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『祈り』三部作

4de755d517adaeb2(C)“Georgia Film” Studio, 1968 (C)RUSCICO, 2000

ジョージア

祈り 三部作

『祈り』『希望の樹』『懺悔』

Vedreba/ Drevo Zhelaniya/ Monanieba

監督:テンギズ・アブラゼ
出演:スパルタク・バガシュビリ/リカ・カブジャラゼ/アフタンディル・マハラゼほか
日本公開:2018年/1991年/2008年

2018.8.1

51年前放たれた祈りが、現代に届く
ジョージアの名匠 渾身の三部作

ジョージア山岳部に住むイスラーム教徒とキリスト教徒の対立をモノクロームの映像美で描いた『祈り』。20世紀初頭、ジョージアの農村を舞台に、革命前の社会における人々の動揺の中、村の掟や窮状によってある一つの愛が失われていく様を描く『希望の樹』。架空の地方都市で、独裁者による粛清が明らかになっていく『懺悔』。

51年前に製作された『祈り』は日本初公開。そして、『祈り』と同じく、徹底してヒューマニズムを描いた『希望の樹』『懺悔』があわせて上映されます。

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私がこの三作から強く受け取ったのは、それぞれの作品が作られた1967年、1976年、1984年という時代において、姿を変えながらジョージアに存在していた、目に見えない「権力」、そしてその恐ろしさです。

私は、現在イランと合作映画を作っていますが、イランでは政治・宗教上の表現や服装(特に女性に関わる物事)に関して規制があります。映画が作られるべきかの審査にも最低約1年を要し、その認可がない作品は国内の劇場で公開できません。しかし、そうした規制の中でも表現は生まれていき、時にそうした制限ゆえ、作品の力が強まることもあります。

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あることを描き、それとは全く違うことを言おうと試みる。これは演出の中で最も難しく、同時に美しい表現です。本三部作は、権力に屈することなく「映画言語」を新たに更新させようとしている、時代をいかに経ても色あせない瞬間に観客を立ち会わせてくれます。

例えば、『希望の樹』の冒頭で、赤い花が咲き誇る美しい花畑で、白い馬が今まさに死のうとしている場面があります。なぜ馬が美しい場所で、それも映画の冒頭で死を迎えなければいけないのか。本コラムで以前紹介したギリシャ映画『霧の中の風景』にも同じように、馬が路上で死に、「故郷」を求めて旅する少年・少女が為す術もなく立ち尽くすシーンがあります。人間にはどうすることもできないそうした無力感は、当時の混乱に対する怒りとつながっているのだと私は感じ、冒頭から強烈に惹きつけられました。

『希望の樹』main縮小

現在、ポピュリズムが世の中を席巻し、単純で直接的な表現が世の中にあふれています。そうしたタイミングの今こそ、この一連の作品が価値を持つことにとても納得がいきます。

歴史の理解を深めるという意味では、特に旧ソ連圏を旅する上で、どのように権力が人に影響していたのかを、情報ではなくイメージとして理解する上でとても参考になる作品です。

『『祈り』三部作―『祈り』『希望の樹』『懺悔』』は8/4(土)より岩波ホールにてロードショーほか、全国順次公開。詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

コーカサス3ヶ国周遊

広大な自然に流れる民族往来の歴史を、コンパクトな日程で訪ねます。
複雑な歴史を歩んできた3ヶ国の見どころを凝縮。美しい高原の湖セヴァン湖やコーカサス山麓に広がる大自然もお楽しみいただきます。

民族の十字路 大コーカサス紀行

シルクロードの交差点コーカサス地方へ。見どころの多いジョージアには計8泊滞在。独特の建築や文化が残る上スヴァネティ地方や、トルコ国境に近いヴァルジアの洞窟都市も訪問。

英国総督 最後の家

51493169be3598fd(C)PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016

インド

英国総督 最後の家

 

Viceroy’s House

監督:グリンダ・チャーダ
出演:ヒュー・ボネヴィル、ジリアン・アンダーソン、マニーシュ・ダヤール、フマー・クレイシーほか
日本公開:2018年

2018.7.25

インドとパキスタン
分離独立の渦と、その中で芽生える愛

1947年、インドの首都・デリー。「最後のイギリス統治者」としてルイス・マウントバッテンが総督の家にやってくる。邸宅の中では500人もの使用人が働いていて、彼らはヒンドゥー教・イスラム教・シーク教などさまざな文化的背景を持っている。

