「旅と映画(たびとえいが)」神保慶政監督 | 秘境ツアーのパイオニア「西遊旅行」

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幸せの経済学

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ラダック

幸せの経済学

 

The Economics of Happiness

監督:ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ、スティーブン・ゴーリック
、ジョン・ページ
出演:ヘレナ・ノーバーグ=ホッジほか
日本公開:2011年

2017.4.26

インド最北の小チベット・ラダックに打ち寄せるグローバル化の波

インドの北の果て、標高約3500メートルの地に広がる秘境・ラダック。「チベットよりチベットらしい」と言われるに値する、貴重な史跡の数々や文化・慣習が残るラダックは、1974年に外国人立ち入り禁止令が解かれて以降、世界中の人々を魅了してきました。私はよくこの場所に、添乗業務で訪れさせて頂いていましたが、古刹・アルチ僧院の1000年以上前に描かれたマンダラや、ロツァワ(翻訳官)と呼ばれる高僧リンチェン・サンポの足跡は、容易に世界観を変えてくれます。

本作は、そのラダックに急速な近代化の波がおしよせ、伝統・コミュニティ・価値観が変容していくのを目の当たりにしたヘレナ・ノーバーグ=ホッジ(ラダック入門に最適な『ラダック 懐かしい未来』の著者)を中心に、本当の豊かさとは何かを問いかけるドキュメンタリーです。

作中で、グローバル化(globalization)とローカル化(localization)という言葉は、よく意味が混同されるということが説明されます。グローバル化は、国際交流・相互依存・国際社会という意味合いで、ローカル化は孤立主義・保護主義・貿易の排除・・・・・・どちらの言葉も本義とは異なるイメージで都合よく使われ、その引き換えに大切な物事を失ってしまうという指摘です。

その解説を聞きがら、ラダックのどんなガイドさんでも口にする、ある言葉を思い出しました。ラダックの中心都市で空港もあるレーからアルチに向かう途中、必ずニンムーという場所で写真ストップをします。そこは、2つの川(インダス川・ザンスカール川)の合流点で、タイミングによって色が違い、何度来ても新鮮な場所です。そこで、いつもガイドさんたちは、ラダックよりもさらに奥地にあるザンスカールの方を見てこうつぶやいていました。

「この先(ザンスカール川沿い)の道が完成したら、ザンスカールも急激に変わってしまうだろうね」

私が頻繁に訪れていた2010年前後当時、もうすぐ完成すると言われていた道はまだ完成されていないようですが、この言葉は当時ラダックが既に急激な変化にさらされていたことを物語っています。一度手にした便利さを手放すことは容易ではありません。しかし、進歩・発展が全てではないとまだしっかりと知っているラダックの人々は、これからも世界中の人々の心を豊かにしてくれるでしょう。

ラダックという地名を初めて聞いた方も、ラダックに限らず秘境に訪れることの意義について考えたい方も、ぜひご覧ください。

インド最北の祈りの大地ラダック

荒涼とした大地と嶮しい山岳地帯に息づく信仰の地・ラダックへ。保存状態の良い壁画やマンダラを有する厳選の僧院巡り。レーとアルチに連泊し、高所に備えたゆとりある日程。

草原の河

c7d39c7596646263©GARUDA FILM  配給:ムヴィオラ

チベット

草原の河

 

監督・脚本:ソンタルジャ
出演:ヤンチェン・ラモ、ルンゼン・ドルマ、グル・ツェテンほか
日本公開:2017年

2017.4.19

日本初、チベット人監督による劇場公開作!少女に死生観が芽生える瞬間

舞台はチベット高原東北部の青海省。広大な自然の中で牧畜を営む一家のもとに新しい命が誕生しようとしています。しかし、6歳の少女・ヤンチェンは母親をとられてしまうかもしれないと、赤ちゃんが生まれることを喜んで受け入れられません。

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ヤンチェンの父・グルは、4年前に起きたある出来事から、自分の父との間に確執を抱えています。季節の変化とともに、家族の気持ちも変化していき・・・・・・

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主人公のヤンチェンは、ピアスやアクセサリーをつけていて、カラフルな民族衣装も立派に着こなしているのですが、まだ乳離できていなく精神的に幼い女の子です。目の前のことひとつひとつに興味を持つ多感な彼女は、子どもができる仕組みや、種を蒔くと芽が出ることなど、素朴なことに疑問を抱きます。

