タルパンのアルターロック<祭壇の岩>、インダス河畔の岩刻画

タルパンのアルターロック(Alter Rock)「祭壇の岩」はインダス川北岸の砂地にあります。仏教モチーフより動物を中心としたモチーフが描かれた岩です。この古代シルクロードの魅力に満ちた岩刻画をご紹介します。

古来より多くの旅人が行き来したタルパン。最初にこの場所を選び彫刻をしたのは遊牧民でした。アルターロックの正面の岩面はさまざまな動物、屠殺シーンが描かれ、まさに「祭壇」として使われていたのかもしれません。

 

アルターロック、全景

このアルターロック(Alter Rock)の岩の岩刻画の中でも際立つのが、この「生贄を持つ戦士」の絵。生贄なのか狩猟した動物(多くの資料にはヤギとなっていますが動物好きの私にはアイベックスに見えます)を屠るシーンのようですが、大きなナイフを持つ中央アジア風の人物の姿が大変特徴的です。
この男性の服装は当時の騎馬遊牧民の衣装だと考えられ、紀元前3世紀から紀元後3世紀までイラン高原で栄えた王朝、パルティア(Parthian)の人物ではないかとされています。

パルティアは現在のトルクメニスタンで発祥し、イラン高原を中心に紀元前3世紀から広く西アジアを支配し、その治世末期の紀元20年頃分派し、ゴンドファルネス王によってインド・パルティア王国が建てられました。タキシラも一時都としたインド・パルティアはこのインダス河一帯でも活躍していたのでしょう。

この動物を生贄(または屠る)岩刻画のモチーフは殺生を禁ずる仏教の影響より、中央アジア民族の影響が強かったことが伺えます。

 

前足を45度にまげた、デザイン化された馬(また一角獣)の図です。
このポーズは”Knielauf”と呼ばれる表現で古代ギリシャで飛翔を描く際に見られた表現で、アケメネス朝ペルシャの芸術でも見られます。この馬はたてがみと尾が結ばれまるで弓のように見えます。

 

デザイン化したアイベックスでしょうか。目が円い、ことなるスタイルのイラン的な表現です。

 

角をデザイン化したシカのような生き物と、それを追う2つの尾を持つ生き物の図です。パキスタンで野生動物の観察をしている私には、崖にいるアイベックスを襲うユキヒョウに見えます。面白いのは崖のように見えるギザギザの線の先にヘビの頭があることです。
「これは前にはヘビがいて、後ろにはユキヒョウがいて、さらに狩人と猟犬がいて、行き場を失って困っているアイベックスの図です」と教えてくれた人がいました。
このような波状のようなデザインは南シベリアのアルタイ地方の芸術によく見られる特徴だそうです。

このアルターロックにおいて、イラン的な要素の岩刻画が見られることは、すでにアケメネス朝時代にガンダーラ、タキシラがサトラップであったことから驚くことはありませんが、世界でも有数の山脈地帯を越えた北にある南シベリアのアルタイ地方とこのインダス河畔地域に交流があったことは驚かされます。

 

光背持つ大きな仏陀座像と同じく光背を持つ4つの小さな仏陀座像の図です。どの仏陀像も定印 を結び、その衣装は両肩を隠し、衣紋が平行に優雅に描かれています。このような衣紋はインドでAD320~550年に栄えたグプタ朝で見られるデザインに似ています。同じ岩にアイベックスと思われる生き物が描かれていますが、その動きと方向から先にこのアイベックスが描かれ、その上に仏陀像が描かれたと考えられます。

このアルターロック岩刻画の製作年代ですが、仏教モチーフ以外のものは紀元前1千年期半ばごろのものと推測されています。

 

アルターロックの西側のパネルも岩刻画で覆われてます。

 

インダス河畔の岩刻画の中でもマスターピースとも言えるアルターロック。
繰り返し言い続けていますが、これらの岩絵がダムにより永久に失われることが残念でありません。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

