インド最大の都市ムンバイを擁する「西インド」。この地には、インドが誇る珠玉の遺産が多く残されています。
怪しいまでに美しい膨大な仏教壁画、世界最大の彫刻芸術、仏塔を覆う精緻を極めた彫刻美、密林に潜む知られざる石窟、
そして1万5千年間に渡る岩絵が残る太古の岩窟…。それはインド美術の源流をたどる旅と言えるでしょう。
悠久の歴史、人々の力、篤き信仰…今もそのエネルギーを全身で感じる、圧巻の遺跡巡りへご案内します。
第26窟に横たわる全長7.27mに及ぶ涅槃仏(アジャンタ石窟)
二大石窟巡りの拠点 ― オウランガバードでの滞在
旅のハイライトとなるアジャンタ・エローラの二大石窟巡りは、観光拠点となるオウランガバードでの3連泊で過ごします。
それぞれの見学に1日たっぷりと時間を取り、世界遺産を”堪能”。ゆったり過ごせるのはもちろん、遺跡見学を楽しむためだけの身軽な格好で出かけられるのも魅力です。また、オウランガバード市内ではバザール見学やミニタージと呼ばれる霊廟など、ちょっとした観光も。ムガル帝国の6代皇帝の名にちなんで付けられたこの町、実は「ヒムロー」という織物の生産地としても有名。
金糸を使った美しい織り柄が特徴で、中にはアジャンタ石窟の壁画のデザインがあしらわられているものも。
ご希望の方がいればのご案内ですが、このツアーの隠れた楽しみのひとつです。
ミニタージと呼ばれる霊廟「ビービーカマクバラ」
町のバザールを散策
1000年もの間、人々に忘れさられていた膨大な壁画 ― アジャンタ石窟
デカン高原の北西部、渓谷に沿った馬蹄型の岩山におよそ600mに渡って残る大小30の石窟寺院。その内部は、極彩色の仏教壁画や彫刻で埋め尽くされています。
ハイライトは第1窟、インド美術の最高傑作と名高い「蓮華手菩薩」。飛鳥時代の日本美術に影響を与えたと言われています。薄暗い岩壁に浮かび上がるしなやかに曲げられた身体と半眼の表情は1500年以上の月日が経った今なお妖艶な美しさをはなっています。この他、第17窟には「六牙白象本生」「大猿本生」などの代表的なジャータカが比較的良い状態で残っています。また、第26窟には全長7.27mに及ぶインド最大級の涅槃仏が横たわっており、もう一つの見どころと言えるでしょう。この石窟寺院群は、二期にわたって造営されています。紀元前1~1世紀までの前期窟と5世紀中から7世紀までの後期窟。2つの石窟は混在していますが、簡素な造りの前期窟に対し、後期窟は内部の列柱やヴォールト天井の装飾も豪華。ストゥーパ自体が信仰の対象であった前期と違い、後期ではストゥーパ正面に仏像が表わされるようになり、仏教の変容を伺い知ることができます。この違いを意識しつつ見学するのも楽しみ方のひとつ。 壁画の内容は主に仏伝とジャータカ。 テンペラ画で描かれており、その方法は壁面に粘土や牛糞を混ぜて塗り石灰を重ねて下地とし、その上に顔料をのせたもの。後期に描かれたものが多く6~7世紀に世俗の絵師によって描かれたとのことです。 |
後期のチャイティヤ窟。ストゥーパの前に仏陀が表されるようになる
「蓮華手菩薩」身体を首、胴、腿の3つに曲げた描き方(トリバンガ)で描かれ、華麗な宝冠を被っている。
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この石窟は、紀元前1世紀頃に仏教僧たちが雨季の雨を避けて修行が続けることができるよう、岩盤の中に祈りと修行の場を作ったことに始まります。しかし、8世紀頃インド仏教の衰退と共に忘れ去られ、1819年、トラ狩りに来たイギリス人士官が偶然発見するまでの1000年以上もの間、密林の中でひっそりと眠ることとなりました。1983年、インドの世界遺産登録第一号となったのち、見学のための道路も整備され、思う存分その芸術を楽しむことができるようになっています。
