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欲望の翼 デジタルリマスター版

5a64a17c3ef5d717(C)1990 East Asia Films Distribution Limited and eSun.com Limited. All Rights Reserved.

配給:ハーク

香港・フィリピン

欲望の翼 デジタルリマスター版

 

阿飛正傳

監督:ウォン・カーウァイ
出演:レスリー・チャン、マギー・チャン、カリーナ・ラウほか
日本公開:2018年

2018.1.24

たかが1分、されど1分・・・人生の流れを変える濃密なひと時

1960年、香港。ヨディはサッカー場で売り子をしていたスーに声をかけ、ふたりは恋に落ちる。

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しかしヨディは、自分が実の母親を知らないことに複雑な思いを抱えていた。スーと別れたヨディは、ナイトクラブでダンサーとして働くミミと一夜を共にする。部屋を出たミミはヨディの親友サブと出くわし、サブは彼女に一目ぼれする。夜間巡回中の警官タイドはスーに思いを寄せるが、スーはヨディのことを忘れられずにいた。そんなある日、ヨディは義母のレベッカから、実母がフィリピンにいることを知らされる・・・

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ウォン・カーウァイ監督の作品は、『ブエノスアイレス』『花様年華』を既に紹介しましたが、どれもこのコラムのテーマである「旅」と相性が良い物語です。映画は時間芸術と言われることがありますが、ウォン・カーウァイ監督の表現は特に時間に重きを置いており、そのため内容に関わらず「旅」の雰囲気が出るのでしょう。

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「1960年4月16日3時1分前、君は僕といた。この1分を忘れない。君とは“1分の友達”だ。」と、冒頭ヨディはスーに言い、時計が画面に大きく映し出されます。

あっという間の1分。地獄のように長い1分。時間の伸び縮みは、映画の中だけでなく私たちの日常にも存在します。原題の『阿飛正傳』は「チンピラの伝記」というような意味ですが、1960年4月16日の1分は、主人公のチンピラ・ヨディの体内で刻まれる時計の動力となります。

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「脚のない鳥がいるらしい。脚のない鳥は飛び続け、疲れたら風の中で眠り、そして生涯で唯一度地上に降りる。それが最後の時」。アメリカの劇作家テネシー・ウィリアムズの著作からの引用もまた、時間の流れが強く意識されています。

動力を失った時計は止まり、時は刻まれなくなりますが、時計自身は動力の源泉や時を刻みはじめた瞬間を、最後の最後まで覚えているのでしょう。そうした無常さを讃えるようなタンゴのメロディーも、本作をぜひ劇場で体験していただきたいポイントのひとつです。

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95分の間、映画という翼を得ることができる『欲望の翼』。2月3日(土)よりBunkamura ル・シネマにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

花様年華

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香港(アンコールワットロケ/チャイナドレス)

花様年華

 

花様年華

監督:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、マギー・チャンほか
日本公開:2001年

2017.8.16

香港、シンガポール、カンボジアへ・・・移ろいゆく花のような時間

1962年、香港。新聞記者のミスター・チャウと商社で秘書として働くミセス・チャンは、同じ日に同じアパートに引越してきます。2人は互いの伴侶が不倫関係にあることに気づき、次第に時間を共有するようになっていく・・・

物語の舞台は1962年の香港から始まり、1963年にチャウが赴任したシンガポール、1966年の香港、そして同年のカンボジアと移っていきます。なぜ舞台が移るのか、その説明よりも展開のほうが先行する演出が観客の想像力をかきたててくれます。

旅先の国で、入国書類に”Purpose of Visit”(滞在目的)という項目があることは多いですが、「なんとなく / in the mood」と書くことは入国審査にとってはあまり良い回答とは言えないでしょう(ちなみに、この映画の英題は”In the Mood for Love”です)。こうしたこともあってか、私たちが旅の行き先を決める時、そこには何か理由が必要なようにも思えてしまいます。しかし、目的のない、何にも誰にも縛られることがない旅に憧れる方は少なくないはずです。もしサイコロを振るように行き先を決めて旅することができたら、思わぬ国に行くことになり大変なことも多そうですが、私の場合そうした不安よりもワクワクする気持ちのほうが勝ります。

本作の見所のひとつは、トニー・レオン演じるチャウが唐突にカンボジアのアンコールワットを訪れる場面です。1966年にフランスのド・ゴール大統領がプノンペンに訪問した記録映像などで時代背景は描かれますが、チャウが何を思ってアンコールワットに来るに至ったかの心情描写は排除されています。その描写の不在は、空白の時間に起きた出来事や気持ちを想像させてくれて、突然壮大なアンコールワットの世界にワープしたかのような幻想的なひと時を観客に与えてくれます。

約30着使用されたというチャイナドレス(1966年から中国本土で10年間続いた文化大革命の影響下では、チャイナドレスは外国に媚びているとして批判の対象になった)も見どころの一つで、”なんとなく”エキゾチックな世界観に浸りたい方にオススメの一作です。

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アンコールワット

1431年にタイのアユタヤ朝によって王都・アンコールが陥落しクメール王朝は滅亡し、600年以上に亘り繁栄を極めた壮麗な建築群は、密林に埋もれて行きました。アンコール遺跡群が、フランス人博物学者のアンリ・ムオによって広く世界に知られるようになったのはわずか150年前のことです。一旦は歴史の流れに埋没しながらも、再び光を取り戻した遺跡群。長い時を経て、遺跡は私達に往時の栄華を語りかけます。