タグ別アーカイブ: フランス

場所はいつも旅先だった

(C)Mercury Inspired Films LLP

日本(アメリカ・フランス・スリランカ・台湾・オーストラリア)

場所はいつも旅先だった

 

監督:松浦弥太郎
出演:世界各地の人々
日本公開:2021年

2024.11.27

生活習慣のように録画された5カ国の旅

文筆家、書店オーナー、雑誌「暮しの手帖」の元編集長などさまざまな肩書きを持つ松浦弥太郎が初監督したドキュメンタリー。サンフランシスコ(アメリカ)、シギリア(スリランカ)、マルセイユ(フランス)、メルボルン(スペイン)、台北・台南(台湾)と、世界5カ国・6都市を旅した松浦監督が、各地で体験した出会いとかけがえのない日々を、飾らない言葉でエッセイ集のようにつづっていく。

西遊旅行で旅する皆様には、旅行記や日記を付けている方も多いのではないかと思います。今でもあるかわからないのですが、ツアーに添乗すると添乗レポート(内部用)と旅の記録(お客様用)を必ず付けていました。

前者はいわば業務的な情報で、ツアー開発や同じツアーに行く添乗員のために書かれます。基本的に情感はあまり宿りません(でも西遊旅行のツアーに添乗される方はユニークな方ばかりなのでエモーショナルな添乗レポートもたくさんあります)。

後者は「記録」といいつつも「記憶」、つまり、思い出です。そのため、書き手それぞれの思い入れが入ったり、文体に特徴が出ます。余談ですが、僕が創作を志し始めたのは、添乗レポートや各種広報誌の文章が「上手い」「独特」と言われたときからでして本当に機会に感謝しています。

特に日記ですとか旅の記録というのは、期限や時間に追われて書くようなものではありません。「さあ、書こう」と思う前に、もう書いている。いわば「習慣」です。

この『場所はいつも旅先だった』は、そういう感じで、日々の習慣として撮影された主観的アングルの映像で、人々の習慣や都市に散りばめられた生活習慣の痕跡を巡っていく映画です。監督の語らい (声の主は監督本人ではなく小林賢太郎さん) をのせた映画は、車庫に入る回送車両のように緩やかに進んでいきます。

主に早朝や深夜など、何かと何かの区切れ目的な時間帯を。観光地(たとえばスリランカのシギリヤ・ロックのようなダイナミックな場所)よりもその界隈の名もなき人々の慎ましい生活を、カメラは追います。

もちろん旅先での様々な出会いは記録されていますが、あまり一人ひとりに入り込みすぎず、気球のようにフワフワと場から場へと周遊していく映画です。

エッセイ的なので、ご飯を食べながらなどゆるりと鑑賞したりするのにぴったりな作品です。

季節風とインド洋の恵みの島スリランカ
~5大世界遺産と高原列車の旅~

シギリヤロックをはじめ文化三角地帯を構成する4つの文化遺産と、大航海時代の要塞群ゴールにも訪問します。ヌワラエリヤのナヌオヤから、スリランカ中央山地のエッラ間は、近年欧米人旅行客を始め人気の絶景区間。車では通ることのできない茶畑の美しい景色を眺めながら進んでいく列車で、緑豊かなエッラの町を目指します。紀元前3世紀に遡る僧院跡が残るリティガラ遺跡は、まだ訪れる外国人観光客がほとんどいない知られざる遺跡です。 密林の中で自然と調和する様に佇む未知なる仏教遺跡の見学をじっくりとお楽しみください。シギリヤでは、プールの奥にシギリヤロックを望む「ホテルシギリヤ」または「シギリヤビレッジ」に2連泊。エッラでは町の中心に位置する「オークレイエッラギャップ」または「オークレイラエッラブリーズ」に宿泊。お土産店やカフェが軒を連ねる町の散策もご自由にお楽しみいただけます。

恋の秋

© 1997 Les Films du losange

フランス

恋の秋

 

Conte d’automne

監督: エリック・ロメール
出演: マリー・リヴィエール、ベアトリス・ロマンほか
日本公開:1998年

2024.5.1

ワイン畑で人生談義―エリック・ロメール監督が描くロワールのテロワール

舞台は南仏のローヌ渓谷。小さな農園でワイン作りに勤しむ陽気な女性・マガリと、本屋を営むイザベルは親友同士で共に40代。

夫を亡くして以来独身のままでいるマガリを心配するイザベルは、マガリになりすまして彼女の再婚相手を探し始める・・・・・・

近年、デジタル・リマスターされた名作映画が多く公開となっています。2010年に亡くなったエリック・ロメール監督の作品も、ここ数年でリマスター化が進んでいます。日本の作家でも、『ドライブ・マイ・カー』でカンヌ映画祭やアカデミー賞をとった濱口竜介監督や同世代の深田晃司監督は、共にロメールの演出に強い影響を受けています。

すごく大雑把にまとめると本作(および他のロメール作品)は、「登場人物たちがまとまりないことをうだうだと喋っている映画」です。いわゆるラブ・ストーリーを見慣れている方にとっては、何も起こらなさすぎて面食らう作品かもしれません。「ここからどうなるのだろう?」という類のドキドキ感はほとんどありません。