はみだしコラム「ジャータカ(本生物語)」
仏陀が前世において自己犠牲などの善行を積む話。 仏陀はシッダールタとして生まれる以前、その姿は白い象や猿、水牛や時には人間であったりしたとされている。
3つの宗教建築が混在する巨大石窟群 ― エローラ石窟
古代三大宗教の石窟寺院が一同に会する世界で唯一の場所―それがエローラ石窟でしょう。6~10世紀にかけて開窟された、仏教・ヒンドゥー教・ジャイナ教の石窟が互いに破壊し合うことなく、南北2Kmに及んで集結。最大の見どころは、デカンの岩山を上から堀り進んだ「世界最大の彫刻芸術」と称される、カイラーサナータ寺院。第16窟にあたるこのヒンドゥー教寺院の圧倒的な存在感には声を上げずにいられません。ノミとツチだけで堀り進められ作業は1世紀近くの年月を要したとのことです。シヴァが棲む聖山「カイラス山」を表したとされる巨大寺院はその建築技術だけではなく、一面に彫られた躍動感溢れるヒンドゥーの神々にも目を奪われます。本殿の下部には「世界を支える象」と呼ばれる象が一周して彫られており、その重さに首にシワがよっているという芸の細かさ。この寺院、お勧めの見方は寺院裏手の岩山を登り、上から全体像を眺めること。デカン高原の雄大な景色をバックに望む巨大な彫刻は、圧倒的な迫力を誇ります。掘り進んだ職人たちに思いを馳せ、この景色を眺めていると違う時間が流れていくようです。 第1~12窟は仏教窟でほとんどが僧院窟です。ヒンドゥー教のダイナミックさを後にして訪れると、そのシンプルな造りに静謐なたたずまいを感じることができます。ジャイナ教窟は第30~34窟で、ヒンドゥー教と違い像に動きはないのですが装飾が華やかなことが特徴です。この3つの宗教のそれぞれの魅力が凝縮された寺院群、どんなに時間があっても見飽きることはありません。 |
20万トンもの玄武岩を掘り下げて造られたカイラーサナータ寺院
岩壁に並ぶ仏教窟。雨季には滝がかかる
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はみだしコラム「石窟の種類」
インド各地には多くの石窟寺院が残ります。それらは、修行中の僧侶達が寝泊まり、居住する僧院窟「ヴィハーラ」とストゥーパを祭る礼拝窟「チャイティヤ」の2種類の窟で構成されています
「樹下ヤクシー像」樹木は発展と繁栄の象徴あり、樹木に住む女の精霊をヤクシーと呼ぶ。ヴェーダ以前からの民間信仰に発するが、仏教やジャイナ教の説話にもよく登場する
精緻を究めた石の絵本 ― サンチー仏塔
高さ100m程の丘の上に、大小3つのストゥーパをはじめとする、アショカ王の時代からグプタ朝期までの各時代の仏教遺跡が残っています。インドの古代初期仏教美術はストゥーパを中心に展開されましたが、その多くは原型を留めていません。そんな中、原始仏教美術を今に残す貴重な仏塔がこのサンチー仏塔です。
私的、このツアー最大の見どころはサンチー遺跡・大ストゥーパ第1塔を囲む塔門(トラナ)の彫刻美です。
東西南北の4つの塔門(トラナ)は無仏像時代の仏教説話の彫刻で埋め尽くされており、その密度と完成度の高さには息を呑みます。最大の特徴は、仏陀を仏陀の姿で表さない無仏像時代の作品であるということ。仏像が作られるようになる以前のものなので、仏陀の姿は菩提樹や法輪といったシンボルで表現されています。その内容は、ジャータカに比べ仏伝図が圧倒的に多いです。画面ごとに様々なストーリーが描かれ、その精緻な彫刻美は見事。また、仏陀の生涯を少し勉強していけば私達でもレリーフを読み解ことができるという点も魅力です。
