タグ別アーカイブ: 離島

ヨナグニ 旅立ちの島

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日本(与那国島)

ヨナグニ 旅立ちの島

 

監督:アヌシュ・ハムゼヒアン、ビットーリオ・モルタロッティ
公開年:2022年

2022.5.11

「旅立ち」という進路―高校がない与那国島、迷いと決断のひととき

与那国島には高校がなく、若者たちは中学校を卒業すると一度は島を離れることになる。イタリア出身の映像作家アヌシュ・ハムゼヒアンと写真家ビットーリオ・モルタロッティは、中学校卒業前の少年少女たちにカメラを向け、学校生活や豊かな自然の中で過ごす放課後の様子、思春期の本音をのぞかせる会話などを通し、多感な10代の日常をありのままに映し出していく。

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先週の『ばちらぬん』に続き、日本最西端の与那国島でうまれた作品をご紹介します。『ばちらぬん』はどちらかというとフィクション寄りな作品で与那国島出身の監督が描いた作品でしたが、本作はイタリアからの「来訪者」が撮ったドキュメンタリー作品です。

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『ばちらぬん』と『ヨナグニ 旅立ちの島』の2作観る場合、もちろんどのような順番で観るかは観客の自由なのですが、私の場合は熟考の末に本作を後で観ました。長い間潜水した後で水面にブワッと出て呼吸したかのように「ああそうか、『ばちらぬん』が撮られた場所ではこういう日常生活が送られているのか」と、ぬかるんだ田んぼを長靴を履いて歩くような心地で鑑賞することができました。

今の時代、「離島で暮らす/生まれる」ということは、半自動的に「消滅の危機がある文化をどのように受け継いでいくか」という課題を考えることとセットになっているように思えます。

卓球部の女の子が、ひたすら壁打ちをして練習している。稼ぎ頭の親は都会で働いて島を不在にしていて、子どもは祖父母と暮らしている。そのように文化伝承の機会と対象が極めて限られている中で、島の言葉「どぅなんむぬい(与那国語)」をはじめとした伝統文化をどのように残していこうとしているのかを、本作のカメラはひたすらじっと見つめます。

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進学面接で面接官が「もし与那国に高校があったら、そこに行っていたか?」という質問を10代半ばの生徒たちに投げかけていくシーンが印象的です。「歴史に『もしも』はない」という言葉がありますが、客観的にいうならば現実にも「もしも」はありません。しかし、やはりそれを考えてしまうのが人間ですし、「もしも」と空想・想像したことから世の中が変わっていくこともあります。

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「旅立ちの島」という題名がついていますが、何かしらの決断がもたらす「旅立ち」という行動は、ある「もしも」を捨てて、また新たな「もしも」を探し求めることなのかもしれないと、本作を見て感じました。

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『ヨナグニ 旅立ちの島』は『ばちらぬん』と共に、2022年5月7日より新宿K’s Cinemaほか全国順次上映中。詳細は公式ホームページをご確認ください。

日本最西端・与那国島ホーストレッキングと
西表島の自然を遊ぶ

晴れた日には台湾の山も見渡せる国境の島・与那国に連泊。日帰りでは決して感じることのできない、島の自然や人々の暮らし、ゆったりとした時の流れを堪能していただけます。

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日本(与那国島)

ばちらぬん

 

監督:東盛あいか
公開年:2022年

2022.5.4

与那国島出身の若手監督が描く「島の記憶」

日本の最西端に位置する離島・与那国島。主人公兼監督の東盛あいかは、花・果実・骨・儀式などをモチーフにした幻想的な世界と、日常・漁業の様子・祭事を記録したドキュメンタリーや年配の島民へのインタビューを混ぜあわせながら、島の言葉である与那国語で物語を紡いでいく。

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「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、人がどこで生まれ育つかというのは、当人の一生を左右することが少なくないです。私は(一切記憶はないですが)4歳までシンガポールで育ち、物心ついてからは東京で暮らし、30歳前後で第一子が生まれたタイミングで福岡で暮らすようになりましたが、自分が生まれ育った東京やシンガポールなどのことはやはり折に触れてあれこれ考えます。