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「インドの統一を保ち撤退せよ」と命じられていたマウントバッテンだったが、邸宅内では、独立後に統一インドを望む多数派と、分離してパキスタンを建国したいムスリムたちによる論議が続けられていた。一方、使用人の青年・ジートと、総督の娘の世話係・アーリアは、宗教・身分の違いを超えて惹かれあう・・・

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インドを旅していると感じる圧倒的な多様性。そして、パキスタンとの関係(例えば、クリケットでインド対パキスタンの試合がある時は、熱狂的な応援の様子を見ることができます)。両国のルーツは紀元前にまで遡りますが、1947年という年は、1945年が現代日本にとって境目の年であるように、現代インド・パキスタンの土台となっています。

今この2018年(本国での公開は2017年)に、インド・パキスタンの独立を振り返ることにどのような意義があるのでしょうか。

本作では、「ラドクリフ・ライン」と呼ばれる国境線が引かれ、大混乱をもたらし約100万人が亡くなったと言われている印パ独立の瞬間が描かれています。現代社会でもシリア騒乱やEU分裂など、国境線や人々の「居場所」に関わる問題が続いています。

インドにルーツを持ちながらイギリスで育ち、祖父母が分離独立によって大きな影響を受けたという監督は1960年生まれ。時に憎しみ渦巻くこのデリケートな題材を中立的な立場で描き、印パ独立の歴史から今でも学べることが多くあると観客に訴えかけています。

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ガンジー、ジンナー、ネルーなど歴史の教科書に出てくる人物たちのそっくりさもさることながら、本作は若い男女の愛を軸に、出来事の悲惨だけではなく、そうした状況の中でも芽生える希望・人間の強さに焦点が当てられている点が最大の特徴です。当時の様子を再現した、衣装や美術にもぜひご注目ください。

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印パ独立の歴史を詳しく知らない方でも物語にスッと入り込める『英国総督 最後の家』。8月11日(土)より新宿武蔵野館にてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド 15の世界遺産をめぐる少人数限定の旅。

インドの優雅な休日

宮殿ホテルサモードパレスと湖上に浮かぶレイクパレスに滞在。

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デリー

「旅の玄関口」デリー。この都市は、はるか昔から存在した歴史的な都でもあります。 古代インドの大叙事詩「マハーバーラタ」では伝説の王都として登場。中世のイスラム諸王朝やムガール帝国などさまざな変遷の後、1947年にはイスラム教国家パキスタンとの分離独立を果たします。
現在ではインド共和国の首都として、その政治と経済を担い、州と同格に扱われる連邦直轄領に位置づけられています。

ポップ・アイ

8ce786be57d219e4(C)2017 Giraffe Pictures Pte Ltd, E&W Films, and A Girl And A Gun. All rights reserved.

配給 トレノバ、ディレクターズ・ユニブ

タイ

ポップ・アイ

 

POP AYE

監督:カーステン・タン
出演:ボン、タネート・ワラークンヌクロほか
日本公開:2018年

2018.7.18

ゾウを自由にしようとする、不自由さを抱えた中年男のロードムービー

人生に行き詰まりを感じている建築家のタナーは、ある日バンコクの街中で、幼い頃に飼っていたゾウのポパイを偶然見かけて、衝動買いする。タナーはポパイを故郷へ連れて帰るため、かつて一緒に育った農場を目指して旅に出る。道中で、様々な「停滞」「終わり」「始まり」を目にしながら、タナーとポパイは進んでいく・・・

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旅をすると何百年・何千年という歴史を持つ町や遺跡を訪れたり、何億年という時間を刻み込んだ自然を目にする機会があります。本作の主人公・タナーは中年の建築家で、彼の代表的建築が建て替えを余儀なくされるという状況の場面から始まるこの物語は、自然と人間社会のサイクルの相違をまず観客に示してくれます。

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近年、既存のものを新しく作り変えていくリノベーションやアップサイクルといった流れがある一方で、「作るより壊すほうが簡単」とばかりに、あっという間に壊され作り変えられてしまうものもあります。建築の寿命は時代によって左右され、今多くの人が住んでいる/使っている建築でも、長続きするかどうかは容易に予想できません。