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杏の花咲く、春の桃源郷フンザ

3月下旬、フンザの谷が淡いピンク色の杏の花に包まれました。畑には小麦の新芽の緑が。フンザは1947年の印パ分離独立後も1974年まで藩王が支配していました。ブルシャスキー語を話す、ブルショーの人々が暮らす谷です。

 

フンザは「桃源郷」と謳われ、「長寿の里」として知られています。この美しさ、果樹に支えられた村の暮らしが「長寿の秘訣」なのかもしれません。

ブルショー Brushoの人々が話す言葉、ブルシャスキー語 Burushaski は「孤立した言語」で他のいかなる言語とも関連性が見つかっていません。インド・アーリア系民族の到来以前にこの地に存在した言語集団の末裔ではないか、と言われています。フンザ谷、フンザ川をはさんで対岸のナガール谷、ワハーン回廊へ通じるヤスィーン谷、イシュコマン谷にもブルシャスキー語を話す人々が暮らしています。

 

バルティット村の中心地の景色です。昔は大きな建物というと、藩王の居城だったバルティットフォート Baltit FortとダルバールホテルDarbar Hotelくらいでしたが、今は大きな建物(ホテル)が目立つようになってきました。

 

バルティット村から望むラカポシ Rakaposhi (7,788m)。フンザ川対岸のナガール谷の山で、フンザのいたるところから展望できる名峰です。

 

同じくバルティット村から望むディラン峰 Diran  (7,266m)。

 

杏の花咲くアルティット村 Altit Village とドゥイカル Duikal の間を歩いてみました。

 

満開に咲き誇る杏。杏の実、その種、種から取る油がどんなに暮らしの中で大切かがわかります。

 

アルティット村はたくさんの杏の果樹に覆われていました。村歩きでは美しい村人との出会いが。フンザの人々、ブルショー人は見た目も色が白く、髪の毛の色が薄い人が多くいます。

 

可愛らしい子供たちとの出会いが。

 

この日のランチは、バルティット村のアミンさんの家でフンザの郷土料理を用意してもらいました。

 

ちょうど写真家・中西俊貴さんの撮影ツアーがフンザに来ており、郷土料理を作る様子を撮影。

 

フンザを代表するメニュー ドウドスープ Dowdo Soup を準備しています。

 

大変美味なチーズチャパティ(ブルシャスキー語でブルスシャピック Burus Sapik)を作っています。フンザのチーズ、ミント、トマト、ネギ、玉ねぎ、果実オイルが小麦のチャパティで巻かれています。とてもヘルシーで、パキスタンに来て食事に困っているベジタリアンの方にもおすすめです。

 

本日のランチ。果実油をたっぷり使った郷土料理、フンザの郷土ワインとの相性も抜群です。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Visit : March 2023, Hunza, Gilgit-Baltistan

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デオサイ高原の5,000m峰、シャトゥン・ピーク登頂

2020年の夏に出発予定だった「デオサイ高原、シャトゥン・ピーク登頂」企画、コロナ禍でキャンセルとなって以来、念願のツアーを2023年夏に実現することができました。ガレ場続きのルートは大変でしたが、無事5名のメンバーと登頂を果たすことが出来ました。手厚いサポートをしてくれた登山ガイドやサトパラ村からのポーター達に感謝です。

 

山頂からの360度のパノラマビュー。気分は高所クライマー!

 

チラスからアストール渓谷を走りデオサイ高原へと上がります。途中、ナンガパルバットの圧巻の景色。デオサイ高原に上がると美しいショーサル湖畔でキャンプ。大変美しい場所ですが、標高4,200m近いキャンプ地で深夜まで騒々しい音楽で騒いでいるパキスタン国内観光客に驚きました。が、メイン道を外れると他に誰もいない秘境エリアに入り本来のデオサイ高原のが広がります。ベースキャンプからも世界第9位の高峰ナンガパルバット(8,126m)が見えます。

 

登山の序盤はのんびりしたルート、キンポウゲやサクラソウの群生に目を癒されながら歩いて行きます。後に困難なガレ場続きのルートが待っているとはつゆ知らず。

 

ルート上は山上湖が点在しています。とても美しい谷です。前方の雪山が今回目指すシャトゥン・ピーク!

