秘境ツアーのパイオニア 西遊旅行 / SINCE 1973

小笠原ツアー特集山を知る

トレッキングスポット

自然が豊かな森を歩いて感じる小笠原諸島。火山活動(父島は約4,800万年前、母島は約4,400万年前)により形成された山を舞台とした登山・トレッキングはお勧めのアクティビティーです。町歩きだけではなく、森の中に奥深く入ることで固有の動植物との出逢いへと導かれます。汗を流し、歩ききった先(島端や最高地点)から望むボニンブルーの海。ご褒美となる景色も一級品です。

乳房山

距離 往復同ルートで4.6km
標高 463m
累積標高 約460m
所要時間 約6~7時間
山頂から南側を望む。沖港や集落が見える。
山頂から東岸側を望む
段差を設け整備されている
登頂証明書の取得のための塗り絵
運気が上がりそうなハート形のムニンシラガゴケ
環境に適応したモモタマナの板根
枝から多くの気根を垂らすガジュマルの森を歩く
樹幹に着生するシマオオタニワタリ(広域分布種)
オガサワラビロウであしらった屋根付きの東屋休憩所

母島中央部にある標高463mの山。小笠原諸島の有人島の最高峰(無人島を含めると最高峰は南硫黄島(916m))です。山域、都道府県、国、大陸問わず、最高峰に立つ嬉しさは、やはり格別です。
しま山100選にも選ばれているこの山。山の形から名が付くことは多く、この山名も、沖港へ入る船から見える山の形状からこの名がついたそうです。ではゆったりと登れるのか?と思いきや、ルートはひたすら頂上を目指して直登するイメージです。そのため、傾斜は常時なだらかではありません。しかし、段差を設けて整備された登山道、道中に出逢える多種多様な植物に目を奪われ、さほど辛さを感じることなく登頂できる山です。脱水症状や熱中症など、暑さ対策は必須なので、服装と装備に注意し、十分な水分を持参しましょう(1.5~2リットル)。
道中、休憩地点として適しているのが、東屋2箇所、太平洋戦争で米軍が不要弾(500kg級)を投下した跡地、沢山のガジュマルが生えた住居跡地の計4箇所です。

2つめの東屋手前と頂上手前の2箇所に10段ほどの鉄製の梯子がありますが、高度感はなく慎重に越えていきます。
脇目も降らず登り続ければ所要時間はグッと短くなりますが、固有種の植生観察の絶好の機会です。タマムシが寄ってくる小笠原固有種のムニンエノキが登山口に生えていて、その他、母島固有種のリュウビンタイモドキやハハジマノボタン、モモタマナの板根(ばんこん)や、ハート型の固有種ムニンシラガゴケなど、じっくりとたっぷりと楽しみながら登りましょう。
山頂からは南側に沖港を含む集落や南崎・小富士山、姉島や妹島などの島々を見渡せ、東岸側に台風などで崩落した急傾斜の断崖絶壁が大崩湾に落ち込んでいるボニンブルーの海景色を展望いただけます。北側に堺ヶ岳や石門山、天気がよければ遠方に父島列島が見えることも。

トレッキングのポイント

浄水場を起点に剣先山(245m)を時計回りに経由する周回ルートがありますが、2021年1月現在、このルートは斜面崩落のため通行止め。開通の見込みはたたず、西入口から登頂後、同ルート下山となります。
沖港にある母島観光協会で、氏名と登頂日の入った「登頂記念証」(300円)を発行しているので、希望者は登山前に訪問が必要です。頂上にある碑の上で塗った絵が、引き換え券となります。

海上から乳房山を望む

堺ヶ岳・石門

距離 往復で6km
標高 444m(堺ヶ岳ルート上最高点)
累積標高 約450m
所要時間 約7~8時間
湿性高木林に石灰岩が融合した石門エリア
湿性高木林の鬱蒼とした森
序盤は快適なトレッキング
中盤以降は藪漕ぎも強いられる
道中の海岸風景

