(C)A5 Film AS 2024
ただ、愛を選ぶこと
監督:シルエ・エベンスモ・ヤコブセン
出演:ペイン家の人々
日本公開:2025年
ノルウェーの自然の中で生きる一家の暮らしが映画になった、奇跡的な経緯
お金で買うことのできない豊かさと自由を求め、美しい北欧の森で自給自足の暮らしを送るペイン家。子どもたちは学校へ通わずに両親から学び、自然の恵みを浴びながら成長してきた。
しかし、家族の中心だった母マリアが病死したことで、すべてが一変してしまう。父と血のつながりのない長女は家を出ていき、父は実子3人とこれまで通りの暮らしを続けようとするが、家計や教育などさまざまな問題に直面していく。
時折僕は映画や芸術作品を審査する側にまわることがあるのですが、回数を重ねてからより強く審査時に意識するようになったのは「なぜ制作者はこの作品をつくろうと思ったのか」という点です。いわゆる企画意図というものです。
企画意図は必ずしも明瞭であればいいというものではありません。ときには「なぜこんな不思議な映画がこの世に存在することになったんだろう、わからない」という気持ちが、作品の世界に引き込んでくれることもあります。この作品はそういうタイプの映画です。奇跡的なめぐり合わせが制作背景にあります。
もともとこの作品は監督が、マリアさんを含む家族の暮らしぶりを撮ろうとしたところから始まりました。自然の中の暮らしを綴ったマリアさんのブログ「wild+free」は人気で、監督も読者の1人だったそうです。しかしその時には企画は実現しませんでした。
次に一家と連絡をとった時、マリアさんは癌を発症。そしてマリさんの死後、夫のニックさんに連絡を取って映画作りを受け入れてもらったのだといいます。この「どうしても撮りたい」という熱意の結果、カメラに映った光景というのは、きわめて日常的な風景の連続です。
なにかスペクタクルなことがなくても、伏線回収のようなことをしなくても、日常の中にストーリー・旅があふれているということが感じられます。でも、それらのあまりにも日常的すぎて、ふつうに考えるとカメラを回すようなタイミングではないような光景が本作の多くを占めています。
撮影は3年間おこなわれていますが、その経過時間もあまり感じられません。でももちろん子どもたちはぐんぐん大きくなっています。そういった要員で、とても不思議な雰囲気が終始たちこめています。
父と4人の子どもたちの後を、思い出を拾い集めながらゆっくり追っていくような『ただ、愛を選ぶこと』は、4月25日(金)よりシネスイッチ銀座で上映。その他詳細は公式HPでご確認ください。