(C)Atacama Productions – ARTE France Cinéma – Sampek Productions – Market Chile / 2019
夢のアンデス
監督: パトリシオ・グスマン
日本公開:2021年
アンデスの山々の眼差しのように眺める、激動の現代チリ
1973年9月11日、チリで軍事クーデターが勃発。サルバドール・アジェンデ大統領による世界で初めて選挙によって選出された社会主義政権を、米国CIAの支援のもと、アウグスト・ピノチェトの指揮する軍部が武力で覆した。ピノチェト政権は左派を根こそぎ投獄し、3000人を超える市民を虐殺。グスマン監督もドキュメンタリー映画『チリの闘い』撮影後に政治犯として連行されるが釈放され、フィルムを守るためパリへ亡命した。

輝かしいアジェンデ時代の歴史と、クーデター後に新自由主義の実験の場となってしまったチリの現状を、作家や彫刻家、音楽家たちの告白を交えつつ、アンデスの山々のように俯瞰した視座から見つめ直す。

先日沖縄の映画祭に参加した際に、このドキュメンタリーのプロデューサーに会いました。その時聞いた話も含めて作品紹介したいと思います。
あらすじはかなり政治的な感じですが、この映画の序盤3分の1ぐらいは雄大なアンデスの景観や自然音(ほとんど音はしないけれども環境音がする)で構成されています。プロデューサー曰く、監督はドローンショットの動きにかなりこだわっていたようで、ドローンらしいダイナミックでスピーディーなショットではなくコンドルがゆっくり飛んでいくような浮遊感ある飛び方を何度も模索したそうです。神のように、山は時代を越えて人間の行いをすべて見ているという監督の意図があったそうです。

実際、本作に収録されているインタビューでは「山に囲まれて生活していると、景色が浸透して体の一部のようになる」と長く暮らしている人が言っている姿が収録されています。亡命して海外生活がチリでの生活より長くなった監督は、たしかに自分が住んでいた地にそびえる山に、自分の存在を宿らせる必要があったのでしょう。その後、物語は徐々に問題・課題に触れ始め、最終的にはかなり政治的な闘いを描く場面が増えてきます。

しかし、その序盤の数十分があるおかげ、不思議なことにあまり政治的すぎず、悲しすぎずな雰囲気にとどまります。とはいえもちろんハッピーで前向きな感じではないのですが、内には希望や温かみを秘めているようように思えました。実際、プロデューサーは「チリの人々は皆『内なる火山』を心のなかに持っていて、あまり表に感情を出さないけれども、それゆえにいざという時には闘志を一気に爆発させられる」と語っていました。
ドキュメンタリーそのものの展開もありますが、プロデューサー解説を聞くと、監督はそういう「チリ国民の気質」のようなものを描きたくてCordillera(山系、つまりアンデス)という言葉を題名に入れたのだなと思いました。名匠ならではの視点でチリの国民性をとらえた『夢のアンデス』、アンデスやパタゴニアに興味がある方、チリという国に興味がある方はぜひ観てみてください。