これは古代仏教芸術の究極の形であり、仏教を教え説く「石の絵本」であったのです。 東門の梁を支える美しい天女の像は、民間信仰に根付いたヤクシー像。インド美術固有の官能美を漂わせ、原始仏教美術の代表的レリーフとして扱われています。他にも様々な動物や、聖なる生き物、神々が登場し、私達の興味を掻き立てます。
はみだしコラム「無仏像時代」
仏像が世に登場するのは、1世紀頃。それ以前、仏教美術に仏像は存在せず。仏陀の姿は法輪や聖樹、宝傘、宝座など仏陀を象徴するレリーフを用いて表現されており、視覚的表現よりも観念的表象を求めた初期仏教の精神性が伺える。
仏陀の出城の場面。宮殿を出発し(画面左端)、森に入り出家する(画面右端)までのシーンを表し、仏陀の存在を宝傘が示している。
くり返し宝傘と馬を描くことで、場面が進行していることを1つ面で表現している
左:サルナートでの初転法輪の場面。法輪で仏陀を表現し、アショカ王をはじめとする王たちが説法を聞いている
右:天界にいる母に説法をされたあと、地上に降下する仏陀。三本の階段の道が設けられ、上と下に表された聖樹が仏陀を示し、上から下へ降りた様子を表現している
第1塔北門の裏面。
上段:六牙象を含む象たちが聖樹に蓮華を捧げている
中段:悪魔たち(左)と聖樹へ礼拝する王族
下段:ヴェッサンタラ本生物語
知られざる遺産の魅力 ― 西遊旅行ならではの西インド
西遊旅行では西インドに残る隠れた見どころにもご案内。意外な魅力に取りつかれる方も少なくありません。
ピタルコーラ ― 密林に隠れたもう1つの石窟
オウランガバード郊外で大通りを離れ、山道を進むとそこにはもう一つの石窟群が。アジャンタ石窟の前期窟と同時期に造営されたとされる全部で13の石窟が渓谷に広がっています。窟の多くのファザードは崩壊してしまっていますが、孔雀石を顔料とする青緑の彩色が鮮やかに残る壁画や、象の彫刻が並ぶテラスが残っています。この秘密の石窟を訪れるには、雨季には川を渡り、滝の前を通過するなど、ちょっとした探検家気分を味わえるのも魅力です。
ビーマベトカ ― 100を超す古代岩壁画が残る
ボパールの南約46kmの丘の上にある世界遺産の岩絵群。最古のもので12000年程前の石器時代から紀元後に至るまでの数百に及ぶ岩絵が残されています。およそ15000年間という長きに渡って人間が住み続けたことにより、ここには人間の進化と共に変化していく、壁画の内容・技術を一度に見ることができるという魅力があります。実際に、初期のものは「牛の群れ」や「弓矢を使って狩りをする姿」、紀元後のものは「騎馬での戦闘の様子」や「象に乗り戦う者の姿」など、その変遷を一つの場所で確認することができます。
列柱に色鮮やかな壁画が残るピタルコーラ遺跡。発見当時は柱の三分の一は土に埋もれていた
馬に乗り槍や弓矢を使って狩りを行っている様子。人間の体が棒状から三角形を組み合わせた形で描かれるようになる
日本の約9倍の面積を持つ広大なインド亜大陸。何度行ってもインドの旅は終わりません。
今度は、西インドならではの魅力を感じにでかけてみませんか。
そこには、当時のエネルギーを今に伝える遺産の数々が私達を待っています。
関連ツアーのご紹介
二大石窟とサンチー仏塔、インドが誇る珠玉の世界遺産巡り。仏教美術、太古の壁画、近代建築、計6つの世界遺産を訪問。オーランガバードで3連泊、アジャンタ、エローラ石窟をじっくり見学。