このルートでは、珊瑚礁が隆起して400m近い標高の雲霧帯に有る「カルスト地形でのトレッキング」をお楽しみいただけます。堺ヶ岳は、母島中央部にある標高444mの山。石門山(標高405m)はその先にあります。石門とは、石門山の東側にあり、ドリーネ地形を含む標高250-290mの台地状部をさす地名になります。道中、ラピエ“針の岩”と呼ばれる石灰岩の溶食地形や、湿性高木林を主体とした原生性の高い重要な地域で、固有種の観察も存分にお楽しみいただけます。

代表する植物として、シマホルトノキ、ヒメタニワタリ、セキモンノキ、セキモンウライソウ、オオヤマイチジク、タイヨウフウトウカズラが有名です。 鍾乳洞もいくつか見つかっていて、小笠原諸島におけるトレッキングとしては一番冒険気分を味わえるルートになっています。

トレッキング計画前に要チェック

石門ルートは、希少な生態系の保護地域のため、10~3月(一部2月まで)立ち入り禁止期間になっています。ルートは森林生態系保護地域に指定されており、東京都認定ガイド同伴でないと行けない場所です。

中盤以降は藪漕ぎも強いられる

南崎・小富士

距離 往復同ルート(南崎立寄)で5.6km
標高 86m
累積標高 約330m
所要時間 約4時間
小富士から見下ろしたテーブル珊瑚が発達した南崎ビーチ
南崎ビーチにて休憩
固有種の海鳥や昆虫を守るため、ネコとグリーンアノールの侵入防止柵が設けられている
登頂証明書の取得のための塗り絵
登頂証明書の取得のための塗り絵
鉄やアルミニウムが酸化した赤みを帯びた土が目立つ名所「すり鉢」
オガサワラビロウや気根がユニークなタコノキの間を縫うように歩く

山頂から、サンゴのきれいなビーチ(南崎ビーチ)や、南側に点在する小島の絶景(鰹鳥島や母島列島の属島である姉島、妹島、向島、姪島)を望む、360度のパノラマが広がる景勝地、それが母島南端にある小富士山です。海抜86m。400以上ある郷土富士の中で日本最南部に聳えています。(その他の郷土富士の一例:知床富士=羅臼岳、会津富士=磐梯山、薩摩富士=開聞岳)
都道最南端の、南崎ロータリーが登山口。トイレがあるので出発前に立ち寄ります。頂上手前の登りを除き、ルート全体を通して緩やかな傾斜なので、乳房山に比べるとに楽な行程です。乾性低木林の中、整備されている一本道なので、迷いません。雨天時は、地面がぬかるむこともあり、スパッツがあると望ましいでしょう。
道中、かつて蓮が栽培されていた蓮池(現在はオオサンカクイという外来植物が繁茂)、蓬莱根(ほうらいね)海岸への分岐道(一部水の中を歩く(泳ぐ)必要があり訪問者が少ないため秘境とされる)を経て、東屋があるポイントにて休憩。ここは「すり鉢」と呼ばれる、島の子どもがかつてオガサワラビロウ(固有種)の葉を敷いて滑って遊んだ地形があります。赤みを帯びた土は、鉄やアルミニウムが酸化したためです。

ツルダコ、ヤロード、ワダンノキ、シマギョクシンカなど、固有種と外来種が混ざり合った多種多少な植生を観察しながら、時に木々に止まる母島固有種メグロ、林床を這うカタツムリに出逢う(鳴き声が聞こえる!)こともあるでしょう。冬や初春(特に2~4月)はザトウクジラの潮吹きも山頂から見れる可能性もあります。
また更なる魅力として、日本一早い初日の出を望めるポイントでもあります。例えば、2021年は6時20分に日の出が拝めました。なお日本の領土では、南鳥島の5時27分が最も早く、続いて、南硫黄島の6時17分、硫黄島の6時19分が続きます(いずれも人が居住していない島)。参考までに、富士山頂は6時42分、スカイツリーで6時46分、東京タワーで6時48分です。年末年始のツアー限定で、暗い内に出発し、圧巻の日の出の風景を心待ちにしながら深夜からヘッドランプ着用で登ります。