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答えを知ることからだけでなく、分からないことを突き詰めていく過程でも人は成長していきますが、ヤンチェンは物語の中で「誕生」や「死」という深遠な事柄に興味を抱いていきます。カメラはそんな少女を、空と大地が接しているようなチベットの空間の中にポツンと配置し、きっと自然から多くを教わって育っていくのだろうと見守りたくなるような切り取り方で映しだします。

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自然のシーンもさることながら、ヤンチェンとグルがある理由で都市部に行くシーンも印象的です。以前、このコラムで取り上げたグアテマラ映画『火の山のマリア』も、先住民が都会と距離を置いて生活している姿が描かれた映画でしたが、ヤンチェンたちは都市部にバイクで(おそらく1〜2時間ぐらい)行ける距離で放牧をしています。ヤンチェンは町を特に珍しがっている様子はなく、時折都市まで出てくることがあるという環境で育っているのでしょう。

近い将来、ヤンチェンが町の学校に行くことになったら、遊牧生活を送る一家はどうなっていくのか・・・いつか来る「終わりの時」をかすかに感じさせながら、彼女の純粋な振る舞いは観客に、生きること、死ぬことを今一度見直させてくれます。

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記念すべき日本初のチベット人監督による劇場公開作『草原の河』は、4月29日(土・祝)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

人生タクシー

19007a592b88c3b9(C)2015 Jafar Panahi Productions

イラン

人生タクシー

 

Taxi

監督:ジャファル・パナヒ
出演:ジャファル・パナヒほか
日本公開:2017年

2017.4.12

巨匠が運転するタクシーの車載カメラが、イランの首都の輪郭を描き出す

2010年、「反体制的」な映画を制作したとして、政府から以降20年間の映画制作・脚本執筆・海外渡航・インタビュー対応を禁止されたジャファル・パナヒ監督。テヘランの町でタクシーを走らせていると、教師、泥棒、金魚を持った老人、映画マニア、映画監督志望の学生、監督の親戚・友人・旧友など個性豊かな人々が次々に乗ってきます。ダッシュボードに置かれたカメラに映し出されたものとは・・・・・・

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タクシーというのは実は多くの国で通じる、万国共通と言ってもよい言葉です。ためしに作中で話されるペルシャ語をはじめ、スワヒリ語・ウルドゥー語・ロシア語を調べてみましたが、やはりほぼ「タクシー」という発音でした(中国は少し違った「的士」という単語で、方言によって違いますが、近い広東語でも「ディクスィ」)。

普遍性があり、ランダムに行き先がきまり、その行き先は基本的に拒否することができない・・・運命にいくらか似通っているともいえるタクシーの特性をいかして、堂々と撮影できない状況を軽々とアドバンテージにしてしまうのは、世界中で愛される巨匠だからこそ成せる技でしょう。

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このコラムでもとりあげた監督の過去作『白い風船』はドキュメンタリーと見違えるようなフィクション作品でしたが、本作でもどこまでが実際の話でどこからが作り話なのかわからなくなるようなストーリーが展開されていきます。

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鑑賞後、「同じタクシーのシートに座っていた」という共通点だけで、もはやその場にはいない乗客たちがつながっているような感覚がして、町に点在しているパズルのピースがタクシー内で合わさるような爽快感を味わえました。自分が今まさに読んでいる本に書いてあることを、通りかかりの人が偶然話していたり、喫茶店で物思いにふけっていることについて店内の赤の他人が話していたり・・・そうした経験を私が鑑賞後思い出したのは偶然ではないはずです。

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また、異国でタクシーに乗ったことがある方は、その記憶を思い出させてくれるでしょう。料金が安かったり、高かったり、交渉ベースだったり、ちょろまかされたり。私も、北アフリカのある国で手品のように高額紙幣を小額紙幣にすりかえられ、あまりにその技が見事だったので諦めた苦い思い出を、一瞬映画の途中に思い出しました。

テヘランの町の雰囲気を体感してみたい方、ユニークなテヘラン市民に会ってみたい方にオススメの映画です。

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4月15日(土)より新宿武蔵野館他、ロードショー。その他詳細は公式HPをご確認ください。

