かつて仏教が天竺から中国に伝播したルートの一つに、ガンダーラからカイバル峠を経てアフガニスタンを経由し、かつて西トルキスタンと呼ばれた中央アジアを通り、現在の中国・新疆ウイグル自治区辺りへと至るルートが存在します。このルート上にある、ウズベキスタン南部からタジキスタン南部にかけての地域には、当時の仏教の隆盛を偲ばせる遺跡が点在しています。
それらの遺跡のひとつとして古代テルメズの都市遺跡があります。その昔、まだ人が住んでいた時代には、町は城壁で囲まれ、ゾロアスター教徒のソグド人や仏教徒が多く住み、複数の仏教寺院が建てられていたそうです。しかし、13世紀にチンギス・ハンの侵略によって町が破壊されると、町は捨てられてしまいました。その場所は現在のテルメズの郊外にあたり、次のような仏教遺跡が点在しています。
古代テルメズの北部には「ファヤズ・テパ」と呼ばれる、僧院やストゥーパ(仏塔)が残る一画があります。ここは石灰岩の美しい「三尊仏」(現在‥タシケントの民族歴史博物館に展示)が出土したことで有名です。私が10年前に訪れた時は、ストゥーパがかなり崩れかけていましたが、今回訪れた時は保存修復作業が行われており、往時の立派な姿が再現されていました。
ハイライトとなるのは「カラ・テパ」です。ここは古代テルメズの町の中にある約30の寺院が建つ一画にあたります。現在は、アム・ダリヤ(川)沿いのアフガニスタンとの国境地帯の軍事基地敷地内にあるため、長年にわたり発掘関係者以外の入域許可が下りず、現在も特別な許可を取得しなければ訪れることが出来ません。最近でもなかなか許可が下りず、入域を断念した訪問団も多いそうです。
日本の創価大学の加藤九祚先生を団長とする調査団の長年にわたる研究によれば、ここは自然の丘を利用した洞窟寺院と、その周りに人工的に造られた部分との複合寺院とのこと。インドからやって来た人々が最初にこの地域に寺院を建てたため、インド流の石窟寺院が建立されたそうで、仏教伝播の歴史を感じることが出来ます。
発掘された洞窟だけでなく、周囲の建物の中に残るストゥーパの土台も見ることができます。 そのほかには、2世紀頃のストゥーパが残る「ズルマラの塔」があります。ここには、今でも高さ16メートルの塔が残っていますが、残念なことに、畑の奥にあるため近づくことができず、遠くからのみ見学することができました。
アム・ダリヤ沿いを西に進むと「カンプル・テパ」の遺跡があります。こちらも1.5ヘクタールの大きな敷地の遺跡の中に紀元前3世紀の仏教寺院があることが確認されています。殆ど未発掘のためその多くは不明なままですが、今年の7月から日本の調査隊が入って発掘するとのことで、今後の調査の進展が楽しみな遺跡です。
テルメズからタジキスタンの首都ドゥシャンベに向かう幹線道路の途中には、日本のオリエント博物館などの調査団が研究してきた「ダルヴェルジン・テパ」があります。ここから出土した仏像などの幾つかは、昨年、日本全国を巡回展示されたのでご覧になった方も多いことでしょう。
テルメズは数年前までアフガニスタン情勢による渡航制限があり、また最低限の設備のホテルがあるのみだったのですが、現在は快適なホテルができており宿泊の問題はありません。亜熱帯性の気候のため、冬でも暖かく柑橘類の産地にもなっています。是非一度、仏教伝播の地あり、アフガニスタンの地を対岸に見晴らすこのテルメズを訪れてみてはいかがでしょうか。
|