ヒンドゥー教の神・シヴァ神とリンガ信仰

ナマステ! 西遊インディアです。

ヒンドゥー教の三柱の主神の一つであるシヴァ。インド国内で圧倒的な人気を誇る神として無数の寺院が奉じられており、ヒンドゥー教の一つのシンボルともいえる存在です。

 

シヴァ・ファミリー 左からガネーシャ、シヴァ、パールヴァティ、スカンダ
シヴァ・ファミリー 左からガネーシャ、シヴァ、パールヴァティ、スカンダ (出典:長谷川 明  著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)
踊るシヴァ(ナタラージャ)の像
踊るシヴァ(ナタラージャ)の像

今でこそ主神となったシヴァですが、アーリア人の『リグ・ヴェーダ』の中ではモンスーンの神・ルドラの別称とされ、神々というよりはアスラ(神に対しての悪魔)としてとらえられており、現在のような大きな力を持つ存在ではありませんでした。

モンスーン(暴風雨)による破壊と雨の恵みという2面性は後のシヴァに引き継がれ、アーリア人のインド進出後は土着のドラヴィダ系の神を吸収してシヴァ像が形作られていきます。現在の立ち位置は仏教やジャイナ教の勢力の拡大に対抗して行われたヒンドゥー教の再編成の中で徐々に土着信仰を吸収する中で生まれたものです。そのため、シヴァは元来の破壊と創造以外にも多くの事物を司るものとされ、またそれ自体が土着の神のヒンドゥー教化であるパフラヴィーやドゥルガーなどの女神を妻とすることで多くの神の領域を受け持っています。

 

そして、シヴァ信仰の最大の特徴となるのがリンガ信仰です。シヴァ寺院の奥の本殿には必ずシヴァリンガが置かれており、礼拝者たちが香油やミルク、花、灯明などを捧げています。

 

ムンバイ:エレファンタ島のシヴァ寺院のリンガ
ムンバイ・エレファンタ島のシヴァ寺院のリンガ

シヴァリンガは男性器の象徴であるリンガと、リンガが鎮座している台座で女性器の象徴であるヨーニから構成されますが、これは男女の合一を示すと考えられ、男女の神が一つとなって初めて完全であるというヒンドゥー教の考えを表す姿です。シヴァリンガが置かれる寺院の内部は即ち女性の胎内であることを示しています。シヴァを象徴する存在でもあり、シヴァ派のヒンドゥー教徒たちは寺院だけではなく自宅でも小さなシヴァリンガを祀って礼拝をすることもあるそうです。

 

男根崇拝は世界各地にみられるものですが、アーリア人はそれを野蛮なものとして忌避していたことが『ヴェーダ』から読み取れます。しかし土地に根付いていた非アーリア的/ドラヴィダ的な宗教要素が復活してくるにつれ、リンガ信仰はシヴァ信仰と結びつき大きく発展していきました。いわばアーリア系とドラヴィダ系の信仰を結ぶ懸け橋のような存在として、シヴァ信仰は大きく広がっていったと考えられます。

 

リンガ信仰の発生を示すこんな神話として、伝えられる神話があります。

 


ヴィシュヌが原初の混沌の海を漂っていた時、光と共にブラフマーが生まれた。自分こそが世界の創造者であると主張して引かない2神が言い合っていると、突如閃光を放って巨大なリンガが現れた。2神はこのリンガの果てを見届けた者がより偉大な神であると認めることに合意し、ブラフマーは鳥となって空へ、ヴィシュヌは猪となって水中へ、上下それぞれの果てを目指した。しかしリンガは果てしなく続いており、2神は諦めて戻ってきた。するとリンガの中から三叉戟を手にしたシヴァが現れた。シヴァはヴィシュヌもブラフマーも自分から生まれた者であり、3神は本来同一の存在であると説いた。

 


 

ヒンドゥー教では宗派によって神話の内容やその主役が入れ替わりますが、シヴァが世界の創造主であるとするこの神話はもちろんシヴァ派のもの。他の宗派の神話では、それぞれの主神が世界の創造主であることを示す神話(これも様々なバリエーションがありますが…)が存在します。

 

毒を飲んだシヴァは、ニーラカンタ(青黒い頸)と呼ばれるように(出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

ちなみにシヴァ神は中央アジア、東南アジア、そして日本にも広まり諸宗教に取り入れられています。日本の七福神の1人である大黒天は、シヴァから発展した神格であると考えられており、財と幸運の神として人気です。

