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コット、はじまりの夏

(C)Insceal 2022

アイルランド

コット、はじまりの夏

 

監督:コルム・バレード
出演:キャサリン・クリンチほか
日本公開:2024年

2024.1.17

1980年代初頭・アイルランド―“静かな女の子”の心を動かす「ささやかさ」

1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす寡黙な少女コットは、夏休みの間、母親が出産するまでの時間をウォーターフォードという農村にいる親戚夫婦のもとで過ごすことになる。

夫婦はコットを優しく迎え入れ、一緒に食事をしたり、子牛の世話をしたりと、何気ない日常を重ねていく。

コットはそんな日々を送っていくうちに、今までに経験したことのなかった、暮らしの中のささやかな喜びを知っていく。

本作は二児(上が女の子で7歳半、下は男の子で3歳になったばかりです)の子育てをしている僕にとっては、色々と反省の念を抱いてしまう作品でした。

英題は”Quiet Girl”、「静かな女の子」という意味です。すこし変わり者で何を考えているのかよくわからない子、と解釈することもできるかと思います。しかしもちろん、子どもは大人が思いもよらぬ様々なことを頭の中で考えているものです。

主人公のコットは(おそらくそういう設定だと思うのですが)カソリック的な厳格な規律と、政治経済的に苦境に立たされていた1980年代初頭のアイルランドを象徴するような家庭で育っています。

現代のように大人も子どももスマートフォンに夢中で時間に追われているような慌ただしさはないのですが、ひと言でいうと、ギスギスしています。田舎のお父さんには、厳格な家庭のはずなのに「親のしつけがなっていないな」と指摘されてしまう始末です。

物語の中盤に、郵便受けに向かってコットが並木道を走るシーンがあります。スローモーションになるのですが、「ああやっぱり子どものこういう何気ない時間こそ大切にしなければいけないな」と、日々の自分の行動を省みました。

そのとき僕が思い出したのは、我が家でゴミ捨てに行くときのことです。福岡市はごみ捨てが夜なのですが、たかだか往復2, 3分なのでサッと行ってしまったほうが効率はもちろん良いです。

しかし上の子は特にコロナ禍であまり自由に外に出られなかったこともあり、だいたい「一緒に行く(でも抱っこで)」と言いました。ゴミ袋と娘を抱えて、月を見たり傘をさしたりしながら、暑さ・寒さについて話しながらゴミ捨てに行きました。

息子は息子で、「ストライダー(ランニングバイク)に乗る」好機とゴミ捨てをみなしていて、僕はいつも小走りで付いていきます。雨の日は「今日は雨だから」と数分かけて説得して、さらにまた数分かけてお気に入りのレインコートを着せて、ゴミ捨てに行きます。

こういうことを面倒に思ってしまうこともしばしばですが、そういう思いも含めて、自分の日々の葛藤や行いがなんだか報われるような気持ちにさせてくれるピュアな作品でした。

『コット、はじまりの夏』は1/26(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイント他にて全国順次公開。その他詳細は公式HPよりご確認ください。

アイルランド周遊

首都ダブリンから南北アイルランドをバスで周遊。雄大な景観と共に、人々の心に息づくケルト文化、今でも神聖な空気が漂う初期キリスト教会跡、中世の趣を今に伝える古城群にいたるまで南北アイルランドの自然、歴史、文化に深く迫る旅です。

バリー・リンドン

©1975/Renewed ©2003 Warner Bros.Entertainment Inc.

イギリス・アイルランド

バリー・リンドン

 

Barry Lyndon

監督:スタンリー・キューブリック
出演:ライアン・オニール、マリサ・ベレンソンほか
日本公開:1976年

2022.11.9

数十世代経ても変わらない田園風景と、人生の栄枯盛衰

18世紀アイルランドのに生きる平民の若者バリー・リンドンは、貴族になるための唯一かつ全てと思われる方法を実行していく。野心に燃える若者の半生をもって栄枯盛衰の様相を、2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『フルメタル・ジャケット』等で有名な巨匠スタンリー・キューブリックが描いた作品。

『ハリー・ポッター』『ピーターラビット』など、イギリスのコッツウォルズ・湖水地方をはじめとした田園風景を舞台にしたり活用したりした魅力的な作品は数多くあります。

しかし、心安らぐような田園風景を、本作ほど儚く無情な形でロケ地活用した例はないのではと思います。

西遊旅行のウォーキングツアーがあるコッツウォルズ地方の範囲内では、世界遺産のブレナム宮殿(コッツウォルズの東端の方)。近圏ではもう少し南のウィルトシャー州(ストーン・ヘンジで有名なソールズベリー)で多くのロケがされています。