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本作のもう一人(一匹)の主人公はゾウのポパイです。ゾウの寿命は70-80年と言われていますが、「人の一生」というスパンを物語で表現するのにとても有効なシンボルとして機能しています。

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ポパイを演じるボンの飄々とした表情が、人間の私たちを感情移入をさせてくれるのが本作の最大の魅力の一つといえるでしょう。海・山・太陽など、人間の寿命をはるかに越えて存在し続けるものに、私たちは憧れや畏怖心を持ちます。一方、カメ・クジラ・オウム・ゾウなど、同じ生物で人間と同じぐらい生きるものに、私たちはシンパシーを感じやすいのではないでしょうか。一体どうやって監督したのか、演出を理解しているかのように優雅に動き回るポパイの姿にどうぞご注目ください。

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動物好きな方が必見なのはもちろんですが、タイ・シンガポール(監督・プロデューサーはシンガポール人)など、東南アジアをリードする国々の経済発展が抱える矛盾が、人間と動物のやりとりを通して寓話的に描かれるユニークさをぜひ見て頂きたい『ポップ・アイ』。

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8月18(土)よりユーロスペースにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

馬を放つ

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キルギス

馬を放つ

 

CENTAUR

監督:アクタン・アリム・クバト
出演:アクタン・アリム・クバト、ヌラリー・トゥルサンコジョフ、ザレマ・アサナリヴァ他
日本公開:2018年

2018.3.7

誰よりもキルギスに誇りを持つ男が起こす、理由なき反抗

中央アジア・キルギスのある村。村人たちから”ケンタウロス”と呼ばれているものの、物静かで穏やかな男は、妻と息子の3人でつつましく暮らしている。

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ケンタウロスには、誰にも明かせない秘密がある。彼はキルギスに古くから伝わるある伝説を信じ、夜な夜な馬を盗んでは野に放っているのだ。次第に馬泥棒の存在が村で問題になり、犯人を捕まえる為に罠が仕掛けられる・・・

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国土の40%以上が高度4000m以上にあるキルギス。私はキルギスには行ったことがありませんが、天山山脈を隔てた中国・新疆ウイグル自治区のいくつかの都市に訪れたことがあります。映画の中の風景は、新疆側の天山山脈で乗馬をしたことや、バスや電車の車窓にひたすら広がる景色をずっと眺めていたことを思い出させてくれました。

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本作のストーリーには、キルギスにどのような価値観が存在しているのかという説明が分かりやすく組み込まれています。中東とはまた違った形で、土着のシャーマニズムと混じって根付くイスラーム文化。そして、キルギス人としての意識を村民たちが問い合う議論の場面など。現代キルギスに生きる人々の葛藤は、日本に生きる私たちとそう遠くないものなのだという普遍性を、観客に感じさせてくれるでしょう。

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加えて、はっきりと理由は説明されませんが、ソ連時代に映画館だった場所が、現在はモスクとなっているという、歴史の片鱗が見える場面があります。主人公・ケンタウロスの前職は映写技師の設定で、物語の中に登場する映画はキルギスの誇りを表現するのに一役買っています。

混在した価値観の中で何を掴みとっていくか。そうした葛藤を象徴するように、ある場面で馬がケンタウロスに砂埃を舞わせる様子を遠くから映すシーンが印象的です。一見正直すぎるともいえるケンタウロスの性格は、キルギスの人々が声を大にしてなかなか言えない気持ちが代弁されているのでしょう。

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雄大な自然だけでなく、キルギスの伝統・文化の未来に対する様々な憂慮が童話のような形でこめられている『馬を放つ』は、3/17(土)より岩波ホールほかにてロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

春のキルギスへ ワイルドチューリップを求めて

4月下旬から5月上旬にかけては野生のチューリップが花を咲かせる季節。まだまだ観光客が訪れる事は少ないサリチェレック自然保護区とベシュタシュ渓谷へ野生のチューリップを求めて訪れます。

キルギス・カザフスタン 天山自然紀行

壮大な天山山脈と草原に暮らすキルギス族、エーデルワイス咲く美しきシルクロードを行く

ナチュラルウーマン

75bbebdea025b354(C) 2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

チリ

ナチュラルウーマン

 

