ミツバチのささやき

ec254d2892524d08(C)2005 Video Mercury Films S.A.

スペイン(カスティーリャ)

ミツバチのささやき

 

El espiritu de la colmena

監督:ビクトル・エリセ
出演:アナ・トレント、イサベル・テリェリア
日本公開:1985年

2018.12.26

スペイン・カスティーリャに住む、妖精のような少女の心象風景

1940年頃、スペイン中部のカスティーリャ高原の小さな村に1台のトラックが入っていく。トラックは映画の移動巡回で、作品は『フランケンシュタイン』だ。喜ぶ子どもたちの中にアナと姉のイザベルがいる。

身の回りで起きるひとつひとつの出来事に興味津々のアナは、フランケンシュタインが怪物ではなく実は精霊で村のはずれの一軒家に隠れているとイザベルに聞き、その話を信じ込む。ある日アナがその家を訪れると、スペイン内戦で負傷した兵士と出会う・・・

「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、幼少期の経験はその後の考え方に強く影響すると言われています。それは、旅の最中にどのような光景に心打たれるかにも関わってくるはずです。

本作の背景となっているのはスペイン内戦、そして舞台はサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路も通っているカスティーリャ地方です。過酷な時代背景の中で、幻想的なカスティーリャの雰囲気が子どもならではの神秘的な体験を助長し、周囲で起きている戦争の「わからなさ」が無垢な心に容赦なく入り込んでいく様子が本作では描かれています。

度々この作品を見返していますが、見た時はいつもある感覚を思い出します。私はキリスト教の幼稚園に通っていましたが、天上界から神に見張られている気が度々していました。そして、ある時を境にその「見られている感じ」は消えたのですが、いつどのようにして消え去ったのかは全く覚えてないのです。

いまだに旅行に行くと神聖な場所や聖地巡礼が好きなこと、そして自分が作る映画ではほぼ全作死生観をテーマにしているのは、おそらくこの幼少期の体験が根底にあるのではないかと思います。

子どもの頃の忘れられない記憶、あるいは忘れかけていた感覚を蘇らせてくれて、旅に出る動機の源泉に気付かせてくれる1本です。

ペルシャ猫を誰も知らない

71xSecZfUdL._SY679_

イラン

ペルシャ猫を誰も知らない

 

Kasi Az Gorbehayeh Irani Khabar Nadareh

監督:バフマン・ゴバディ
出演:ネガル・シャガギ、アシュカン・クーシャンネジャードほか
日本公開:2010年

2018.12.19

表現への渇望 知られざるテヘランのインディー・ロック事情

テヘランで音楽活動をするネガルとアシュカンはロックを愛するカップルだが、テヘランでは演奏許可が下りない。2人はロンドンでライブすることを目指し、違法にパスポートとビザを取得しようとする。そして、資金集めのライブをするためにテヘランの町中を巡り、バンドメンバーを探しはじめる・・・

行かなければ分からない世界がある。これは秘境旅行全般に言えることですが、私が一番それを実感したのはパキスタンに初めて訪れた時です。イスラマバード・カラチ・ラホールなど、都市部では治安が原因で町にピリッとした雰囲気があるのではないかと想像する時が少なからずありました。しかし、実際に行ってみると人々は親切で、若者の人口が日本と比べて圧倒的に多く、むしろポジティブなエネルギーに溢れていました。

イランに行った時もそうでした。私は2017年7月に映画祭に招待を受けて初めてイランを訪れましたが、ちょうど6月にテヘランにあるホメイニ師の廟でISISによるものとされるテロがあった後でした。いくらイラン映画ファンで、知り合いからイランの人々のフレンドリーさについて多く聞いたことがあっても、いくらか不安になりました。しかし、空港に着いて映画祭の手配してくれたタクシーに乗り、イスファハーンへの道中で運転手さんと身振り手振りで会話したり、ドライブインに寄ってご飯を食べて地元の人たちと交流するにつれてその不安はあっという間にとけていきました。

本作のストーリーは、ともすると「文化規制が厳しいイラン」という背景設定で語られてしまいます。しかし、イランでは音楽を聞くチャンスが無いわけでは全くありません。イヤホン、カーステレオ、店内BGMなどあちこちで音楽が鳴っていますし、テヘランで私が行ったカフェではイギリスのPortisheadというバンドの曲が当然のように流れていました。衛星放送も入るので、音楽はもちろんのこと、海外のニュース・映画なども幅広く見ることができます。

