秘境ツアーのパイオニア 西遊旅行 / SINCE 1973

ケルト文化の息づく島 アイルランド

  • アイルランド

2020.02.14 update

北大西洋に浮かぶアイルランド島は、アイルランド共和国と英国領北アイルランドから構成されています。ゲール語という独自の言語を持ち、緑豊かな大地に、ケルトの文化が脈々と流れています。自然と歴史の両方を楽しむことができるアイルランドの見所を紹介します。

 アラン諸島 ドンエンガス遺跡からの絶景

アイルランドの至宝「ケルズの書」

旅の始まりでもある首都ダブリン。この町の最大の見所はトリニティカレッジに残る旧図書館です。この旧図書館には「ケルズの書」と呼ばれる装飾写本が保存されています。ケルズの書は「ダロウの書」「リンディスファーンの福音書」と共にケルトの三大写本とも呼ばれ、アイルランドの国宝のひとつとなっています。 四編の福音がラテン語で書かれており、9世紀初めに作成されたと考えられています。1653年にダブリンに送られ、1661年に現在のトリニティ・カレッジに保管されるようになりました。 また、アイルランドで出版される全ての本がこの図書館に保管され、2階のロングルームと呼ばれる書庫には天井まで続く本棚に所狭しと古書が並べられ、その歴史を感じることができます。

ケルトの聖地アラン諸島

アイルランド西部に浮かぶアラン諸島へは、ゴールウェイから日帰りで訪れることができます。3つの島々で構成され、中でもイニシュモア島にはケルトの聖地とされるドン・エンガス遺跡が残っています。岩盤で出来たこの島では、作物の栽培は簡単ではありませんでした。古来、この地に積みついたケルトの人々は限られた土が風で飛ばされないように畑を石垣で囲み、岩盤を槌で砕き、海藻と粘土を敷き詰めて土をつくることから始めたのです。島の中部に残るドン・エンガス遺跡。緩やかな石段を30分ほど登ると遺跡に到着します。海面から90メートルにも及ぶ断崖絶壁の上に築かれたケルトの聖地とされている場所なのです。考古学者の調査によると紀元前1100年頃に、砦の建設が始まり、政治、経済、宗教の中心となったと考えられています。砦に住むことができたのはエリートの人々だけであり、800年頃まで繁栄を続けました。まだ、謎が多い遺跡ではありますが、19世紀末には国の記念建造物となり、広範囲な修復が行われています。また、天気が良ければ断崖の素晴らしい景色が広がり、5月~6月には野花も咲き、一層華やかになります。

ロングルームに保管される貴重な古書

トリニティカレッジの旧図書館 2階のロングルーム

ドンエンガス遺跡

 

初期キリスト教会の遺跡群

ケルトの人々がアイルランドにやってきたのは紀元前200年頃と言われています。彼らはゲール語という独自の言語を使い、自然崇拝の信仰を持ち、口頭伝承で神話や文化が引き継がれてきました。しかし、キリスト教がヨーロッパで広がり始めると、その波はアイルランドにも波及してゆきました。5世紀頃になると、アイルランドではケルトの宗教や民族性と融合する形でキリスト教が広まってゆくこととなったのです。 中でもアスローンに残るクロンマクノイズ遺跡は保存状態も良く、当時の姿を今に残しています。円筒計の長いラウンドタワーはアイルランド特有の建造物。内部に経典や貴重品の保管のために使われたと考えられています。“ケルトの十字架”はアイルランドのキリスト教最大の象徴です。8世紀から12世紀にアイルランド各地で造られ、経典の教えや祈祷者の喚起のため、地所の目印として使われました。現在、クロンマクノイズで最も美しいとされるオリジナルの十字架は保存のため、ビジターセンター内で見ることができます。

クロンマクノイズ遺跡 オリジナルのケルトの十字架

クロンマクノイズ遺跡のラウンドタワー

クロンマクノイズ遺跡

アラン諸島に残る初期キリスト教遺跡セブンチャーチズ

ジャイアンツ・コーズウェイ

英国領北アイルランドの最大の見所ジャイアンツ・コーズウェイ。柱状節理によって出来た六角形の奇観が広がり、ユネスコ世界自然遺産に指定されています。巨人フィン・マックールが恋人をアイルランドに渡らせるために造ったという古くからの伝説が残っています。