Una Mujer Fantastica

監督:セバスティアン・レリオ
出演:ダニエラ・ヴェガ、フランシス・レジェスほか
日本公開:2018年

2018.2.21

イグアスの滝のように・・・ありのままに強く生きようとする”ある女性”の姿

チリの首都・サンティアゴ。ウェイトレスをしながらナイトクラブのシンガーとして歌うトランスジェンダーのマリーナは、歳の離れた恋人・オルランドと暮らしている。オルランドの誕生日、イグアスの滝に行こうとオルランドとマリーナは盛り上がる。その深夜、オルランドは急に意識が遠のき、マリーナが必死で病院へ搬送したにもかかわらず亡くなってしまう。病院に行く前に転倒していたオルランドの遺体には外傷が残っていた。そのことによりマリーナに容赦ない差別や偏見がふりかかる。

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本作の主人公・マリーナは、自身もトランスジェンダーの歌手であるダニエラ・ヴェガによって演じられています。トランスジェンダーという言葉は、作品の中では一度も出てきません。マリーナは自らをマリーナと言い、そう認めない者は男性だった時のダニエルという名前で呼ぶか、蔑称でマリーナのことを呼びます。

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亡くなった恋人・オルランドとの関係を警察や病院で聞かれ、マリーナは最初の人に思わず「友だち」と言い、次の人には「恋人」と言いなおします。この描写によって、観客は悲恋な幕開けの中から、彼女の抱える葛藤を拾い上げることができるでしょう。女性であれば堂々と恋人と言えるのに、友だちと思わず口にしてしまった言動によって、トランスジェンダーと呼ばれる人々が感じている重圧を想像することができます。

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自分は一体何者なのか?旅をするとそう考える機会が時々訪れます。国籍、日本のこと、普段何をしているのか・・・そういったことを聞かれる中で、ふと気付きが訪れる瞬間があるのが旅の大きな醍醐味の一つです。

映画の中で、マリーナは「自分は女性なのか、男性なのか」という問いを飛び越えて「自分は一体何者なのか」と繰り返し自身に問い続けます。トランスジェンダーという言葉が一度も作中で使われないことが象徴している通り、性別に関係なく、人が信念を強く持った時の輝きを本作は私たちに示してくれます。

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『ナチュラルウーマン』は、2月24日よりシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

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サンティアゴ

チリの首都サンティアゴ・デ・チレ(通称:サンティアゴ)。雪に覆われたアンデス山脈とチリ海岸山脈に囲まれたチリ盆地にあります。

花咲くころ

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ジョージア

花咲くころ

 

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監督:ナナ・エクフティミシュヴィリ、ジモン・グロス
出演:リカ・バブルアニ、マリアム・ボケリアほか
日本公開:2017年

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長く暗い戦争のあと、誰がために花は咲く

1992年春、ジョージアの首都・トビリシ。1991年にソ連から独立を果たしたものの、少数民族問題をめぐる武装紛争が郊外では続いている。14歳の少女エカとナティアは幼なじみで、生活物資の配給を待つ騒がしく長い列の中で、おしゃべりをするのがささやかな楽しみだった。エカの父は刑務所に入っているが、理由ははっきりわからない。ナティアに思いを寄せる青年・ラドは彼女に弾丸1発の入った銃を護身用にと手渡す。希望と不安の間を揺れ動く彼女たちの日常は、しだいに不安の方に傾いていく。

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時代の変わり目は、時に花にたとえられます。キルギスのチューリップ革命、チュニジアのジャスミン革命、そしてジョージアにも2003年にバラ革命と呼ばれる政変がありました。

『花咲くころ』というタイトルの中で、「花」という言葉が示唆するものは何なのか。「花」は何色なのか。それは観客の想像に委ねられています。主人公である2人の少女たちと想像することもできますが、私は時代の流れそのものと感じました。

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この映画で描かれている1992年ジョージアの過渡期におけるもどかしさは、「もうすぐ〜ができる」「まだ〜ができない」という社会的な制約がまだある14歳という主人公たちの年齢によって、より際立った描写になっていると感じました。この映画が製作されたのは2013年ですが、2003年のバラ革命や2008年のロシアとの紛争を経て、約20年前の出来事を振り返る必要があったのでしょう。

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日本も例外ではありませんが、過去に起きた災いや悲劇の原因を根本的に問い直すことは、未来を形作ることにつながっていきます。そして、旅や映画鑑賞を通して様々な物事を目にすることは、過去を見つめ直す重要な手段のひとつです。