ペルシャ歴史紀行

メソポタミア文明最高のジグラット“チョガザンビル”、ゾロアスター教の聖地ヤズドも訪問。

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テヘラン

イランの北西部に位置する同国の首都。エルブルース山脈の麓に広がるこの街は、全人口の10%に当たる人々が生活する大都市です。近代的な建物やモスク、道路に溢れかえる車の数、バザールなどの人々の活気など満ち溢れたエネルギーを肌で感じることが出来る街です。

タレンタイム〜優しい歌

c56d9a408526c989(C)Primeworks Studios Sdn Bhd

マレーシア

タレンタイム〜優しい歌

 

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監督:ヤスミン・アフマド
出演:出演:パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショールほか
日本公開:2009年

2017.4.5

どこにでもありそうで、マレーシアにしかない・・・若者たちの青春の音色

舞台は多民族国家・マレーシア。「タレンタイム」(タレント+タイム)という音楽コンクールが毎年開催されている高校で、今年も生徒から精鋭が選りすぐられる。イギリス系・マレー系の混血でムスリムの家庭に育った女子学生・ムルーはピアノを、中国系の優等生・カーホウは二胡を、マレー系でムスリムの転入生・ハフィズはギターを演奏する。そして、耳の聞こえないインド系ヒンドゥー教徒・マヘシュはムルーに恋をする。幸せなひと時と苦悩の瞬間が交差しつつ、生徒たちとその家族はそれぞれの道を歩んでいきます。

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2009年、マレーシアで将来を嘱望されていた女性監督ヤスミン・アフマドは、51歳という若さでこの世を去りました。国境や宗教の壁を映画の力で越えようと作品を生み出し続けた彼女の遺作となったのが、本作『タレンタイム〜優しい歌』です。

サブ3 ○Talentime

なりたいけどなれない、変えたいけど変えられない、言いたいけど言えない・・・世の中の多くの物語は、何かしらの葛藤の存在と、その解消が展開を進めていきます。本作の主要な登場人物も、多感な高校生であるがゆえになおさら、家族のこと、恋のこと、勉強のことで葛藤を抱えています。

サブ4 ○Talentime

ヤスミン・アフマド監督の作品の一番の特徴は、こうした葛藤ではなく、やさしい慈愛の風調を主な原動力として物語が進んでいく点です。たとえば、主人公・ムルーの家族はイギリス・マレーの混血でムスリムの家庭ですが、ヒンドゥー教徒で耳が聞こえないマヘシュをムルーが連れてきて家族の輪に入ってきた時、静かに、多くを聞かずに受け入れてあげます。

劇中で風になびくカーテンのカットが何度か挿入されますが、まるで監督が息を吹き込んでいるかのように、映画全体に穏やかな趣きが漂い、登場人物たちはそれを肌で感じているように考え、行動していきます。

サブ1○ Talentime

撮影地となっているイポーという場所は、英国植民地時代から茶葉栽培が盛んでリゾート地として有名なキャメロンハイランドのほど近く、コロニアル調の美しい建築が残っている町です。登場人物たち以外にも、多種多様な考え方の人々が町に暮らしていることが、説明せずして映像に表れています。

サブ7 ○Talentime

マレーシアという国がどのような国なのか知らなくても気軽に鑑賞できますが、見た後にこの映画が作られた2009年前後のマレーシアで起きた出来事や21世紀に入ってからのマレーシアが抱える政治・経済・宗教の問題について調べると、監督が静かに巨大な問題にアプローチしていることに気づける、深く掘り下げられた作品です。映画館を出てもやさしく耳の奥で鳴り続ける、劇中の音楽も必聴です。

サブ2 ○Talentime

『タレンタイム〜優しい歌』は、3月25日(土)よりシアター・イメージフォーラムで公開中。4月8日(土)名古屋センチュリーシネマ、4月15日(土)シネマート心斎橋ほか全国順次公開。

その他詳細は、公式HPをご確認ください。

シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語

poster2 (1)(C)Yorgos Mavropsaridis

トルコ

シーヴァス 王子さまになりたかった少年と負け犬だった闘犬の物語

 

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監督:カアン・ミュジデジ
出演:ドアン・イスジ、ハサン・オズデミルほか
日本公開:2015年

