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ワン・セカンド 永遠の24フレーム

OneSecond_mainvisual© Huanxi Media Group Limited

中国

ワン・セカンド 永遠の24フレーム

 

一秒钟

監督:チャン・イ―モウ
出演:チャン・イー、リウ・ハオツン、ファン・ウェイ
ほか
日本公開:2022年

2022.5.18

「たった数秒」という永遠―巨匠チャン・イーモウの若かりし日の思い出

1969年、文化大革命下の中国・陝西省。造反派に抵抗したことで強制労働所送りになった男は、妻に愛想を尽かされ離婚となり、最愛の娘とも親子の縁を切られてしまう。数年後、「22号」という映画の本編前に流れるニュースフィルムに娘の姿が1秒だけ映っているとの手紙を受け取った男は、娘の姿をひと目見たいという思いから強制労働所を脱走し、逃亡者となりながらフィルムを探し続ける。

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男は「22号」が上映される小さな村の映画館を目指すが、ある子どもが映画館に運ばれるフィルムの缶を盗みだすところを目撃する。フィルムを盗んだその子どもは、孤児の少女リウだった。

『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』main

トラブルを乗り越えつつやっとの思いで「22号」を観るに至った男を待つ運命とは・・・

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北京2022冬季オリンピック・パラリンピックで開閉会式の総監督を務めたことでも注目を集めた巨匠チャン・イーモウ監督は、とても個人的な記憶をまじえて本作を撮ったそうですが、そのことは言われなくても何となく観客には伝わるような気がします。物語の本筋よりも、記憶の1シーン1シーンを再現することを重視してドラマが描かれているような感じがしました。

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今でこそ撮った映像をすぐ再生できたり、好きな映画を様々な場所で思い思いのタイミングで鑑賞できますが、テレビも普及していない環境で映画は貴重な情報源でした。

もちろん、戦時中の日本がプロパガンダに映画を利用したように、文化革命当時の体制維持・増強においても映画は欠かせないツールでした。映画が上映されるホールの入口には「毛沢東思想宣伝センター」というサインがあります。

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私が子どもの頃にはまだ1000席や700-800席の映画館がちらほらあり、色々な映画をそういう空間で観て育ちましたが、今700席(ましてや1000席)以上の映画館で映画を鑑賞するとなったら、数えるほどしか場所はありません。先日娘を連れて300席ほどの映画館を訪れたときに「広い」と娘が口にしていましたが、私は内心「いやいや広い劇場というものはこんなものではないと」思っていました。

1秒(24フレーム)のために決死の思いで駆け回る主人公を見ていると、現代社会の人々の映画の見方(ひいては世界の見方)というのは、50-60年前からするとあまりにも劇的に変わってしまったのだと痛感します。そして同時に、私が子どもだった頃の1990年代という時代も、本作のように「価値観が全く違った時代」としていつか描かれるのだと思いました。本作を描く際に監督が抱いたであろうような憧憬の念に、自分がいつか身を浸す日が来るというのは若干怖くもあり、楽しみでもあります。

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1秒1秒の重みを噛みしめるような機会はどんどん少なくなり、フィルムのようなテクスチャー(手触り)を感じる瞬間も稀少になりつつあります。時に滑稽なまで「たった数秒」のために奔走する主人公の姿は、現代人に対して深い示唆を与える比喩表現のような形でストーリーの中で機能しています。

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現代社会に失われつつある大事な人間の感性を今一度復興させてくれる力を持つ『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』は、5月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ 他全国公開。その他詳細は公式ホームページをご確認ください。

オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険

A2A_poster©Aichholzer Film 2020

オーストリア(ロシア・カザフスタン・キルギス・中国・パキスタン・インド)

オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険

監督・出演:アンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒス
日本公開年:2022年

2021.12.15

カラフルで滋味あるスムージーのような、つぶつぶ感のある映像旅行記

オーストリアからオーストラリアまで、陸路1万8000キロを自転車で走破するべく旅に出た2人の青年、アンドレアスとドミニク。

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モスクワの赤の広場、カザフスタンのステップ砂漠、カラコルム・ハイウェイなどを経ながらユーラシア大陸を横断して、目的地のオーストリア・ブリスベンまでVlog(ビデオ・ブログ)を撮りながらの旅が始まる。