本作では、ある場面でのエカのダンスが、観客を揺さぶるひときわ強い力を持っています。誰にも向けられていないようで、強く誰かに訴えかけるような迫力のシーンから、私は赤い色の花を連想しました。

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見る人によって違った花の色を想像させてくれる『花咲くころ』は、2月3日(土)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

コーカサス3ヶ国周遊

広大な自然に流れる民族往来の歴史を、コンパクトな日程で訪ねます。
複雑な歴史を歩んできた3ヶ国の見どころを凝縮。美しい高原の湖セヴァン湖やコーカサス山麓に広がる大自然もお楽しみいただきます。

民族の十字路 大コーカサス紀行

コーカサスを陸路で巡る充実の旅、ジョージア軍用道路を走りコーカサスの高みへ。
18日間コースはスヴァネティ地方も訪問。コーカサス山麓に残る独自の文化と雄大な自然を楽しむ。

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トビリシ

クラ川に面したジョージア(グルジア)の首都。ペルシャ系、トルコ系、モンゴル系と様々な民族の侵略を受けて来た歴史を持ちます。市内を一望できる丘の上にはジョージア正教のメテヒ教会が建ち、旧市街の中にも数多くの教会やシナゴーグが建っています。

欲望の翼 デジタルリマスター版

5a64a17c3ef5d717(C)1990 East Asia Films Distribution Limited and eSun.com Limited. All Rights Reserved.

配給:ハーク

香港・フィリピン

欲望の翼 デジタルリマスター版

 

阿飛正傳

監督:ウォン・カーウァイ
出演:レスリー・チャン、マギー・チャン、カリーナ・ラウほか
日本公開:2018年

2018.1.24

たかが1分、されど1分・・・人生の流れを変える濃密なひと時

1960年、香港。ヨディはサッカー場で売り子をしていたスーに声をかけ、ふたりは恋に落ちる。

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しかしヨディは、自分が実の母親を知らないことに複雑な思いを抱えていた。スーと別れたヨディは、ナイトクラブでダンサーとして働くミミと一夜を共にする。部屋を出たミミはヨディの親友サブと出くわし、サブは彼女に一目ぼれする。夜間巡回中の警官タイドはスーに思いを寄せるが、スーはヨディのことを忘れられずにいた。そんなある日、ヨディは義母のレベッカから、実母がフィリピンにいることを知らされる・・・

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ウォン・カーウァイ監督の作品は、『ブエノスアイレス』『花様年華』を既に紹介しましたが、どれもこのコラムのテーマである「旅」と相性が良い物語です。映画は時間芸術と言われることがありますが、ウォン・カーウァイ監督の表現は特に時間に重きを置いており、そのため内容に関わらず「旅」の雰囲気が出るのでしょう。

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「1960年4月16日3時1分前、君は僕といた。この1分を忘れない。君とは“1分の友達”だ。」と、冒頭ヨディはスーに言い、時計が画面に大きく映し出されます。

あっという間の1分。地獄のように長い1分。時間の伸び縮みは、映画の中だけでなく私たちの日常にも存在します。原題の『阿飛正傳』は「チンピラの伝記」というような意味ですが、1960年4月16日の1分は、主人公のチンピラ・ヨディの体内で刻まれる時計の動力となります。

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「脚のない鳥がいるらしい。脚のない鳥は飛び続け、疲れたら風の中で眠り、そして生涯で唯一度地上に降りる。それが最後の時」。アメリカの劇作家テネシー・ウィリアムズの著作からの引用もまた、時間の流れが強く意識されています。

動力を失った時計は止まり、時は刻まれなくなりますが、時計自身は動力の源泉や時を刻みはじめた瞬間を、最後の最後まで覚えているのでしょう。そうした無常さを讃えるようなタンゴのメロディーも、本作をぜひ劇場で体験していただきたいポイントのひとつです。

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95分の間、映画という翼を得ることができる『欲望の翼』。2月3日(土)よりBunkamura ル・シネマにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

タシちゃんと僧侶

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配給:ユナイテッド・ピープル

インド

タシちゃんと僧侶

 

Tashi and the Monk

監督:アンドリュー・ヒントン、ジョニー・バーク
出演:タシ・ドルマ、ロブサン・プントソック他
日本公開:2017年

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ブータン・チベットの国境線に囲まれた、インドのある孤児院で・・・