与那国島出身の東盛あいか監督は1997年生まれで、京都芸術大学で俳優業から映画を学んだそうですが、『ばちらぬん』は監督が故郷・与那国島をしばらくの間離れた望郷の念を、映画というにしてなんとか残しておかなければならないという使命に導かれたかのような、不思議なパワーに満ちている作品です。

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本作のセリフの多くは与那国語で、日本語字幕を時おり見ながら鑑賞するのですが、何語か知らないで映画を観たら日本国内の言語であると気付かないかもしれないと思いました。

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響き的には、ベトナム語のように聞こえる瞬間もありました。題名の「ばちらぬん」は与那国語で「忘れない」の意味だそうです。「ぬん」は何となく「ない」の意味だとわかりますが、「ばちら」は「忘れる」とは程遠い響きがするように感じます。

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「忘れない」と思わなくても、監督は与那国で過ごした時間を忘れることはなかったのでしょう。きれいな川のど真ん中にマリンブルーの郵便ポストが植わっているシーンが要所要所で出てきますが、監督が与那国で過ごしてきたと過ごさ(せ)なかった時間が溶け合わさって、映画のジャンル・撮影フォーマット・過去と未来などというあらゆる軸が結晶になった稀有な作品です。

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忘れられない瞬間の集積が「旅の思い出」だとするならば、喜怒哀楽関わらず、忘れられない思いの集積が「人生」あるいは「映画」なのだと思わせてくれる『ばちらぬん』は、2022年5月7日より新宿K’s Cinemaほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。

8島巡る!自然と民俗の八重山諸島大周遊 8日間

石垣島から黒島、新城島、波照間島、西表島、小浜島、竹富島、そして与那国島へ。8日間で八重山諸島8島を周遊し、離島に残る沖縄の原風景とともに、亜熱帯の自然と歴史・文化にふれます。

夫とちょっと離れて島暮らし

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日本(加計呂麻島・奄美大島)

夫とちょっと離れて島暮らし

 

監督:國武綾
公開:2021年

2021.11.17

期間限定移住という旅―加計呂麻島が若手イラストレーターにもたらしたもの

幼い頃から東京暮らしのイラストレーター・ちゃず。結婚4年目の時、仕事に追われる東京での毎日に息苦しさを感じていたちゃずは、都会に住みたい夫を東京に残し、単身で1300km離れた奄美群島・加計呂麻島(鹿児島県)に期間限定の移住生活を2018年3月からし始めた。

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地域の人々との交流た大自然に囲まれた島での暮らしは、ちゃずにとってしっくり来るもので、移住生活は延長が繰り返されて約2年間に及び、「円満な別居生活」が日常となった。

ちゃずは写真・動画共有SNS・インスタグラムに移住記をマンガで連載して人気を博し、島内外問わず、その暮らしぶりが知られるようになっていた。

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ちゃずの移住生活が終わりを迎える数ヶ月前(奇しくもコロナ禍に突入する直前)の2020年2月、ファンの一人である監督は、ちゃずの生き方を映像に残したいと思い立ち、奄美群島へ向かう・・・

本作は、僕の作品にも出演いただいたことがある、女優・國武綾さんが「今撮らなければ!」と思い立って監督した作品です。「旅は道連れ世は情け」という江戸時代のことわざがありますが、撮影後、主人公のちゃずさんを撮った側の國武さんご自身が、奄美大島に引き込まれて移住することになるという、不思議なバックグラウンドのもとに成り立っている作品です(ちなみに、ご存じの方も多いかと思いますが、今年7月に奄美群島のうち奄美大島・徳之島は世界自然遺産に登録されました)。

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僕自身も移住者(2016年に東京から福岡に拠点を変えました)ですし、ご縁あって奄美大島には年に数回撮影に行っていますが、離島の生活リズム・社会環境・大自然は、都会人を「生きるとは何か?」という根源的な疑問に立ち返らせてくれます。