トレッキング計画前に要チェック

乳房山同様に、沖港にある母島観光協会で、氏名と登頂日の入った「登頂記念証」(300円)を発行しているので、希望者は登山前に訪問が必要です。頂上にある碑の上で塗った絵が、引き換え券となります。

都道最南端が登山口(=下山口)

ハートロック(千尋岩)

距離 往復約7km
標高 298m(衝立山:ルート上最高点)
累積標高 約450m
所要時間 約6~7時間
海上より 赤土の右上頂上部に背後より登ってきます
まもなく終点(右手奥)
オガサワラクロベンケイガニ(固有種)
まるで象の鼻(固有種のマルハチ)
巨大なガジュマルの森で立ちつくす
自然保護と健全な利用の為に
衝立山直後の急な下り、眼前にはハートロックの目的地の赤土部が見えている
常世の滝
赤土のハートロック山頂にて、眼前には南島
戦時の車の残骸
ガジュマルが生い茂る森を進む

海からも陸からも楽しめるハートロック。海上から見た際、円縁湾の北東絶壁断崖V字に切れ込んだ断層があり、その中を上から雨などによって流れ込んだ赤土が染め上げたことでハート型に見えることからこの名がつきました。父島南端にある標高260mの岩塊です。
ルートは森林生態系保護地域に指定されており、東京都認定ガイドガイド同伴でないと行けない場所。八瀬川の支流にある滝、常世(とこよ)の滝を見ながら開始し、かつてワラビが生い茂っていたワラビ谷(今は外来種トケイソウに覆われつつある)を経て、森の中を歩き衝立山(289m)を登頂。その後急な坂を下ってひと登りすると赤土に迎えられて頂上へ。

眼前に南島とボニンブルーの海を望む素晴らしい景色を望む、変化に富んだコースです。冬や初春(特に2~4月)はザトウクジラの潮吹きも山頂から見れる可能性もあります。
復路は、状況が許せば一部別ルートを歩き、戦跡(旧日本軍用道路など)やガジュマルの森を経て下山します。象の鼻の様なマルハチ(固有種)やオガサワラクロベンケイガニ(固有種)、アカガシラカラスバト(固有種)など、多くの動植物が観察できるでしょう。

アカガシラカラスバトとサンクチュアリ

頭が赤く(淡色でぶどう赤褐色)、嘴が黒く、体も黒い(金属光沢がある)大型(約40cm)で森林性のハト。アカガシラカラスバトは国の天然記念物に指定されています。
アカガシラカラスバトは、小笠原諸島(小笠原群島及び火山列島(北硫黄島、硫黄島及び南硫黄島))にのみ生息が確認されています。絶滅危惧ⅠA類に指定され、生息数は2008年時点で推定40~60羽にまで減少したものの、保護活動が功を奏し、現在は約100倍!にまで増えているそうです。減少した理由として、野生化したネコによる捕食被害、外来種の動植物(アカギの木、ヤギ)による在来植生の破壊、クマネズミとの餌資源の競合があります。本来、小笠原諸島には天敵となる生物がいなかったため、ノネコにも簡単に捕えられてしまいました。
このサンクチュアリは、生息環境の保全と適正な利用を目的として、2003年に関東森林管理局により設定されました。比較的平らな地形が広がる東平のエリア。小笠原では珍しく通年流水のある沢があり、オガサワラアメンボ(固有種)やヤマトヌマエビも生息しています。だからこそ、蚊が発生しやすく、半そで半ズボンは避けて虫除けをしていった方が無難です。土壌も乾湿双方揃っており、低木~高木林まで変化に富んでて、アカガシラカラスバトが好んで実を食べるシマホルトノキ、アコウザンショウ、キンショクダモも林立しています。抱卵や子育てに適したタコヅルなど地表植生があることもサンクチュアリとして適している理由です。 ルート1と2がありますが、ルート2はアカガシラカラスバトの繁殖期間(11~3月)は立ち入り禁止になります。アカガシラカラスバトは一例ですが、一般的に小笠原本来の動植物は競争力が弱く、外来種との生存競争に負けてしまいます。そんな中、森林保護のために下記の様な事前対策は必須です。

