柳川

日本(柳川)

柳川

 

漫⾧的告白

監督:チャン・リュル
出演:ニー・ニー、チャン・ルーイー、シン・バイチンほか
日本公開:2022年

2022.12.7

柳川の運河を行くような、思い出と記憶の旅

北京に住む中年男性・ドンは自分が不治の病に侵されていることを知り、長年疎遠になっていた兄・チュンを柳川への旅へと誘う。柳川は北京語で「リウチュアン」と読み、それは2人が青春時代に愛した女性「柳川(リウ・チュアン)」の名前と同じだった。

20年前、チュンの恋人だったチュアンは誰にも理由を告げぬまま突然姿を消し、現在は柳川で暮らしているという情報を頼りに、兄弟は柳川を訪れる。チュアンと再会を果たすと、過去・現在・未来が交錯したような不思議な時間が、緩やかに流れる柳川の運河の傍らで流れ始める・・・

「東洋のベニス」とよばれる地が国内外に何箇所かありますが、その一つが福岡県でも佐賀・熊本寄りにある柳川です。町中に運河が走っている場所がそのように呼ばれやすいようで、日本では他に倉敷、アジアではバングラデシュのダッカやインドのシュリーナガルなどが「東洋のベニス」の異名を持っています。柳川は運河の川下りや、雛飾り、うなぎなどが有名で、海苔で有名な有明海にも近いです。運河は当然出てきますし、雛飾りもしっかり出てくるのですが、オノ・ヨーコさんの実家があるという通なポイントもストーリーに活かされています。

中国出身の朝鮮族三世で韓国在住のチャン・リュル監督は、場所の名前そのままな映画シリーズを撮り続けてきました。今回の日本公開で同時上映される『福岡』『群山』や、『慶州』などです。

僭越ながら、チャン・リュル監督が「場」を眺める視点は、自分にとても似ているなと新作を見る度に思います。一言で言うならば「詩的な認識」ということになるかと思います。

たとえば詩的なアプローチだと、「運河」という場所があった場合に、ただ運河として見るわけでなく、「流れる」「ゆるやか」「一時として同じではない」「小舟」「船頭さんの声」「舟のきしみ」など、言葉によって場所が細分化していきます。そして、その場所に一見関係がないような物事や人(もしくは逆に如実に深く関係している物事や人)を受け止める器のようなものをつくっていきます。その「発見」のプロセスの積み重ねが、「詩的な映画作り」になっていきます。

そのため、「何でこの人がここに?」とか「何でここでそういうことが?」という出来事が本作では多く、現実的でリアルなシーンというのは少ないです。そのあたかも夢のようなひとときが本作の魅力です。ちなみに余談ですが、予告編は僕が編集させていただきました。

『柳川』は12/30(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次上映(福岡ではKBCシネマにて12/16より先行上映)。そのほか詳細は公式HPをご確認ください。

九州テキスタイル紀行
~奄美・鍋島・久留米の手仕事を訪ねて~

佐賀・福岡・鹿児島を訪問。佐賀県では、300年の歴史がある「鍋島緞通」、木版摺りと型染めを組み合わせた和更紗「木版摺更紗」、200年の歴史のある「佐賀錦」を見学。福岡県では、日本三大絣の一つ「久留米絣」、そして鹿児島では奄美大島へ渡り「本場奄美大島紬」を見学します。