ちゃずさんが、ダイビングショップの壁にイラストを書き終わって記念撮影をする際に逆立ちを急にするのですが、都会から離島への旅というのは、まさに旅程を通じて逆立ちをしているような心地にさせられるものです。

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映画の冒頭に「東京に帰っちゃうのはさびしい」「すぐまたいらっしゃいよ」とご近所さんに呼びかけられたときに、ちゃずさんは「来ます」「まだ居ます」と返します。

移住というのも旅の一種だとすると、その特徴は、「行く」「帰る」「来る」「戻る」の使い分けに戸惑うことや、「居る」と「居ない」の境界線が揺らぐことだと本作を観て感じました。

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おそらく、ちゃずさんはいつの日かまた加計呂麻島を訪れる際には「帰る」という言葉を使うかと思いますし、加計呂麻島に「居ない」けれども、想像力をちょっと働かせれば加計呂麻島に「居る」ことが今でもできるはずです。島の人々と共に過ごした時間・場や生活リズムの蓄積が、「居なくても居る」ことを可能にしてくれるのです。

テクノロジー的にはオンラインでいろんな人に会ったり場所に行ったりすることができるようになりはしましたが、「居なくても居る」ことができるような、豊かな想像が心のなかに宿るような出会いや交流の機会がコロナ後の世界を作っていくのだなと、ほっこりとした心地になる作品でした。

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離島での移住生活や多拠点生活ににひょっとすると興味が出るかもしれないし、夫婦生活の選択肢の多様さを考える上で「離れたほうがうまくいく」という好例が記録されているという意味で、離島生活・移住にさほど興味がないという方でも楽しめる内容になっている『夫とちょっと離れて島暮らし』は、2021年12月25日(土)より新宿K’s cinemaにて2週間限定公開ほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。

加計呂麻島も訪れる 奄美大島と喜界

加計呂麻島は美しいグラデーションの海が広がる一方で、戦争の歴史や奄美の典型的な集落が今でも残る島です。その一方、隆起サンゴでできた喜界島は今でも隆起が続く生きた島です。奄美大島だけではなく、特色のある加計呂麻島と喜界島をお楽しみいただけます。

喜界島、加計呂麻島、与論島にも泊まる
薩南諸島縦断

鹿児島県薩摩川内市の西方約26kmの東シナ海上に位置し、北から上甑島、中甑島、下甑島の三つの島から形成される甑島を訪問。下甑島では、平家の落人伝説の残る手打集落を現地案内人と一緒に散策し、甑島の歴史にふれていただきます。また奄美大島や徳之島、沖永良部島など「奄美群島」として新しく2017年に国立公園に登録された島々の個性的で魅力ある自然と文化にふれます。これら薩南諸島の間のスムーズな移動は難しく、今ツアーではフェリーと海上タクシー、国内線をつなぎ、コンパクトかつ無理ない日程を実現しました。

喜界島にも泊まる奄美群島縦断スペシャル

奄美大島でのリバートレック、沖永良部島でのケイビング、加計呂麻島でのカヤックやSUP(12月コース)、ザトウクジラのウォッチングツアー(2月コース)など、各地でアクティビティを楽しみながら奄美群島を縦断します。
アクティビティだけでなく、各島々での見どころもしっかりと見学します。群島の歴史を学べる奄美博物館や、琉球国の祭司であったノロや国指定重要無形民俗文化財である諸鈍シバヤに関する展示を行う瀬戸内町立郷土館などで加計呂麻の風習に触れます。また奄美十景のひとつ沖永良部島の田皆岬や大島海峡を望む高知山展望台などの奄美群島屈指の景勝地の数々を訪れます。

緑の牢獄

5ad11c5d133af43d(C)2021 Moolin Films, Ltd. & Moolin Production, Co., Ltd.

