わたしは異邦人

(C)Rosa Film, Ursula Film

トルコ

わたしは異邦人

 

Dafne

監督: エミネ・ユルドゥルム
出演:エズキ・チェリキ、バルシュ・ギョネネンほか
日本公開:2025年

2025.7.30

トルコ南部を幽霊に導かれ行く、急がない旅

イスタンブールで生まれ孤児として育った新米霊能力者ダフネは、長い間行方のわからない母親を探すため、古代遺跡の残る地中海の町シデへやって来る。

ダフネのもとに残された手がかりは、はるか昔にトルコの名もない遺跡で撮影された、母親のぼやけた写真だけだった。

マルクス主義の革命家、娼婦、原始の巫女といった不思議な人たちと出会い、彼らの協力を得て母親の行方を探すダフネはアンタルヤへ辿り着き・・・

トルコというと「文明の十字路」というキャッチフレーズや、イスラーム文化なイメージが連想されることが多いかもしれません。現在のトルコの国境線が敷かれてからは約100年。歴史的には「アナトリア」(ギリシャ語の「アナトリコン(Anatolikon)」が由来で「日の出」や「東方」を意味する)として知られ、北は黒海、西はエーゲ海、南は地中海にはさまれている地です。

本作の舞台になっているトルコ南部は、列柱がそこかしこに建ち並び、ギリシャやローマと見違えるような光景が広がっています。

僕も学生時代にトルコへ旅した時は、ギリシャから鉄道を乗り継いでイスタンブールに入り、ローマ帝国時代の円形劇場や温泉の残るパムッカレやカッパドキアを巡りましたが、ヨーロッパとトルコ「地続き」であることをその時体感したのをよく覚えています。

この映画が描く旅(そして鑑賞しているひととき)は、とても「贅沢」だと僕は感じました。それはダフネの旅に全く「急ぐ」という場面がないからだと思います。

じっくりと、かつてこの世を去った亡霊たちの思いを聴き、自分自身のルーツとこれからを見つめる。

そして、ダフネの表情や声の張りが明らかに(でも静かに)変わっていく。そうした一連の流れは、忙しない日常を送りがちな現代日本の観客を癒やしてくれることでしょう。

本作は幽霊が出てきますが決してホラーではありません。生死の境目をゆるりと越えて、ダフネは出会う人々と別け隔てなく対話していきます。人間界と霊界の境目があいまいな感覚が、トルコでは普通なのか珍しいのかはわかりませんが、日本人にはとても親しみやすい感覚であると思いました(だから昨年の東京国際映画祭で作品賞をとったのかもしれませんね)。

作中の不思議なテンポを後押しするサウンドトラックも、「文明の十字路」的にボーダレスな響きで素敵な『わたしは異邦人』。8月23日から渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。詳細は公式HPをご確認ください。

南アナトリア考古紀行

トルコ南部のアランヤからボドルムまで、地中海岸を縦断し点在する史跡群を訪ねる考古学ファンに向けたアナトリア考古紀行シリーズ第二弾。。