「旅と映画(たびとえいが)」神保慶政監督 | 秘境ツアーのパイオニア「西遊旅行」

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ガンジスに還る

8da435b0afee8374(C)Red Carpet Moving Pictures

インド

ガンジスに還る

 

Hotel Salvation

監督:シュバシシュ・ブティアニ
出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘルほか
日本公開:2018年

2018.10.17

ハレとケが混在する聖地・バラナシが紡ぎだす、あるインド人親子の未来

インドのある食卓で、77歳の父・ダヤが「死期の訪れを感じている。バラナシに行こうと思う」と告げる。不思議な夢を見たダヤの決意は固い。息子・ラジーヴは仕方なく忙しさに区切りをつけ、バラナシにある「解脱の家」に付きそう。「解脱しようとしまいと、滞在は最大15日まで」、それが「解脱の家」のルールだ。雄大に流れるガンジス川のほとりで、父子は互いの関係や人生を見つめ直す・・・

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バラナシには何度か添乗で訪れたことがありますが、「聖地」という呼び名が似合う場所です。特に日の出の一時には、独特な静けさがあります。ガンジス川の東側は開けた平地になっていて、日の出が見渡せるようになっています。静けさの中で、洗濯物をガート(沐浴場)に叩く音が響いていたのをよく覚えていますが、インド社会によほどの変化が起きない限り、そうした眺望や光景はずっとあり続けるでしょう。日没後に毎日盛大に行われる儀式(プジャ)の様子も劇中に描かれています。

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インド人の若い監督(撮影時は24歳)がこの作品を撮ったということに大きな意義を感じます。日本で例えるならば、日本文化に深く根付いた仏教・神道を見つめ直す感じでしょうか。私はインド・チベット文化圏で輪廻転生を当たり前のものとして考える価値観に比較的多く触れてきたので、本作のような映画は海外からの目線によってつくられるものと思っていました。しかし、コルカタ生まれのインド人監督にとっても、バラナシはその価値を再認識すべき場所なのだと知りました。現代化の波は、それほどインドの人々の感覚を変容させているのでしょう。

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仕事人間・ラジーヴの立ち位置が、日本人の観客にも感情移入を容易にさせてくれます。ともすると、私たちはたった1、2時間ですら大事な家族・友人に割くことをためらってしまうことがあります。そして、それが後に大きな後悔につながることもあります。親子のやり取り、そして「解脱の家」に集う人々の様子から、私たちの人生において何が大切なのかを考えさせてくれます。

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異文化を見せてくれるだけでなく、観客の心に入り込む普遍性をもった『ガンジスに還る』は、10/27(土)より岩波ホールほかにてロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

タージ・マハルと聖地バラナシ

インドの美を代表するタージ・マハルと、悠久の歴史を映す聖なるガンジス インドの核心にふれる旅

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド 15の世界遺産をめぐる少人数限定の旅

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バラナシ

聖なるガンガーを中心に広がるバラナシの市内には、大小1500近いヒンドゥー教寺院と270以上のモスクがあると言われています。 年間100万人を超える参拝客が訪れ、ガンジス川の西岸約500kmに渡って伸びる階段状のガートで身を清め、市内の寺院に参拝します。

判決、ふたつの希望

46afd7e15996fdc6(C)2017 TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL – EZEKIEL FILMS – SCOPE PICTURES – DOURI FILMS
PHOTO (C) TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL

レバノン

判決、ふたつの希望

 

L’insulte

監督:ジアド・ドゥエイリ
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャほか
日本公開:2018年

2018.10.10

レバノン社会に山積した負の感情が、希望に生まれ変わる時

レバノンの首都・ベイルートで自動車修理工場を営むキリスト教徒のレバノン人・トニーと、住宅補修に従事するパレスチナ難民・ヤーセル。水漏れを直しにきたヤーセルの対するトニーの粗野な対応は、ヤーセルの「クズ野郎」という一言を招き、トニーはそれに対して謝罪を要求する。

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そして、二人のこの些細な口論は裁判に発展してしまう。両者の弁護士が論戦を繰り広げメディアの報道も加わり、事態はレバノン全土を巻き込む騒乱へと発展していく・・・

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旅をすることで素晴らしい歴史・文化を知ったり、景観を眺めたり、人々と交流したりすることは私たちの感性に大きな影響を与えてくれます。しかし、旅をするだけでは感じ取るのが難しいこともあります。その一つは、人々の本音です。