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カメラは豪雨、水・食料の枯渇、灼熱、日射病、ケンカなど、道中で起きる様々な出来事を記録していく・・・

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旅に出る理由というのはいわば「何でもあり」なわけですが、その中で最もオーソドックスな手法は、「宮殿ホテルでマハラジャ気分を味わいたい」「ウユニ塩湖が鏡面状になっている景色を見たい」「ヒマラヤでブルーポピーの花が咲いているのを見たい」など、何かしらの形で「ゴール地点を定める」ということでしょう。

ゴール地点が定まると、いわゆる「あてのない旅」ではなくなるわけですが、そのゴール地点に必ずしも意味付けがあるとは限りません。たとえば、僕は大学のときに青春18切符(JRの在来線5日間乗り放題)で「とにかく遠くまで行こう」と、特段具体的な理由なしに、ひたすら在来線で東京から鹿児島の指宿まで行きました。若い発想だな、と自分の行動ながらに思います。

本作は「オーストリアはオーストラリアと名前が似ているから、オーストラリアに行こう(しかも陸路 かつ オーストラリアもしっかり横断する)」という若々しい発想にもとづく旅で、目的地はしっかり定まっているものの、旅内容の具体性の無さが、旅先で多くの人々・現象を引き寄せていきます。

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たとえば、カザフスタンやパキスタンで、彼らは偶然出会った現地人に食事・結婚式に誘われたり、歓迎の宴を催してもらったりします。もし、何か急ぐべき理由があったら、このような現象は起きていないはずです。

僕自身も規模はかなり違いますが、同じようなやり方で旅をしたことがあります。器のように、何かを受け止められるような態勢を保ちながら旅をする、とでもいえばいいでしょうか。そのような「受け」あるいは「待ち」の姿勢は、なかなか普通の社会勉強では会得し難いものではないかと思います。

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本作には、西遊旅行のお客様であれば、場所が判別できるシーンがたくさんあるはずです。特に僕がドキリとしたのはパキスタンのカラコルム・ハイウェイです。「あの断崖絶壁の悪路を、自転車で行ったとのか・・・」と、想像するだけで怖くなり、主人公の2人を尊敬しました。

オサマ・ビン・ラディンが暗殺されたカラコルム・ハイウェイの入り口の町・アボッタバード、中国の新疆ウイグル自治区・カシュガルの市場、インド・パンジャーブ地方 アムリトサルのゴールデン・テンプル(シク教の聖地)など・・・
様々な町の様子が主観的映像を中心に映し出され、本当に現地を旅をしているかのような心地になるはずです。

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リアルな映像の連続で、GoProなどウェアラブル・カメラが欲しくなってしまうかもしれない『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は、2022年2月11日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町・アップリンク吉祥寺ほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。

天山の真珠 キルギスとカザフスタン 6日間

イシク・クル湖畔に宿泊し、紺碧の湖と雪を頂くテルスケイ・アラ・トー山脈の美しい景観をお楽しみください。
約1時間のボートクルーズにもご案内。近郊に残る古代サカ族の刻画が残る野外岩絵博物館も見学します。

クンジュラブ峠越え パミール大横断12日間

イスラマバードからカシュガルへ、パキスタンと中国を結ぶ1,300㎞のカラコルム・ハイウェイを大走破!峻険な山々や美しい名峰、雄大なパミール高原やカラクリ湖、迫力の大自然を間近に望めるアドベンチャー・ロードです。上部フンザ・アッタバード湖沿いにトンネルが開通したことにより、移動時間が大幅に短くなった新しいカラコルム・ハイウェイをお楽しみください。シルクロードの要衝カシュガルも訪問します。

印パ国境越え ムガール帝国・王の道を行く

パキスタンのイスラマバードから、ラホール、アムリトサル、デリー、アグラへとかつての「王の道」を辿って国境を越えます。アムリトサルからアグラまでは一部王の道に併走する列車の旅をお楽しみいただきます。

春江水暖~しゅんこうすいだん

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中国

春江水暖~しゅんこうすいだん

 