 

サクラソウの群生地を歩きキャンプ1を目指します。楽なのはこの辺りまで。

 

ガレ場のキャンプ1に到着。さてどこにテントを張ろうか。

 

ガレ場の上で寝るよりは、雪の上がずっと快適です。雪渓が残っていてよかった、いよいよ明日早朝山頂アタックです!

 

キャンプ1から山頂までは95%がガレ場のルート。永遠に続くように思える急登をただひたすらに登ります。

 

立ち止まって振り替えると素晴らしい展望が広がります。

 

山の向こうはインド側のカシミール地方。シュリーナガルもすぐ近くです。インドヒマラヤの名峰ヌン峰・クン峰も見えました。

 

世界第9位峰ナンガパルバット8,126mも見えます。

 

ガレ場の急登もあと少し。稜線が近づいてきました。

 

稜線に出ると後は雪渓を登るだけです。日も高くなってきました。

 

5名のメンバーとガイド、ポーター達とシャトゥンピーク(5,260m)登頂に成功です!バックはナンガパルバット!

 

山頂からはK2をはじめバルトロ山群も展望する事が出来ました。つまりここからはパキスタンにある8,000峰5座、ナンガパルバット(8,126m)、K2(8,611m)、ブロードピーク(8,051m)、ガッシャーブルムⅠ(8,068m)、ガッシャーブルムⅡ(8,034m)のすべてを展望できるという事になります。天気に恵まれ、風もなく好天。この後、急なガレ場の下りが待っていることはとりあえず忘れて、約1時間近く山頂に滞在して至福の時を味わいました。

 

Image & text : Tomoaki TSUTSUMI

Tour conducted in July 2023, Deosai National Park, Gilgit-Baltistan

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捨身飼虎(しゃしんしこ)ジャータカ – チラスの岩刻画

インダス川にできる2つのダムのため、永久に失われることになる貴重なシルクロードの遺産、”インダス河畔の岩刻画”について記録しています。

 

「捨身飼虎(しゃしんしこ)」ジャータカをご存じでしょうか。日本では法隆寺所蔵の国宝「玉虫厨子(たまむしずし)」の側面に「捨身飼虎の物語」が描かれています。

チラスのインダス川沿いには、劣化はしているものの、その図を見ることができる岩刻画が残っています。

 

捨身飼虎(しゃしんしこ)ジャータカ Vyaghri-Jataka 

昔、インドに3人の兄弟王子を持つ王様がいました。ある日、王と3人の王子たちは竹林に遊びに行きました。そこで7匹の子虎を連れた母虎と出会いました。親子共々飢えてやせ衰え、餓死寸前でした。3人の王子は深く憐みの心を抱きましたが、二人の王子は「救うことはできない」とその場を立ち去りました。3番目の王子は、「菩薩は慈悲の心でわが身を捧げ、他人を救う。私はこの身を捧げ飢えている虎の親子の命を救おう」と決心しました。王子はその身をゆだね、虎は王子を食べました。この虎の親子の命を救った王子こそが、お釈迦様の前世であった、という物語です。

 

捨身飼虎(しゃしんしこ)ジャータカや法隆寺の「玉虫厨子(たまむしずし)」については各お寺様のホームページなどで詳しく紹介されています。

 

かなり薄くなっていてわかりにくいのですが、下記がこの岩刻画のスケッチ。

 

The Indus – Cradle and Crossroads of Civilizations (Pakistan-German Archeological Research)より

図はこの岩刻画をスケッチしたものですが、横たわる王子と王子を食べようとしている虎のトラの親子、その様子を岩の陰から見ている父王と二人の兄弟王子を現しています。

 

この図のそばに書かれているブラフミー文字の解読により、この図が捨身飼虎(しゃしんしこ)Vyaghri-Jatakaであることも証明されているそうです。

 