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最近私は編集作業のため経済制裁中のイランに行き、様々な困難や国を出ようとしている人々の話を聞きましたが、心の中にある不安や記憶というのは基本的に「潜んでいる」ものです。町を歩いたり、ひとときの交流の中で何かそうしたことがキャッチできるかと言うと、なかなか難しいといえるでしょう。

本作は、日本人にはなかなか踏み入れがたいパレスチナ問題の実像を、感情面からわかりやすく私たちに示してくれます。「この映画を見ればパレスチナ問題がわかる」というわけでは決してありません。しかし、MeTooムーブメントのようなSNSによる急速な情報の拡散、そして同調の気運が日常的になった私たちに、本作はパレスチナ問題が決して理解不能ではないということを気づかせてくれます。

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わからなく掴み難い状態はそのままで、なんとなく「こういうことか」と思わせてくれる。それだけでも理解促進において大きな一歩ではないかと私は思います。

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そして何より本作の価値は、暗くなりがちな題材を、邦題にある通り「希望」を以って描いている点にあります(原題は「侮辱」の意)。パレスチナ問題に対して様々な立場が渦巻く中で、勇気と信念がある制作者だけがこうした作品を作ることができます。それは決して映画の制作者にとってだけ重要なものではなく、生きるパワーとして観客に伝わるものなのではないかと思います。

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全国で絶賛上映中の『判決、ふたつの希望』、上映詳細等は公式ホームページからご確認ください。

レバノン一周

レバノンが誇る5つの世界遺産 レバノン杉の森や数々の歴史遺産が残るレバノンを巡る8日間

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ベイルート

レバノンの首都で、経済・政治の中心地。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。

あまねき旋律(しらべ)

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インド

あまねき旋律(しらべ)

 

Up Down & Sideways

監督:アヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール
出演:ナガランドの人々
日本公開:2017年

2018.9.19

秘境・ナガランドに響くやまびこ
郷愁を誘う、大地と人々の共鳴

インド本土から取り残されたような場所に位置する北東諸州。ミャンマー国境に接するナガランド州には大自然の中に棚田が広がり、村の人々が協力して農作業をすべて人力で行っている。

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作業の間、人々はひっきりなしに歌を歌う。掛け合いもまじえながら、女性も男性も一緒になって歌い、その響きは山々の四方八方に広がっていく。

人類社会の急速な変化の中で、ナガランドの人々は何を思い、そしてどのような未来に向かっていくのか・・・

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秘境を旅する魅力とは何か。それは、自分や他者の内なる鼓動に耳をすますことができる点にあると、私は思います。

本作の舞台であるナガランドの歌は、ポリフォニー(多声合唱)を基本としています。私はアルバニアなどバルカン半島の国々のポリフォニーが好きなのですが、ナガランドにそうした文化があるとは本作を鑑賞するまで知りませんでした。

農作業中に歌われる歌は、土・水・稲穂の音も人の声に加勢し、複雑で重厚感あるハーモニーを生み出します。

ナガランドはインドからの独立運動が長く続いている地域です。ナガランドやその近辺は、中国・インド・ミャンマー・バングラデシュ・ブータンの国境が複雑にからみあっています。第二次世界大戦中に日本軍が英領インドと激闘を繰り広げたインパールも近いですが、ナガランドの地は歴史的に不安定さを抱えてきました。

そうした緊張状態に太刀打ちするには、村で暮らす一人ひとりの鼓動を共鳴させる必要があるのでしょう。つらい歴史も語られますが、本作でとらえられる人々の表情の多くは、笑顔です。

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テクノロジーやスマホ・PC画面の中にばかり気を取られ、現代人は自らの内なる鼓動を失いがちです。それゆえに、大地と肩を組んでいるかのような歌声を人々が響き渡らせる様子は、多くの人の心を強く打つことでしょう。

棚田の模様や人々の農作業のリズムもあいまって、歌の響きは波を打っているかのように、視覚的に感じることができます。

田植えの準備をしている様子を俯瞰でひたすら映したショットを見て、それが当たり前の日常である村人たちを、私は羨ましく思いました。

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心の中にさわやかな波風をおこしてくれる『あまねき旋律(しらべ)』は、10月6日(土)ポレポレ東中野にてロードショー上映ほか、全国順次上映予定。詳細は公式ホームページをご覧ください。

ナガランド ホーンビル・フェスティバル見学

インド北東部・コニャック族とアンガミ族の里を訪ねて

インド北東4州を巡る

ナガランド、アッサム、アルナチャール・プラデーシュ、メガラヤ 知られざるフォー・シスターズへ

僕の帰る場所

f06c3bde76bcdc94(C)E.x.N K.K.