監督: グー・シャオガン
出演: チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエンほか
日本公開:2021年

2021.3.24

山水画で名高い景勝地・富陽―絵巻物のような中国若手監督の世界観

伝統的な景観の保全と再開発がしのぎを削るように並行して進む中国・杭州市 富陽地区。ある大家族が、年老いた母の誕生日を祝うため集まる。しかし、祝宴の最中に母は脳卒中で倒れてしまう。

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命は取り留めたものの認知症が進み、介護が必要になってしまった母。飲食店を営む長男。漁師の次男。ダウン症の息子を男手ひとつで育てる三男。気ままな独身生活を楽しむ四男・・・
それぞれの人生がゆるやかに交錯していく。

この映画のロケ地となっている富陽は、元代の著名な画家・黄公望(1269-1354)の水墨画『富春山居図』が描かれた地です。1988年生まれのグー・シャオガン監督は富陽で生まれ育ち、この地のリズムや風土を熟知していることが映像から見て取れる内容となっています。

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しばしば使われる長回しショットの雰囲気もあいまって、舞台はまぎれもなく現代中国ではありながらも、絵巻物の世界に入り込んだような感覚を本作は味わせてくれます。カラー作品ではありますが、「水墨画のような」という喩え方が本作にふさわしいと思います。

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絵画には必ずキャンバスがあり、どこからどこまで描けるかが決まっていて、当たり前ではありますがキャンバスの枠外に何かを描くことはできません。

映画にも縦横比で形成された枠(フレーム)がありますが、その枠はカメラの移動によって変容したり、音編集などによって枠の外側の物事や空間をグッと引き寄せることができます。

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縦横比で形成された映画のフレーム内をパン生地のようなものとして考えると、映画のオリジナリティというのはその生地をどれだけ捏ねて、どういう形にして、どういう焼き方にするかというひとつひとつの選択の総体のようなものです。

『春江水暖』はかなり柔らかく、ふんわりとしていて、でも後味は烏龍茶のように力強く残る。烏龍茶蒸しパン、といった感じでしょうか・・・・・・
なにはともあれ、映画にはそのような固有のキャンバスの形があるのかもしれないと鑑賞中に考えました。

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旅で色々な場所を訪れて、キャンバス・額縁・額縁の外の空間にはハッとさせられたことが、私は何度もあります。フェルメールの絵画や『モナ・リザ』を観たときは、「こんなに小さかったのか」と驚きました。

モネの『睡蓮』やレンブラントの『夜警』のダイナミックさには、圧倒させられ体の動きが止まったのをよく覚えています(きっと絵の世界に連れて行かれたのだと思います)。

マドリッドのソフィア王妃芸術センターでダリの『窓辺の少女』を鑑賞したときは、不思議な遠近感を持つ絵そのものも印象的でしたが、額縁の外の壁の白さと、周囲の作品との余白のとり方が鮮烈に記憶に残っています。

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同じくソフィア王妃芸術センターでピカソの『ゲルニカ』をみていた時は、横にいた幼児が急に大泣きしはじめて、ピカソの意思が時空を飛び越えて額の外へ飛び出してきたかのような感覚を味わいました。

しかし不思議なことに、水墨画や山水画に関しては中国で鑑賞した瞬間の記憶が私にはあまりありません(たしかに鑑賞したはずなのですが・・・)。本作の中にも霧がかった景色や、ぼんやりとした景色が折にふれて映し出されますが、山水画というのは『ゲルニカ』とは全く違う形で、まるで昇華するようにキャンバスから展示空間に飛び出していき、鑑賞者の意識を連れ去っていこうとするのかもしれません。

オーソドックスな映画が四角いキャンバスにしっかり塗られた絵をじっと鑑賞するようなものだとしたら、本作は山水画のように、絵の中にこめられた意思がキャンバスから段々蒸発して昇華されていく様を目で追うようなテイストの作品だと思います。

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フレーム内の景観への没入感は、ぜひダイナミックなスクリーンで体感していただきたいところです。コロナ禍で海外に行くことが叶わない今、まさに本作は「海外に行った気持ちになる映画」といえるでしょう。