ブータン・チベット・ミャンマーと国境を接する、インド北東部・アルナチャール・プラデーシュ州。アメリカでチベット仏教を伝導していた僧侶ロブサン・プントソックは、8年前に故郷であるこの地で孤児院を開く。84人の子どもたちが生活しているところに新しく加わったのは5歳の女の子・タシ。母を亡くし、アルコール依存症の父に追い出されたタシは新しい環境に順応できるのか・・・

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映画の冒頭で、ロブサンは「年々この孤児院で生活する子どもは増えているが、皆に共通しているのは見捨てられたか不必要とされたことです」という厳しい言葉を子どもたちに言い聞かせます。黙々と当たり前であるかのように子どもたちがそれを聞く様子から、各々にかつてどのようなことが起きたのかと想像せずにはいられません。

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まだ小さいタシは、その話の最中遊んでいて、話の内容を分かっていない様子がカメラにとらえられています。これから知らないことを知っていき、気付いていないことを気付いていく過程で味わう苦しみを乗り越えて、タシが将来強く成長することを願う気持ちが、映画を鑑賞しはじめてまもなく芽生えるでしょう。

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劇中では、舞台となっているジャムセ・ガッセル(どのような意味かはぜひ映画をご覧になってご確認ください)という孤児院がどこにあるかはあまり詳しく説明されません。アルナチャール・プラデーシュ州は古くから絹の交易のためにブータンとインドをつなぐ地でした。ダライ・ラマ14世がチベットから亡命した際に通過したルートとしても知られています。特徴的な髪型・民族衣装を着たモンパ族が劇中に登場することから、アルナチャール・プラデーシュ州でも西側の、ブータンの国境に近いタワン周辺であることが予想されます。

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島国・日本に暮らす私たちは、大陸に暮らす人々と比べると国境を意識する機会があまりありません。モンパ族と、隣接するブータン東部のブロクパという遊牧民は、非常に類似した文化・風習を持っています。このように、文化が触れ合う地というロケーション場所の特性も、タシを含めた子どもたちがどのような未来を歩んでいくのかに思いを馳せる上で大きな効果を持っていると私は感じました。

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39分という短い時間の中に上記のみどころが凝縮されている『タシちゃんと僧侶』。東京・長野・福岡ほか各地にて上映。その他詳細、自主上映会の問い合わせ方法は公式ホームページをご覧ください。

インド最果ての地 アルナチャール・プラデーシュ

北東インドに残るチベット世界、精霊とともに生きる人々に出会う旅

アルナチャール・プラデーシュと東ブータン

東ブータンから国境を越えてインド最果てのチベット世界へ

わたしは、幸福(フェリシテ)

dc0b065a26610751(C)ANDOLFI – GRANIT FILMS – CINEKAP – NEED PRODUCTIONS – KATUH STUDIO – SCHORTCUT FILMS / 2017

コンゴ

わたしは、幸福(フェリシテ)

 

Felicite

監督:アラン・ゴミス
出演:ヴァロ・ツァンダ・ベヤ、カサイ・オールスターズほか
日本公開:2017年

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「上を向いて歩こう」と口ずさみたくなる、コンゴの歌姫の勇姿

コンゴ民主共和国の首都キンシャサ。都会・スラム・自然が密集し、混沌と静謐が同居するこの町で、シングルマザーのフェリシテはバーで歌いながらひとり息子のサモを育ている。バーの常連・タブーは彼女が気になっている。ある日、サモが交通事故に遭い、フェリシテは多額の金を工面しなければいけなくなる。「幸福」という意味の名前を持つフェリシテは、自らの運命を切り開くべく、逆境に立ち向かっていく・・・

◎サブ1_フェリシテ

海外旅行で空港ターミナルに入った瞬間、その国独特の匂いがしたという経験があるという方、あるいはそのような話を聞いたことがあるという方は多いと思います。キンシャサにはヌジリ国際空港という空港があるそうですが、この映画はキンシャサという町の人々・川・土・森・昼と夜など、様々な匂いを観客に想像させてくれる蒸気が漂っているかのような作品です。

◎サブ6_フェリシテ

この映画を見終わった後、頭の中で坂本九の『上を向いて歩こう』が繰り返し流れました。コンゴは独裁・紛争・虐殺など悲しい過去があり、アフリカが舞台の映画にはどうしてもそうした話題の作品が多いですが、そうした歴史に本作はあえて触れずに女性の強さという普遍的なテーマに焦点が絞られているからでしょう。