「捨身飼虎(しゃしんしこ)」ジャータカの描かれている岩の全面です。中心に大きなストゥーパが描かれています。方形基壇の上に半球状の伏鉢、仏舎利を収めた容器、傘蓋、旗などガンダーラ様式の特徴が伺えます。上部インダス川では5世紀ごろが仏教の最盛期だったと考えられます。

 

残念ながらこの、尊い岩刻画もダムの完成によって失われます。残念、という言葉で片づけられるものではありません。この岩刻画の破壊は1960年代のカラコルムハイウェイの建設から始まり、道の拡張工事の度に破壊されてきました。さらには、一時期仏教のモティーフを好まない人々により上にペンキや石灰が塗られて失われたものもあります。

 

カラコルムハイウェイ沿いのペンキを塗られた岩刻画。中央の「アイベックスを追うユキヒョウ」の図は2020年12月に洗い落としたものです。

 

今回もかぎられた時間の中で塗られた岩刻画を洗う作業をしました。

 

これが現在の岩刻画の状況。右から文殊菩薩、宝冠仏陀とその右横に香炉かランプを持つ信者、ストゥーパが描かれています。三つ葉形のアーチが仏陀の全身を囲んでおり、カシミール様式で描かれています。

 

下記の写真はペンキが塗られる前の図です。

 

The Indus – Cradle and Crossroads of Civilizations (Pakistan-German Archeological Research)より

このパネルのペンキの洗い落とし作業を続けていきます。

この素晴らしい仏教徒の遺産を、ダムに水没する前にぜひ見に来てください。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Site : Chilas, Gilgit-Baltitstan

※記事について:古い書籍をもとに記事を書いています。別の見解や説明も存在するかと思います。勉強したいので是非お知らせくださるとうれしいです。Reference:”Human records on Karakorum Highway” “The Indus, cradle and crossroads of Civilization”

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桃源郷フンザのおみやげ

7,000m級のカラコルムの高峰群に抱かれ、「桃源郷」とも呼ばれるフンザの里。
フンザで人気のお土産をいくつかご紹介します。

フンザの中心地、カリマバードのメインストリートには特産品を売るバザールが並びます。規模は大きくありませんが、観光の合間に気軽に散策を楽しめる場所です。

 

カリマバードのバザール

最初にご紹介するのは、フンザの特産品ともいえるドライフルーツとナッツ。

杏などの果物の栽培が盛んなフンザでは、果実の収穫後すぐに種を取り出し天日干しをし、保存食としてドライフルーツにします。ドライアプリコットは一般的なものと比べると色は茶色く、食感も硬めですが、これは添加物が一切使われていない証。噛むほどに杏の華やかな香りが広がり、つい癖になる味わいです。

ナッツは新鮮なクルミやアーモンド、アプリコットシード(杏仁)が有名。アプリコットシードは一見アーモンドに似ていますが、その名の通り、杏仁豆腐でおなじみの独特な香りが楽しめます。少し苦味はありますが、免疫を高める効果があるといわれています。

その他にもさくらんぼや桑の実、梨のドライフルーツもなかなかこの地でしか手に入らないのでおすすめです。

 

お土産屋さんで売られるドライフルーツ

バザールでは木工製品のお土産も目立ちます。杏の木やくるみの木は木工細工にも適しているため、それらの木材を使った置物や小物入れ、食器などが並びます。

 

杏の木やくるみの木でできたスプーン。アーティストが毎日一つ一つ手作りしています。

 

精巧な彫刻が施されたティッシュボックス

フンザの伝統的な刺繍をあしらった手工芸品も人気のお土産の一つ。ウール製のバッグやスリッパ、帽子に鮮やかな刺繍が施されています。

 

ポーチバッグ
スリッパ

また、フンザ周辺の北部パキスタンは数多くの天然石の原産地。専門店では水晶、アクアマリン、トパーズ、ガーネット、ブラックトルマリンなど色とりどりの天然石を扱っており、小さい原石などは比較的安価で手に入れることができます。
お気に入りの石や誕生石などを探してみるのも特別なお土産になりそうです。

 

