秘境ツアーのパイオニア 西遊旅行 / SINCE 1973

添乗員ツアーレポート  中国・極東ロシア

二千年来の古道を訪ねて─ 
蜀桟道とコノテガシワの並木道

  • 中国

2026.01.29 update

「蜀」「桟道」「道」という言葉の響きに引かれ、二千年の歴史を刻んできた古道をこの足で歩いてみたい。そんな思いを胸に、久々に「蜀道」を目指す旅が始まりました。

 

成田から成都までは6時間弱。思いのほか短いフライトで到着します。かつて北京や上海で乗り継いでいた時代を思えば、ぐっと身近になった印象です。翌朝は高速鉄道で北へ向かいます。都市の高層ビル群を抜けると、車窓は次第に農村風景へと変わっていきます。現代のスピード感のある移動と、これから歩く二千年の古道。その対比が、この旅の魅力を静かに際立たせてくれます。

 

最初に訪れるのは、嘉陵江の断崖に沿って造られた「明月峡桟道」です。岩肌に貼り付くように続く道は、龍が身をくねらせているかのように見えます。現在の桟道は補強されていますが、ここに道を通さなければ北へも南へも進めなかったという地形の厳しさは、実際に立ってみると一目でわかります。足元の木道の隙間から覗く深い谷。ゆったりと流れる川。その静けさの中で、かつてここを行き交った兵や旅人の気配が重なって感じられました。

嘉陵江の断崖に造られた明月峡古桟道

嘉陵江の断崖に造られた明月峡古桟道

宿泊地は、三国志の舞台として知られる昭化古城です。城壁に囲まれた町の中では、観光地化が進みつつも、今なお人びとの生活が息づいています。夕方になると観光客が引き、路地には日常の時間が戻ってきます。城内に泊まることで、町のリズムそのものを感じられた気がしました。

提灯が灯る夜の昭化古城

日が暮れ提灯が灯る昭化古城を散策

いよいよ蜀道を歩く日々が始まります。天雄関へと続く登り、石畳と土の道、尾根に出たときの開放感。途中、コノテガシワの大木が道しるべのように現れます。中国語で「柏」と呼ばれるこの木は、古来、旅人や兵を守る存在として植えられてきたといいます。並木道に入ると音が消え、聞こえるのは足音と鳥の声だけになります。時間がゆっくりと後ろへ引き戻されていくような感覚でした。

いよいよ蜀道へ

いよいよ蜀道へ

剣門関では、蜀道のクライマックスとも言える風景が待っていました。断崖絶壁に取り付く道を進み、やがて現れる「天梯峡桟道」。視界の先で道が消え、左下へと木道が落ちていく瞬間、思わず息をのみます。写真で見たことのある風景の中を、自分が歩いている。その実感が、疲れを忘れさせてくれます。この日は急な登りと長い下りを含め、かなりの距離を歩きました。それでも不思議と足取りは軽く、達成感が疲労感を上回るとは、こういうことなのだろうと感じました。

天梯峡桟道

天へと続く梯子のような「天梯峡桟道」

旅の後半は、翠雲廊と呼ばれる柏の並木道を歩きます。とりわけ大きな木々が守られ、石畳とともに古道の雰囲気を色濃く残している区間です。ここでは観光地らしさが薄れ、畑へ向かう地元の人びととすれ違うだけでした。蜀道が「遺跡」ではなく、今も使われ続ける道であることを実感する瞬間でもあります。

見事な柏並木がつづく静かな古道

最終日までに歩いた距離は、6日間でおよそ80km。柏並木と石畳、断崖に架かる桟道を歩き切りました。蜀道は、ただ古いだけの道ではありません。時代が変わっても、人が歩き、使い、残そうとしてきた道です。足に残る痛みさえ、旅の余韻のように心地よく感じられました。

樹齢2000年の柏の木

樹齢2000年の柏の木

キーワード
PAGE TOP