僕が跳びはねる理由

401d2470330abfbe(C)2020 The Reason I Jump Limited, Vulcan Productions, Inc., The British Film Institute

イギリス、アメリカ、インド、シエラレオネ

僕が跳びはねる理由

 

The Reason I Jump

監督:ジェリー・ロスウェル
日本公開:2021年

2021.2.24

自閉症者の目線で感じる、人生という旅路

イギリス、アメリカ、シエラレオネ、インドに暮らす5人の男女たち。彼らは自閉症者と呼ばれている。当人や家族の証言を通して、彼らの感じている世界は「普通」と言われる人たちとどのように異なるのかが明らかになっていく。原作は2005年に作家・東田直樹が13歳の時に執筆し、世界30カ国以上で出版されたエッセイ『自閉症の僕が跳びはねる理由』。

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4カ国それぞれのエピソードのなかで私が最もグッときたのは、イギリスのパートで「(自閉症の)息子が感じている世界を、10秒だけでもいいから体験してみたい」と、世間から自閉症者とみなされている息子を持つ父親が語る場面です。なかば憧れに近いトーンで、その一言は発されます。

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グッときたというよりも合点がいったという感じかもしれません。私自身の作品の上映が行われたときに、お子さんがダウン症だという方から「いつかダウン症当事者とその家族の映画を撮ってください。あなたならその辛さではなくて、普通さ、幸せが撮れると思いました」と声がけしてもらったことがあります。その方の気持ちは、「いつか息子の世界を体験してみたい」というセリフのトーンにかなり近いのではないかと本作を鑑賞しながら思いました。両者に共通しているのは、世間から障害とみなされている子どもが「普通」とは違う世界の美しさを見出していると信じていることです。

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「頭の中身は人によって全く違う」ということは、自分のつくった映画を人に観てもらう(いわゆる上映活動)をすると、とてもよくわかります。当然、知識としては映画制作者でなくても知れることではあるのですが、それを身にしみて実感できる機会が多いことは、映画制作者の特権だと思っています。

自分が当然伝わると思っていたシーンが、違うように解釈される(最初はその都度ドキッと、あるいはギクッとしていましたが、今ではその解釈の違いが楽しみです)。自分の描いたシーンが、他者の予想だにしない記憶を蘇らせる。そうした連鎖の中で「頭の中身は人によって全く違う」と確信していくのですが、実は西遊旅行での添乗業務と偶然の一致を感じていました。

添乗業務では同じツアーや同じ場所に何度も添乗するのですが、参加いただく方の興味・関心によって、行程が同じツアーでも全く別物に変身します。もう10年以上前のことなので書かせていただきますと、入社したての頃は「同じツアーだから今回はわりと気楽に行けるかも」という若干の慢心とともに添乗に臨み、ツアー序盤であまりの違いに慌てて緊張感を呼び戻したことがあります。

話を映画の感想に戻しますが、自閉症の人々というのは(もちろん医学的見地からみた症状や、当人が感じる不都合というのはあるのかと思いますが)、たとえるならば、旅をしているときの手段や着眼点が違うだけなのだと私は思います。この場合の「旅する」というのは、人生をすごすことです。

あるとき、なかなかの僻地を行くツアー添乗中に自然災害が起き、バス移動だったところを徒歩で移動することになり、途中で現地の軍用トラックに便乗させてもらうという経験をしたことがあります。トラックの上でふと我に返ったとき「大変だけどこれもまた旅なのだな」と思ったのを今でも覚えていて、ほかにもいろいろと本作を観ている間に旅の記憶が蘇りました。

自閉症と旅。一見するとまったく関連がないようですが、おそらく私の様々な旅の思い出が蘇ってきたのは偶然ではないと思います。

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『僕が跳びはねる理由』、4/2(金)より角川シネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。詳細は公式サイトからご確認ください。