点からアルジェリアを眺める

アルジェリアのサハラ砂漠のど真ん中に、高齢の女主人マリカがひとりで切り盛りするカフェがある。

そこにはトラック運転手や旅人、ヨーロッパのバックパッカーなど、通りすがりの人たちが訪れる。時には即興の演奏会場になる。

マリカはそんな彼らと他愛のない会話を交わしながら、グローバル資本主義の脅威を感じつつも、カフェという場を日々を保ちつづけている。

人々はコーヒーを飲みながら、国について、人生について、家族についてなど、様々なことを初対面のマリカに打ち明ける。客の中には、マリカ自身の人生を案じる者も出てきて・・・

アルジェリアの映画を紹介するのは本作で2本目です(1本目は『パピチャ 未来へのランウェイ』という1990年代の内戦時代における女性たちを描いた作品でした)。本作は、マリカのカフェという一箇所のみから現代アルジェリアを切り取った作品です。

『パピチャ 未来へのランウェイ』と同じく、本作はアルジェリアにおける女性の生き方を描く映画でもあると思います。このカフェが好きなんだと言われたり色々と未来につながる持ちかけや提案をされたりしても「私は特に何もできないし、ただこうして砂漠を眺られてればいいのさ」といった論調です。

そんなマリカの生活を、カメラはじっくり肯定も否定もせず見つめます。

魅力的な被写体に出会った瞬間、映画の作り手はどのように振る舞うものだろうかと本作を見て考えました。ハッセン・フェルハーニ監督は偶然僕と同じ1986年生まれのようですが、マリカのカフェに入った瞬間、マリカに出会った瞬間、どのような印象を持ったのだろうとあれこれ想像しました。というのも、本作のリズムとサウンドスケープ(音風景)は、その第一印象に決定付けられているように思えるからです。

初見の瞬間に電撃が走ったように、体が動かなくなる(つまり「この人を撮りたい」と思う)こともあるでしょう。最初は気付かず、段々と被写体としての魅力を発見していくこともあるでしょう。

基本的にはネコのの暮らしのようにのんびりゆったりとしたペースで物語は進んでいくのですが、マリカの店を包むサウンドスケープがとにかく印象的です(特に劇場ではそれが顕著でしょう)。砂漠の静寂の中にポツンと佇むカフェなのではなく、国道沿いで「ゴーーーーッ」と大ホールか大聖堂のような残響音によって全方位に引き伸ばされているかのようなカフェとして、マリカの根城はひたすら描かれています。

おそらくそれこそが、監督のマリカとカフェに対するファーストインプレッションだったのではないかと僕は予想しています。

『サハラのカフェのマリカ』は8/26(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次上映。そのほか詳細は公式HPをご確認ください。

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パピチャ 未来へのランウェイ

c782031dfd52874a(C)2019 HIGH SEA PRODUCTION – THE INK CONNECTION – TAYDA FILM – SCOPE PICTURES – TRIBUS P FILMS – JOUR2FETE – CREAMINAL – CALESON – CADC

アルジェリア

パピチャ 未来へのランウェイ

 

Papicha

監督:ムニア・メドゥール
出演:リナ・クードリ、シリン・ブティラほか
日本公開:2020年

2021.9.22

アルジェリア「暗黒の10年」の渦中で、輝きを求めたファッション学生たち

90年代、アルジェリアの首都・アルジェ。内戦によるイスラム原理主義の台頭により、町中には女性のヒジャブ着用を強要するポスターがいたるところに貼りだされている。

ファッションデザイナーを夢みる大学生のネジュマは、ナイトクラブのトイレで自作のドレスを販売して自分の表現を追求している。現実に抗うネジュマは、ある悲劇的な出来事をきっかけに、自分たちの自由と未来をつかみ取るため、命がけともいえるファッションショーを、大学構内で開催することを決意する・・・

おそらく、日本の多くの観客にとって、本作は「初めて観たアルジェリア映画」となるのではないかと思います。最近デジタル・リマスターがなされた『アルジェの戦い』という1966年のイタリア映画があるにはあるのですが、アルジェリア人(ムニア・メドゥール監督は女性です)が監督した作品というのは、私は初めて観ました。文学でもフランツ・カフカの作品ぐらいでしか、「アルジェリア」という国名に遭遇したことはないかと思います。

1990年代アルジェリアの世界を旅できる本作ですが、先日ご紹介した隣国・モロッコの『モロッコ、彼女たちの朝』にそっくりな点があります。それは、カメラに映される場所がとても限られているという点です。主要なロケ地は、主人公たちの学校の構内・学生寮・ナイトクラブ、主人公の実家、車内、何箇所かの路上、ボーイフレンドの家ぐらいでしょうか。

もちろん、広い画角で撮ってしまうと1990年代らしからぬ物が映ってしまうという都合もあったかと思います。ですが、『モロッコ、彼女たちの朝』と同じく、女性の自由・権利が抑圧されている強さに合わせて、物語の中でカメラが行ける範囲も強く制限するという制作者の狙いを感じました。そして、物語の終盤に突如訪れる「ある事件」は、実際にあった出来事をモチーフにしています。その展開は正直なところ悲しいですが、本作の主題は「パピチャ」(アルジェリアのスラングで「愉快で魅力的で常識にとらわれない自由な女性」の意味)です。

権力を回避しやすい車の中で「アルジェリアに住み続けたい人なんていない」「アルジェリアという国は巨大な待合所のようで、皆が何かを待っている」など、若者たちは不満を噴出させます。しかし、主人公のネジュマだけは「アルジェリアに住み続けて、夢を追いたい」とまっすぐな瞳で語ります。

2020年代に「暗黒の10年」「テロルの10年」とも呼ばれるアルジェリアの過去を、なぜ振り返る必要があるのか? 現在、アフガニスタンでもこの作品で描かれているような混乱が巻き起こっていますが、1990年代を描きながらも、とても現代的・普遍的なメッセージを持った作品に仕上がっています。アルジェリアの歴史・文化を何も知らないでも観れるように配慮がされているので、ぜひ身構えずご覧になってみてください。

アルジェリア探訪

ティムガッドも訪問 望郷のアルジェに計3泊と世界遺産ムザブの谷。