娘よ

7bb211b501e946bf©Dukhtar Productions LLC.

パキスタン

娘よ

 

Dukhtar

監督:アフィア・ナサニエル
出演:サミア・ムムターズ、サーレハ・アーレフ、モヒブ・ミルザーほか
日本公開:2017年

2017.3.1

知られざるパキスタン部族社会の掟と、母娘の自由への旅路

パキスタン・連邦直轄部族地域のある村で、部族長・ドーラットは絶え間なく続く部族間の報復の連鎖に頭を抱えていました。解決策として、ドーラットの10歳の娘・ザイナブと相手部族の老部族長との婚姻が決まります。dukhtar_still09

その事実を知ったザイナブの母・アッララキは自分自身も15歳の時に嫁がされた経験から、娘を渡したくないと強く思います。アッララキは婚礼の当日に村から脱出することを決意し、波乱万丈の旅路が始まるのでした・・・

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物語が始まる場所の設定はトライバルエリアとも呼ばれる連邦直轄部族地域で、伝統的な部族長会議による統治がなされています。パキスタンの憲法は大統領の指示がない限りは適用されません。制作スタッフはそうした特殊な場所からの脱出を演出するために、フンザ・ギルギッド・スカルドゥなど、パキスタン北部の地理的特色を最大限にいかしています。

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本作の特筆すべき点は、コロンビア大学で映画を学んだ女性監督アフィア・ナサニエルが、単純に部族社会における女性の自由を問題視するだけでなく、その背景にあるパキスタンと近隣諸国の大きな歴史の流れにしっかりと目を向けていることでしょう。

因習や悪習という言葉がありますが、本作で取り上げられているような部族社会における「目には目を、歯には歯を」の報復の連鎖や伝統的婚姻ははたして悪習といえるのでしょうか。

たとえば、かつて中国には女性の足が大きくならないように幼少期から足を強く縛る纏足という風習がありました。纏足は約1000年に渡って20世紀初頭まで続けられましたが、それには様々な文化的・社会要因がありました。このように、ある風習や社会的に続けられた行為を悪であるとみなしてしまう前に、その背景にある理由に考えを巡らせることは、異文化理解においてとても重要です。本作では部族社会における女性の自由を大きな問題として掲げながらも、単純にそれを批判するのではなく、ムジャヒディン(旧ソ連のアフガニスタン侵攻に対して戦った武装勢力)出身のトラック運転手をメインキャラクターとして登場させるなどして、歴史の流れも踏まえた大きな枠組みの中で問題の複雑さ・根深さが主張されています。

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フンザの村の狭い路地を活かした追跡劇や、黄金色に輝くアンズやポプラの木々の中行われるカーチェイスも必見です。少しハンドル操作を誤れば崖に真っ逆さまの道でのカーチェイスはスリリングで見入ってしまうのはもちろんですが、パキスタン北部を旅されたことがある方は「あの道でカーチェイスをしたのか・・・」となおさらドキドキとしてしまうはずです。パキスタン名物のド派手なデコトラも登場し、パキスタン文化入門としても多くの場面で楽しめます。

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カラコルム山脈などパキスタンの雄大な景色を見てみたい方、一歩踏み込んで南アジア・中東の歴史や女性の自由について考えてみたい方にオススメの一本です。

『娘よ』は3/25より岩波ホールほかにてロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

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