アクアマリンの原石

バザール散策で一息つきたくなったら、Cafe De Hunza(カフェ・ド・フンザ)に立ち寄るのもおすすめ。

ここではフンザのくるみをたっぷりと使った名物のくるみケーキがいただけます。
コーヒーとの相性は抜群。ケーキはお持ち帰りもできます。

 

キャラメルでからめたくるみがぎっしり入った名物ケーキ

Cafe De Hunzaではお土産用にアプリコットオイルも販売していました。
喉の痛みや滋養効果があり、サラサラしているのでスキンケアとしても使える万能オイルです。

 

アプリコットシードオイル

ドライフルーツに木工品、ナッツ、オイル…と杏を良いところを余す事なく使用していて、フンザの人々にとって杏は生活に欠かせない、とても大切な存在なのだなと感じます。

まだまだご紹介しきれていないものもたくさんありますが、フンザを訪れた際にはぜひ、バザール散策でフンザならではの「桃源郷土産」を探してみてはいかがでしょうか。

 

Photo &Text : Madoka Nishioka

Visit : March 2023, Karimabad, Hunza, Gilgit-Baltistan

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春のスカルドゥへ

国内線でスカルドゥに到着すると、その風景に驚き、ほぼすべての観光客が写真を撮ります。航空機はインダス川の河畔の雪をいだいた高峰群に囲まれた砂漠の空港に着陸します。

 

標高2,230mの砂漠にあるスカルドゥの空港。昨年「国際空港」に昇格しました。最近はスカルドゥ線の運航率が良くなり、夏にはイスラマバードだけでなくカラチやラホールからも飛ぶようになりました。が、フライトキャンセルの場合カラチからは陸路ではこれません。外国人観光客はやはりイスラマバードからの便を選ぶのが安全です。

イスラマバード~スカルドゥフライトの映像、ナンガパルバットが目の前に!

 

空港から20分ほどでスカルドゥの町に到着です。バルティ族が暮らし、スカルドゥはバルティ語で2つの高い場所の間にある土地を意味します。かつてはチベットの一部であり、カシミールへの交易の中心地もありました。後にイスラム化し、1947年の印パ分離独立の後、帰属をめぐって3回の戦争を経てパキスタンに。

 

到着した3月23日はパキスタンデー Pakistan Dayでした。1940年3月22日、全インドムスリム連盟の大会でジンナーがパキスタンの建国提案し、翌23日に建国を満場一致で決議した日です。独立記念日と同じく、重要なパキスタンの記念日。

学校でイベントがあったのでしょう、子供たちが国旗を手にして道を歩いています。

 

スカルドゥのバザールです。豆、穀物を売る商店。

 

スカルドゥの郊外にあるコワルド村 Kowardo village から買い出しに来ていた村人。顔つきが少しチベットっぽいですね、フンザ地方やパンジャブ地方とは異なります。

バルティの男性は強いことで知られ、夏にはK2ベースキャンプのトレッキングや登山で活躍しています。

 

バザールにはパンジャーブ地方の「ソルトレンジ  塩の山脈」で採掘されているピンクソルトの岩塩もありました。家畜になめさせたり、小さなブロックは「ナムキンチャイ(塩味のチャイ)」を飲むときに利用されます。

ソルトレンジ-ヒマラヤ岩塩ついて

 

スカルドゥの野菜市場、パンジャブ地方からの野菜や果物も届きます。

 

この日、スカルドゥの杏はほぼ満開を迎えていました。

 

スカルドゥ渓谷のフサイナバード村  Hussain Abad village から見たインダス川。この時期のインダス川は氷河のとけた水が混じらず、きれいな青色をしています。

インダス川はインドのラダックから流れてきます。延長3,180Kmの大河インダスは、その93%はパキスタン内を流れています。北部山岳地帯を出てからパキスタンを縦断するようにアラビア海へと注ぎます。

 

スカルドゥからギルギットへ向かう道から振り返ったスカルドゥ渓谷。幅10Km、長さ40Kmもあるこの大きな渓谷は、320万年前から完新世の間にインダス川とシガール川の氷河が広げたものだといいます。

