”王の道” グランド・トランク・ロードの果て

首都イスラマバードからペシャワールへ向かうとき、「モーターウェイにする?GTロードにする?」と聞かれます。この“GTロード、グランド・トランク・ロード Grand Trunk Road”こそ、古のムガール帝国時代の大幹線、「王の道」。もちろん、いまや近代的な普通のアスファルト道ですが、実に深い歴史を持つ道です。

そもそも「王の道」=グランド・トランク・ロードは16世紀、一時的にムガル帝国に取って代わったアフガン系王朝のシェール・シャーが道を整備して作り始めた壮大な一大ネットワーク。スール朝の短い治世にはアグラから彼の出身地と言われるビハール(インド)までの道をまず完成させ、やがて東は現バングラデッシュに位置するソナルガオン、西はパキスタンのムルタンまで整備されました。その後、再びムガル帝国に引き継がれ、ムガール帝国全土、東は現バングラデッシュのチッタゴンの港から西はカイバル峠を越えてアフガニスタンのカブールまで拡張され広大な帝国を発展させました。
この「王の道」は英領インドの時代に再び整備されます。カルカッタからイギリスが三回の侵略占領で植民地化できなかったアフガニスタンの手前、ペシャワールまでの区間を含む、カルカッタ~ペシャワールの区間です。この時に“Grand Trunk Road グランド・トランク・ロード”と名づけられ、整備されていきました。

現在も“グランド・トランク・ロード”として栄えた時代の名残が各地に残されています。

 

ムガル帝国時代の石畳

イスラマバード郊外に残るムガル帝国時代の“王の道”の石畳。現代のGTロードの脇に保存されています。石畳にはここを行きかった馬車の車輪で磨り減った跡も。

 

ラホール城(世界遺産)

ムガル帝国の古都、ラホール。ムガル帝国時代にもともとあった城の上に多くの建物が建築されました。メインゲートとなるAlamgiri Gateの夜の写真です。シャー・ジャハーンの時代に作られた豪華絢爛なシャーシ・マハル<鏡の間>は当時のムガル帝国の繁栄が偲ばれます。

 

ロータス・フォート(世界遺産)

シェール・シャーが“王の道”上に作った砦。シェール・シャーにとってはペシャワール~ラホールへ至る道を守る重要な要塞でした。

 

キャラバンサライ

ペシャワールのオールド・バザールの中には隊商が行きかった時代のキャラバンサライが残されています。かつてこの道を多くの商人が行き来し、広大なムガル帝国、その後の植民地時代を支えました。ペシャワールは中央アジア・インドからの商品にあふれ栄えていたことでしょう。

 

カイバルゲート

ペシャワールからカイバル峠に向かう途中にあるゲートであり記念碑です。道路脇にはジャムルードフォートという砦があり、もともとあった古い要塞の上に1823年に侵攻してきたシク教徒によって建てられた城です。中央アジアと南アジアを分けるカイバル峠の手前で、さまざまの民族の攻防の歴史を見てきた場所です。そしてカイバル峠を越えると、トルハムの国境がありアフガニスタンへと「グランド・トランク・ロード」は続きます。

 

バーブルの墓

ムガル帝国の第一皇帝はバーブル。中央アジア出身で、カブールに最初の拠点を置き、ここからパンジャーブ平野へ、そしてインドを征服し1526年、アグラでムガル帝国初代皇帝に即位しました。そのわずか4年後、バーブルはアグラで亡くなっています。彼は愛したカブールの地に墓標を持つことを願い、その後の戦乱で遅れたものの、家族によってカブールに墓が作られました。(写真はバーブル庭園修復中の時のもので、今はムガル帝国当時の墓を再現した美しいものになっています)

 

アフガンの戦後、訪れたバーブルの墓は荒れ果ててまさにムガル帝国の戦乱の歴史を思い起こさせる状態でした。アガハーン財団のプロジェクトにより“バーブル庭園”の中に美しく再建され、“王の道”の始まりであり、“グランド・トランク・ロード”の終着の地であった町、カブールを見守っています。

 

