燃えあがる女性記者たち

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インド

燃えあがる女性記者たち

 

Writing with Fire

監督:リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ
出演:新聞社「カバル・ラハリヤ」のメンバーたち
日本公開:2023年

2023.8.30

不可触カーストの女性によるニュースメディア「カバル・ラハリヤ」の勇姿

インド北部のウッタル・プラデーシュ州で、「不可触民」として差別を受けるダリトと呼ばれるカーストの女性たちによって設立された新聞社カバル・ラハリヤ(「ニュースの波」の意)は、紙媒体ではなく、SNSやYouTubeでの発信を中心とするデジタルメディアとして新たな挑戦を開始する。

スマートフォンを武器に、女性記者たちは、夫や家族から反対を受けつつも、粘り強く取材して独自のニュースを伝え続ける。彼女たちのチャンネルの再生回数は何千万・億単位となり、反響はどんどん大きくなっていく。

「インドにはカーストがある」という事実は、特に「言ってはいけない」ことではなく、むしろインドを旅するほとんどの旅行者は知っている周知の事実かと思います。

でも、それが一体どういうことであるかというのを、旅行者が体験・目撃することは非常に難しいと思います。なぜなら、カーストを形作る出自(ジャーティ)というのは、簡単に表出してくるものではなく、歴史・文化・習慣の中に深すぎるぐらい根を張っているからです。

その膠着状況を切り拓いていくのは、当事者であり「今」を生きる女性たち自身です。「撮影」は英語で“shooting”といいますが、まさにスマートフォンで彼女たちは自分たちの興味関心を「狙い撃ち」していきます。僕がもし取材者だったら遠慮して、まず関係性を構築してからインタビューするだろうという場面でも、彼女たちは臆せずガンガンとスマートフォンを被写体に向けて質問を投げかけていきます。

なぜ、そうできるのか? それは「待ったなし」「これ以上失うものは何もない」という状況だからなのでしょう。そして彼女たちや支持者たちの団結は、カバル・ラハリヤのメンバーをジャンムー・カシミール州のシュリーナガルやスリランカに旅させる力を生み出すに至ります。

僕は「“母なるインド”というフレーズがよく使われるけれども、なぜ母にたとえられるのかに疑問を感じる」という、何気なくにこやかに発話されつつも、強烈に現状を批判する投げかけが印象に残りました。女性記者たちがメラメラと、でも静かに燃えあがる様子から、転機や「何かが変わるとき」というのはダイナミックに訪れるというよりは、意外と何気ない小さいことから訪れるものだと感じました。

アカデミー賞にもノミネートされた『燃えあがる女性記者たち』は、2023年9月16日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次上映。詳細は公式HPをご確認ください。