2017.3.22

闘犬・シーヴァスと負け犬少年・アスランの言葉なき友情

舞台はトルコ・東アナトリア地方のある村。11歳の少年・アスランは、学芸会で演じられる白雪姫の配役で王子役を希望するものの、村長の息子・オスマンがコネであっけなく役をとってしまい苛立ちを隠せません。その上、気になっている女の子が白雪姫を演じることになってしまいます。そんなある日、闘いに負けて瀕死の状態で放置されている闘犬・シーヴァスをアスランは連れて帰ります。小柄なためまわりから軽んじられているアスランは、猛々しいシーヴァスとともに過ごす時間にのめりこんでいき・・・

トルコでは闘犬の文化があるのかと思い映画を見進めていくと、非合法であることが明らかになってきます。女性がほとんど登場しなく、男性社会であることも映像から伝わってきます。また、直接は描かれていませんが、マスメディア・インターネット・SNSを統制していることで知られるトルコの権力構造が、闘犬に対する取り締まりや主人公家族と警察のやりとりの中で見えてきます。

海外を旅する時、いいことばかりを目にする訳ではなく、貧困や目をつぶりたくなる場面に遭遇することはしばしばあります。ツアーバスの乗降口に物乞いが集まってきたり、移動中にスラム街が見えたり、ガイドさんからその国の負の面について説明を受けたことがあるという方も多くいらっしゃるのではないかと思います。楽しい思い出に埋もれてしまいがちですが、そうした辛い・悲しい光景も、記憶の中に残っていると人によっては何かアクションを起こすときの原動力に変化することがあります。

映画も、楽しむものであると同時に(特にドキュメンタリーは)観客に悲しみを伝える役割があります。この映画は、どちらかというと暗く、弱い主人公・アスランや社会的弱者の家族たちが、権力構造をなんとかはねのけようとする姿が描かれています。鑑賞のタイミングを選ぶ作品かもしれませんが、アスラン少年の苦悩の様子や飄々とアスランに従う闘犬・シーヴァスの生き様は、見た人に困難を乗り越える強さを示してくれます。

迫力満点の闘犬シーン(犬同士の衝突音や勢いは驚きます)、眼力のあるトルコ人少年の名演技もぜひお楽しみください。

ひつじ村の兄弟

poster2(C)2015 Netop Films, Hark Kvikmyndagerd, Profile Pictures

アイスランド

ひつじ村の兄弟

 

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監督:グリームル・ハゥコーナルソン
出演:シグルヅル・シグルヨンソン、テオドル・ユーリウソンほか
日本公開:2015年

2017.3.15

火と氷の国・アイスランドで、羊たちが紡ぎ出す兄弟の絆

舞台はアイスランドの人里離れた村。隣同士に住んでいるものの、仲がとことん悪い老兄弟グミーとキディーは、先祖代々受け継がれてきた羊の世話に人生をかけてきました。質素ながらも慎ましい生活を送っていたある日、キディーの羊が疫病に侵され、保健所から殺処分を命じられてしまいます。この危機に、兄弟がとった行動とは・・・・・・

アイスランドの財産は火山・温泉・氷河・オーロラなどの大自然です。映像や写真でも意識すれば一目見てアイスランドではないかと察しがつくような、独特のスケール感が景観から感じられます。昨年末話題となった『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』の冒頭も、アイスランドではないかと思わせる不思議な場所で、調べたところ正解でした。

主人公の老兄弟は、私たちからするととても孤独と思える場所・環境に住んでいますが、退屈した様子はなく、むしろ土地に対する静かな誇りが言動に表れています。それもこれも受け継いできた羊たちがいるおかげなのでしょう。その羊たちが連れ去られるだけでなく殺されてしまうということは、彼らにとって生きながら地獄に突き落とされるようなものです。

このように、土地の重要な記憶や受け継がれきたものに突然アクセスできなくなってしまうという描写は、映画に普遍性を与えています。私たち日本人にとっては震災や原発問題に置き換えて考えてみることが可能でしょう。

ストーリーで工夫が凝らされていて面白いのは、羊の血統を絶やさないために、絶縁状態ながらも血の繋がりがある兄弟が歩み寄りを迫られるという、「血」や「関わり」という要素が巧みに利用されている点です。兄弟という「関係がある」ことを彼ら自身に呼び覚ますのは、羊の血統が「なくなる」恐れです。「関係ない状態」を「関係ある状態」にすることは可能ですが、存在自体が無くなっては関係を形成する土俵に立つこともできません。