ジャイアンツ・コーズウェイ

今回ご紹介したものは、アイルランドの見所のごく一部にすぎません。緑豊かな大地が広がる美しい島アイルランド。
ケルトの歴史、文化そして、陽気なアイルランドの人々との出会いなど変化に富んだ旅を楽しむことができる国です。
アイリッシュ・パブを訪れ、ギネスビールで乾杯することも是非お忘れなく。

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コーカサス 往古のシルクロードを行く

  • アゼルバイジャン
  • アルメニア
  • ジョージア

2019.12.26 update

コーカサス三国は、その地理的な背景から雄大な大自然に囲まれています。東のカスピ海と西の黒海に挟まれ、二つの大きな海を繋ぐように東西にコーカサス山脈が走っています。シルクロードに位置し、複雑な歴史を歩みながらも、興味深い文化と敬虔な信仰心が残るコーカサス地方。6月、7月には野花が咲き乱れ、美しい山並みとともに訪れる人々を魅了します。

コーカサス山脈の風景(グルジア) コーカサス山脈の風景(ジョージア)

 

5,000m級の峻険な山々が連なるコーカサス山脈。この山脈の周辺には、 旧ソ連を形成した15 の共和国のうち、ソビエト崩壊後に4つの国々が生まれまし た。 コーカサス山脈を境に、北コーカサスはロシア連邦の一部となり、ダゲスタ ン共和国やオセチア共和国など、山岳民族の暮らす連邦管区がモザイクのように 広がっています。南コーカサスには、アゼルバイジャン、ジョージア、アルメニア のコーカサス三国が生まれ、独立国家としてそれぞれの道を歩んでいます。

かつてのシルクロードは、世界最大の湖・カスピ海の南岸を東西に貫くルートと、北方から迂回してコーカサスを経由してアナトリア地方に向かうルートがありました。コーカサスは、そのシルクロードを通り古来から人と物資が行き交ったほか、宗教や文化も交差した地です。また、東西から様々な勢力が侵入し、異民族による支配を経験した歴史があります。コーカサスには、古のシルクロードに流れる歴史と、現在まで続く文化と宗教が残っています。

コーカサス三国のうち、アゼルバイジャンはイスラム教国、ジョージアとアルメニアはキリスト教国です。ジョージアとアルメニアは、北側をロシア連邦管区諸国、西をトルコ、南をイラン、東をアゼルバイジャンと、すべてイスラム教国で囲まれているにも関わらず、1,800年近く、頑なにキリスト教を国教としています。さらに、モンゴルの後、ティムール、ペルシャと、イスラム系の帝国の侵入と支配を何度も経験したにも関わらず、イスラム教を受け入れることはありませんでした。

1386年、首都のサマルカンドから大軍勢を率いてジョージアに侵攻したティムールでさえも、異教徒に対するジョージア側の抵抗に屈し、首都のトビリシを攻略することはできませんでした。 しかし、中央アジアやペルシャから流入した文化は、コーカサス地方に根付き、独自の文化を形成し現在に至っているのです。

 

アルメニア Armenia -Hayastani Hanrapetut’yun-

かつてペルシャとアナトリアを結んだいにしえのシルクロードが走る

指揮者のカラヤンや、ミグ戦闘機の設計者ミコヤンなど、多くの知識人を輩出した民族であるアルメニアは、民族全体がディアスポラで世界各地に離散した歴史を持ちます。世界で一番早くキリスト教を国教とした国で、ツアーでは総本山のエチミアジン大聖堂を訪れるほか、ノアの方舟のアララット山を望むホルヴィラップ修道院も訪問します。

