ユキヒョウとの共存を目指して・上部フンザのカイバル村

「Ghost of the Mountains(山の幽霊)」。世界中の野生動物愛好家にとって憧れの存在であるユキヒョウですが、パキスタン北部の村々では、家畜を襲う「害獣」として忌み嫌われてきた経緯があります。時には、生活を守るための報復として殺されてしまうこともありました。

そんな中、村を挙げてユキヒョウと野生動物の保護に力を注いでいるのが、上部フンザ・ゴジャール地区に位置するカイバル村です。221世帯、約1,200人が暮らすこの村には、ブルシャスキー語を話す人々とワヒ語を話すワヒ族が暮らしています。

 

【動画】ユキヒョウと共存する村:カイバル村のユキヒョウとアイベックス

 

現在、村の330平方キロメートルに及ぶ広大な領域には、600頭をはるかに超える数のアイベックスが生息すると考えられています。しかし、1992年に保護活動が始まった当初、その数はわずか「42頭」にまで激減していました。「子供の頃はアイベックスの姿を見たこともなかった。ユキヒョウなんて幻で、この世にいないものだと思っていた」と村人は振り返ります。無秩序な乱獲の結果、生態系は崩壊寸前だったのです。

 

転機となったのは1992年、地域組織「SKIDO(Shahi Khyber Imamabad Development Organization)」による野生動物保護活動の開始でした。村人たちはボランティアで違法ハンティングの監視を始め、かつて猟をしていた人々へ「野生動物を守ることが、いかに村の未来に繋がるか」を粘り強く説いて回りました。

 

それから約30年。今や、斜面で草を食むアイベックスの姿は「カイバル村らしい風景」として日常の一部になりました。そして、獲物であるアイベックスの回復と共に、ユキヒョウも再びこの村に姿を現すようになったのです。

 

カイバル村の山の斜面でアイベックスを仕留めたユキヒョウ
カイバル村に暮らすユキヒョウの親子

 

地域コミュニティを支えるトロフィーハンティングの経済的恩恵

パキスタンの野生動物保護において、トロフィーハンティングは「コミュニティ主導型保全」の核心を担っています。

 

狩猟許可証の落札金額のうち、実に80%が村の自治組織に分配されます。例えば、2025年のアイベックスの許可証は外国人ハンターの場合14,000ドル(約224万円)という高値で取引されており、村にとっては極めて重要な財源となっています。ハンテイングの許可証はアイベックスの数に応じて割り当てられます。今年、カイバル村では3頭の許可が出されました。この収入は教育・医療環境、インフラの整備、そして ユキヒョウによる家畜被害への補償金などに使われています。

 

アイベックスが増えることが村の利益に直結するため、かつての密猟は激減し、生態系のトップであるユキヒョウが生息できる環境が作られました。この経済的恩恵こそが、カラコルムの豊かな自然を守る原動力となっているのです。

 

 

ユキヒョウによる家畜の被害に対する補償

カイバル村では、ユキヒョウによる家畜の被害が今も後を絶ちません。SKIDOは、村人がわずかな保険料を支払うことで被害を補填する「補償システム」を構築していますが、その資金は決して十分とは言えないのが現状です。2024年度には、27家族から84頭の補償申請がありました。しかし、十分な支払い能力がないためにシステムへの加入を見送る家族も多く、対策の強化が急務となっています。

 

SKIDOオフィスにて:ユキヒョウ被害の補償システムを説明
ユキヒョウから家畜を守るため、支援により作られた家畜小屋

2026年2月に実施した2回の『ユキヒョウ観察ツアー』では、ツーリズムを通じてカイバル村の生態系保全と人々の暮らしの共生を支えるため、入域許可料を補償制度に役立てていただくことになりました。参加者の皆様にもこの趣旨にご共感いただき、今シーズンは総額812,000ルピーを支援金としてSKIDOへお渡しすることができました。ツーリズムが野生動物との共存を後押しする力となるよう、これからもこの協力を継続していきたいと思います。