冬のカブール、バーブル帝の墓のあるバーブル庭園より

 

Photo & text : Mariko SAWADA

※カブールとカイバルゲートの写真は2006年の撮影であり現状が異なっていることがあります。その他の写真は2018年~2020年のものです。

※この記事は2011年6月にupしたブログ「サラームパキスタン」を加筆・訂正したものです。

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(動画)世界遺産ロータスフォート – シェール・シャーの遺産

パキスタンにある6つの世界遺産のひとつ、ロータスフォートRohtas Fort。

ムガル帝国時代の初期に短命ながらもその後の帝国の基礎となる税制や交通網を作りあげたスール朝のシェール・シャー Sher Shah Suri が建築した要塞です。スール朝は1539年から1555年、わずか16年の間に現在のアフガニスタンとパンジャーブ平野を結ぶグランドトランクロード Grand Trunk Roadを整備し、その「大幹線」上にロータスフォートを建設しました。

ドローン空撮による、ロータスフォートの景色です。

 

Video & Text : Mariko SAWADA

Visit : Feb 2020, Rohtas Fort, Punjab

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オオハクセキレイ White-browed Wagtail(ソーン渓谷)

2020

ソーン渓谷のウチャリ湖で観察したオオハクセキレイ White-browed Wagtailです。ウチャリ湖は黒い水の塩湖で、湖岸では虫が大発生。湖の桟橋では人に慣れたオオハクセキレイが虫を追いかけていました。

オオハクセキレイは体長が21Cmとセキレイの中では一番大きい鳥です。インド亜大陸の固有種で、パキスタンではパンジャブ州北部の水辺に一年を通じて暮らします。

 

巣材を運ぶオオハクセキレイ。3月から10月の繁殖期には美しいさえずりを聞くことができます。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation : end of March 2019, Uchhali Lake, Soon Valley, Punjab

Reference: Birds of Pakistan, Birds of the Indian Subcontinents (Helm Field Guides)

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Balkasar Bear Sanctuary バルカサール・ベアーサンクチュアリ 虐待されたクマたちの保護を!

Balkasar Bear Sanctuary、バルカサール・ベアーサンクチュアリの話です。

ハンティングのツーリズムの仕事をしている知人から、自分の所属するBalkasar Bear Sanctuary バルカサール・ベアーサンクチュアリに来てみないか、と誘われ行ってみました。行って現実を見るまで、正直、何のことかわかっていませんでした。

 

ここにいるクマたち・・・「熊使い(熊を使ったショービジネス)・・Bear vs Dog Fighting(熊と犬のフィテイングショー)やDancing Bear(踊る熊ショー)」に使われたクマたちが保護され集められていました。

クマたちのほとんどは、パキスタンの南部(パンジャブ州南部、シンド州、バロチスタン州)の地主たちの所有物で、その歯と爪は抜かれ、中には飼い主によって腕を切り落とされた個体もいました。手足のないクマを目の前にして、ヒトはどうしてこんなに残酷なのか、人間の醜さに涙が止まりませんでした。

 

施設にやってきて訓練中のヒマラヤツキノワグマ。

 

連れてきてくれた知人はパキスタンでハンティングの仕事に従事している人ですが、このクマの保護のプロジェクトに参加し、野生へ戻すオペレーションを担当しています。パキスタンのハンティング事情はこれまでもブログで書いてきた通り毎年厳しい条件と許可数が決められ、対象を大きな角の老いた個体とし、収益を地元に還元することから違法ハンティングを防ぎ、野生動物の保護につながっているという点があります。ただ、これもトロフィーハンティングの対象となる野生動物の話ですべての野生動物のことではありません。

ここに私を連れてきた彼も、ハンティングの仕事をしていますが、本物の野生動物の姿を知るからこそ、町に連れてこられ芸をさせられるクマたちの悲惨な運命は受け入れられるものではなかったのでしょう。

 

食事の時間です。

 

Balkasar Bear Sanctuary の施設には現在54頭のクマがいます。そのほとんどがヒマラヤツキノワグマ Himalayan Black Bearでした 。