またアルメニア産のコニャックは、ソビエト時代からの特産物として有名です。

  • アルメニア産のコニャック アルメニア産のコニャック
  • エチミアジン大聖堂 エチミアジン大聖堂

ジョージア Georgia -Sakartvelo-

複雑な歴史を持つコーカサス麓の長寿の国

コーカサス三国の中で、一番大きな面積を持つジョージア。コーカサス山脈の麓に位置し、西は黒海に面します。その地理的背景から、古来より数多くの帝国、民族の流入、侵略を受けたため、上スヴァネティ地方では外敵の侵入を見張る「見張り塔」が立ち並ぶ独特の建築様式が発達しました。

イスラム系の勢力の侵略が多かったにも関わらず、ジョージア正教を国教とし、ツアーでは総本山のスヴェティツホヴォリ修道院を訪問します。また、ワイン発祥の地と言われ、どこの農家でも自家製のワインを振る舞ってくれるほか、ヨーグルトも豊富で長寿の国とも言われています。ワイナリーにてジョージア・ワインの試飲もお楽しみください。

  • 独特の建築様式が残る上スヴァネティ地方
    独特の建築様式が残る上スヴァネティ地方
  • 豊かな土壌が産したブドウ
    豊かな土壌が産したブドウ

アゼルバイジャン Azerbaijan -Azərbaycan Respublikası-

イランの影響が強く残るコーカサス唯一のイスラム教国家

カスピ海に面し、豊富な石油資源に恵まれ、近年は世界 各国の石油産業系の会社が集まる国に発展しました。 コーカサスの三ヶ国の中で唯一のイスラム教国で、もともとはゾロアスター教を信奉するペルシャ系の民族の暮す地でしたが、トルコ系民族との混化により、イスラム化が進みました。

「風の町」を意味する首都のバクーは、 カスピ海の対岸のトルクメニスタンとフェリーで結ばれています。ツアーでは、ゾロアスター教の信奉を物語る神殿や、世界最大の湖・カスピ海のクルーズのほか、かつてのイスラム諸王朝の宮殿を訪ねます。


  • 拝火教の神殿アテシュギャーフ
  • シェキ・ハーンの宮殿内の装飾画
    シェキ・ハーンの宮殿内の装飾画

 

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【視察レポート】ケララ北部の秘祭を撮る
テイヤムの神と女神たち【その4】

  • インド

2019.10.01 update

【その3】では、芸術として評価されるテイヤムと、北ケララ周辺のみどころについてご紹介しました。今回は、400以上もの神がいるというバラエティに富んだテイヤムの演目から、代表的なテイヤムの神々と、それにまつわる神話の一部をご紹介します。

 

[1]ムチロット・バガバティ MUCHILOT BHAGAVATHI
昔ある時、ブラフマンが村の賢い女の子を疎んで追放しました。その女の子は孤独から火に飛び込み自害を試みますが、燃えることができずにいました。そこに、ココナッツオイルを採取するバニヤ・カーストの男性が通りがかり、オイルを火に注ぐと、女の子は燃えきることができました。その晩、男性が自宅に戻るとポットのオイルが満杯に。女の子が神になって現れたのだと語られました。

早朝に火を使って踊る「ムチロット・バガバティ」

早朝に火を使って踊る「ムチロット・バガバティ」

大祭の最後に火を持って祠を回る

大祭の最後に火を持って祠を回る

[2]クッチ・チャタン KUTTI CHATHAN
KUTTIは⼩さい悪魔、CHATHANはパワーの意味。シヴァとパルバティの子どもバルロワは低カーストの子どもとして生まれますが、ブラフマンに預けられ、小さい頃から横暴で皆から疎まれていました。ある日、食事に石と髪の毛が入っていたことからバルロワは大激怒。怒りにまかせて水牛を殺し、血を飲み干しました。それを見たブラフマンは憤慨し、バルロワを切り刻み火へ投入。すると390のクッチ・チャタンが生まれ、家を燃やし悪さを働くようになりました。ブラフマンは、もはや子どもではないと制裁を加え、その後クッチ・チャタンは神となりました。

ムトゥンガル・バガバティ寺院の「クッチ・チャタン」

ムトゥンガル・バガバティ寺院の「クッチ・チャタン」

そのほか、祭りで見られるテイヤムの神々(一部)をご紹介!