 

野生動物保護活動を行っているユキヒョウチームとともに

 

カイバル村の生態系回復、カラコルム本来の姿へ

カイバル村では野生動物の保護活動が実を結び、カラコルム本来の生態系が回復してきています。アイベックスの群れをはじめ、それを追うユキヒョウ、さらにその獲物を分け合う猛禽類(イヌワシ、ハゲワシ、ヒゲワシ)など、生命の連鎖が間近で見られるようになりました。そして 狩猟禁止の徹底により、イワシャコやセッケイなどの個体数も増加しています。

 

ユキヒョウが仕留めたアイベックスの死骸に集まるヒマラヤハゲワシ

 

【動画】ユキヒョウの仕留めたアイベックスの死骸に集まる生き物:カラコルムの野生動物、生命の連鎖

 

村人からは「ユキヒョウが増えた」との声が聞かれますが、これは本来の姿へと「回復」している段階と言えます。目指すのは、アイベックスの餌場となる豊かなカラコルムの山を守り、生態系の頂点であるユキヒョウが共存できる環境づくりです。

 

今年、親離れし自立していく若いメスのユキヒョウを観察しました。来シーズンには親となって帰ってきてくれることを期待し、この地の自然保護活動を応援していきたいと思います。

 

Image &Text :Mariko SAWADA

 

※カイバル村・上部フンザ地域でのユキヒョウ観察ツアー、手配を行っています。保護活動や観察についてのお問い合わせ・ご相談は、西遊旅行Indus Caravan へ。

西遊旅行のパキスタンツアー一覧

「ユキヒョウ」に関するその他の記事

特集記事:パキスタンの野生動物

※更新中!パキスタン支店 Indus Caravan 情報は、 Instagram & Facebook をご覧ください。

カテゴリ:◆ギルギット・バルティスタン州の動画 > ■ vlog / 動画 - 絶景パキスタン > カイバル > ユキヒョウ
タグ: , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , , ,

(動画)杏の花咲くカイバル村

4月下旬、例年より遅れて杏の花が満開となった上部フンザのカイバル村の景色です。上部フンザにも開発の波が押し寄せています。いつまでもこの美しい村の景色が続くことを望みます。

 

Apricot Blossom in Khyber / 杏の花咲く北部パキスタン

 

Videography : Mariko SAWADA

Visit : April 2021, Khyber, Gilgit-Baltistan

Special Thanks : Hunza Hill-Gah – Khyber

カテゴリ:◆ギルギット・バルティスタン州の動画 > ■ vlog / 動画 - 絶景パキスタン > ■ギルギット・バルティスタン州 > 上部フンザ > カイバル
タグ: , , , , , , , , , , , , , , , ,

冬のカイバル村のアイベックス

1月のカイバル村にはたくさんのアイベックスが来ているよ、と言われさっそく行ってみました。クンジュラーブ川の対岸の農地の斜面にたくさんいました。クンジュラーブ国立公園よりも近くで観察できました。

 

パキスタン北部のアイベックスは英語ではHimalayan IbexとかSiberian Ibexと呼ばれる亜種(Capra sibirica)。この地域では12月~1月はアイベックスの繁殖の季節。オスがメスを追いかけます。

 

アイベックスの子供が生まれるのは6月です。

 

美しい雪のカイバル村、Juniper Valley。

 

シロガシラジョウビタキ White-winged redstartのつがいの姿も。冬の上部フンザの村ではシロガシラジョウビタキの姿をよく目にします。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA

Observation : Jan 2019, Khyber Village – Gilgit-Baltistan

Thanks to Mr.Irfan -khuber village, Mr.Sultan Gohar -Khunjerab National Park

カテゴリ:アイベックス > ■ギルギット・バルティスタン州 > カイバル > ◇ パキスタンの野生動物
タグ: , , , , , , , , , , , ,