施設の専門家によると、現在のパキスタンの野生のクマの生息数は、ヒマラヤツキノワグマ Himalayan Black Bear が600~650頭、ヒマラヤヒグマ Himalayan Brown Bear が200~250頭と推測されるそうです(きちんとした統計はとられていません)。ということは・・・およそ6~7%のパキスタンのクマが保護されてこの施設にいるのです。

 

このクマたちはどうやって連れてこられるのか聞いたところ、多くは冬眠中の親子グマを狙い、母熊を殺し子熊を連れてきて売るのだそうです。こんなことをする人間、買う人間がいることが信じられません。

それらの熊はひどい扱いを受け、この施設にやってきた時にはそのひどい状態に係員も目をそらすくらいだといいます。この施設に協力するパキスタン、そして外国の獣医たちによって救われたクマたちもたくさんいます。

でも、このクマたちは野生に帰ることはできません。その牙も、爪も、心ない人間に取り去られてしまいました。この施設はそんなクマたちが、ほかのクマたちとの社会行動も含め、自然な状態で余生を過ごせることを目的としています。

 

そしてこの施設のもう一つの目標として、野生下で生き延びることができそうなクマ(施設で生まれた子熊を含む)を野生環境に戻す取り組みです。

2016年の初夏に3頭のヒマラヤツキノワグマを野生に戻すことに成功し、続いて2017年の初夏に、野生に戻る訓練をしたヒマラヤヒグマの子熊(2歳半)2頭をクンジュラーブ国立公園エリアに放しました。この施設を訪問した2019年10月現在、その2頭は野生環境下で生き延びています。マイクロチップを埋め込み、その動きがモニターされていました。

施設では2020年に野生下への復帰が見込まれるヒマラヤツキノワグマの子熊たちもいました。子熊たちは標高の高いナティヤガリの施設で魚の取り方などの訓練を受ける予定です。同時に政府への働きかけが行われています。

 

Balkasar Bear Sanctuary は政府や寄付などの援助資金で活動しているのではなく、自分たちの菜園の収入で活動をまかなっている点も、驚くべきポイントです。

 

もともと地方の地主などの有力者の持ち物であったクマを交渉して手に入れ、保護し、その子供たちを野生へ帰す・・・並大抵の苦労と努力ではありません。

 

トロフィーハンティングの対象としてアイベックスなどの山羊類は保護され増加する一方、保護を受けることなく、知られることもなく消えようとする野生動物たち。法律整備も整わないパキスタンで野生動物のために戦うBalkasar Bear Sanctuaryの方々に、心より敬意を表します。そしてこの施設で生まれた子熊たちが野生に戻り、話題となり、一般のパキスタンの人たちの意識を変えていけることを期待します。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Visit : Oct2019, Balkasar, Punjab, Pakistan

カテゴリ:■パンジャブ州 > 自然・野生動物保護
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セイタカシギ Black-winged Stilt (ソーン渓谷)

ソーン渓谷のウチャリ湖で観察したセイタカシギ Black-winged Stiltです。ウチャリ湖の岸に近い浅瀬でセイタカシギが採餌していました。

セイタカシギはヨーロッパ・アフリカ・南アジアを中心に広く分布する水鳥で、長くて赤い足と背の高さが特徴的な鳥です。飛翔している姿は足が尾羽のように見ます。パキスタンではパンジャブ州北部に夏鳥として訪れ、パンジャブ州南部やシンド州の水辺、バロチスタン州の海岸では一年を通じて観察されます。

 

周りの景色を映しこむ、黒い塩水を湛えたウチャリ湖。

 

周囲は山と村に囲まれています。

 

風がないと湖面が鏡のように景色を映し出します。

 

鏡に映った、美しいセイタカシギの姿。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation : end of March 2019, Uchhali Lake, Soon Valley, Punjab

Reference: Birds of Pakistan, Birds of the Indian Subcontinents (Helm Field Guides)

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ソリハシセイタカシギ Pied Avocet (ソーン渓谷)