むしろ主人公のマガリは、ずっとウジウジしていて「純粋な友情なんてない」とか「結婚はしたいけどでも条件がないわけじゃないしねぇ、まあ難しいよね」と、どちらかというと悲観的。そしてとても自己中心的に描かれます。だからこそ、愛情の萌芽がほんの一瞬感じられたときに、とても顕著に観客はそれを目撃することができます。

「幸せがときめく瞬間」という公開当初のポスターに記載してあるコピーはまさにその通りで、ダイナミックさよりもそういう微細な心を描いているのです。

なぜそういう演出なのかというもうひとつの狙いは、ローヌ渓谷という場所の性質そのもの(ワインでいうところのテロワール)を監督が描きたいということもあったのではと思います。季節の移り変わりの中で、うつろう心。フランスの田舎を散歩しながら、人生談義をしているかのような気分になる作品です。

南仏・プロヴァンスの田舎道を歩く
リュベロン地方とローヌ渓谷の美しい村を訪ねて

オリーブの木立やブドウ園の広がる渓谷、色鮮やかに咲く野花、自然の景観に溶け込んだ美しい村にゆったり流れる時間。誰もが一度は憧れる陽光降り注ぐプロヴァンスの豊かな大地を巡ります。ゴッホが晩年を過ごし、作品にも描いたアルピーユ山脈、断崖に張り付く美しい村の点在するリュベロンの渓谷、ローヌ渓谷にブドウ畑の広がるダンテル・ド・モンミライユ山麓、プロヴァンス最高峰モン・ヴァントゥ、歩いて巡るプロヴァンスの魅力を余すことなく堪能いただきます。

ポトフ 美食家と料理人

©2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA

フランス

ポトフ 美食家と料理人

 

La Passion de Dodin Bouffant (The Pot-au-Feu)

監督: トラン・アン・ユン
出演: ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメルほか
日本公開:2023年

2023.11.29

フランスの美食家・ドダンが感じていた「人生の愉しみ」

19世紀末、自然豊かなフランスの田舎で、美食家・ドダンは「食」を追求する生活を送っている。

©Carole-Bethuel ©2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

彼の閃めくメニューを完璧に再現するのは、料理人のウージェニー。

©Carole-Bethuel ©2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

ドダン・ウージェニーのタッグの評判は、ヨーロッパ各国に広まっていた。ある日、皇太子から晩餐会に招かれたドダンは、食の真髄を示すべく、一般的基準としては簡素すぎて晩餐向きではない料理・ポトフをメインに据えることに決める。

©Carole-Bethuel ©2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

時を同じくして、長らく結婚はしないままパートナーシップを貫いてきた2人は、結婚することになる。しかし、もともと体調が芳しくなかったウージェニーは倒れてしまう・・・

©Carole-Bethuel ©2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

本作をつくったベトナム系フランス人のトラン・アン・ユン監督とは、2017年にベトナムのダナンで行われたマスタークラスでつながりがあり、その当時から本作のことは「フランスの食に関する映画にもうすぐ着手する」と聞いていて楽しみにしていました。

トラン・アン・ユン監督からは色々なことを教わりましたが、一言でまとめると、どのように映画を生活(人生)とをイコールにするかを教わりました。それゆえに、映画人、ひいてはアーティストの生活というのは、そうではない人と違わなければいけない(違うという自覚を持つ)ということでした。

本作はまさに、料理と生活(人生)がイコールになっている状態、そしてその時間の流れをそのままとらえた一作です。

©Carole-Bethuel ©2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

「5, 6年に1本しか自分は映画を作らない」「映画監督見習いのときは美術館で働いていて、毎日休み時間に絵を眺めていた」などという話も聞きましたが、鍛え抜かれた観察眼でじっくり熟成されるようにつくられた本作は、もちろんストーリーを追うという映画の慣例的な見方もさせてくれますが、いつの間にか「ただ観ているだけ」の、没入した状態になっていることに観客の多くは物語のどこかで気付かされるでしょう。

おそらく「美味しそう」「食べたい」というだけではなく、何と言えばいいかわからない(映画を観ていただくしかない)のですが、料理が人の姿や建物や自然造形のように見えてくる瞬間があると思います。その瞬間をぜひ楽しんでいただきたいです。

©Carole-Bethuel ©2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

ロケ地はフランス中西部・ロワールのようですが、西遊旅行にはそのもう少し西・南の地方を歩きつつ食を楽しむツアーがあります。あわせてぜひチェックしてみてください。

『ポトフ 美食家と料理人 』は、12/15(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。そのほか詳細は公式ホームページをご確認ください。

フランス・ペリゴールの田舎道を歩く
ヴェゼール&ドルドーニュ渓谷の美しい村を訪ねて

美しい田舎が多い南西フランスの中でも「最も美しい村」と称される村々が密集するドルドーニュ渓谷やヴェゼール渓谷を訪れ、農村風景の中を歩き、美しい村や中世の古城を訪れます。ゆったりと蛇行して流れるドルドーニュ川でのカヌー体験や、隣のケルシー地方まで足を延ばし、聖地ロカマドゥールや聖地サンティアゴの道を歩いたりと盛りだくさんの旅です。