ミャンマー

僕の帰る場所

 

Passage of Life

監督:藤元明緒
出演:カウン・ミャットゥ、ケインミャットゥ、アイセほか
日本公開:2017年

2018.9.12

懸命に生きるミャンマー人家族の「今」が描く、見えない「未来」

東京にある小さなアパートに、難民申請中のミャンマー人家族が暮らしている。母・ケインは、幼いカウンとテッを必死に育てているが、夫のアイセが入国管理局に捕まり、一人で家庭を支えることになる。

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日本で育った子どもたちよりもたどたどしい日本語を話しながら、ケインは一日一日を乗り越えていく。将来に不安を抱くようになったケインは、故郷のミャンマーで暮らしたいという思いを募らせていく・・・

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日本における移民・難民問題は、あたかも存在していないように扱われるという意味で、「透明」という言葉を以って語られることがあります。その実像を描くために本作で採られた手法は、当事者の心の奥深くにまで潜り、問題の全容は観客の想像に任せる方法です。

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人は成長すると、「ただいま」や「行ってきます」と言うべきかどうか迷う時があります。縁のある地だけれども、暮らした記憶がない時。独り立ち、あるいは結婚した後に、里帰りする時。

幼い兄弟にとって、両親の故郷であるものの暮らしたことはないミャンマーは、「行く」場所なのか、それとも「帰る」場所なのか。それはもっと時間が経って、彼らが振り返った時にはじめてわかるのでしょう。

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特に、希望と不安が入り混じった状態でヤンゴンの地を主人公家族が一歩一歩踏みしめていく映画の後半は、「旅」の真髄を感じ取ることができます。二つの土地・国籍を揺れ動く感情は、いかにシステムが整おうと行き来をやめないでしょう。母国を持つ両親、確固とした土台を模索する少年たちの姿は、生きる力の源を観客に問い直させてくれます。

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2017年東京国際映画祭「アジアの未来」部門で、日本人監督初のグランプリ・監督賞の2冠を成し遂げた『僕の帰る場所』。10月6日(土)よりポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

微笑みと安らぎの国・ミャンマー

旅の最後はミャンマー屈指の聖地・チャイティヨ山に宿泊、敬虔な人々の祈りにふれる旅

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ヤンゴン

黄金の仏塔が輝くミャンマー最大の都市。1755年に「戦いの終わり」という意味のヤンゴンと名付けられました。現在の街並みはイギリス植民地時代に建設された整然とされたものです。2006年にヤンゴンよりネピドーに遷都しました。

モアナ 南海の歓喜

c57b856f691f0ae0(C)2014 Bruce Posner-Sami van Ingen. Moana (C) 1980 Monica Flaherty-Sami van Ingen. Moana (C) (P)1926 Famous Players-Laski Corp. Renewed 1953 Paramount Pictures Corp.

サモア

モアナ 南海の歓喜

 

Moana

監督:ロバート・フラハティ
出演:サモアの人々
日本公開:2018年

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山彦のように響きを残す、
南海の孤島・サモアの安らかな一時

南太平洋の島国・サモア。畑で耕作をし、背の高いヤシの木に登って実をとり、森で狩りをし、海で漁をする・・・約100年前、人々は豊かな自然の中で、伝統を守って互いに助け合いながらのどかに暮らしていた。

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島に暮らす一家の長男・モアナには、ファアンガセという婚約者がいる。老若男女が集まり、盛大な挙式が行われる。

Date: 1926Location: Samoa In picture: Moana (Ta´avale) and Fa´angase (Fa´angase Su´a-Filo)

本作は1926年に製作された作品で、2014年に映像のデジタル化が行われました。「ドキュメンタリーの父」と呼ばれているロバート・フラハティが監督した作品で、本コラム「旅と映画」ではエスキモーの暮らしをとらえた1922年の作品『極北のナヌーク』を以前ご紹介しました。

