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ア・フィルム・アバウト・コーヒー
監督:ブランドン・ローパー
出演:世界各地のコーヒー関係者
日本公開:2015年
アフリカ・中米のコーヒーが、自分のカップに注がれるまで
コーヒー文化を牽引する、ニューヨーク、サンフランシスコ、ポートランド、シアトル、東京の5つの都市で活躍するコーヒー店オーナーらプロフェッショナルたちのコーヒーへの哲学や仕事ぶり。そして、そのコーヒーがアフリカや中米で栽培される背景を追ったドキュメンタリー。

「ブルーボトル・コーヒー」創設者ジェームス・フリーマン氏をはじめ、2013年に閉店した表参道の「大坊珈琲店」オーナー・大坊勝次氏、下北沢の「Bear Pond Espresso」オーナー・田中勝幸氏、表参道の「OMOTESANDO KOFFEE」オーナー・國友栄一氏ら、東京で活躍するコーヒー関係者も登場する。

「Seed to cup(シード・トゥ・カップ)」という言葉を聞かれたことがある方は多いと思います。この映画が主題にしているのは、スペシャリティコーヒー。コーヒーの種(seed)から一杯のカップ(cup)に注がれるまでの全工程(栽培・収穫・精製・輸送・焙煎・抽出)において、一貫した品質管理と管理体制を行い、その過程が明確なコーヒーのことです。

ある機会があって10年以上前に制作された本作を観たのですが、気候変動が当時よりも著しくなり、より環境変化について体感することが多くなった2020年代半ばにぴったりの作品だと思いました。

僕が特に印象に残ったのは「良い果物やコーヒーの味というのは、景観(landscape)を目の前にするのに等しい」という主旨のインタビューです。話し手は、スペシャリティコーヒーの生みの親とも言えるジョージ・ハウエル氏。

便利さ、早さ、多さ。こういったものが半世紀以上世界を席巻してきました。しかしもうそれでは世界、ひいては地球が持続し得ない。そこで緩やかさ、質の高さ、稀少さといった要素が大切になってくる。
たとえばアメリカ・ポートランドの生豆バイヤーは、ルワンダのコーヒー豆生産者たちと直接取引を行って、生産工程や精製について確認しあいながら年に何千回もテイスティング作業を繰り返しています。非効率かもしれませんが、こうした意志と行動によって循環が促されるのだということが描かれています。

特に、ホンジュラスのコーヒー農家の人々が、バリスタの手によって初めて自分のコーヒー豆で淹れられたコーヒーを飲む場面はとても心に残ります。「作っている人は飲んだことがないのか!」と、驚かざるを得ませんでした。
そんな光景を観た後はコーヒーが味わい深くなりますし、どんな食べ物であれ「おいしい」と思うこと自体がまぎれもなく「旅」なんだと感じるようになるのではと思います。

日本の光景やインタビューも多く映っていて66分と鑑賞しやすい長さの『ア・フィルム・アバウト・コーヒー』、美味しいコーヒーを飲みながら是非観てみてください。