『春江水暖~しゅんこうすいだん』は2021年2月よりBunkamura ル・シネマほか全国公開中。そのほか詳細は公式ホームページをご確認ください。

 

黒衣の刺客

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中国

黒衣の刺客

 

聶影娘 The Assassin

監督: ホウ・シャオシェン
出演: スー・チー、妻夫木聡ほか
日本公開:2015年

2020.5.13

山水画のような、唐時代・中国の世界観

舞台は唐の時代の中国。誘拐された隱娘が13年の時を経て、両親のもとに戻ってくる。しかし、ようやく帰ってきた隱娘は、道姑(女性の道士)によって暗殺者に育て上げられていた。

隱娘の標的は、かつて彼女の許嫁でもあった暴君・田委安。冷酷無比であるべき暗殺者・隱娘の心には迷いがあり、なかなか暗殺は遂行されない。任務中に窮地に追い込まれる隱娘だったが、難破した遣唐使船の日本青年に助けられる・・・

台湾の巨匠・侯孝賢が監督して国際的にも大きな評価を受けた『黒衣の刺客』は、山水画のような景観で観光客も多く訪れる湖北省の神農架・武当山・恩施などでロケが行われました。まさに「仙境」と呼ぶのにふさわしい、仙人がいまにも出てきそうな景観がいまでも残っています。

メインのロケ地となった武当山は道教武当派と中国武術の武当拳の発祥地として知られていて、寺院を含めた建築郡は1994年に世界遺産に登録されています。

また、真言宗の本山である京都の大覚寺や、天台宗三大道場の一つである姫路の書寫山圓教寺でもロケがされていて、中国・日本を股にかけた重厚な歴史を、静かで緊張感ある映画の流れの中で感じることができます。

唐の世界にタイムスリップできる『黒衣の刺客』。湖北省のアクセス拠点となる場所は武漢のため、2020年5月現在では訪れることが難しいですが、いつの日かまた武漢や周辺に旅ができるようになったときのために、ぜひご覧いただきたい一作です。

中国が誇る5つの絶景を巡る旅

中国には数多くの絶景が存在します。コバルトブルーの美しい石灰棚「黄龍」と、映画アバターの舞台ともなった「武陵源」、虹色に輝く「張掖丹霞地貌・七彩山」などの定番に加え、近年脚光を浴び始める中国版“The WAVE”と称される「龍洲丹霞」など、いずれも一度は見てみたい景勝地です。。

凱里ブルース

934b4b780ef53508(C) Blackfin(Beijing)Culture & MediaCo.,Ltd – Heaven Pictures(Beijing)The Movie Co., – LtdEdward DING – BI Gan / ReallyLikeFilms

中国

凱里ブルース

 

路邊野餐 Kaili Blues

監督: ビー・ガン
出演: チェン・ヨンゾン、ヅァオ・ダクィン、ルナ・クォックほか
日本公開:2020年

2020.4.22

記憶の里・凱里で、時間の洞窟に迷い込む

中国・貴州省の凱里にある霧に包まれた小さな診療所に勤務し、幽霊のように毎日を送るシェン。刑期を終えて、凱里に帰った時には妻はすでにこの世になく、かわいがっていた甥も何者かによって連れ去られてしまった。

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シェンは甥と同じ診療所で働く年老いた女医のかつての恋人を捜す旅に出る。その途上で立ち寄ったダンマイという名の村は、過去の記憶、現実、そして夢が混在する不思議な村だった。

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中国で最も注目されているビー・ガン監督の長編第二作目『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』を以前ご紹介しましたが、今回ご紹介するのはデビュー作の『凱里ブルース』です。

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『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は3D映像で舞台となっている凱里の町をバーチャルに体験できるようなストーリーが特徴でしたが『凱里ブルース』は全く違う方法で(予算額のゼロが何個も違うにもかかわらず)、町の温度・湿度・景観・歴史・記憶などを全部ひっくるめて体験できるような、立体的なストーリーを実現しています。

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40分の長回し(カットを切らない)のあいだ、登場人物は町から町へバイクで移動し、高低差のある町をぐるっと一周していきます。物語はふつうの論理ではなく、登場人物たちと彼らを追うカメラの運動に導かれて集まってくる町の過去・現在・未来によって紡がれていきます。