ストリーミングの普及やモバイル機器の発達により、様々な映画を外出先などで手軽に見られるようになりました。そんな今だからこそ、一度映画の原点に立ち戻ることに価値が生まれています。

人間社会は約100年前と変わらず人間社会として存在し続けています。その中で、「変わったこと」もあれば「変わらないこと」もある。そのバランスをどう感じとるかによって、それぞれ違った物語を本作は観客の心の中に生み出します。

Date: 1926Location: SamoaIn picture: Fa´angase (Fa´angase Su´a-Filo)

また、本作の製作プロセス、そして被写体との関わり方は「旅」そのものです。監督の娘が1980年にサモアへ訪れて、現地の音・会話・民謡を録音して、もともと無声だった作品に音を加えました。

サモアの人々の人生という旅、フラハティ親子の2世代に渡るサモアへの旅、そして映画自体が今の私たちを目がけて旅をしてきている。時間と距離が複雑に絡み合い、3D・4D映画では再現できない立体感を感じることができます。

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『モアナ 南海の歓喜』は、9月15日(土)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開(連日、1日1回『極北のナヌーク』も上映)。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

漂うがごとく

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ベトナム

漂うがごとく

 

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監督:ブイ・タク・チュエン
出演:ドー・ハイ・イエン、リン・ダン・ファムほか
日本公開:2016年

2018.8.29

ベトナムの湿潤な空気の中で、ゆっくりと熟成されていくひとときの迷い

ハノイで旅行ガイド兼通訳として働くズエンと、彼女より3才年下でタクシードライバーのハイは、出会って3ヶ月で結婚した。

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後日、ズエンは結婚式に来られなかった女友達・カムを訪ね、体調が悪いカムの代わりに手紙をトーという男に届けに行くことになる。ズエンは手紙を届けた時トーに襲われてしまうが、しだいにマジメでおとなしいハイとは真逆で野生的なトーに魅了されていく・・・

本作は、ベトナム本国では2009年に公開された作品です。公開されてからの約10年で、ベトナム社会はさらに大きく経済発展をとげました。題名に「ごとく」と入っているように、ハノイの町の様々な事物が比喩的に映されていきますが、特にズエンの夫・ハイが運転するタクシーがハノイの渋滞や洪水の中でも走り続ける様子からは、当時のベトナムの趨勢を感じることができます。

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経済発展による格差の拡大や倫理観の変容を描く一方で、このコラムで過去に紹介した『夏至』のように、ベトナムの湿潤な空気とその「温度」が映画全体に浸透しています。観光地として有名なハロン湾でのシーンは、登場人物たち自身が物理的に漂っているだけでなく、心の揺らめきが表されています。

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本作を見て私は「かたつむり そろそろ登れ 富士の山」という小林一茶が詠んだ俳句を思い出しました。主人公のズエンは自分がした「結婚」という選択についてゆっくりと考えを巡らせます。カメラ・写真・映像が近年手軽なものとなり風景までもが消費されてしまいがちですが、一茶の俳句のように、ズエンの漂流する心はいつのまにか景観の中に誘い込まれ熟成されていきます。

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自分の声にじっくりと耳を傾けてみることの価値を教えてくれる『漂うがごとく』は、9月から12月にかけて東京・神奈川・愛知・大阪で開催されるベトナム映画祭で上映後、各地劇場に配給予定。詳細は公式ホームページをご覧ください。

ビクトリア・エクスプレスで行く 少数民族の里サパとAUCO号で過ごす 世界遺産ハロン湾の旅

豪華客船と寝台列車で巡る優雅なベトナムの旅

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ハロン湾

ベトナム北部、トンキン湾北西部にある湾。大小3000もの奇岩や島々が存在する。中国がベトナムに侵攻してきた時、竜の親子が現れて敵を破り、口から吐き出した宝石が湾内の島々になったと伝えられている。

ベトナムを懐う

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ベトナム

ベトナムを懐う

 

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監督:グエン・クアン・ズン
出演:ホアイ・リン、チー・タイほか
日本公開:2017年

2018.8.22

雪降りしきるニューヨークで、いまだに広がり続けるベトナム戦争の爪痕

1995年、雪が降りしきるニューヨーク。旧正月テトを迎えようとする時、ベトナム難民である息子グエンに呼び寄せられていたトゥーは入居中の老人ホームを抜け出し、亡き妻の命日を共に過ごすため、息子と孫娘タムが住むアパートへと向かう。

