金の糸

196cfea02009436f©️ 3003 film production, 2019

ジョージア

金の糸

OKROS DZAPI

監督:ラナ・ゴゴベリゼ
出演:ナナ・ジョルジャゼ、 グランダ・ガブニアほか
日本公開:2022年2月26日(岩波ホールほか全国)

2022.1.12

継ぎ継ぎと、継ぎ継ぎと―90代現役のジョージア人監督が思い描く「次の時代」

ジョージア・トビリシの旧市街の片隅にある古い家で娘夫婦と暮らす作家のエレネは79歳の誕生日を迎えるが、娘のナトだけでなく、エレネと同じ名前を持つ孫ですらそのことを忘れている。

メイン

ナトは、姑のミランダにアルツハイマーの症状が出始めたので、一緒に暮らせないかと母・エレネに打診する。エレネとは旧知の間柄のミランダは、ジョージアのソビエト時代に政府の高官だった女性だ。19世紀に祖先が建てた持ち家を誇りに思っているエレネだったが、渋々容認する。

サブ4

そこに、かつての恋人・アルチルから数10年ぶりに電話がかかってくる・・・

サブ7

距離的に遠く離れていて何の関連性も無いように見える文化・伝統同士が、思わぬ形でひかれあうことがあります。制作時点で91歳、2022年1月現在では93歳のラナ監督は、あるときたまたま知った日本の「金継ぎ」(陶磁器の破損部分を漆によって接着し 金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法)という技法にインスピレーションを得ました。そして、およそ100年にわたる人生分の過去を、そっくりそのまま次の時代めがけて差し出すかのような物語をつくりあげました。

サブ2

こうした文化交流の経緯もあってか、僕にとって本作は不思議にも、103歳まで生き2010年に亡くなった、日本を代表する舞踏家・大野一雄へのオマージュがなされているように終始感じました(エンドクレジットや資料を隈なくみましたが、そうとは書いていませんでした)。

ジョージアと本作の話にしっかり戻ってきますので、大野一雄のことについて少し書きたいと思います。大野一雄は1929年にスペインの舞踊家アントニア・メルセに強い影響を受け(大野一雄の人生でもやはりこのような文化交流がなされています)、舞踊の道を志しました。太平洋戦争で軍務を終えた後、「見せ物」として踊りではなく、「命がけで突っ立った死体」を理想とした舞踏を追求しました。日常的な細かな所作をも舞踊に昇華する創作精神で、晩年は車椅子に乗っても舞踏をつづけました。日本で舞踏は前衛芸術として捉えられることも多いですが、今ではbutohとして、日本を代表するダンススタイルとして海外でのほうがよく知られています(一度僕は舞踏ワークショップに参加したことがありますが、参加者の大半は外国人でした)。

本作のエレネ・アルチル・ミランダ、人生の大半を旧ソ時代のジョージアの地で過ごした「旧世代組」は、作中でしっかりと現在という時間を生きているのですが、どこかお化けのような、まさに「突っ立っている」かのような描き方がなされています。

サブ5

たとえば、誕生日を忘れられる、居住している家から離れられない(出歩いたとしても知り合いがいなく助けてもらえない)、掃除(掃除機がけ)という現実的所作を異様なまでに厭う、などといった場面です。胴体から「足場」が置いてけぼりにされている感じ、とでも言えばよいでしょうか・・・

「旧世代組」は、効率・利便性を重視した社会では「お荷物」なのでしょう(同様のテーマは昨年本コラムでご紹介した日本の名画『東京物語』などでも描かれてきました)。

サブ6

メインのロケ地となっているジョージアの首都・トビリシの伝統的地区界隈も、最近は老朽化が激しく、取り壊しが多くなってきていると資料に記載があるので、撮影場所もそうした監督の洞察を表象しているように思えました。

サブ3

そんな世の流れの中で、ジョージア人(ひいては世界中の観客)は、どこを「足場」として生きていくのかという切迫した問いかけが、春の花の香りがするような詩的なムードに包まれた上でなされている『金の糸』は2月26日(土)より岩波ホールほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。

サブ1

最後に、今年日本とジョージアは国交30周年だそうで、僕がおすすめするジョージア情報を3つ添えさせてもらいます。

・駐日大使ティムラズ・レジャバのTwitter。「徒然なるままに本国ジョージアに関して発信していきます」というプロフィール文のとおり、日常が知れて親近感が湧きます

・ワイン発祥の地としてジョージアは有名ですが、「ピロスマニ」という画家にちなんだ陶器ボトルに入ったワインが、輸入食品店などやネットで2500円ぐらいで買えます

・日本にも数度来日している人気ピアニストのカティア・ブニアティシヴィリ、おすすめ曲はアルゼンチン・タンゴの伝説的バンドネオン奏者アストル・ピアソラの名曲“Liber Tango”のカバーです(お姉さんのグヴァンツァ・ブニアティシュビリとの連弾もみどころです)

 

コーカサス3ヶ国周遊

広大な自然に流れる民族往来の歴史を、コンパクトな日程で訪ねます。
複雑な歴史を歩んできた3ヶ国の見どころを凝縮。美しい高原の湖セヴァン湖やコーカサス山麓に広がる大自然もお楽しみいただきます。

民族の十字路 大コーカサス紀行

シルクロードの交差点コーカサス地方へ。見どころの多いジョージアには計8泊滞在。独特の建築や文化が残る上スヴァネティ地方や、トルコ国境に近いヴァルジアの洞窟都市も訪問。

Tbilisi

トビリシ

クラ川に面したジョージア(グルジア)の首都。ペルシャ系、トルコ系、モンゴル系と様々な民族の侵略を受けて来た歴史を持ちます。市内を一望できる丘の上にはジョージア正教のメテヒ教会が建ち、旧市街の中にも数多くの教会やシナゴーグが建っています。