セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター

poster2(C)Sebastiao Salgado (C)Donata Wenders (C)Sara Rangel (C)Juliano Ribeiro Salgado

ブラジル

セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター

 

Le sel de la terre

監督:ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
出演:セバスチャン・サルガド
日本公開:2015年

2022.4.6

世界中のあらゆる光景を目にしてきた写真家 セバスチャン・サルガドの人生

1944年ブラジル出身の「神の眼を持つ」写真家、セバスチャン・サルガド。モノクロ基調で人間の死・破壊・腐敗といった根源的なテーマを撮り続け、人間という存在の暴力性に絶望を感じてきた。

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しかし、2000年代に入ってから大自然の神秘に目を向けることで、「人間性」の見直しを希求しはじめる。

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地球上の最も美しい場所を探し求め、ガラパゴスやアラスカ、サハラ砂漠などで撮影を行い、圧巻の風景を写し出したサルガドのプロジェクト「ジェネシス」の現場に、ドイツの世界的監督ヴィム・ヴェンダースとサルガドの息子ジュリアーノ・リベイロ・サルガドが同行。2人の視点から、写真家サルガドの足跡が解き明かされていく。

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西遊旅行のお客さまにも、セバスチャン・サルガドファンの方は多いのではと思います 。「世界中を旅している」というキャッチーな言葉で仕事の説明がなされる際、当人が旅先の土地土地にどの程度どのように関与しているかという観点は置いてけぼりにされがちです。本作は、彼ほど政治・経済・文化等あらゆる分野に、旅をしながらも深く関与している人物はいないかもしれないと観客に思わせるパワーにみなぎっています。

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本記事の関連する国の表記も、あまりに多すぎるため、出身国・ブラジルのみ記載しました。

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本作はサルガドの素晴らしい(かつ ときに目を塞ぎたくなるような)作品が随時映りながら展開していきますが、あたかも昨今のロシア・ウクライナ情勢に関して示唆しているかのような内容となっています。

サルガドはバルカンやアフリカにおける、想像を絶するようなジェノサイドや貧困・飢餓の現場に身を置いてきました。様々な被写体の思いが自身に伝播したサルガドは、あらすじに記載した通り心をズタズタに引き裂かれます。そこから、それでも希望を見出すために人から自然に被写体を変え、自身の復興に取り組みました。

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ロシア・ウクライナ情勢や母国を追われた人々の生活の今後を思うと、問題・課題が巨大すぎて為す術がない虚無感におちいってしまうかもしれません。しかし、絶望を目の当たりにした上で、それでも希望を抱く、それでも旅をするという思いを抱くパワーを、サルガドが辿った足跡は与えてくれます。

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特に、妻と共に自分の故郷に20年をかけて200万本を超える植樹を行った「インスティテュート・テラ」プロジェクトの存在は本作の基軸になっています。自分自身はどんな根・幹・葉・花を持っていて、それをどのように周りに伝播できる存在なのかと、サルガドの人柄から感じ取れる作品です。