少年

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日本

少年

 

監督:大島渚
出演: 阿部哲夫、小山明子ほか
公開:1969年

2021.4.28

「風土の力」をフル活用した、大島渚監督の感性と作家性

戦争で傷を負ったことで定職につかない男とその先妻の息子・少年。男の同棲相手と彼女との間に生まれた子・チビ。一家は、車にひかれたふりをしてお金をだまし取る「当たり屋」で生計を立てている。一箇所で仕事を続けると商売がバレるため、一家は次々と場所を変えて旅をする・・・

2021年4月3日、本作に「少年」役で出演した渡辺文雄さんが渋谷の映画館で行われた大島渚監督作品特集に同席し、52年ぶりに公の場でトークイベントを行ったというニュースがありました。残念ながら私は福岡在住のため上映にかけつけることができませんでしたが、上映のレポートを読んでいると、50年以上前の物事をまさに「昨日のように」振り返るやりとりを目の当たりにできるイベントだったようです。

大島渚監督作品は『戦場のメリークリスマス』等をはじめデジタルリマスター化作業が進められており、作品を振り返る機会が多くなりました。大島作品の中で最も低予算な部類の作品であるがゆえに最もリアルな「旅」を描いているのが、この『少年』です。

低予算映画というのは様々な面で「借り物」をしなければなりません。1969年当時はまだスタジオ・システム全盛の時代でしたが、社会派の大島監督は町に飛び出し、全国各地の風土を巧みに借りながら、いびつでリアルな家族の絆を描きました。Wikipediaによるとロケ地は、高知・尾道・倉敷・北九州・松江・ 豊岡・天橋立・福井・高崎・山形・秋田・小樽・北海道(歌志内・札幌・小樽・稚内)で、まさに「列島縦断ロケ」です。

西遊旅行のツアーには、横断・縦断・峠越えなどというダイナミックさを示す言葉や、最高峰・最南端といった地点を示す言葉が入ったツアーが少なからずあります。私は、自分の作品のロケで枕崎に行ったとき「日本最南端の始発・終着駅」という看板があるのを見て「やはり僕はこういう西遊旅行のツアータイトルのような場所に惹かれるのだな」と思ったことがありますが、横断・縦断したり、山や海の向こうを目指したり、一番端まで行ってみたいという旅のモチベーションというのは、最も素朴で原初的なのではないでしょうか。

「少年」の家族が追い詰められて向かう先は、日本の最北端・宗谷岬。季節は冬です。うまいなぁと、思わず感嘆してしまいます。旅の理由は悲しいですが、フィクション映画のシナリオとしては、ベストシーズンにベストプレイスで追い詰められています。「あの山や海を越えた先に何があるかを見てみたい」「端から端まで全部行まわってみたい」というような思いを一度でも抱いたことのある方は、間違いなくドキドキハラハラできる作品です。