スタンリーのお弁当箱

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インド

スタンリーのお弁当箱

 

Stanley Ka Dabba

監督: アモール・グプテ
出演: パルソー・A・グプテ、アモール・グプテほか
日本公開:2013年

2017.5.10

お弁当箱を開けるワクワク感のような、心優しきインド人少年の作り話

舞台はインド最大の都市・ムンバイ。Holy Family Schoolというキリスト教系の小学校に通っている少年・スタンリーは、作り話をしてクラスの皆を笑わせるのが大好きです。人気者のスタンリーですが、ある事情で学校にお弁当を持ってくることができない日々を送っていました。強がって水道水を飲んで空腹を満たしているスタンリーに、同級生たちは優しくお弁当を分けてあげます。しかし、他人のお弁当に執着を持つ一風変わった先生が、スタンリーにいちゃもんをつけてきて・・・

同じくムンバイを舞台にして、インドのお弁当の文化をストーリーに活用した映画に『めぐり逢わせのお弁当』がありますが、この作品は全く違ったアプローチでお弁当を物語に取り込んでいます。

日本でよく使われる「お母さんの愛情がたっぷりこめられたお弁当」というキャッチフレーズは(字幕で多少脚色されているかもしれませんが)インドでも変わらないようだということが、映画を見進める内にわかってきます。しかし、このフレーズはしばしば反発や苦悩を生むと聞いたことがあります。

まず、お弁当を作るのはお母さんでなくてはいけないのかということ。そして、お弁当を作れるには、それ相応の環境や時間が必要だということです。手作りではなく冷凍食品を使うこともあるでしょうし、大人がそうするように、お弁当屋さんやお惣菜屋さんでおかずを買うこともあるでしょう。つまり、「お弁当は愛情がこもっている」とされていることが、時にお弁当を用意する側の苦しみや悩みを生むということです。この映画ではそうした問題と近い切り口で、「全ての家庭がお弁当を作れる環境にあるわけではない」という視点からインドの社会を眺めています。

その張本人がスタンリーですが、映画に全く暗さはなく、むしろ彼の陽気な雰囲気が物語を引っ張っていきます。この映画の最も特徴的な点は、映画全体の流れよりも、今この瞬間を生きる子どもたちの感性のように、シーンごと、その場その場の臨場感や雰囲気が際立っている点です。

実は映画の撮影手法にその秘密があります。まず、監督は主人公・スタンリーを演じるパルシーくんの父親で、監督自身もスタンリーとお弁当を奪い合う変わり者の先生を演じています。もういくつか秘密がありますが、あとは本編をご覧になってから知るのが、充実した鑑賞体験のためによいかと思います。

少年たちの心洗われる優しさに触れたい方、ムンバイ市民の美味しそうなお弁当を覗き見たい方にオススメの作品です。(鑑賞前に、お近くのインド料理屋を調べておくことをオススメします)