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過去からの亡霊、今この時間の歪み、未来からの使者・・・・・・『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』の紹介記事でも同じようなことを書きましたが、きっとこの映画を観た後で町を歩くと、全く違った形で目の前にある光景を感じることができるようになるでしょう。これは見知った町を眺めるときに限りません。旅で見知らぬ町を訪れ、この映画のワンシーンを思い出すことがあるならば、物・事・人との接するときの感覚がより鋭くなるひと時を過ごせるはずです。

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神秘的でありながらも間違いなく現実世界で撮られた『凱里ブルース』は、6/6(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中。そのほか詳細は公式ホームページをご確認ください。

ミャオ族・トン族の里めぐりと春の恋愛祭り姉妹飯節
山深い貴州省に暮らす人々を訪ねて

凱里にも宿泊し、この時期にのみ行われるミャオ族伝統の恋愛祭り「姉妹飯節」を見学します。村ごとに異なる意匠を凝らした銀装を纏い、シャンシャンと銀飾りの音を響かせながら歩く様子は、思わず目を奪われる光景です。

ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ

b5969753e0189d32(C)2018 Dangmai Films Co., LTD – Zhejiang Huace Film & TV Co., LTD / ReallyLikeFilms LCC.

中国

ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ

 

地球最后的夜晩 Long Day’s Journey Into Night

監督: ビー・ガン
出演: タン・ウェイ、ホアン・ジエ ほか
日本公開:2020年

2020.3.11

「こちら」から「あちら こちら」へ ― 夢の奥底から湧き起こる 虹のような記憶

父の死をきっかけに、何年も距離を置いていた故郷の中国貴州省・凱里(かいり)に戻ったルオは、町をさまよう内に幼なじみだった「白猫」の死を思い起こす。

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そして、彼の心の中にずっと残っていた「運命の女」のイメージが度々立ち現れる。香港の有名女優と同じワン・チーウェンと名乗った彼女の面影を追って、現実・記憶・夢が幾層にもかさなりあっているかのような、ミステリアスな旅にルオはいざなわれる。

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中国で最も注目されている若手監督の長編第2作、3Dの約60分長回し1カット、1日で約41億円の興行収入、アメリカで31週のロングランなどなど、グローバル映画市場において特筆すべき点が多い本作。「旅」という観点でも、多くを語ることができます。

まずは舞台となっている凱里の町を、バーチャルに体験できるようなルオの行動が「旅」そのものです。

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新旧かかわらず、多くの映画は登場人物の心情描写・カメラワークなどで観客に物語を伝えようと試みます。しかし本作は、町の高低差、石造りの家の色や質感、路地を歩く足音など、景観や映画内にこめられた町の空気そのものを物語にしています。

本作を観終わって映画館の外に出て、映画館に入る前とは違った世界に感じるとすれば、それは映画の世界を「旅」していた何よりの証しです(そしてかなり高い確率で、そうなるはずです)。

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故郷へ戻る旅、自分の記憶の奥底に潜っていく旅、夢という「夜(世)」の果てを目指す旅・・・・・・主人公・ルオの脳の奥底から外に向かって虹がかかっているかのような、暗い夜を鮮やかに駆け巡る旅路を描いた『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は、2/28(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿ピカデリーほか全国順次公開中。そのほか詳細は公式ホームページをご確認ください(ビーガン・監督の長編第1作目の『凱里ブルース』も4/18(土)より全国順次公開予定、また次回以降にご紹介します)

ミャオ族・トン族の里めぐりと春の恋愛祭り姉妹飯節
山深い貴州省に暮らす人々を訪ねて

凱里にも宿泊し、この時期にのみ行われるミャオ族伝統の恋愛祭り「姉妹飯節」を見学します。村ごとに異なる意匠を凝らした銀装を纏い、シャンシャンと銀飾りの音を響かせながら歩く様子は、思わず目を奪われる光景です。

山河ノスタルジア

poster2(C)Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

中国

山河ノスタルジア

 