その日アパートの部屋では、タムがボーイフレンドの誕生日を祝うべく準備していたが、突然現れた祖父にとまどうばかり。そこにトゥーの幼馴染ナムも来訪し、思い出を語り合うが、グエンは仕事で留守、アメリカ育ちのタムは見知らぬ文化風習に苛立ち、すれ違いは深まるばかり。

なぜグエンは祖国との縁を断とうとしたのか。その理由を知った時、タムはトゥーを、そして故郷を受け入れることはできるのだろうか・・・

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アメリカで生活する三世代のベトナム人家族を通し、それぞれの祖国観、価値観の不一致、家族愛が描かれる本作は、1990年代からベトナム国内外で演じ続けられてきた戯曲が映画化された作品です。原題”Dạ Cổ Hoài Lang(夜恋夫歌)”は、戦へ赴いた夫を待つ妻の切なさを歌う曲の題名でもあり、劇中でも繰り返し登場しています。

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時に人は、異国を訪れて郷愁の念を抱くことがあります。私たちにとって、のどかな田園風景の広がるベトナム・ブータンや、中国の中でもベトナムなどに近い雲南省は、「なんだか懐かしい」「昔日本もこんなふうな景色だった」という思いが湧きあがりやすい場所です。

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本作からはベトナムにルーツを持つ人々が、どのような望郷のイメージを持つのかを知ることができます。そして、稲の緑と水面がキラキラと輝くベトナムの農村を背景に語られるトゥーとナムの幼年期・青年期と、白い雪に埋め尽くされたニューヨークをさまよう現在のトゥーの姿との対比が、故国を遠く離れて暮らす者の郷愁と哀しみを一層引き立てています。

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『ベトナムを懐う』は、9月から12月にかけて東京・神奈川・愛知・大阪で開催されるベトナム映画祭で上映後、各地劇場に配給予定。詳細は公式ホームページをご覧ください。

ゲンボとタシの夢見るブータン

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ブータン

ゲンボとタシの夢見るブータン

 

The Next Guardian

監督:アルム・バッタライ、ドロッチャ・ズルボー
出演:ゲンボ、タシ、トブデン、テンジン、ププ・ラモ
日本公開:2018年

2018.8.8

幸せの国・ブータン
次世代の幸せを担う子どもたちの葛藤

ブータン中部・ブムタン県の小さな村に暮らす16歳の少年・ゲンボは、先祖代々受け継がれてきた寺院の跡取りとして、父から期待されている。当のゲンボは、今通っている学校を辞めて僧院学校に行くという選択が正しいかどうか、迷いを捨てきれない。

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ゲンボが遠く離れた僧院学校に行くことに、15歳の妹・タシは反対している。ブータン初のサッカー代表チームに入ることを夢見ているタシは自分のこと男の子だと思っているが、父からは女の子らしく生きるよう諭されている。理解を示してくれるゲンボに離れてほしくないと、タシは思っている。

急速な近代化の波が押し寄せるヒマラヤの小国・ブータン。おだやかな風土の中で、世代間の価値観は静かに絶え間なく衝突している・・・

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ついに「旅と映画」でブータン映画を紹介する日が来ました!(西遊旅行に勤めている時、私はブータン等の南アジア担当でした)

ブータン映画(ブータン監督作品、ブータンロケ作品)は国際映画祭でも年々見る機会が増えており、中でも“Honeygiver among the Dogs”(主演は『セブン・イヤーズ・イン・チベット』でダライ・ラマ役を演じた ジャムヤン・ジャムツォ・ワンチュク)という作品のDechen Roderという女性監督は注目されています。

本作の監督はブータン出身のアルム・バッタライと、ハンガリー出身のドロッチャ・ズルボー。国籍の違う2人(アルム監督は男性、ドロッチャ監督は女性)の観点が融合し、今はまだ小さく視野が限られた子どもたちに寄り添い、共に見えない未来に手を伸ばしているような、優しさのある眼差しが本作の特徴です。

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少年のような妹・タシのことを、「この子は前世の影響で男の子のように育って・・・」と親が語るシーンは、私にとってとても懐かしい響きがしました。

チベット仏教文化圏の人と会話していると、輪廻転生があたりまえだという前提で会話が進んでいく時があります。それがブータンなどを旅する醍醐味だと思いますが、本作はそうした古来からの価値観・信念が、意外とあっけなく崩れ去ってしまう可能性があることを教えてくれます。