クスクス粒の秘密

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フランス(チュニジア文化)

クスクス粒の秘密

 

La graine et le mulet

監督:アブデラティフ・ケシシュ
出演:アビブ・ブファール、アフシア・エルジほか
日本公開:2013年

2017.7.11

異国の地で手を取り合うチュニジア移民の魂

舞台は南フランスの港町・セート。60代のチュニジア移民・スリマーヌは長年港湾労働者として働いてきました。前妻・ソアドとの間に4人の子と2人の孫を持ち、港で獲れたボラを届けるなどして関係を保ち続けていますが、家族はスリマーヌの関与を心からは歓迎していません。スリマーヌ自身そのことを感じながら暮らし続けていて、恋人の娘・リムはそんなスリマーヌになにかと協力的です。ある日、スリマーヌはリストラの標的とされ、勤務日数を半分にするか退職するかの選択を迫られます。スリマーヌは意を決して退職し、リムの助けを借りながら船上レストランを開く準備をはじめる・・・

チュニジア・モロッコなどの北アフリカ諸国は、日本から距離はかなりあるものの、旅行しやすい国としてワールドワイドにポピュラーな旅行先です。日本でもタジン(煮込み鍋料理)が近年大ブームとなり、南アフリカ発祥で「世界最小のパスタ」といわれるクスクスなどの食材も輸入食材を扱うスーパーで簡単に手に入るようになりました。しかし、アフリカの映画を見る機会はまだまだ日本では限られているので、本作は北アフリカの人々の文化を知ることができる映画として貴重な作品です。

クスクスはチュニジア人にとってソウルフードで、本作では食事のシーンを執拗にクローズアップで捉えるショットの繰り返しが、ストーリーに大きな効果を与えています。監督が後年カンヌ国際映画祭で最高賞を獲得して、日本でも話題になった2013年の作品『アデル、ブルーは熱い色』でも、食事を獣のように貪って口にするシーンを多用して、主人公の生命力を感じさせました。

貧しくても裕福でも、嬉しくても悲しくても、生きていくためには食事をしなければなりません。スリマーヌ自身とその親族たちが移民であるという社会的地位を跳ね返すかのように食事がなされ、笑顔の裏にある日々の苦しみが際立ちます(アブデラティフ・ケシシュ監督本人もチュニジア系移民二世です)。

欧米にやって来る移民を描いた映画は数多ありますが、本作は祖国から遠く離れた地で自国の文化を受け継ぎ続ける人々への敬意に満ちています。重要なシーンで披露される迫力あるベリーダンスにもご注目ください。

ラッチョ・ドローム

latcho drom

インド・トルコ・エジプト・フランス・スペイン

ラッチョ・ドローム

 

Latcho Drom

監督:トニー・ガトリフ
出演:タラフ・ドゥ・ハイ・ドゥークス、チャボロ・シュミットほか
日本公開:2001年

2016.6.8

流浪の民たちの道筋を辿る旅へ思わず出たくなる、至幸の映像詩

自身がロマ(北インドのロマニ系に由来するジプシー)のルーツを持つアルジェリア生まれのトニー・ガトリフ監督は『ガッジョ・ディーロ』『トランシルヴァニア』など他にも多くのロマに関する映画を撮っていますが、その中でも特に代表作と言われているのが本作『ラッチョ・ドローム』です。題名はロマ語で「良い旅を」という意味で、映画はロマが元々住んでいたと言われるインド北西部のラジャスタンからスタートし、スロヴァキア、トルコ、ハンガリー、エジプト、南フランスなどを経て最終的にスペイン・アンダルシア地方にたどり着きます。各地で奏でられる音楽をひたすら映し出すというドキュメンタリーに近いタッチで描かれていますが、本作がドキュメンタリーと必ずしも言い切れないのは、その土地土地の日常の様子や街の音、そして音楽に聞き入る人々が醸しだす熱気が力強い物語を紡いでいる点にあります。特にジョニー・デップが「世界一好きなバンド」と公言しているルーマニアのタラフ・ドゥ・ハイドゥークスが地元のクレジャニ村で老若男女を巻き込んで演奏する風景や、ジプシー・スウィングの大御所チャボロ・シュミットが南フランスのサント・マリードゥ・ラ・メールの祭りの中で演奏する映像は圧巻です。私自身、この映画の影響でルーマニア・ハンガリー・ポーランド・南フランス・トルコなどを旅しました。

ジプシー音楽を知ってみたいという方、一気に魅力的な場所を多く見れるのでどこに旅行に行こうか考えていらっしゃる方におすすめの1本です。

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イスタンブール

ビザンツからオスマンまで、帝国の興亡を見つめてきた街。ボスポラス海峡を隔て、アジアとヨーロッパにまたがるトルコ最大の都市。首都はアンカラに遷都されましたが、現在でもトルコの文化、商業の中心です。