日本(西表島)

緑の牢獄

 

Green Jail

監督:黄インイク
日本公開:2021年

2021.8.25

沖縄・西表島、熱帯林の奥深くに門を構える「記憶の牢獄」

沖縄県西表島に暮らす、90歳の橋間良子。彼女は植民地時代の台湾から養父とともにこの島に来て、人生の大半を島で過ごした。

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良子の養父は労働者の斡旋や管理をしていた炭鉱の親方で、彼女は今も炭鉱に後ろめたさを感じていた。

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炭鉱の暗い過去、島を出て音信不通となった子どもたち・・・
忘れることのできない数々の記憶が彼女の脳裏をよぎる。

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彼女はなぜ一人で島に残り続けるのか? 記録映像や歴史アーカイブ、再現ドラマなどが盛り込まれ、台湾から西表島に渡った一人の人間の過去と現在が描かれていく・・・

「西表島」と聞いて一般的に思い浮かべられるのは、おそらく自然・熱帯・イリオモテヤマネコといったようなイメージでしょう。私は八重山諸島(石垣島・竹富島・小浜島・黒島・新城島・西表島・由布島・鳩間島)には行ったことがないので、「一般」にかなり近いイメージを持っているのではないかと思います。

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西表島に住む人々が現在どのような暮らしをしているのについては、なかなか知る機会がありませんし、ましてや近代における台湾との関わりや炭鉱労働の歴史については、何かしらの巡り合わせがうまく働かないと、知るまでに至らないでしょう。

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本作を観ると、「自分の記憶」というのは自分の頭の中だけ存在するようなのですが、他者がいて初めて成立する(存在し得る)のだとわかります。

カメラがひたすら追う良子さんの頭の中にある記憶は、深く、暗い闇の底に沈んでいます。底の見えない井戸を何度も覗き込むように、物語は進んでいきます。

良子さんの言葉・過去の経験をインタビューや再現ドラマで引き出せば引き出すほど、良子さんの記憶と自分の距離が遠のき、「届かなさ」が増していくような心地がしました。これは、各シーンや再現ドラマの内容が伝わりにくいということではなく、良子さんの記憶が、あまりにも遠く奥底にあることが段々と浮き彫りになってくるということです。

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それに対して、良子さんから部屋を間借りをしているルイスさんという自分探し中のアメリカ人青年の言葉からは、彼がどんな人生を送ってきて、今何を考えているのかを、いくらかつかみ取ることができます。彼の記憶はまだ「届かない」というほどには奥底に沈んでいないからです。ルイスさんの存在によって、良子さんの記憶の「届かなさ」が、なおさら際立ちます。

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タイトルにある「牢獄」という言葉は、3つの意味があると私は思います。1つめは、炭鉱労働が盛んだった文明開化以降から第二次世界大戦にかけて、本当に牢獄(島から出られず 過酷な労働の日々を送る)のようだったという意味。

2つめは、日も入らないような地中深くにある独房のように、良子さんの心の奥底に記憶が沈んでしまっているという意味。

3つめは、「カギを開ける人」を暗示する意味合いです。撮影チームは、ありとあらゆるカギを使って、良子さんの「記憶の独房」の扉を開こうと試みています。しかし、どう頑張っても、扉は完全には開きません(ときどき思いもよらぬ瞬間に 半分ぐらい開くときもあります)。

データや情報にあふれた現代社会では、誰でも「記憶の牢獄」に閉じ込められてしまう可能性はあります。本作の雰囲気は若干重いのですが、私の心には観ているうちに「自分の記憶というのは大事に扱ってより良い形で残さなければいけないな」という前向きな気持ちが芽生えました(念のために補足しておきますと、本作は「西表島は牢獄のような島だ」というツラい内容の映画ではありませんので ご安心ください)。

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『緑の牢獄』は2021年4月より全国順次上映中。詳細は公式ホームページをご確認ください。

8島巡る!自然と民俗の八重山諸島大周遊 8日間

石垣島から黒島、新城島、波照間島、西表島、小浜島、竹富島、そして与那国島へ。8日間で八重山諸島8島を周遊し、離島に残る沖縄の原風景とともに、亜熱帯の自然と歴史・文化にふれます。。