白い牛のバラッド

イラン

白い牛のバラッド

 

Ghasideyeh gave sefid

監督:マリヤム・モガッダム、 ベタシュ・サナイハ
出演:マリヤム・モガッダム、アリレザ・サニファルほか
日本公開:2022年

2023.6.21

ご法度破りから知る、イラン・イスラム共和国の社会構造

テヘラン郊外の牛乳工場に勤めるシングルマザー・ミナ。夫・ババクは殺人罪で逮捕され、1年ほど前に死刑に処された。

深い喪失感を抱え続ける彼女は喪服を着続け、聴覚障害で口のきけない7歳の娘・ビタを心の拠りどころにしている。

ある日、裁判所に呼び出されたミナは、夫の事件の真犯人が他にいたことを知らされる。理不尽な現実を受け入れられず、謝罪を求めて繰り返し裁判所に足を運ぶミナだったが、夫に死刑を宣告した担当判事に会うことさえかなわない。

そこに、夫にお金を借りていたという中年男性・レザが訪ねてくる。妙に親切なレザに警戒心をさほど頂くこともなく、ミナは心を開き、しだいに関係は親密になっていく・・・

イランの厳格な法制度を背景にした本作では、イラン社会における、いわゆる「ご法度」が描かれています。法制度に対する問いかけの映画とはいえ、こんなご法度破りなシーンが描かれている作品を国内で公開できたのだろうかと思ったら、やはり上映禁止措置がされていました。

いくつか「ご法度」な描写やセリフはあるのですが、一番はスカーフ取る(厳密にいうと、スカーフを取ろうとしながら移動して取れる瞬間にフレームアウトする)というシーンです。イランでは満9歳以上の女性が、ヘジャブと呼ばれる頭髪を隠すためのスカーフと、身体のラインを隠すためのコートの着用が法律上義務付けられています(7歳の娘・ビタその義務がまだ無いのは、下の抜粋写真でも表現されています)。

その他さまざまな法律・慣習の上を、登場人物が綱渡りするように本作のは進んでいくのですが、「決まり」がどう個人(特に女性)の人生を「決めてしまう」あるいは「決めつけてしまう」かということがストーリーの核になっています。

ミナの夫は「決まり」により死刑になってしまい、親切心で来訪した男性・レザがよからぬ理由でミナの自宅を訪問したのだろうという「決めつけ」によってトラブルが生じ、その「決めつけ」は元をたどればイラン社会の「決まり」によって生じている。じゃあその「決まり」というのは何によって成り立っているのか? というように、螺旋階段を行き来するような気分になる点が、見どころの作品です。

ちなみにタイトルに入っている「白い牛」に関しては、映画冒頭にも引用される、コーランの一節に由来しています。モーセが民に「神は牛を犠牲せよと命じた」と言うと民は「我々を嘲るのですか」と返したというものです。これがどんな比喩表現なのかがぜひ鑑賞しながらあれこれ想像してみてください。地下鉄等、大都会・テヘランの日々の様子も映っている本作は「イランに行ってみたい!」となるというより「イランというのは一体どんな国なんだろう」と、一風違った角度から興味を持たせてくれる一作です。

ペルシャ歴史紀行

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テヘラン

イランの北西部に位置する同国の首都。エルブルース山脈の麓に広がるこの街は、全人口の10%に当たる人々が生活する大都市です。近代的な建物やモスク、道路に溢れかえる車の数、バザールなどの人々の活気など満ち溢れたエネルギーを肌で感じることが出来る街です。