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添乗員ツアーレポート  中近東・中央アジア

オマーン -海のシルクロードを渡った乳香-

  • オマーン

2013.08.01 update

古くは古代エジプトのファラオの時代から利用され、現在も宗教儀式や香水の原料として利用されている乳香。古の昔から人類に使われていた記録がある乳香の産地オマーンを訪ね、今も人々の心を捉える乳香の魅力と、海のシルクロードを通って各地に運ばれた乳香の歴史を辿りました

古都ニズワのスーク内を仕切る城門の扉。写真奥に見えている赤い扉は開かれている状態。これが閉じると城とスークが仕切られる。城塞都市ニズワには堅固な城が残る。

古都ニズワのスーク内を仕切る城門の扉。写真奥に見えている赤い扉は開かれている状態。これが閉じると城とスークが仕切られる。城塞都市ニズワには堅固な城が残る。

 

乳香の記録

  新約聖書には、キリスト生誕の際、東方からの三人の博士が乳香、没薬、黄金を貢物として持参したと記述されています。占星術により新しく生まれた王の場所を見つけ、ベツレヘムまでやって来た彼らの貢物の中に、黄金と並ぶ最大級の品・乳香がありました。また8世紀の中国の史書には、アラビアからの乳香が中国に運ばれたという記録が残っています。そして10世紀には、日本にも伝来した記録が残されています。
東方の三博士は、陸のシルクロードを通り、キリストのもとへ乳香を運びました。一方、日本まで伝わった乳香は、海のシルクロードを通り、中国を経由して渡ってきたのです。 では、古くから貴重な交易品として扱われた乳香とは、どういったものなのでしょうか。

ムトラ・スークの乳香屋。オマーン各地のスークでは乳香の専門店が軒を連ねる。どの店も店頭で乳香を実際に燻しており、その一角には甘い乳香の香が漂う。
ムトラ・スークの乳香屋。オマーン各地のスークでは乳香の専門店が軒を連ねる。どの店も店頭で乳香を実際に燻しており、その一角には甘い乳香の香が漂う。
乳香は測り売りが基本。品質により3種類に分けられた乳香は大量に袋に入ったものが並び、人々は自分の気に入った香の乳香を買い求める。
乳香は測り売りが基本。品質により3種類に分けられた乳香は大量に袋に入ったものが並び、人々は自分の気に入った香の乳香を買い求める。
昔ながらのアラブの雰囲気を残すニズワのスーク。日用品のほか、乳香はもちろんスパイスや工芸品などが売られている。このような伝統的な趣きのある路地は、現在はスークの一角に過ぎないが、たくさんの店で賑わう活気溢れる往時のスークに思いを馳せることができる。オマーンの男性は、大人から子供までディスターシャという国民服を着ている。
昔ながらのアラブの雰囲気を残すニズワのスーク。日用品のほか、乳香はもちろんスパイスや工芸品などが売られている。このような伝統的な趣きのある路地は、現在はスークの一角に過ぎないが、たくさんの店で賑わう活気溢れる往時のスークに思いを馳せることができる。オマーンの男性は、大人から子供までディスターシャという国民服を着ている。

乳香の木

 乳香は、カンラン科の樹木、乳香の木から出る樹液を固めたものです。乳香の木の樹皮に傷を付け、滲み出した樹液が固まるのを待ちます。樹液が乾燥し、樹に固まったものを集めます。乳白色、もしくは薄い茶褐色をしており、固まった樹脂を炭の上で燻してその香を楽しみます。私の感想としては、その煙は甘く、そして心をリラックスさせるアロマテラピー作用があるような香りです。