道中は原生林の雰囲気を存分に感じられます
ルート2を歩く

小笠原の貴重な生態系を崩さないため、森林生態保護に対する注意点
●トレッキングシューズの裏や衣服は、プラナリア(ウズムシ)や種子除去対策のため、お酢スプレーや粘着クリーナー(コロコロ)をかける。
●道中にトイレはないので出発前に必ず立ち寄り、歩行中は携帯トイレを持参する。
●ストックの先端にはプロテクターをつけて植生を傷つけない。

東平アカガシラカラスバドサンクチュアリー
ルートマップ
自然保護と健全な利用の為に
注意点

小笠原の固有種

小笠原諸島では約500種の植物が確認されていますが、そのうち36%が固有種。宿から少し公園に足を伸ばすだけでも、本土では見られない植物を楽しむことができます。また、短い移動範囲内に多くのハイキング・トレッキングコースが充実しているので、植物がお好きな方には是非とも自分の足で歩いて、気軽に小笠原諸島の植生を味わっていただきたいと思います。

小笠原諸島でしか見られない固有の植物

小笠原諸島の固有植物が全体の3分の1を占める理由としては、ガラパゴス諸島やハワイ諸島と同様に、過去一度も大陸と陸続きになったことがない海洋島であることが始めに挙げられます。プレートの衝突によって起こった海底火山の活動で生まれた小笠原諸島には、①海流、②風、③鳥(糞)といった3大要素によって種や胞子が後から入り込み、数万年から長いものでは200~300万年の時を経て独自の進化を遂げてきました。また、流れ着いた植物の出所は多様です。北から日本列島系の植物、西から台湾や沖縄、東南アジア系の植物、南からミクロネシア系の植物、そして南東からハワイやポリネシア系の植物というように、北西太平洋に浮かぶ小笠原諸島はアジア大陸系の植物とオセアニア系の植物の接点となっているのです。


小笠原諸島で見られる特別な進化
小笠原諸島には東西南北あらゆる方面から植物が入ってきたという話をしましたが、植物も生き物なので、島に着いてそのまま通常通りに育つわけではありません。日向や日陰、土の深いところや岩の多い場所など、それぞれの環境に合わせた進化を遂げてきました。その結果、他の地域には見られない小笠原固有の植物がたくさん生まれました。例えば、小笠原の固有種のワダンノキ(キク科ワダンノキ属)。樹高3~5ⅿの常緑樹で、東アジア産のキク科では最も大きく生長する植物です。ただし、キクは草本植物なのですが、ワダンノキは小笠原にわたってから木本植物に進化したという驚きの経緯があります。なぜそのような進化をしたのかという理由に関しては、小笠原は1年中温暖なので冬でも草が枯れることはなく、また、周りに日差しを遮る高い木が少なかったからなのではないかと言われています。現在では、母島の乳房山から堺ヶ岳にかけての稜線部(山の峰から峰へとつなぐ線)などの限られえた場所だけで見ることができます。


植生の違い
小笠原を歩くといっても、ジャングルウォークや離島ハイキング、父島・母島の最高峰登頂コースなど、小さな諸島の中でも、コースによってそれぞれの特徴があります。大別すると、わずか59kmしか離れていない父島と母島では植生が異なります。
[父島・兄島] 標高が低く土壌の薄い乾燥した気候に適応させるべく、葉の形を肉厚にして低く茂る「乾性低木林」(背丈が3~8m程度)が広がっています。(母島でもごく一部において乾性低木林が見られます。)父島の中心地からすぐの場所としては、長崎展望台や、7つのコースをもつ大神山神社の展望台に上がると見つけやすいです。
<ムニンヒメツバキ、シマイスノキ、コバノアカテツ、タコノキ>