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おそらくハンガリーのドロッチャ・ズルボー監督の感性が捉えたのではないかと思いますが、髪を切るシーンが繰り返し入っているのが作品に心地よい小さなリズムを生み出しています。

日々の小さな行いややりとりの積み重ねが、価値観・信念を形作っていく。監督たちが、ブータン、ひいては世界のよりよい未来を願う気持ちが、シーンごとに積み重ねられています。

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ブータンに行ったことがある人は懐かしくなり、ブータンに行きたい方にとっては入門編としても最適な『ゲンボとタシの夢見るブータン』。8月18日(土)よりポレポレ東中野にてロードショーほか全国順次公開。詳細は公式ホームページをご覧ください。公開初日のskypeでの監督舞台挨拶ほか、各地でイベントが多数予定されています。

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ブムタン谷の祭りとフォブジカ谷
秋のブータンを撮る

フォトジェニック・ブータン のどかな2つの谷を撮る

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ブムタン地方

ブムタン地方は平均して標高約2,000mほどの高地。パロやティンプーでは稲作をしていますが、この地域はは寒冷な気候から稲作が定着せず、ソバや麦作り、ヤクや牛の放牧が中心となっています。ブータンに最初に仏教が伝わったのはこのブムタン地方。もともとこの「ブムタン」がブータンの宗教の中心地だったのです。

『祈り』三部作

4de755d517adaeb2(C)“Georgia Film” Studio, 1968 (C)RUSCICO, 2000

ジョージア

祈り 三部作

『祈り』『希望の樹』『懺悔』

Vedreba/ Drevo Zhelaniya/ Monanieba

監督:テンギズ・アブラゼ
出演:スパルタク・バガシュビリ/リカ・カブジャラゼ/アフタンディル・マハラゼほか
日本公開:2018年/1991年/2008年

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51年前放たれた祈りが、現代に届く
ジョージアの名匠 渾身の三部作

ジョージア山岳部に住むイスラーム教徒とキリスト教徒の対立をモノクロームの映像美で描いた『祈り』。20世紀初頭、ジョージアの農村を舞台に、革命前の社会における人々の動揺の中、村の掟や窮状によってある一つの愛が失われていく様を描く『希望の樹』。架空の地方都市で、独裁者による粛清が明らかになっていく『懺悔』。

51年前に製作された『祈り』は日本初公開。そして、『祈り』と同じく、徹底してヒューマニズムを描いた『希望の樹』『懺悔』があわせて上映されます。

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私がこの三作から強く受け取ったのは、それぞれの作品が作られた1967年、1976年、1984年という時代において、姿を変えながらジョージアに存在していた、目に見えない「権力」、そしてその恐ろしさです。

私は、現在イランと合作映画を作っていますが、イランでは政治・宗教上の表現や服装(特に女性に関わる物事)に関して規制があります。映画が作られるべきかの審査にも最低約1年を要し、その認可がない作品は国内の劇場で公開できません。しかし、そうした規制の中でも表現は生まれていき、時にそうした制限ゆえ、作品の力が強まることもあります。

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あることを描き、それとは全く違うことを言おうと試みる。これは演出の中で最も難しく、同時に美しい表現です。本三部作は、権力に屈することなく「映画言語」を新たに更新させようとしている、時代をいかに経ても色あせない瞬間に観客を立ち会わせてくれます。

例えば、『希望の樹』の冒頭で、赤い花が咲き誇る美しい花畑で、白い馬が今まさに死のうとしている場面があります。なぜ馬が美しい場所で、それも映画の冒頭で死を迎えなければいけないのか。本コラムで以前紹介したギリシャ映画『霧の中の風景』にも同じように、馬が路上で死に、「故郷」を求めて旅する少年・少女が為す術もなく立ち尽くすシーンがあります。人間にはどうすることもできないそうした無力感は、当時の混乱に対する怒りとつながっているのだと私は感じ、冒頭から強烈に惹きつけられました。

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現在、ポピュリズムが世の中を席巻し、単純で直接的な表現が世の中にあふれています。そうしたタイミングの今こそ、この一連の作品が価値を持つことにとても納得がいきます。

歴史の理解を深めるという意味では、特に旧ソ連圏を旅する上で、どのように権力が人に影響していたのかを、情報ではなくイメージとして理解する上でとても参考になる作品です。