ただ、表現をするとなると許可が必要になります。本作には牛小屋で練習するヘビーメタルバンドなども出てきますが、「文化規制が厳しいイラン」という簡潔な情報の後ろに、何千・何万人という人々が様々な思いで暮らしていることをしっかり示してくれます。

また、テヘランの光景に様々なジャンルの音楽が合わさるという、ふつうのイラン映画ではあまり見られないマッチングを楽しむことができます。ドキュメンタリーと見せかけて実はフィクションという、監督の表現手法にもぜひ注目してみてください。

teheran_bazaar

テヘラン

イランの北西部に位置する同国の首都。エルブルース山脈の麓に広がるこの街は、全人口の10%に当たる人々が生活する大都市です。近代的な建物やモスク、道路に溢れかえる車の数、バザールなどの人々の活気など満ち溢れたエネルギーを肌で感じることが出来る街です。

バジュランギおじさんと、小さな迷子

bb_poster軽(C)Eros international all rights reserved. (C)SKF all rights reserved.

インド・パキスタン

バジュランギおじさんと、小さな迷子

 

Bajrangi Bhaijaan

監督:カビール・カーン
出演:サルマーン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプールほか
日本公開:2019年

2018.12.12

永らく背中合わせの印パを駆け抜ける、でこぼこコンビの珍道中

パキスタンの小さな村に住む6歳の少女・シャヒーダー。成長しても声を出すことができないシャヒーダーを心配した母は、彼女をつれてインドのイスラム寺院に願掛けに行くものの、帰り道で離ればなれになってしまう。インドに取り残されたシャヒーダーは、ヒンドゥー教のハヌマーン神を熱烈に信奉する青年・パワンに救われ、パワンは彼女を親元に返すまで面倒を見る決意をする。

ひょんなきっかけで、パワンはシャヒーダーがパキスタンからやってきたことに気づく。一度決心を固めたパワンは、周囲の制止に耳を貸さない。パスポートもビザも持たず、国境を障壁とも思わず、パワンはシャヒーダーをパキスタンの親元に送り届ける旅に出る。

サブ1軽

インド映画興行第3位を記録した本作。表向きは、インド・パキスタン両国同士の長年にわたる対立を背景に、「インドに“迷い込んだ”パキスタンの少女を、インドの青年が“見知らぬ国”・パキスタン送り届ける旅」というストーリーです。インド映画お決まりのダンスシーンも満載です。

アザー1

しかし物語の奥底にはインドの制作クルーたちによって、パキスタンへの歩み寄りの心があちこちに散りばめられています。インド人もパキスタン人も、本当は言いたいのだけれどなかなか言えないこと。それは、「インドとパキスタン、お互い本当は仲良くしたい」ということです。

例えばパワンとシャヒーダーがパキスタンに入ってすぐ、警察に追いかけられながらバスに身を隠している時に、パワンの苦心を知った集金係がこんなセリフをいいます。

「あなたみたいな人が、インド・パキスタン両方にたくさん増えればいいのに」

近くて遠い国。それが現在のインドとパキスタンの関係なのだと思います。面白いことに、本作ではパキスタン設定のシーンがインドで撮影されています。許可や製作上の理由でそうなったのかもしれませんが、それができてしまうということを以っても、インドとパキスタンが実は近いのだということが示されています。

メイン軽

『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、1/18(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

桃源郷フンザへの旅

カラコルム・ハイウェイを走り桃源郷フンザへ
パキスタンが誇る高峰群、ガンダーラを代表するタキシラも見学

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド 15の世界遺産をめぐる少人数限定の旅

Chandni_Chowk

デリー

「旅の玄関口」デリー。この都市は、はるか昔から存在した歴史的な都でもあります。 古代インドの大叙事詩「マハーバーラタ」では伝説の王都として登場。中世のイスラム諸王朝やムガール帝国などさまざな変遷の後、1947年にはイスラム教国家パキスタンとの分離独立を果たします。現在ではインド共和国の首都として、その政治と経済を担い、州と同格に扱われる連邦直轄領に位置づけられています。