◎サブ2_フェリシテ

その「強さ」は、物語そのものだけでなく、音楽によってより豊かなものとして表現されています。フェリシテは歌手で、劇中でも心に響く歌声を聞かせてくれますが、コンゴの音楽はこの約10年で世界中に知れ渡りました。その立役者は、本作にも出演しているカサイ・オールスターズと密接に関係しているコノノNo.1というグループで、2004年にリリースされた『コンゴトロニクス』というアルバムは大ヒット作品となりました。アフリカの大地が鳴らしているかのような彼らの音楽は、遠く離れたアフリカの地を、日本人のリスナーの方へ大きく近づけてくれました。

◎メイン_フェリシテ

セネガル系フランス人のアラン・ゴミス監督も、ひとりのコンゴ人女性の物語によって、自身の中に根付くアフリカのイメージ像を、世界中の観客の心に描こうと試みたのでしょう。

まだまだ日本で見る機会が限られているアフリカ映画。「旅と映画」では、これまでにフランスに住むチュニジア移民の苦心を描いた『クスクス粒の秘密』(スタッフが本作の脚本協力で関わっています)、セネガルの巨匠ウスマン・センベーヌ監督が女性の強さを描いた『母たちの村』を紹介しました。

本作は、幻想的なシーンで重要な役割を果たす、「森の貴婦人」というキャッチフレーズで関東の動物園で人気のオカピや、アフリカでは珍しいオーケストラ(キンシャサ市民によるキンバンギスト交響楽団)など、アフリカに詳しい方もそうでない方も楽しめる見どころが満載です。

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『わたしは、幸福(フェリシテ)』は、12月16日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

アワーミュージック

1d1d3206e8ca429c(C)2004 AVVENTURA FILMS – PERIPHERIA – FRANCE 3 CINEMA – VEGA FILMS

ボスニア・ヘルツェゴビナ

アワーミュージック

 

Notre Musique

監督:ジャン=リュック・ゴダール
出演:ナード・デュー、サラ・アドラーほか
日本公開:2005年

2017.11.29

戦争の傷跡が残るサラエボで、世界的巨匠が希望の光を探し求める・・・

ボスニア・ヘルツェゴビナの首都・サラエボ。内戦によって廃墟になったビルなど、戦争の傷跡が深く刻まれたこの町に住む大学生のオルガは、「本の出会い」というイベントに講師としてやって来る映画監督に自分の映像作品を渡そうとする・・・

1960年代から、既存の手法にとらわれず、常に斬新な表現で映画界をリードし続けてきた巨匠ジャン=リュック・ゴダールが、2004年に自らも出演して9.11テロ以降の世界を描こうと試みたのが本作です。

日本人にとっては情報が少ないバルカン半島の国々。町中を走るトラム、茶色や灰色を基調にしたレンガ造りの建物、ボスニア内戦中に破壊されたサラエボ図書館など、多くの景観を見せてくれる劇中の講義シーンでは、旅行のエッセンスと大きく関わりがあるこんな話が監督自身によってなされます。

量子力学の確立者として有名なハイゼンベルクとボーアが物理学を語りながら歩いていて、ハムレットの舞台になったエルシノア城に着いた時、ハイゼンベルクは「大したことないですね」と言った。それに対しボーアは「ハムレットが住んでいた城だ、それだけですばらしい」と反論した。現実におけるエルシノア城のイメージの不確実さと、ハムレットにおける想像上のイメージの確かさ。映画のカット構造にも関係がある、こうしたイメージの方向性の差が、監督によって説明されます。

私たちが旅に出る際、あるいは映画を見る際もそうですが、事前に情報を調べる場合もあれば、何も情報を頭に入れずに気の赴くままなこともあるかと思います。それぞれの楽しみ・発見があると思いますが、どちらにしても言えるのは、旅も映画も私たちの心の中で暗くなっていて見えない部分を照らしてくれるような作用があるということでしょう。

想像力の確かさにあふれた名作『アワーミュージック』は、サラエボの町並みだけでなく観光地として有名なモスタルの橋も見どころで、バルカン半島に興味がある方は特に必見の作品です。

ローマ帝国最後の統一皇帝 聖テオドシウスの生涯

ベオグラードからヴェネチアまで、テオドシウスゆかりの地を巡る10日間