 

カラコルムハイウェイとスカルドゥを結ぶ、「スカルドゥロード Skardu Road」へ入る前に最後の景色を撮影。スカルドゥの谷は、春は杏の花に、夏は緑に、秋は黄金のポプラに包まれる、大変美しい場所なのです。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Visit : March 2023, Skardu, Gilgiti-Baltistan

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早春のシガール渓谷

ノウルーズ(2023年は3月21日)の直後にシガール渓谷を訪れました。ノウルーズはイラン暦の新年ですが、北部パキスタンでも祝われます。ペルシャ語でノウ=新しい、ルーズ=日を意味し、春分の日にあたります。この日を境に畑仕事を始めたり、新しいことを始めたりします。

イスラマバードからスカルドゥへの国内線は冬の間を温かいイスラマバードで過ごしたお年寄りがたくさん乗っていました。厳しい冬を息子や孫のいるイスラマバードやカラチで過ごし、ノウルーズのころに村へ戻る・・・そんな村人で満席のフライトでした。

 

谷の入り口から望むシガール村

シガール渓谷は「カラコルム」へのゲートウェイと呼ばれ、この「シガール・ロード」が自動車道最終地点アスコーレへと続きます。アスコーレからトレッキング・登山が始まり、バルトロ氷河を歩きK2、ブロードピーク、ガッシャーブルム山群のベースキャンプへ向かいます。K2を目指すほとんどの人が通る道です。シガール川はバルトロ氷河とビアフォ氷河から出る、ブラルドゥ川 Braldu River が流れ混んでいます。

 

杏の花

訪れた時期は杏の花が満開に向かう時期でした。本当に「満開」と呼べるのは1~2日だけ。標高や日当たり、水の量で咲き方に違いがあり、いろんな場所で異なるステージの杏の花を見ることができました。

 

シガール村はシガール渓谷で一番大きな村です。セレナホテルチェーンの経営するシガール・フォート Shigar Fortは古い藩主の居城を改装した素敵なホテル。そしてホテルの周りを歩くと、村の子供の姿が。

 

シガール村にて
シガール村にて

シガール村も以前に比べると、素朴な村というイメージよりはより発展し、中心部は車が多くなりましたが、歩いて村をめぐると景色も、村人とも素敵な出会いがあります。

 

最近はシガール村のさらに奥、ハシュピの果樹園 Hashupi Fruit Garden まで足を延ばす人が増えました。シガール村からハシュピ村までの渓谷と村の景色は大変美しいものです。そしてまだまだ素朴です。

 

村の子供たちとの触れ合いの時間
杏の花を撮影

早朝はサルフランガ 寒冷地砂漠へ。

 

サルフランガ寒冷地砂漠はインダス川の河畔、シガール渓谷への入り口にあります。砂丘を雪山バックに望むことができる絶景ポイントです。

 

サルフランガ砂丘の上から見た、フサイナバード村
砂丘の上から望むカラコルムの雪山

そして朝の撮影の後はピクニックの朝食、チャイが最高!

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Visit : March 2023, Shigar Valley, Skardu, Gilgit-Baltistan

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ユキヒョウのローリー Lolly the Snow Leopard 2023

久しぶりに「ユキヒョウのローリー」を訪れました。最初に見たのは2015年、国境の町スストのKVOチェックポストの檻で、人に育てられて3年目を迎えていました。その後、パキスタン軍の施設のあるナルタル谷へ移動。

もう10歳を超えているのではないでしょうか。

 

藪の中から様子をうかがうローリーの姿。素敵です。が、どうも野生個体より<太り気味>です。

 

柵から離れて自然な写真が撮れるポジションに移動するのを待ちました。お気に入りの場所に座るローリー。訪れた日は、地元のカメラマンさんが来ていました。

 

ここがローリーのお気に入りの場所の一つ。

 

あ、動きそう!

