タフティバーイ – ガンダーラ仏教寺院

ガンダーラの遺跡にはタキシラのシルカップのような都市遺跡と人里離れた山中にある仏教寺院があります。その仏教寺院の代表的なものがタフティバーイ Takht-i-Bahi。日本語の読み方がいろいろあり、タフテ・バヒーだったり、タフティ・バイだったりします。ペシャワールから北西に80キロ、マルダーンの町から15キロのところにあるガンダーラの山岳仏教寺院で、早くから調査され保存状態の良い遺跡です。

 

紀元後1~7世紀に栄えた仏教寺院遺跡で、ガンダーラ美術はクシャーナ朝で最盛期を迎えます。この時代の(冬の)都はプルシャプラ、現在のペシャワールでした。

 

タフティバーイの仏教遺跡は平地から150mほど登った山の上に築かれました。入口からよく整備された階段を上っていくと遺跡の入り口、奉献塔区の入口へと到着します。

 

入口の遺跡の壁の写真です。上部は修復していないガンダーラ時代の壁、白いラインから下は修復されたもので、『A.S.I 1946』と刻まれています。A.S.I.とはインド考古調査局 (Archaeological Survey of India)のことで、時代はインドとパキスタンが分離独立する前の1946年、イギリス領インド帝国時代に考古学チームによって発掘と修復が行われました。

 

タフティバーイの遺跡は主塔院区(メインストゥーパ)、奉献塔群区、僧院区、瞑想室、その他の建物からなるガンダーラ仏教寺院の構成をよく残しています。

 

歩いてきて最初に到着するのがこの奉献塔群区。南の主塔院区と北の僧院区の間にある一画で35基の奉献ストゥーパが並んでいました。今は基壇部のみが残されています。基壇部にはギリシャ風の柱が装飾されています。

 

奉献塔群区

35基の奉献ストゥーパのうち2基が円形基壇で残りは方形基壇です。

 

僧院区です。中庭を囲んで15の小房があり、各房にはランプを置いた壁龕があり、一部は2階建てだったことがわかります。中庭の端には台所跡もあります。

 

主塔院区(メインストゥーパ)です。階段を上ったら広場がありそこにメインストゥーパの6.2m平方の方形基壇があります。このストゥーパの3面も祠堂が並び、龕室にはストゥッコの彫像が置かれていました。

 

主塔院区への階段の近くの祠堂。3面に壁龕が施されています。ストゥッコ(化粧漆喰)の彫像で覆われていたのでしょう。

 

瞑想室と考えられる地下室。小房は真っ暗ですが、明るい広場へもつながっています。

 

そしてここは、管理人さんの部屋。奉献塔区の一部を保存もしながら生活をしていました。

 

管理人さんの暮らす奉献塔区の基壇部。ストゥッコのアカンサスの葉の柱頭。ところどころ彩色が残っていました。

 

さらに山を登るとタフティバイの遺跡とその下に町を見下ろす展望台へ出ます。周りにはまだたくさんの建築物の跡が見られ、タフティバーイが巨大な仏教寺院であったことが想像されます。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Location : Takht-i-Bhai, Mardan, Khyber-Pakhtunkhwa

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タキシラ – モーラモラドゥ

タキシラ仏教遺跡のひとつ、モーラモラドゥ。不思議な響きの名前ですが、付近の村の名前 Mohra Moradu に由来するガンダーラの僧院とストゥーパが残る遺跡です。

この写真はメインストゥーパの方形基壇ですが、高さがなんと4.75mもあります。

 

モーラモラドゥには2基の仏塔があります。ここにはメインストゥーパとその南に小型のストゥーパがあり、腰壁に仏陀象などのストゥッコ像(化粧漆喰)が残っています。

 

僧院には方形の庭の四周に27の小房があり、一部には階段が残されていることから2階建てだったことがわかります。庭の中央部は窪んでいて、おそらく儀式用の沐浴場であったと考えられます。

 

僧院に残されたストゥッコ(化粧漆器)の仏像。彩色のあとが残っています。

 

モーラモラドゥのマスターピースはこの高さ4mの奉献塔。僧院の小房で見つかったもので、円形基壇の上に半球形の覆鉢、その上に箱型の平頭(へいとう・ひょうず、舎利容器を収める場所と考えられる)、その上に7重にもなる傘蓋(さんがい)があります。