「関係ないこと」と「関係あること」の境界はとても曖昧ですが、『ひつじ村の兄弟』には家族であるだけで関わりを持たなければいけないことの滑稽さが、アイスランドという国の記憶とともに描かれています。

自分のまわりで受け継がれてきたものに思いを馳せたい方、アイスランドの大自然を楽しみたい方におすすめの作品です。

世界でいちばん美しい村

ビラ表面2 (C)Bon Ishikawa

ネパール

世界でいちばん美しい村

 

監督: 石川梵
出演: ネパール・ラプラック村の人々
公開: 2017年

2017.3.8

深い悲しみの底から、新たな芽を・・・
ヒマラヤで輝かしい心を受け継ぐ人々

2015年4月にネパールで大地震が起き多くの被害が発生したことは、日本でも大きなニュースとして取り上げられました。地震直後、首都・カトマンズでもまだ混乱が続く中、石川梵監督は震源地であるラプラック村に2日間かけて向かいます。ほとんどの建物が倒壊して壊滅状態のラプラック村では、自然災害の理不尽さに負けず、強く優しく生きようとする人々がいました・・・

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このドキュメンタリーを見ながら私が思い出したのは、古代中国の哲学者・老子が著作に記した「小国寡民」という言葉でした。これは、国の理想的な形は国民の少ない小さい国で、自分の国にいるだけで満ち足りた生活を送ることができる理想郷の考え方を示した言葉です。

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自分が食べているものをおいしいと思い、着ているものを美しいと思い、住まいにくつろぎを感じ、国民は遠くに移り住むことを考える必要もない・・・もし国家に住む人々が皆そう思うようになれば、自分の国にいるだけで幸せに生涯を全うできるのではないか。春秋戦国時代という戦乱の世の中で、老子はそのように想像しました。

現代社会ではかなり極端で実現不可能な考え方に聞こえますが、生まれ育った場所を捨てるか捨てないかの選択に迫られたラプラック村の人々の反応は、小国寡民という考え方の根本にある「足るを知る」という生き方があながち夢物語ではないと私たちに思わせてくれます。

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ラプラック村の多くの人々は「いつ村が土砂崩れに飲まれてもおかしくない」と専門家に死の危険性を指摘されても「また地震がきても運が良ければ助かる、ダメだったらそれまでだ」と、そのまま留まることを選択します。危険を回避するという功利的な選択より、地震によって命を奪われた人々や祖先の魂に寄り添って暮らすほうが、彼らの人生の充足感につながるのでしょう。

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そうしたラプラック村の精神の一片を、劇中でひときわ印象的なボン教の儀式から感じ取れることができます。仏教が根付く前の土着の精霊信仰を中心に据えているボン教は、まるで一人ひとりの体から土地へ向かって根をはりめぐらしていくかのような儀式を行います。

ある儀式では、土地の記憶と魂に捧げるマントラ(真言)の中を泳ぐように、少女たちが目をつぶって足を一歩一歩前へ進めていきます。彼女たちが目をつぶっている先には、心の中に宿る理想郷・ラプラック村のイメージが見えているのでしょう。

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『世界でいちばん美しい村』は2017年3月25日より(土)より東劇ほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

ネパールの山旅

神々の棲む国ネパール。白き峰々が織りなす憧れのヒマラヤへ・・・

娘よ

7bb211b501e946bf©Dukhtar Productions LLC.

パキスタン

娘よ

 

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監督:アフィア・ナサニエル
出演:サミア・ムムターズ、サーレハ・アーレフ、モヒブ・ミルザーほか
日本公開:2017年

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知られざるパキスタン部族社会の掟と、母娘の自由への旅路

パキスタン・連邦直轄部族地域のある村で、部族長・ドーラットは絶え間なく続く部族間の報復の連鎖に頭を抱えていました。解決策として、ドーラットの10歳の娘・ザイナブと相手部族の老部族長との婚姻が決まります。dukhtar_still09

その事実を知ったザイナブの母・アッララキは自分自身も15歳の時に嫁がされた経験から、娘を渡したくないと強く思います。アッララキは婚礼の当日に村から脱出することを決意し、波乱万丈の旅路が始まるのでした・・・