[母島] 背の高い山(最高峰:乳房山463m)が南北に連なっているため、海から吹く湿った風が山にぶつかって上昇し、雲や霧を生みやすい環境になっています。そのため、湿った気候に適応した「湿性高木林」が広がっているのが特徴です。南﨑・小富士エリアや、乳房山・石門エリアで顕著に見ることができます。
<シマホルトノキ、ウドノキ、アカテツ>

タコノキ

種名 タコノキ
英名 Screw pine
学名 Pandanus boninensis Warb.
分類 タコノキ科タコノキ属
タコノキ
タコノキ(実)
タコノキ(実)
タコノキ

小笠原を代表する固有種で「小笠原の村の木」に指定されています。気根(地上の茎から出た根)がタコの足のように複数生えていることからこの名がつけられました。他、沖縄諸島などで観察できるアダンの木と同様にパイナップル状の実をつけるのが特徴です。

主に海岸付近で生育するとありますが、父島・母島では至る所で見ることができます。訪問して初めて出会う固有種かもしれません。果実はゆでて食用とし、葉はタケノコ細工に利用されます。実は一年以上をかけて熟し、島には果実酒を出しているお店もあります。

木生シダ

種名 木生シダ
英名 Cyathea arborea
マルハチ
マルハチ
マルハチ

木性シダ(もくせいシダ)とは、樹木状になるシダ植物のことを言います。シダ植物は基本的に草本で、茎は地を這うか、短く立ち上がるものが多いのですが、木生シダとは太い『幹』をもつような外見で、ある程度の高さまで直立して育つものを指します。細かくお話すると、シダ植物の中にはヘゴ科という分類があり、日本にはヘゴ科ヘゴ属の植物が8種あります。そのうち6種が木生シダと呼ばれるのです。

小笠原諸島に生育する木生シダはヘゴ科のマルハチ、ヘゴ、メヘゴの3種です。中でもマルハチは、小笠原の植生を代表する高さ10m以上にもなる大型の木生シダで明るいところを好みます。茎の表面にある葉が落ちた跡が、逆「八」の字に見えることから 「マルハチ(丸八)」という名がつきました。

ノヤシ

種名 ノヤシ
学名 Clinostigma savoryanum
分類 ヤシ科ノヤシ属
ノヤシ
ノヤシ

小笠原の人々が以前に食用としていた植物の中に、固有のヤシ「ノヤシ」というものがあります。成長が遅いため、戦時中には著しく減少してしまった植物ですが、若芽がキャベツのような味がしたという言われから「キャベツヤシ」という別名をもちます。

このノヤシがたくさん自生していた兄島の浜辺を、人々はキャベツビーチと名付けており、現在では絶好のシュノーケリングスポットとなっています。また、父島の海岸近くにはキャベツビーチというペンションがあり、ツアー中に利用することも多いです。

アオノリュウゼツラン

種名 アオノリュウゼツラン
英名 Agave
学名 Agave L.
分類 リュウゼツラン科リュウゼツラン属
アオノリュウゼツラン
アオノリュウゼツラン

アロエのように縁にトゲをつけた多肉質の葉をロゼッタ状(地表に放射状に葉を広げた形)に伸ばす植物。父島のどこでも見られる外来種です。リュウゼツランは「アガベ」という名で総称され、樹液からテキーラを作り出せることで有名 ですが、小笠原もテキーラの原料として持ち込んだにもかかわらず、本種は結果的に作ることができなかったという残念な話があります。

しかし、小笠原に生息する国の指定天然記念物「オガサワラオオコウモリ」が樹液を好むため、アオノリュウゼツラン周辺を探ることで、コウモリ観察を楽しみやすくなるという観光資源にも重要な存在になっている実情があります。

