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パトリックとクジラ 6000日の絆

(C)Terra Mater Studios GmbH 2023

オーストリア・ドミニカ

パトリックとクジラ 6000日の絆

 

Patrick and the Whale

監督:マーク・フレッチャー
出演:パトリック・ダイクストラほか
日本公開:2025年

2025.8.20

マッコウクジラのいる海中へ、「見たことのない光景」を求めて

アメリカ出身の水中カメラマン、パトリック・ダイクストラ。10 代の頃、博物館で巨大なシロナガスクジラの レプリカを見て衝撃を受け、いつかこの地球史上最大の動物に会おうと心に誓う。

大学卒業後は弁護士として 活躍していたが、野生動物への情熱を諦めきれずカメラマンに転身。シロナガスクジラに会うために様々な海に出かけ、クジラ全般に関心を持つようになる。

ある日、パトリックがドミニカの海中でクジラを探していると、1頭のメスのマッコウクジラが近づいてくる。「ドローレス」と名付けたそのクジラに1年 後に再会すると、ドローレスはまっしぐらにパトリックに近づき、興味津々な様子でスキンシップをとってくるのだった。

ほどなくしてイギリスでオスのマッコウクジラの集団座礁に遭遇したパトリックは、悲惨な出来事を減らすため、マッコウクジラの生態をもっと知りたいと願い、マッコウクジラにカメラを装着して彼らが一生の大半を過ごす深海での様子を撮影しようと試みる。その相手は、ドローレスしかいないと考え、ドローレスを再び探し始める・・・

皆さんは、「1万時間の法則」のことを聞いたことはあるでしょうか。ビジネスなどで時折引き合いに出される考え方ですが、ある分野で秀でた存在になるには、約1万時間(毎日8時間だと約3.4年)の練習や学習が必要だという法則です。

題名からお気づきの通り、本作の主人公のパトリック・ダイクストラ氏が海やクジラにかけている時間はそれをはるかに超えています。その強力な好奇心のなす業の恩恵を、映画鑑賞を通じて観客は受け取ることができます。

何がそこまで彼を引きつけるのでしょうか。単純にクジラのことを知りたい、生態系や環境を守りたいといった目的もあることが語られます。しかし、彼が何より強く追い求めているのは「見たことのない光景」というものです。

クジラ個体の姿・部分・アングル、クジラのいる海や海域が見せる表情。それらをおさめると共に、パトリック氏が「こんな光景は始めて見た」と見出す姿も、カメラ(映画撮影のほう)は静かに見つめます。

僕はこの画にとても惹かれるものがありました。「こんなクジラの姿、海中の光景があるのか」と単純に思いました。

そういう発見・気付きから得られるパワーというのは、積み重なっていくと日々を生きる力に変わると思います。そしてそれは誰のおかげなのかというと、日々クジラや海のことを見つめているパトリック氏のおかげで、彼に対する感謝と尊敬の念がとても鑑賞後にじわじわと湧いてきました。

『パトリックとクジラ 6000日の絆』は829()より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国公開中。詳細は公式HPをご確認ください。

知床・羅臼のヒグマ観察と
根室海峡のマッコウクジラに出会う

8月下旬から9月はサケ、マスが産卵のため遡上(川上り)し、それを狙うヒグマが河口あたりで観察しやすくなる時期。1日は知床半島の羅臼側で漁師がコンブやウニ漁で使う瀬渡し船を利用、もう1日は西側のウトロから観光船を利用し、ヒグマ観察率が高いルシャ川付近での観察を狙います。この時期、オスのマッコウクジラは、採餌のために根室海峡へとやってきます。体長15~18mにもなるマッコウクジラが高く尾びれを上げる「フルークアップ」をすると、船上からは大きな歓声が上がります。

オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険

A2A_poster©Aichholzer Film 2020

オーストリア(ロシア・カザフスタン・キルギス・中国・パキスタン・インド)

オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険

監督・出演:アンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒス
日本公開年:2022年

2021.12.15

カラフルで滋味あるスムージーのような、つぶつぶ感のある映像旅行記

オーストリアからオーストラリアまで、陸路1万8000キロを自転車で走破するべく旅に出た2人の青年、アンドレアスとドミニク。

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モスクワの赤の広場、カザフスタンのステップ砂漠、カラコルム・ハイウェイなどを経ながらユーラシア大陸を横断して、目的地のオーストリア・ブリスベンまでVlog(ビデオ・ブログ)を撮りながらの旅が始まる。

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カメラは豪雨、水・食料の枯渇、灼熱、日射病、ケンカなど、道中で起きる様々な出来事を記録していく・・・

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旅に出る理由というのはいわば「何でもあり」なわけですが、その中で最もオーソドックスな手法は、「宮殿ホテルでマハラジャ気分を味わいたい」「ウユニ塩湖が鏡面状になっている景色を見たい」「ヒマラヤでブルーポピーの花が咲いているのを見たい」など、何かしらの形で「ゴール地点を定める」ということでしょう。

ゴール地点が定まると、いわゆる「あてのない旅」ではなくなるわけですが、そのゴール地点に必ずしも意味付けがあるとは限りません。たとえば、僕は大学のときに青春18切符(JRの在来線5日間乗り放題)で「とにかく遠くまで行こう」と、特段具体的な理由なしに、ひたすら在来線で東京から鹿児島の指宿まで行きました。若い発想だな、と自分の行動ながらに思います。

本作は「オーストリアはオーストラリアと名前が似ているから、オーストラリアに行こう(しかも陸路 かつ オーストラリアもしっかり横断する)」という若々しい発想にもとづく旅で、目的地はしっかり定まっているものの、旅内容の具体性の無さが、旅先で多くの人々・現象を引き寄せていきます。

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たとえば、カザフスタンやパキスタンで、彼らは偶然出会った現地人に食事・結婚式に誘われたり、歓迎の宴を催してもらったりします。もし、何か急ぐべき理由があったら、このような現象は起きていないはずです。

僕自身も規模はかなり違いますが、同じようなやり方で旅をしたことがあります。器のように、何かを受け止められるような態勢を保ちながら旅をする、とでもいえばいいでしょうか。そのような「受け」あるいは「待ち」の姿勢は、なかなか普通の社会勉強では会得し難いものではないかと思います。

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本作には、西遊旅行のお客様であれば、場所が判別できるシーンがたくさんあるはずです。特に僕がドキリとしたのはパキスタンのカラコルム・ハイウェイです。「あの断崖絶壁の悪路を、自転車で行ったとのか・・・」と、想像するだけで怖くなり、主人公の2人を尊敬しました。

オサマ・ビン・ラディンが暗殺されたカラコルム・ハイウェイの入り口の町・アボッタバード、中国の新疆ウイグル自治区・カシュガルの市場、インド・パンジャーブ地方 アムリトサルのゴールデン・テンプル(シク教の聖地)など・・・
様々な町の様子が主観的映像を中心に映し出され、本当に現地を旅をしているかのような心地になるはずです。

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リアルな映像の連続で、GoProなどウェアラブル・カメラが欲しくなってしまうかもしれない『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は、2022年2月11日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町・アップリンク吉祥寺ほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。

天山の真珠 キルギスとカザフスタン 6日間

イシク・クル湖畔に宿泊し、紺碧の湖と雪を頂くテルスケイ・アラ・トー山脈の美しい景観をお楽しみください。
約1時間のボートクルーズにもご案内。近郊に残る古代サカ族の刻画が残る野外岩絵博物館も見学します。

クンジュラブ峠越え パミール大横断12日間

イスラマバードからカシュガルへ、パキスタンと中国を結ぶ1,300㎞のカラコルム・ハイウェイを大走破!峻険な山々や美しい名峰、雄大なパミール高原やカラクリ湖、迫力の大自然を間近に望めるアドベンチャー・ロードです。上部フンザ・アッタバード湖沿いにトンネルが開通したことにより、移動時間が大幅に短くなった新しいカラコルム・ハイウェイをお楽しみください。シルクロードの要衝カシュガルも訪問します。