シヴァ神のエピソードその他は、またの記事でご紹介いたします。

 

 

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ヴィシュヌの化身① マツヤ(魚)と大洪水神話

ナマステ!
前回、ヒンドゥー教3大神のひとり・ヴィシュヌ神についてご紹介しました。
世界維持神・ヴィシュヌ

ヴィシュヌ神は、古代インドの聖典リグ・ヴェーダではインドラの協力者として登場する程度の存在でしたが、ヒンドゥー教の成立・発展の過程で各地の神々を化身として取り込み、主神の一つとなりました。ヴィシュヌ神の化身の数はヴィシュヌ派内でもいくつか考え方がありますが、もっとも一般的な主流の考えでは全部で10の化身が存在するとされています。

 

■ヴィシュヌの10の化身

1.マツヤ(魚)
2.クールマ(亀)
3.ヴァラーハ(猪)
4.ナラシンハ(人獅子)
5.ヴァーマナ(矮人)
6.パラシュラーマ
7.クリシュナ
8.ラーマ
9.ブッダ
10.カルキ

 

今回より、10の化身とそれにまつわる物語を何回かに分けてご紹介していきます。また、ヒンドゥー教の神話に登場する様々な用語や登場人物についても解説していきます。

 

1)マツヤ(魚)

大洪水を予言した魚の姿。次のような神話が伝えられています。

 


聖仙サティヤヴラタが河で祭祀を行っていると、一匹の魚が手のひらに飛び乗った。サティヤヴラタが魚を河へ戻そうとすると、魚は他の大きな魚に食べられないように保護してほしいと言う。サティヤヴラタは魚を連れて帰り壺に入れて飼い始めたものの、日ごとにどんどん大きくなる魚をとうとう飼いきれなくなり、海へと戻そうとする。

 

魚は「7日後に大洪水が来る。私が船を用意するから、すべての生物と植物の種、7人の聖仙を集めて待て」と告げてサティヤヴラタと別れるが、7日後にサティヤヴラタが指示通りに生物を集めて待つと予言通りに大洪水がやってきた。金色の巨大な体で現れた魚はサティヤヴラタ達を乗せた船に大蛇・ヴァースキを結び付け、ヒマラヤまで船を引っ張り助けた。

 


魚(マツヤ)の化身像
魚(マツヤ)の化身像(出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)
魚(マツヤ)の化身
魚(マツヤ)の化身 (出典:長谷川 明 著「インド神話入門 (とんぼの本)」新潮社)

巨大な魚として登場するヴィシュヌは、ノアの箱舟に通ずるようなこの大洪水神話において、聖仙を救う存在として描かれます。ここで登場するヴァースキは蛇王(ナーガ・ラージャ)のひとつ。神話上ではヴィシュヌの乗るガルーダの母親の姉妹・カドゥルーが1000のナーガ(竜/蛇)を生み、ヴァースキはそのうちの一つ、ガルーダとは従兄弟に当たる存在です。蛇王ヴァースキは次に紹介するクールマの神話にも登場します。

 

また、聖仙はサンスクリット語では「リシ」と呼ばれ、厳しい修行によって時に神々をも凌駕するほどの力を持つ仙人を指します。神々の世界と人間の世界の中間の存在として、ヒンドゥー教の神話では重要な役割を与えられています。

ヴィシュヌによって全人類を滅ぼした大洪水から助けられた聖仙サティヤヴラタは、洪水後に人類の始祖となり、「マヌ」という称号を与えられたとされます。

 

ノアの箱舟で知られるように、大洪水神話はメソポタミア・ギリシア世界を始め、アジア沿海部や太平洋沿岸の南北アメリカ大陸にも類例のある神話です。メソポタミアをその起源とする説もありますが、これはメソポタミアでの神話は文字史料として残されている物語が多いために研究が進んでいるだけだという指摘もあります。実際の起源がどこにあるのかに関しては史料に乏しく、憶測の域を出ません。

 

アララト山
トルコ東端に位置するアララト山。ノアの箱舟が漂着した地とされています。

 

紀元前1500年頃に中央アジアからインドへ移住したアーリア人ですが、その際に集団の一部はメソポタミアへ向かっています。世界各地に点在する洪水神話の中でもメソポタミアとインドのストーリーは共通性が高いことが指摘されており、中央アジアを故地とする両者はある時期まで共通した神話のストーリーを持っていたと考えられます。

 

Text by Okada

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