カブンバイ・バガバディ

なんと全長約5m!長い頭飾りが特徴の「カブンバイ・バガバディ」。
残念ながら詳細なストーリーはわからないのですが、最強の力を持つといわれているそう…!

「ポリオカナン」の寸劇は子どもたちに大人気

村を護る神「グリカン」

緻密でビビッドな化粧やユニークな衣装など、その鮮烈なビジュアルが強く印象に残ることから、アートや芸術としても注目されるテイヤム。しかし、テイヤムの魅力は、地元の人々の暮らしや文化と強く結びつき、2000年以上前から継承される生きた宗教儀礼だからこそ生みだされるものです。
テイヤムは、外部からの観光客がほとんどいないという貴重な環境で、神降ろし儀式のプロセスをいちから目にすることができる独特のお祭りです。その熱気を、ぜひ現場で見て、肌で感じてみてください。

 
参考図書:「神話と芸能のインド」- 儀礼と神話にみる神と人(古賀万由里)(鈴木正崇 編/山川出版社)

 

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【視察レポート】ケララ北部の秘祭を撮る
テイヤムの神と女神たち【その3】

  • インド

2019.08.28 update

【その2】では、テイヤムの魅力・みどころを実際の祭りの流れに沿ってご紹介しました。今回は、芸術という視点から見たテイヤムと、祭り見学の合間に訪れた北ケララ郊外のみどころを紹介します。
 
芸術としても評価されるテイヤム
テイヤムの祭儀は、神の存在の信憑性が、装飾の美しさや舞いの迫力など演者の技量で左右される性質があることから、芸術や学術的な考察など多様な解釈が生じています。顔や身体に施される鮮やかなペイントも、アートとしてとらえられる大きな要素でしょう。

鮮やかな原色が美しいペイントと衣装

鮮やかな原色が美しいペイントと衣装

近年はその芸術性が評価され、一部ではアートやパフォーマンスとしてとらえられる傾向もあります。寺院ではないケララ州外の舞台や、インド国内にとどまらず海外の芸術祭などでも演じられ、芸能化されているものもあります。また、そうしてアートとして扱われることや海外との接触によって、演者自身にも「アーティスト」としての自意識が芽生えるなど、担い手の価値観も変わってきているといいます。
 
生活や信仰との深い結びつき
しかし、テイヤムは単なる伝統芸能や宗教儀礼という側面だけではありません。カーストや親族とのつながり、土地の慣習などと深く結びついていて、テイヤムに携わる人々の生活を支えています。そのため、慣習と切り離した芸能化に対しては、他地域の伝統芸能と比較しても、地元の人々の抵抗が強いといわれています。

テイヤムには、単なるパフォーマンスでは生み出すことのできない、人々の生活と結びつき実際に信仰され続けている、本物の“生きた”儀式だからこそ感じられる魅力があります。

供物を手に、祭りに参加する女性たち

PARIPPAYI MUCHILOT KAAVUの寺院にて

 

北ケララ郊外のみどころ

・カラリパヤットの道場
ケララ発祥とされる古代武術「カラリパヤット」。動物にみたてた姿勢や、蹴り技・間接技など素手の打撃技が特徴で、盾や剣を使う武器術も。テイヤム演者がカラリパヤットを幼少期に経験するという風習があるようで、テイヤムの踊りに影響しているという見方もあります。

カラリパヤットの道場内部

カラリパヤットの道場内部

・ヤシのロープを作る村
年間を通してヤシの木々が生い茂る、緑豊かなケララ州。ヤシは葉や実など様々な利用価値がありますが、実の内側の繊維からはロープが作られます。このロープは、アラビア海に面したケララ州の豊かな漁場で貝を獲るために利用されるそうです。

機械を使って手でヤシのロープを作る

機械を使って手でヤシのロープを作る

できあがったヤシのロープ

できあがったヤシのロープ

・織物工場
織物工場では、サリーや男性用の腰巻布などを制作する現場を訪問しました。大きな織機が所狭しと並べられ、織子の女性が注文に応じて布を織ります。工場内では販売も行っていて、ここで織られた布地を買うこともできます。

郊外の村にある織物工場にもお邪魔しました

織機で作業をする様子

次回は、代表的なテイヤムの神とその神話、ユニークな神々の一部をご紹介します!
 