 

移動する瞬間にはシャッター音が響きます。

 

ユキヒョウの長く、大きな尻尾。この尻尾は急斜面や崖での狩りの際にバランスを取るのに役立ちます。

 

ユキヒョウの足の裏、毛で覆われていて寒さを防ぎ、接地面積が大きく雪面でも歩きやすくなっています。

 

後ろ姿も素敵です、耳、うなじ。野生個体だとこういう風に細部を観察できません。この日のローリーは大変協力的で、滞在時間2時間30分ほどの間、いろんな「お気に入りの場所」をめぐり最後にはすぐそばに座ってくれました。

 

ものすごく近く(毛が触れるくらいの距離)にいるローリー。唸る音が聞こえます。

飼育個体ですが、ユキヒョウが大好きな人にとって、これだけの近さで、好きなだけ観察できる、おもしろい場所だと再認識しました。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA

Observation : Jan 2023, Naltar Valley, Gilgit-Baltistan

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誰がアイベックスの死骸にやってきたのか?

冬の上部フンザの山で見つけたヒマラヤアイベックスの死骸。ユキヒョウに襲われたもので、すで数日が経過しているものでした。5日間のカメラトラップに映し出されたカラコルムの野生動物の姿をまとめました。

 

Who came on Carcass of Ibex?

 

現れた野生動物:ユキヒョウ、キバシガラス、ベニハシガラス(ビデオには映っていませんが)、アカギツネ、ワタリガラス、ヒゲワシ

 

狩りから数日(おそらく一週間くらい)経っていると聞いていたアイベックスの遺骸はまだ肉が残っていました。狩りの際に川に転落したものをユキヒョウが引き上げたもので、カチカチに凍ってしまったようです(気温はマイナス20度)。映像の中でもユキヒョウは確認してまわっており、食べてはいません。狩りをした個体と異なる個体かもしれません。

 

カメラトラップとしてはうれしい、しっぽまで全身が入った写真。時間は18時08分で暗くなってからすぐに現れました。

 

夜も日中もアカギツネがやってきて食べていました。毛並みの感じから2個体は来ていたようです。

 

 

うれしかったのはヒゲワシが写っていたこと。ワタリガラスと一緒にアイベックスに乗っていて、すぐに飛び立ちました。

一頭のアイベックスが、いろんな動物の糧となっていく、自然の営みに感動です。

 

Image & text : Mariko SAWADA

Ovservation : Jan 2023, Gojar, Gilgit-Baltistan

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ヒゲワシ Lammergeier (クンジュラブ国立公園)

クンジュラブ国立公園のヒゲワシです。英名はBearded Vulture で、そのまんま「髭のあるハゲワシ」。

ヒゲワシ(Gypaetus barbatus)は、ラマガイエ(lammergeier)とも呼ばれ、大型の猛禽類で、この種だけでヒゲワシ Gypaetus属を形成しており、最も近縁のエジプトハゲワシ Egyptian vulture(Neophron percnopterus)、ヤシハゲワシPalm-nut vulture(Gypohierax angolensis)とともに、ハゲワシ亜科の小系統を形成しています。猛禽類の中では珍しく尾が菱形をしています。

 

このヒゲワシ、食べているのは死肉で、主に骨と骨髄です。小さい骨はそのまま飲み込んで強力な胃液で消化します。大きな骨は上空から落として飲み込みやすいサイズにします。

ユキヒョウを探していた時、クンジュラブ峠(4,600m付近)でヒゲワシが骨を落としている光景を見ました。遠いのでわかりにくいかもしれませんが、映像を撮ってみました↓↓↓↓

 

ヒゲワシが骨を落として割る Bone crasher!

 

ヒゲワシは全長115cm、羽を広げると3m近くもある大きな鳥です。時々真上を飛翔してくれるとその大きさに圧倒されます。

 

クンジュラブ川の崖に降りてくるヒゲワシ。

 

クンジュラブ川の河原にアイベックスの死骸を見つけてそばの岩にとまっていたヒゲワシ。羽を傷める危険があるため狭い河原には入っていけず、もどかしい思いでこのアイベックスの死骸を見ていたことでしょう。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Observation :Spring 2022, Khunjerab National Park

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