オガサワラビロウ

種名 オガサワラビロウ
学名 Livistona boninensis
分類 ヤシ科ビロウ属
オガサワラビロウ
オガサワラビロウの実
オガサワラビロウ

岸近くの麓から山頂付近まで小笠原に広く分布する固有種です。たわし等に使われる「シュロ」という別の植物に似ていることから、小笠原では戦前からシュロと呼ばれていました。また、小笠原ではオガサワラビロウの葉を屋根の材料に、新芽は食用にと利用されていた経緯があり、現在では浜辺や山頂の休憩所の屋根に利用されています。

父島の青灯台前の小屋がわかりやすい。4~5月に黄色い小さな花を咲かせ、11~12月に青紫色の実がなります。花粉はオガサワラオオコウモリの好物。

モモタマナ

種名 モモタマナ
学名 Terminalia catappa
分類 シクンシ科モモタマナ属
モモタマナ
モモタマナ
モモタマナ

実は砕いてペースト状にすることでピーナッツバターのように食用にすることができます。沖縄では織物染めに使われますが小笠原にはそのような文化はありません。

小笠原では数少ない紅葉する植物の一つで、1月~3月頃になると葉が紅葉なります。

ハスノハギリ

種名 ハスノハギリ
学名 Hernandia sonora
分類 ハスノハギリ科ハスノハギリ属
ハスノハギリ
ハスノハギリ

葉っぱがハート型で、苞が提灯袋のような形に発達して鈴なりにつくのが特徴です。昔は子供たちがこの苞に水を入れて玉投げをして遊んだそうです。

今でいうなら水ヨーヨーですね。木材が柔らかく桐に似ていることから、小笠原ではハマギリ(浜桐)とも呼ぶそうです。

テリハボク

種名 テリハボク
学名 Calophyllum inophyllum
分類 テリハボク科テリハボク属
テリハボク
テリハボク
テリハボク

島名=たまな。熱帯アジア原産で、葉っぱはゴムの木の葉のように厚く光沢があります。塩や風に強く防風林や防潮林には最適で、2~3cmの球状の実をつけます。

父島の大村地区の食事何処「ボーノホライズン」の裏手に同名の小さな美味しいパン屋(たまな)があり、早朝から営業していてありがたい。

小笠原に潜む植物問題

小笠原諸島では様々な植物が独自の進化を遂げてきたとお話しましたが、その理由の一つに草食獣のような強力な捕食者や競争相手が存在しない環境であったことが挙げられます。これだけ聞くと、のびのび自由に育ったのだなと感じる方がいるかもしれませんが、実はこうした環境で育った植物というのは外来種に弱いという特徴を持つことが多いです。想像しやすい例を挙げるなら、トゲや毒をもつ植物が非常に少ないというポイントがあります。実際、小笠原諸島も例に漏れず外来種の増殖問題を抱えているのです。
島を歩くと、沖縄等でお馴染みのリュウキュウマツやアカギ、モクマオウ等の樹木が生えているのですが、こうした樹木達は人々が薪炭材や建築材、防潮林にしようと 持ち込んだ外来種なのです。他にも人の靴について侵入してしまったような意図せずに島に持ち込まれた外来種もあるのですが、樹木に限らずこうした外来種が根強く成長し、小笠原の自生していた植物が脅かされている実態があります。

小笠原を彩る花々

ムニンヒメツバキ
Schima mertensiana

【固有種】小笠原の「村の花」に指定されています。島内に広く分布しており、山地の中腹などで生育します。英名はRose Woodと言いますが、島では「ロースード」と呼ばれています。これは英名のRose Woodが転訛したものと言われており「バラのような花が咲く木」という意味があるそうです。

ツバキ科ツバキ属
ハハジマノボタン
Melastoma tetramerum var. pentapetalum

【固有種】母島最高峰の乳房山周辺に自生します。花弁は5枚で淡い赤紫色なのが特徴的。小笠原諸島には本州のノボタンの仲間が3種類分布しており、ムニンノボタン、ハハジマノボタン、イオウノボタンを見ることができます。