この傘蓋(さんがい)、これだけ重なると傘にさえ見えないのですが、お釈迦さまの時代、王や貴族が外出の際に従者に傘をかざさせたもので、貴人の外出の必需品でした。それがお釈迦さまに敬意を表す象徴となり、信者たちが傘蓋を寄進し連ねて頂上にかざしたものです。

 

奉献塔の5層の円形基壇部分です。コリント式の柱壁で仕切られたパネルと壁龕には仏陀のレリーフが施されています。

そして一番下の層を支えているのはやはり、象とギリシャの神、”世界の西の果てで天空を背負う”アトラスです。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

(写真は2005年に撮影したものです)

参考図書:パキスタンのガンダーラ遺跡と博物館を訪問する方にお勧めの一冊!「ガンダーラ美術の見方」監修:奈良康明監修、著:山田樹人著、写真:高倉一太(里文出版)、「ガンダーラの美神と仏たち、その源流と本質」著:樋口隆康(NHKブックス)、「インド建築案内」著・写真:神谷武夫(TOTO出版)

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ダルマラージカー (タキシラ)

紀元前3世紀、マウリヤ朝のアショーカ王がガンダーラ地方で作ったストゥーパ(仏塔)が2基あります。1基はスワートにあるブトカラ遺跡にあるストゥーパ、もう1基がタキシラにダルマラージカー・ストゥーパです。

今日、全体の形が残っている最古のストゥーパはインドのサーンチーのものですが、ガンダーラ地方にも同型の、円形基壇に作られた巨大な仏塔があります。ただ、サーンチーの仏塔のように欄楯やトラナはなく、周りに祠堂や小ストゥーパ群が並んでいます。

 

基壇は径46m、その上に高さ14mの半球形の覆鉢がのるメインストゥーパ。

紀元前500年ごろ、クシナガラでお釈迦様が涅槃に入りました。7日後に荼毘にふされ、その遺骨(舎利)が8カ所の墳墓に舎利容器に入れて墳墓の中心部の底に納められました。これが最初のストゥーパ(仏塔)で、この舎利と舎利容器は崇拝の対象となりました。

紀元前3世紀になり、マウリヤ朝のアショーカ王が八舎利のうち七舎利を再発掘して8万4000塔に分納したそのうちの1つ、このダルマラージカー仏塔がそれにあたると言われています。

 

メインストゥーパをめぐる繞道があり、その周囲には紀元前1世紀から紀元後4世紀、ガンダーラを担ったクシャーナ朝時代に建てられた祠堂・小ストゥーパ(奉献塔)群があります。

小ストゥーパ群の方形基壇の壁面はコリント式の柱壁で仕切られたパネルや壁龕が施されたガンダーラ様式の建築が見られます。

 

小ストゥーパの基壇に施された装飾。象や人物像が基壇を支えています。この人物像、ギリシャの神アトラスなのです。

 

アトラスはギリシャ神話で世界の西の果てで天空を支える神。ガンダーラにおいては仏像の台座やストゥーパの基壇を支える役割として登場します。東西文化の融合の結果生まれた、ギリシャの神が支える仏教世界・・・なんともロマンチックです。

 

祠堂の中にはスタッコの仏像がありましたが残念ながら破壊されています。ストゥッコ(Stucco、化粧漆喰)像は粘土で作られた塑像で、ガンダーラでは紀元後3~4世紀に流行して作られました。

 

タキシラの観光では、タキシラ博物館・シルカップの都市遺跡・ジョウリアンの僧院というのが3点セットですが、ぜひダルマラージカーも訪問してみてください。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA

Visit : Feb 2020 Dharmarajika Stupa, Taxila, Punjab (写真はドローン撮影を含みます。)

参考図書:パキスタンのガンダーラ遺跡と博物館を訪問する方にお勧めの一冊!「ガンダーラ美術の見方」監修:奈良康明監修、著:山田樹人著、写真:高倉一太(里文出版)、「ガンダーラの美神と仏たち、その源流と本質」著:樋口隆康(NHKブックス)

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シルカップ (タキシラ)

イスラマバードから北西約30キロ、かつてガンダーラ美術が花開いた地域の東の端に位置するのがタキシラ遺跡です。タキシラは都市遺跡、仏塔、僧院などが広範囲に広がる遺跡群ですが、その中でもシルカップ都市遺跡は観光客が必ず訪問する重要な遺跡です。