山河故人

監督:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、チャン・イーほか
日本公開:2016年

2017.2.22

諸行無常の世の中で、湧いて流れるものごころ

1999年、中国華北地方に位置する山西省の都市・汾陽から物語は始まります。小学校教師・タオは、炭鉱労働者・リャンと恋愛関係にありましたが、リャンの友人で実業家のジンシェンからプロポーズを受け、結婚します。リャンは汾陽を去り、タオとジンシェンの間にはダラーという男の子が誕生し・・・・・・

分岐していくそれぞれの運命は何十年という長い時間をかけて交差していきます。

邦題にノスタルジア(郷愁)という言葉が使われていますが、この映画は急速に変化を遂げてきた中国において、人々の心のなかにどのような情景が宿っているのかということを映し出しています。(中国語の原題は『山河故人』。故人は日本語の意味とは違い、古くからの友達という意味があります。)

ブータン・東南アジア・中国南部の農村地帯は「日本の原風景が残っている」と形容されることがありますが、懐かしくて心安らぐことというのは必ずしも自然景観だけでなく、音楽だったり、台所の音だったり、建物だったりと人それぞれです。私は今福岡に住んでいますが、時々『珈琲時光』という東京の情景がとてもよく切り取られている映画を見て、JRの発着メロディー・街並み・雑踏の音などから懐かしさに浸っています。

この映画では、明の時代に建てられた汾陽のランドマーク・文峰塔が、「変わらないもの」として物語で重要な役割を果たします。中国現存の最も高いレンガ作りの塔として有名で、特にその塔に登るわけでも、登場人物たちが塔について言及するわけでもありませんが、時代が推移しても変わらず同じ場所に建ち続ける文峰塔は、きっと登場人物たちや実際汾陽に住む人にとって大切な心の拠り所になのだろうと感じました。

中国の旅の醍醐味である電車の光景も見どころです。日本でも車窓を見ながら「この地に住む人はどういう暮らしをしているのだろうか」と思い浮かべることがありますが、中国はそう思い浮かべる以上にその広さに圧倒されます。学生の時にウルムチから上海まで2日半ほど電車に乗り続けたことがありますが、移り変わる景色に全く飽きることはありませんでした。登場人物たちのノスタルジーを引き出すのに、電車や駅のシーンが効果的に挿入されている点にぜひご注目ください。

自分の原風景に思いを馳せたい方、世界の広さを感じたい方におすすめの作品です。

山の郵便配達

中国

山の郵便配達

 

POSTMEN IN THE MOUTAINS

監督:フォ・ジェンチー
出演:リィウ・イェ
日本公開:2001年

2016.3.9

遠ざかっていく時間を引き止める
優しい眼差し

舞台は1980年代の中国・湖南省。長年郵便配達の仕事を続けてきた男が、息子とともに2泊3日の最後の郵便配達に出かけ、道中で息子に仕事を引き継いでいく姿を描いた作品です。中国語タイトルを直訳すると「あの山、あの人、あの犬」。「あの」という少し距離感を感じさせる言葉が示す通り、失われていきつつある伝統文化や原風景への憧憬が、作品全体にやさしく満ちています。それは、作中の見所でもある美しい田園風景、自然の厳しさ、少数民族であるミャオ族の村やトン族の踊りなど、伝統文化をとらえた映像が随所に入っているからでしょう。重い郵便袋は、郵便を渡すだけではなく配達した人からの郵便も受け取るので、いっこうに軽くなりません。しかし、作品の途中からまるで郵便袋が息子の身体になじんできているように見えてきて、郵便物の受け渡しが見えない心のやりとりであることに気付かされます。序盤では父に距離を感じていた息子も、そうしたやりとりを通じて心が満たされ、配達の道を歩きながら父との感情の距離を一歩一歩縮めていきます。とても素朴な作品ですが、まるで昔の旅の写真を見て懐かしい思い出を振り返るような、見た人にゆっくりとした時の流れをもたらしてくれる作品です。

ミャオ族・トン族の里めぐりと
春の恋愛祭り 姉妹飯節見学

山深い貴州省にくらす人々を訪ねて。一度で満喫!少数民族の「祭り見学」と「村訪問」をゆったり楽しむ旅。