乳香とオマーン

  この乳香の一大産地であるオマーンでは、一般家庭で香として使われており、殺虫作用もあると言われています。オマーン各地のスークでは、乳香専門の店が軒を連ね、店頭で乳香を燻す香が漂っており、多くの人が乳香を買い求める様子を垣間見ることができます。
オマーンは、東アフリカ、インドなどとともに乳香の産地として有名な地ですが、古代から乳香の産地として名を馳せた地でした。オマーン南部、アラビア海に面したサラーラ近郊に残る、紀元前1世紀に遡るホール・リーリ等の都市遺跡から、季節風を利用し、海のシルクロードを伝った海洋交易によって乳香が運び出されたと考えられています。

海のシルクロード

  アケメネス朝の時代にすでに、アラビア海からインドへの探検が行われていたほか、ローマ帝国は海のシルクロードを使ってインドと交易を行っていました。インドで産出された宝石はローマに渡り、インドでは今もローマ時代の貨幣が見つかっています。7世紀になると、ダウ船を利用したアラビアやペルシャのイスラム商人が海洋交易を広げ、中国にも拠点を持つようになります。この頃、乳香は中国へと伝わり、反対に中国からは絹や陶器が西へと運ばれました。特に、重量があり壊れやすい陶器は、海のシルクロードを船で運ばれて行ったのです。その後日本へは、東南アジアからの白檀などの香木に加え、香として使われた乳香が伝わるようになります。
現在のオマーンでは、今でも乳香の木の栽培が行われ、オマーン国内のみならず、海外へと輸出されています。乳香は、世界各地で様々な宗教儀式の際に香として利用されているほか、香水の原料としても利用されています。
オマーンを訪ね、この地が乳香の海のシルクロードへの出発地であり、また長い歴史の中で日本まで伝わったことに思いを馳せることができました。スークに漂う乳香の香りの中、アラビア海を渡って同じ香りが日本にも漂ったことを思うと、感慨深いものがあります。
皆さまもぜひ、オマーンで乳香と海のシルクロードの歴史にふれてみてください。

 樹皮に傷をつけた所から樹液がしみ出す。空気にふれると固まり、乳白色〜橙色の涙滴状の塊となる。この様子が乳香という名の由来である。
樹皮に傷をつけた所から樹液がしみ出す。空気にふれると固まり、乳白色〜橙色の涙滴状の塊となる。この様子が乳香という名の由来である。
多くは炭で焚いて香として用いる。薬としても用いられ、鎮痛、止血などの効能があるとされる。また、唾液分泌の促進やリラクゼーションのために乳香樹脂をガムのように噛む地域もある。
多くは炭で焚いて香として用いる。薬としても用いられ、鎮痛、止血などの効能があるとされる。また、唾液分泌の促進やリラクゼーションのために乳香樹脂をガムのように噛む地域もある。
アラブらしい工芸品が並ぶオマーンのスーク。装飾の美しいアラビック・ポッドは日用品としてオマーンの人々に使われている。
アラブらしい工芸品が並ぶオマーンのスーク。装飾の美しいアラビック・ポッドは日用品としてオマーンの人々に使われている。

ムザンダム半島 −ホルムズの絶景−

オマーンは、アラビア半島南部に突き出たムサンダム半島を飛び地にしています。対岸のイランを挟むホルムズ海峡に面し、雄大なフィヨルド地形が広がっています。ペルシャ湾の出口を押さえる海の要綱として、大航海時代には、ポルトガルやペルシャなどに占領された歴史を持ちますが、現在は美しい海岸線やダイビングの名所として知られています。峻険な岩山が複雑に入り組んだリアス式海岸となっており、紺碧の海と褐色の大地の入り組んだ地形の絶景をご覧いただけます。ツアーでは、ハッサブに連泊し、かつて海のシルクロードでの海洋交易に利用された昔ながらの「ダウ船」に乗船。クルーズで海上からの眺めもお楽しみいただくことができます。アラビアのフィヨルドで、絶景とともに往時の交易に思いを馳せてみませんか。

フィヨルド地形の残るムサンダム半島
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褐色の大地が作る海岸線
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ダウ船に乗船
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