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物語が始まる場所の設定はトライバルエリアとも呼ばれる連邦直轄部族地域で、伝統的な部族長会議による統治がなされています。パキスタンの憲法は大統領の指示がない限りは適用されません。制作スタッフはそうした特殊な場所からの脱出を演出するために、フンザ・ギルギッド・スカルドゥなど、パキスタン北部の地理的特色を最大限にいかしています。

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本作の特筆すべき点は、コロンビア大学で映画を学んだ女性監督アフィア・ナサニエルが、単純に部族社会における女性の自由を問題視するだけでなく、その背景にあるパキスタンと近隣諸国の大きな歴史の流れにしっかりと目を向けていることでしょう。

因習や悪習という言葉がありますが、本作で取り上げられているような部族社会における「目には目を、歯には歯を」の報復の連鎖や伝統的婚姻ははたして悪習といえるのでしょうか。

たとえば、かつて中国には女性の足が大きくならないように幼少期から足を強く縛る纏足という風習がありました。纏足は約1000年に渡って20世紀初頭まで続けられましたが、それには様々な文化的・社会要因がありました。このように、ある風習や社会的に続けられた行為を悪であるとみなしてしまう前に、その背景にある理由に考えを巡らせることは、異文化理解においてとても重要です。本作では部族社会における女性の自由を大きな問題として掲げながらも、単純にそれを批判するのではなく、ムジャヒディン(旧ソ連のアフガニスタン侵攻に対して戦った武装勢力)出身のトラック運転手をメインキャラクターとして登場させるなどして、歴史の流れも踏まえた大きな枠組みの中で問題の複雑さ・根深さが主張されています。

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フンザの村の狭い路地を活かした追跡劇や、黄金色に輝くアンズやポプラの木々の中行われるカーチェイスも必見です。少しハンドル操作を誤れば崖に真っ逆さまの道でのカーチェイスはスリリングで見入ってしまうのはもちろんですが、パキスタン北部を旅されたことがある方は「あの道でカーチェイスをしたのか・・・」となおさらドキドキとしてしまうはずです。パキスタン名物のド派手なデコトラも登場し、パキスタン文化入門としても多くの場面で楽しめます。

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カラコルム山脈などパキスタンの雄大な景色を見てみたい方、一歩踏み込んで南アジア・中東の歴史や女性の自由について考えてみたい方にオススメの一本です。

『娘よ』は3/25より岩波ホールほかにてロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

秋の大パキスタン紀行

北部パキスタンが「黄金」に輝く季節限定企画 南部に点在する世界遺産を巡り、桃源郷・フンザへ

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パキスタン北部の山岳地帯をめぐる決定版

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フンザ

「桃源郷」と謳われ、「長寿の里」として知られ、かねてより旅行者の憧れの土地。春の杏の花、夏の緑と山々の景色、秋の紅・黄に染まった木々・・・それぞれの季節に美しい景色を魅せます。

山河ノスタルジア

poster2(C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

中国

山河ノスタルジア

 

山河故人

監督:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、チャン・イーほか
日本公開:2016年

2017.2.22

諸行無常の世の中で、湧いて流れるものごころ

1999年、中国華北地方に位置する山西省の都市・汾陽から物語は始まります。小学校教師・タオは、炭鉱労働者・リャンと恋愛関係にありましたが、リャンの友人で実業家のジンシェンからプロポーズを受け、結婚します。リャンは汾陽を去り、タオとジンシェンの間にはダラーという男の子が誕生し・・・・・・

分岐していくそれぞれの運命は何十年という長い時間をかけて交差していきます。

邦題にノスタルジア(郷愁)という言葉が使われていますが、この映画は急速に変化を遂げてきた中国において、人々の心のなかにどのような情景が宿っているのかということを映し出しています。(中国語の原題は『山河故人』。故人は日本語の意味とは違い、古くからの友達という意味があります。)

ブータン・東南アジア・中国南部の農村地帯は「日本の原風景が残っている」と形容されることがありますが、懐かしくて心安らぐことというのは必ずしも自然景観だけでなく、音楽だったり、台所の音だったり、建物だったりと人それぞれです。私は今福岡に住んでいますが、時々『珈琲時光』という東京の情景がとてもよく切り取られている映画を見て、JRの発着メロディー・街並み・雑踏の音などから懐かしさに浸っています。