ソーン渓谷のウチャリ湖で観察したソリハシセイタカシギ Pied Avocet です。

ソリハシセイタカシギはヨーロッパや中央アジアで繁殖し、冬にアフリカや南アジアに渡ってきます。パキスタンではインダス川流域、湖、湿地、アラビア海沿岸で冬を越しますがバロチスタンの海岸の干潟では繁殖も観察されたそうです。

 

近くで観察できなかったのですが、この白と黒の特徴的な羽と反った長いくちばし、灰色の脚は疑いもなくソロハシセイタカシギ。

 

ラクダを引く人とソリハシセイタカシギ。自然と人の、大変美しい景色でした。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA

Observation : end of March 2019, Uchhali Lake, Soon Valley, Punjab

Reference: Birds of Pakistan, Birds of the Indian Subcontinents (Helm Field Guides)

 

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夕日のオオフラミンゴ Greater Flamingo in Sunset (ソーン渓谷)

イスラマバードから1泊2日で訪れたソーン渓谷のウチャリ湖。お天気に恵まれ、美しい夕方の光の中、オオフラミンゴを観察することができました。

 

ハシビロガモ Northern Shoveler とオオフラミンゴ Greater Flamingo

 

輝く湖面を飛ぶオオフラミンゴ

 

湖の岸辺のオオフラミンゴ

 

飛び立つオオフラミンゴ

 

ウチャリ湖の上空を飛ぶオオフラミンゴの群れ

 

日が落ちてシルエットとなったオオフラミンゴ。ウチャリ湖でのあまりにも美しい一日でした。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation : end of March 2019, Uchhali Lake, Soon Valley, Punjab

Reference: Birds of Pakistan, Birds of the Indian Subcontinents (Helm Field Guides)

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動画 印パ国境・ワガのフラッグセレモニー

Pakistan & India Border Flag lowering ceremony | 印パ国境・ワガのフラッグセレモニー

 

2019年3月16日土曜日・・・2月下旬から始まるインドとパキスタンの緊張が高まる中でのワガ国境のフラッグセレモニーです。歓声を送る両国民も、パフォーマンスをする両国の軍人もテンション高く、これまで見たフラッグセレモニーの中で一番でした。この映像だけ見てると「仲がいい国同士」にさえ見えます。

いずれにしろ、フラッグセレモニーは週末が盛り上がります。

 

<印パ国境・ワガのフラッグセレモニー前の会場の様子動画>はコチラ

 

Videography &Text  : Mariko Sawada

Visit of Wagha : March 2019

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動画 印パ国境・ワガのフラッグセレモニー前の様子

Enthusiastic Pakistanis at Wagha Border | 印パ国境・ワガのフラッグセレモニー前の様子

ラホール観光で1番人気の「フラッグセレモニー」ですが、おもしろいのはセレモニーだけでなく、その前の「応援合戦」。愛国心あふれるパキスタンの人々の歓声に思わず一緒に叫んでしまいます。

Let’s say aloud everyone, (Long-live) Jeevay Jeevay Pakistan!

 

<動画 印パ国境・ワガのフラッグセレモニー>はコチラ

 

Videography & Text : Mariko Sawada

Visit of wagha : March 2019

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動画 Heritage of LAHORE 古都ラホール

Heritage of LAHORE | 古都ラホール

2019年2月19日は「スーパームーン」が観察されるという日でした。ラホールのバードシャーヒー・モスクを見下ろす屋上レストランで月を待ちましたがあいにくの曇天。

気を取り直してドローン撮影。撮影許可を取得してもらい、トビとカラスにドキドキしながら世界遺産の古都ラホールを空から撮影することができました。

日本ではあまり紹介されていませんが、ラホールの旧市街が観光客のためにきれいに整備されています。バザールの建物のぐちゃぐちゃだった電線は地下に収まり、ごみも落ちていません。ツーリスト向けの「デコトラ塗装したトゥクトゥク」が走り、シャーヒーハマムはしっかりとした「見学路」ができています。

 

世界遺産の古都ラホールは確実に観光地として進化していました。

 

Videography & Text : Mariko SAWADA

Visit of Lahore : Feb 2019

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