 

紀元前2世紀、北部アフガニスタンで栄えたバクトリアのギリシア人が最初に建築した都市をもとに発展しました。現在残っている町の遺跡はメインストリートを配置し碁盤の目状に広がっており、商店や仏教寺院、仏塔の跡が残されてます。

 

ガンダーラは東からインド文化の影響を受け、西からはギリシャやペルシャ(イラン)の影響を受けた文明の交差点。シルカップにはそれを象徴する建物が残されています。

シルカップに残る「双頭の鷲の寺院」です。方形基壇の正面の階段の両側の壁にアカンサスの柱頭をつけたコリント式壁柱によってわけられた3つのパネルがあります。

 

階段の右側、保存状態が良い方のパネルです。

 

一番左のパネルは三角形破風のギリシア神殿式の建物が見られます。

中央のパネルはインドのチャイティヤ堂の入り口のような形をしたアーチ形の建物があり、その先端に双頭の鷲のような鳥がとまっています。双頭の鷲はヒッタイトやバビロニアなど西アジアで見られる意匠です。

右のパネルにはインドのトラナ(インドのサンチー仏塔で見られる)のような建物がありその上にも鳥のようなものがとまっています。

 

タキシラの「双頭の鷲の寺院」は仏塔(ストゥーパ)の基壇に、インド、ギリシャ、西アジアの建築美術が見られる、なんともロマンある建物なのです。

 

ドローン空撮によるシルカップの写真ですが、メインストリートの左側に大きな前方後円形の建築物跡があります。チャイティヤ堂跡と考えられインドの石窟で見られるチャイティヤ堂と同じ構造だったと推測されます。

 

今回、久しぶりにシルカップを訪れたのですが、パキスタンの学生さんやピクニックにきた家族連れの姿が見られました。ガンダーラ遺跡は僧院など山の上にある遺跡が多いのですが、ここは平坦でラクチン、家族で楽しめるスポットです。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA

Visit : Feb 2020, Sirkap, Taxila, Punjab(写真はドローン撮影を含みます)

参考資料:「ガンダーラの女神と仏たち – その源流と本質」樋口隆康著(NHKブックス)

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(お客様から届いたvlog) Safe? Discovering the heart of Pakistan!

今年の2月パキスタンを訪問したスイス&メキシコ人カップルのルーカスとパトリシア。グランドトランクロードに沿って旅したラホールからペシャワール、そしてイギリス領インド帝国時代に作られた鉄道の旅を紹介。スペイン語ナレーション・英語字幕ですが、ツーリストから見たパキスタンの旅、ご覧ください。

 

Safe? Discovering the heart of Pakistan!

 

ペシャワールからインダス河畔の町ローリまでの車窓風景、駅の様子は貴重な情報です。
ムガール時代、イギリス領インド帝国時代、そして現代までの「パキスタンの歴史とホスピタリティー」にふれるVlogです。

 

Text : Mariko SAWADA

Special Thanks to SUMMERMATTER DIAZ ENRIQUETA PATRICIA.
Please visit her web site : https://elpadiro.ch/

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デオサイ高原から望むナンガ・パルバット (8,126m)

世界第9位峰、ナンガパルバットNanga Parbat。多くの遭難者を出していることから「人食い山」とも呼ばれている山です。

そのナンガパルバットの雄姿を展望できる場所としてフェアリーメドゥ、標高差4,500mのヒマラヤ最大の氷壁ルパール壁を望むヘルリヒコッファーベースキャンプが有名ですが、晴れた日のデオサイ高原からのナンガパルバットも見事なものです。

 

チラム Chilamのチェックポストから標高を上げ、デオサイ高原に到着した付近で見えるナンガパルバット。

 

車道から見えるナンガパルバットです。

 

そして、チラム側からデオサイ高原に入るとすぐに美しい水を湛えたシェオサル湖Sheosar Lake (標高4,140m)が。ここからは天空の湖を背景にナンガパルバットが聳えます。

 

シェオサル湖からさらにカラパニへ。川が流れるデオサイ高原から見たナンガパルバット。

訪れたのは10月上旬、氷点下まで気温が下がるキャンプ泊でしたが秋晴れの好天に恵まれ美しいナンガパルバットを望むことができました。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Visit  : Oct 2015,  Deosai Plateau, Gilgit-Baltistan

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