この映画では、明の時代に建てられた汾陽のランドマーク・文峰塔が、「変わらないもの」として物語で重要な役割を果たします。中国現存の最も高いレンガ作りの塔として有名で、特にその塔に登るわけでも、登場人物たちが塔について言及するわけでもありませんが、時代が推移しても変わらず同じ場所に建ち続ける文峰塔は、きっと登場人物たちや実際汾陽に住む人にとって大切な心の拠り所になのだろうと感じました。

中国の旅の醍醐味である電車の光景も見どころです。日本でも車窓を見ながら「この地に住む人はどういう暮らしをしているのだろうか」と思い浮かべることがありますが、中国はそう思い浮かべる以上にその広さに圧倒されます。学生の時にウルムチから上海まで2日半ほど電車に乗り続けたことがありますが、移り変わる景色に全く飽きることはありませんでした。登場人物たちのノスタルジーを引き出すのに、電車や駅のシーンが効果的に挿入されている点にぜひご注目ください。

自分の原風景に思いを馳せたい方、世界の広さを感じたい方におすすめの作品です。

プラハ!

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プラハ!

 

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監督:フィリプ・レンチ
出演:ズザナ・ノリソヴァー、ヤン・レーヴァイほか
日本公開:2006年

2017.2.15

「プラハの春」から生まれた足並みが踊り出す、青春ミュージカル映画

1968 年、チェコスロバキアのある田舎町。人気者の女子高生三人組・テレザ、ブギナ、ユルチャは素敵な恋愛に憧れていますが、クラスメートの男子たちは全く相手になりません。ある日彼女たちは、アメリカ亡命を夢見て軍から脱走してきた若い兵士三人組・シモン、ボブ、エイモンと出会い、恋に落ちていきます。

『プラハ!』はチェコスロバキアにとって大きな過渡期となった「プラハの春」のひと時を、歌と踊りをまじえて描いた作品です。1968年初頭、チェコスロバキア共産党が独自の民主化路線「人間の顔をした社会主義」を推進し、ミニスカートなど西欧の文化が流行し、自由化の波が起きました(映画ではそうした当時の様子が存分に再現されています)。しかし、同年8月にソ連・ブレジネフ政権が軍事弾圧に踏み切り、「プラハの春」の流れは断ち切られてしまいました。

ミュージカル映画の名作『シェルブールの雨傘』の根底にアルジェリア戦争への思いがこめられていたように、ハッピーな雰囲気で始まるこの映画も物語が進むにつれて当時の時代背景が見え隠れしてきます。

喜びと悲しみの関わりについて、夏目漱石も著作の中で引用した『ひばりに寄せて』という有名な詩では、このように詠われています。

「前をみては、後えを見ては、物欲しと、あこがるるかなわれ。腹からの、笑といえど、苦しみの、そこにあるべし。うつくしき、極みの歌に、悲しさの、極みの想、籠るとぞ知れ」

女子高生たちは「心からの笑いにも、苦しみが含まれている」とは夢にも思っていませんが、思えば、映画というのはただ楽しいだけでは物語が成立しません。ハッピーエンドになるにしても、通常そこに辿りつくまでには登場人物たちの葛藤が描かれます。

逆に、このコラムでも紹介させて頂いたギリシャのテオ・アンゲロプロス監督の作品のように、ひたすら悲しい映画というのは存在します。発展途上国の映画や苦境にある国の映画にパワーがあるように、映画というのは悲しさ・苦しさ・怒り・孤独などを大きな原動力にしているのでしょう。『プラハ!』はチェコを旅するだけではなかなか見えない、人々の心の奥底や国の記憶の中の暗い部分を、明るいストーリーの中で見せてくれます。

中欧の美しい街並みが見たい方、ミュージカル映画がお好きな方におすすめの作品です。

西遊旅行退職後、数本の短編を監督の後、初長編「僕はもうすぐ十一歳になる。」を監督。国内外で好評を博し、日本映画監督協会新人賞にノミネート。(映画ストリーミングサイトLOAD SHOWにて配信中 ) 2015年新作短編「せんそうはしらない」を名古屋にて監督。名古屋ほか全国順次上映予定。y-jimbo.com