僕はコッツウォルズに程近いバースという、町全体が世界遺産の場所に大学のとき留学していて、いわゆる「イギリスの田園風景」をよく見ていました。そして、本作を観たのは偶然にも留学する直前でした。

「これはジョージ三世の治世の時代に その世を生き争った者たちの物語である。美しい者も、醜い者も、富める者も、貧しい者も、今は皆等しくあの世だ」

大都会ロンドンからバースに向かう途中で、本作に出てくるこのような痛烈なメッセージと、フランツ・シューベルトの音楽を頭に思い浮かべていたのを今でもよく覚えています。当時20歳過ぎにしてはちょっと暗すぎるかもしれませんが、でも「諸行無常」の響きを時々でも思い出したほうが、その分今が輝くということもあると思います。

そんなことを最初に思い浮かべながら留学生活をはじめて、なぜかイギリスにいるのにインド哲学を勉強して、それもあって西遊旅行に入って、その経験もあって今国内外で映画を撮れていて・・・というような縁の連鎖が、時折この作品を見返す度に頭に思い浮かびます。

ちなみに僕はコッツウォルズのフットパスを歩いている最中に、野生のハリネズミ(イギリスではとても縁起が良いそうです)を見たことがあります。ぜひ現地に行かれた際には、特に夕方頃、足元をよく見ながら歩いてみてください。

イギリスの田舎道
コッツウォルズフットパスを歩く

コッツウォルズはイングランドでも屈指の美しさを誇る緑豊かな丘陵地帯で、白い羊たちが草を食む牧歌的な田園地帯、中世からの古い町並みや、かわいい村々が広がるとても美しい地域です。人々が自然とともにのどかな暮らしを営むコッツウォルズの村。その村々をつなぐフットパスを歩きながら、コッツウォルズの自然や文化などの魅力を感じることができるトレイルです。

ONCE ダブリンの街角で

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アイルランド

ONCE ダブリンの街角で

 

Once

監督: ジョン・カーニー
出演:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロバほか
日本公開:2007年

2016.11.16

アイルランドの首都ダブリンに、
寄せては返すミュージシャンたちの人生

アイルランドの首都・ダブリンの路上で日々ギター演奏をしている「男」は、ある日チェコ移民の「女」と出会います(この映画には、メインキャラクター2人に名前がありません)。男が偶然掃除機を修理するバイトをしていたことなどから交流が始まり、女にピアノの才能があることを男は知ります。男は女のために曲をつくり、その曲でセッションをして素晴らしいハーモニーが生まれ、二人はひかれあっていきます。

この映画を見ながら、私は以前アイリッシュ・ミュージックを聞くためにアイルランドに旅したことを思い出しました。ダブリンはそれほど大きな街ではなく、メインストリートのオコンネル通りからすぐの場所にアイリッシュ・パブがひしめき合うテンプル・バーというエリアがあります。物語が展開する上で重要な場所となるグラフトン通りもまたそのすぐ近くにあり、世界各地から集った路上ミュージシャン(バスカー)たちが昼夜を問わず思い思いの演奏をして賑わっていました。

バスカー(busker)という単語について、不思議な響きの単語なので一度その語源を調べたことがありますが、スペイン語の”Buscar”という単語が由来で、英訳するとseek(探し求める)という言葉でした。ダブリンの街角でバスカーたちを眺めていると、演奏すると同時に自分の行き先や音楽のスタイルを探し求めているという感じがして、単語の持つルーツに納得したのを覚えています。

メインとなる2人はプロのミュージシャンですが、演技はこの映画の時が初めてだったそうです。自然な演技をとるための工夫かと思いますが、望遠で遠くから撮影されたシーンも多く、おそらく予算の関係で通行人はエキストラではなく実際に通りを行き交う人がおさめられています。その結果、さながらドキュメンタリーのような、ダブリンの街で実際に起きた出来事を記録したような雰囲気で物語が展開していきます。さらに、主人公たちの名前が匿名なことによって、私がダブリンで見た光景の中でそうした数々のドラマがあったのではないかと想像させてくれました。

ダブリンのリズムを感じてみたい方、一度でも音楽に心を動かされたことのある方にオススメの作品です。

アイルランド周遊

遥かなる緑の大地、妖精が住むと信じられている幻想的な自然。
ケルトの伝統が息づく南北アイルランドを周遊。

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ダブリン

この町の最大の見所はトリニティカレッジに残る旧図書館です。この旧図書館には「ケルズの書」と呼ばれる装飾写本が保存されています。