『『祈り』三部作―『祈り』『希望の樹』『懺悔』』は8/4(土)より岩波ホールにてロードショーほか、全国順次公開。詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

コーカサス3ヶ国周遊

広大な自然に流れる民族往来の歴史を、コンパクトな日程で訪ねます。
複雑な歴史を歩んできた3ヶ国の見どころを凝縮。美しい高原の湖セヴァン湖やコーカサス山麓に広がる大自然もお楽しみいただきます。

民族の十字路 大コーカサス紀行

シルクロードの交差点コーカサス地方へ。見どころの多いジョージアには計8泊滞在。独特の建築や文化が残る上スヴァネティ地方や、トルコ国境に近いヴァルジアの洞窟都市も訪問。

英国総督 最後の家

51493169be3598fd(C)PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016

インド

英国総督 最後の家

 

Viceroy’s House

監督:グリンダ・チャーダ
出演:ヒュー・ボネヴィル、ジリアン・アンダーソン、マニーシュ・ダヤール、フマー・クレイシーほか
日本公開:2018年

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インドとパキスタン
分離独立の渦と、その中で芽生える愛

1947年、インドの首都・デリー。「最後のイギリス統治者」としてルイス・マウントバッテンが総督の家にやってくる。邸宅の中では500人もの使用人が働いていて、彼らはヒンドゥー教・イスラム教・シーク教などさまざな文化的背景を持っている。

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「インドの統一を保ち撤退せよ」と命じられていたマウントバッテンだったが、邸宅内では、独立後に統一インドを望む多数派と、分離してパキスタンを建国したいムスリムたちによる論議が続けられていた。一方、使用人の青年・ジートと、総督の娘の世話係・アーリアは、宗教・身分の違いを超えて惹かれあう・・・

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インドを旅していると感じる圧倒的な多様性。そして、パキスタンとの関係(例えば、クリケットでインド対パキスタンの試合がある時は、熱狂的な応援の様子を見ることができます)。両国のルーツは紀元前にまで遡りますが、1947年という年は、1945年が現代日本にとって境目の年であるように、現代インド・パキスタンの土台となっています。

今この2018年(本国での公開は2017年)に、インド・パキスタンの独立を振り返ることにどのような意義があるのでしょうか。

本作では、「ラドクリフ・ライン」と呼ばれる国境線が引かれ、大混乱をもたらし約100万人が亡くなったと言われている印パ独立の瞬間が描かれています。現代社会でもシリア騒乱やEU分裂など、国境線や人々の「居場所」に関わる問題が続いています。

インドにルーツを持ちながらイギリスで育ち、祖父母が分離独立によって大きな影響を受けたという監督は1960年生まれ。時に憎しみ渦巻くこのデリケートな題材を中立的な立場で描き、印パ独立の歴史から今でも学べることが多くあると観客に訴えかけています。

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ガンジー、ジンナー、ネルーなど歴史の教科書に出てくる人物たちのそっくりさもさることながら、本作は若い男女の愛を軸に、出来事の悲惨だけではなく、そうした状況の中でも芽生える希望・人間の強さに焦点が当てられている点が最大の特徴です。当時の様子を再現した、衣装や美術にもぜひご注目ください。

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印パ独立の歴史を詳しく知らない方でも物語にスッと入り込める『英国総督 最後の家』。8月11日(土)より新宿武蔵野館にてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド 15の世界遺産をめぐる少人数限定の旅。

インドの優雅な休日

宮殿ホテルサモードパレスと湖上に浮かぶレイクパレスに滞在。

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デリー

「旅の玄関口」デリー。この都市は、はるか昔から存在した歴史的な都でもあります。 古代インドの大叙事詩「マハーバーラタ」では伝説の王都として登場。中世のイスラム諸王朝やムガール帝国などさまざな変遷の後、1947年にはイスラム教国家パキスタンとの分離独立を果たします。
現在ではインド共和国の首都として、その政治と経済を担い、州と同格に扱われる連邦直轄領に位置づけられています。

西遊旅行退職後、数本の短編を監督の後、初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」を監督。国内外で好評を博し、日本映画監督協会新人賞にノミネート。(映画ストリーミングサイトLOAD SHOWにて配信中 ) 2015年「せんそうはしらない」を名古屋で、2017年「憧れ」を韓国で監督。現在、福岡にて新作準備中。  y-jimbo.com