印パ国境越え ムガール帝国・王の道を行く

パキスタンのイスラマバードから、ラホール、アムリトサル、デリー、アグラへとかつての「王の道」を辿って国境を越えます。アムリトサルからアグラまでは一部王の道に併走する列車の旅をお楽しみいただきます。

名もなき生涯

9086a7d0352e25a3(C)2019 Twentieth Century Fox

オーストリア

名もなき生涯

 

A Hidden Life

監督: テレンス・マリック
出演:アウグスト・ディール、バレリー・パフナーほか
日本公開:2020年

2021.6.16

大自然の中で育った頑固者フランツ・イェーガーシュテッターの「良心的兵役拒否」

第2次世界大戦時のオーストリアで、ヒトラーへの忠誠を拒んで信念を貫く「良心的兵役拒否」をしたことで知られているフランツ・イェーガーシュテッターの人生に基づいた作品。
ドイツの国境と接しているザンクト・ラーデグントという美しい山村で、フランツは妻・フランチスカと3人の娘と暮らしていた。やがて、フランツは激化する戦争へと狩り出されるが、ヒトラーへの忠誠を頑なに拒んだことで収監されてしまう。裁判を待つフランツをフランチスカは手紙で励ますが、彼女自身もまた、裏切り者の妻として村人たちから酷い仕打ちを受ける・・・

本作の撮影は、フランツ・イェーガーシュテッターが暮らしたオーストリアのザンクト・ラーデグントや、係争地の歴史を持つイタリア・南チロルで行われています。
監督はテレンス・マリック。マジックアワー時間帯の撮影ににこだわりぬいた『天国の日々』、太平洋戦争のガダルカナル戦を描いた『シン・レッド・ライン』、白人入植者とネイティブ・アメリカンの戦いを描いた『ニュー・ワールド』、1900年代後半のアメリカ暮らす家族の一世代分をまるごと描いた『ツリー・オブ・ライフ』、宇宙と生命の神秘を描いた『ボヤージュ・オブ・タイム』など、いままでの多様な作品群で得た叡智と洞察が結集したような作品です。

本作の大きな見所のひとつは、ザンクト・ラーデグントや南チロルの自然や景観です。景観というよりも、景観のなかに流れる「瞬間」や「時」と言うべきかもしれません。光は原則的に自然光しか使われておらず、計算して準備を整えたうえで、その場でキャッチした光と一緒に各シーンが展開されています。そのため、1940年代の話ではあるのですが、まるで目の前で出来事が起こっているかのような錯覚に陥ります。風や草のそよぎも、扇風機やCGは使われていないかと思うのですが、ストーリー本筋よりもその場その場の臨場感が映画の流れを掴んでいます(テレンス・マリックの他作品も同様の独特なリズムの作品が多いです)。

そうした美しさがゆえに、ロケ地の係争地としての苦難の歴史が際立ちます。特に南チロル(イタリア)は、世界史において様々な争いの舞台になってきました。調べたところ、南チロルを巡る議論はシリア紛争後に再浮上してきて、オーストリア・イタリアの国境・ブレンナー峠の閉鎖が主張されたり、ドイツ語圏のオーストリアへの返還も検討されているそうです。

暗めの話が多くなりましたが、教会の神父さえも神への忠誠心を脇に置かざるを得なかった状況下で、頑なに自分の信念を貫いた農夫フランツ・イェーガーシュテッターの信念がオーストリア・イタリアの山々によって育まれたことは、環境・開発・人権など依然多くの倫理的問題を抱えた現代人への示唆を多く含んでいると思います。また、もしこの地に旅することができたならば、のびのびした大自然の中で、燻し銀のように自分の心を熟成させることができるに違いないと憧れさせてくれます。

オーストリア・チロルを歩く
花咲くインスブルック・イタリア国境トレイルを行く

オーストリア・チロルの中でも旅行者に知られていないインスブルック南部のトレイルに特化した企画。他のトレッカーにほとんど出会わない静かなアルプスの田舎の山歩きを満喫できます。