ノボタン科ノボタン属
ムニンノボタン
Melastoma tetramerum

【固有種】花弁は4枚で白い花をつけます。(時々5枚)。小笠原諸島には本州のノボタンの仲間が3種類分布しており、ムニンノボタン、ハハジマノボタン、イオウノボタン見ることができます。※ムニンのボタンではなく、無人野牡丹と書く。

ノボタン科ノボタン属
ムニンデイゴ
Erythrina variegata

別名「ビーデビーデ」。卒業シーズンに咲くので、小笠原ではソメイヨシノ感覚。小笠原で数少ない紅葉する樹木の1つです。※小笠原ではムニンデイゴと呼ばれているが、最近沖縄にあるデイゴと同じ種であることがわかりました。

マメ科デイゴ属
テリハハマボウ
Hibiscus glaber

【固有種】高さ3-15mの常緑高木で主に山地に生えます。ハイビスカスの仲間で、花は一日で咲き終える“一日花”。花弁は黄色から赤く変色していき、小笠原では「(オカ)イチビ」とも呼ばれます。葉に光沢があり、オオハマボウより小ぶりの花をつけます。

アオイ科フヨウ属
ムニンアオガンピ
Wikstroemia pseudoretusa

【固有種】尾根筋や岩場に自生する常緑低木。日当たりの良い尾根道でよくみられます。5mm程の小さな黄色い花を春と秋の2回つけます。戦前は樹皮を和紙の原料にもしたそうです。

ジンチョウゲ科アオガンピ属
ムニンシュスラン
Goodyera boninensis

【固有種】林内に自生する常緑多年草で、小笠原の固有種。11月にかけて白っぽい紫褐色の小花を咲かせ、果期は6月頃。シュスとは「繻子」(光沢のある織物)の意味で、葉の光沢に由来します。

キンポウゲ科センニンソウ属
ムニンセンニンソウ
Clematis terniflora

【固有種】父島・母島の道沿いで見られることが多いです。つる性で高い位置まで成長し、濃い緑色の葉っぱを背景に真っ白な花をつけるので発見しやすいです。小笠原では珍しく毒をもつので「ドクヅル」とも称されます。

キンポウゲ科センニンソウ属
シマギョクシンカ
Tarenna subsessilis

【固有種】乾性低木林の明るいエリアに自生しやすいです。白い花が枝先に傘状に咲き、丸い花の形から『島玉心花』と名付けられたよう。入浴剤に使われることもあるそうです。

アカネ科ギョクシンカ属
シマホルトノキ
Elaeocarpus photiniifolius

【固有種】乾燥した尾根筋や岩場の部分を除く山地に分布します。樹幹は大きく成長すると根元が板根になったり、幹がサルノコシカケ並みの大きさのコブ状に膨れたりする。「こぶの木」の愛称でよばれることもあります。

ホルトノキ科ホルトノキ属
シマイスノキ
Distylium lepidotum

【固有種】乾性低木林に代表される一種で、実はアカガシラカラスバトが餌にします。種はスイカの種と同じくらいの大きさ。長崎展望台で観察しやすい。

マンサク科イスノキ属
アコウザンショウ
Zanthoxylum ailanthoides

【固有種】カラスザンショウの変種です。葉にはアゲハ蝶が卵を産み、木の実はアカガシラカラスバトやオガサワラオオコウモリが餌にする、生き物が集まる木です。

ミカン科サンショウ属
オオハマボウ
Hibiscus tiliaceus

【外来種】主に海岸沿いに生えます。ハイビスカスの仲間で、花は一日で咲き終える“一日花”。花弁は黄色から赤く変色していき、小笠原では「(カイガン)イチビ」とも呼ばれます。テリハハマボウよりやや大きめの花をつける。テリハハマボウにそっくりですが、テリハハマボウの葉に毛が無い一方で、こちらは毛があり葉の裏がざらざらしている、また、種子を水に入れてみて浮かべば本種という判別方法があります。

アオイ科フヨウ属
セイロンベンケイソウ
Kalanchoe pinnata

【外来種】アフリカ原産の多肉植物で、観葉植物として人気です。岩場や道路沿いに多く自生し、強い生命力をみせます。1枚の葉っぱを、地面や水に触れさせずにプラスチックの板の上に放置したり、壁にピン止めをすると、葉っぱの縁から芽を出すことから、ハカラメ(葉から芽)という別名をもちます。