参考図書:「神話と芸能のインド」- 儀礼と神話にみる神と人(古賀万由里)(鈴木正崇 編/山川出版社)
 

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【視察レポート】ケララ北部の秘祭を撮る
テイヤムの神と女神たち【その2】

  • インド

2019.08.21 update

【その1】では、テイヤムの祭りがどんなものか、開催時期や場所を含めて大まかにご紹介しました。今回は、テイヤムの魅力・みどころを、祭りの流れに沿って具体的にご紹介します。

 

みどころは人間が神へと変化していくプロセス
原色の派手な衣装を纏ったテイヤムが舞い踊る場面は、もちろん会場も大いに盛り上がり圧巻です。しかし、テイヤムの大きな魅力は、演者に神が憑依しテイヤムの神となるその過程を実際に見学できる点です。
祭儀で展開されるストーリーは、大きく分けて2種類。ひとつはヒンドゥーの神話をモチーフにしたもの、もうひとつは地域で語られる伝説で、その両方を合わせもつものもあります。儀式の主な流れは、夕方にテイヤム演者のテイヤッカーランが祈りをささげて身を清めたあと、祭司を通して祠から神の力を受け取ることから始まります。そして、始まりの合図として、祠の前で太鼓を打ち鳴らしながら1~2時間ほどトーッタムを唱えて神霊を呼び降ろします。

 
▼テイヤム|神を呼び降ろすトーッタムの様子

 

次に、寺院脇のテントで、テイヤッカーランの顔や身体に1~2時間かけてペイントを施します。赤、黒、白、オレンジ、緑などの顔料をココナッツの葉脈につけて顔に塗っていきます。伝統的な顔料には、ウコンや石灰、煤を用いるそう。化粧の紋様や衣装は、テイヤムごとにそれぞれ異なるスタイルが決められています。なかには5m(!)もの大きな頭飾りを付ける衣装もあります。衣装を完成させたら、鏡を見て自分の姿を自覚することで神が降臨・憑依し、テイヤムの神となります。

精緻に化粧を施されるテイヤッカーラン

精緻に化粧を施されるテイヤッカーラン

祠の近くに座って頭飾りを装着

祠の近くに座って頭飾りを装着

そして神の力を得たテイヤムは、太鼓の音に合わせてゆっくりと回ったり、ときに激しく踊ります。なかには祭司も刀を持ってテイヤムと一緒に踊ったりするものもあり、踊りの内容はテイヤムの神によって異なります。

全身を使って豪快に踊る場面も

全身を使って豪快に踊る場面も

▼テイヤム|ムチロット・バガバティの火踊り

 

踊りが終わると、ココナッツや米などの供物を受け取り、生贄として鶏や山羊の生き血をささげます。最後は、ターメリックの粉や米を与えて人々を祝福。私たちも観覧席から降りてくるよう呼ばれて、祝福を受けました。参拝者は列をなしてテイヤムにお布施を渡し、お告げや相談事のアドバイスをもらったりしていました。

参拝者は真剣に相談し、アドバイスをもらっていました

参拝者は真剣に相談し、アドバイスをもらっていました

このように、祈りをささげて神霊を呼び降ろし、化粧や衣装を身に纏い踊るという行為を通して、じょじょにテイヤッカーランに神が憑依していき、テイヤムの神へと変容する様子をリアルタイムで見学できるのが、テイヤムの大きなみどころのひとつです。

次回は、芸術として評価されるテイヤムと、北ケララ郊外のみどころについてご紹介します。

 
参考図書:「神話と芸能のインド」- 儀礼と神話にみる神と人(古賀万由里)(鈴木正崇 編/山川出版社)
 

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