ベンケイソウ科リュウキュウベンケイ属
デリス
Paraderris elliptica

【外来種】東南アジア原産のつる性低木で、殺虫成分を含むため、戦前は殺虫剤を作るために栽培されていました。硫黄島の主要商品作物でもあったそうです。

マメ科デリス属
ゲットウ
Alpinia zerumbet

【外来種】明治初期に持ちこまれた常緑多年草で、草丈は2~3m、葉の長さは40-70cmと大きくて目立つ植物です。ショウガのような香りを漂わせ、桃色の綺麗な花を葡萄のようにぶら下げます。かつて食べ物の包装に利用されていたそうです。小笠原ではソウカとも呼ばれます。

ショウガ科ハナミョウガ属
クサトベラ
Scaevola taccada

【広域分布種】小笠原には、シロトベラ、オオミトベラ、コバノトベラ、ハハジマトベラと4種類のトベラ属があり、全て小笠原の固有種になります。総じてクサトベラと呼ばれることが多く、トベラの意味は「扉の木」が由来だそうです。節分の際に鬼除けの為に枝を扉に下げていたことがきっかけ。。

クサトベラ科クサトベラ属
グンバイヒルガオ
Ipomoea pes-caprae

【広域分布種】波によって種子が流され、小笠原に初めて入った植物という説があります。名前は、葉が相撲の行司がもつ軍配に似ることが由来で、海岸の砂浜によく生えます。南島の上陸場所でよく見ることができます。

ヒルガオ科サツマイモ属
シマオオタニワタリ
Asplenium nidus

【広域分布種】本州の温帯地域に分布するタニワタリの仲間で、葉が1m以上にも育つ大型のシダ植物。オオタニワタリにそっくりですが、葉の裏につく縞々模様の“胞子嚢群“というものが少ないことで見分けることができます。樹幹や岩上に着生することが多いです。

チャセンシダ科チャセンシダ属

小笠原に連れてこられてしまったグリーンアノール

小笠原村を歩いていると樹上にゴキブリホイホイのような粘着トラップを多く見かけますが、これはグリーンアノールという小型のトカゲの捕獲を目的としたトラップです。グリーンアノールは中央アメリカ原産で、人間の手によって米軍統治時代の1960年代にグアム経由で持ち込まれたと考えられています。当初は父島奥村周辺にしかいませんでしたが、1980年には母島まで分布が広がり、現在では父島、母島を合わせ数百万匹に上ると推定されています。小笠原には天敵がいなかったため多く繁殖し、また昆虫食であるため、小笠原固有のチョウやトンボを捕食し、地域的絶滅や減少を引き起こしたと考えられています。また在来種であるオガサワラトカゲがグリーンアノールとの餌の奪い合いや住処などの競走に負け減少していると推測されています。現在対策として粘着トラップやフェンスを設置し、固有の昆虫類がまだ多く生息している兄島や弟島などの無人島に渡らないよう、港では重点的な防除が行われています。一方で原産地であるフロリダ半島では、グリーンアノールは外来種であるブラウンアノールとの競争に負け数を減らしたため、保護の対象となっています。グリーンアノールなどの外来種は、一見すると「固有種を減らした容疑者」「悪者」のようですが、実際は連れてこられた被害者であり、生態系の崩壊は持ち込んだ人間の責任です。グリーンアノール以外にも多くの外来種が小笠原の生態系を脅かしている現状があり、故意でなくとも洋服や靴底等への付着により外来種を持ち込んでしまう可能性があります。保護区域へ入る際はガイドの指示に従い、付着物を落とす対策にご協力をお願いします。

グリーンアノール
グリーンアノール
粘着トラップ

関連ツアー

【添乗員同行】 西遊旅行で行く、小笠原諸島をめぐる旅
PAGE TOP